三国志モノ書きさんに50のお題




 呼吸






 頭の中が沸騰しているかのように熱い。
 音にあふれている。一体何の物音が、どれだけの音が重なってこれだけの轟音へと昇華させているのか、考えるのも馬鹿らしいほどの騒音が満ちている。その中に呼ばわる声が聞こえるが、聞こえるだけだ。届かない。麻痺した心が、何もかもを忘れて駆け出している。考えるのは、ただ前へ進むこと。
 息を吸う。火のようだ。
「だから、一体、どれだけ言わせれば気が済むんです」
 あきれ果てた声が唐突に間近でして、孫策は傍らを振り仰いだ。さすがにこの声だけは、判別できたらしい。
「前線に出るな、か」
 言い返して、吐き出す呼気とともに刀を振るう。渾身の力を込めて。そうして、人を、敵を蹴散らして前へ進んでいく。
「耳にたこが出来るな」
「だったら」
 続きは、もう聞く気にならなかった。それこそ、聞き飽きた言葉だ。いつもそれはそれはきつく怒られて、その時はちゃんと、反省するのだが。こうして実際に、この場に足を運んで喧騒につつまれていると、そんなもの忘れてしまう。
 どうしても前に出てしまうのは、ただじっとしていられない性格のせいだということは、いちいち誰に説明されるまでもなく分かっている。そして誰に説明してやるでもなく、誰もがわかっている。
 でも、こうして戦のたびに息を乱して、走り続けていると、自分の手で障害を取り除ける、その動きがとても楽しい。遊びのようなもの、ではなくて。――そうかもしれないが。立ちはだかるものに立ち向かって、突き進んでいくことは、自分の力で道を切り開いていく、そうして生きている実感がある。思い通りにならないことが、多かったせいかもしれないが。
 自分の手で、足で、前へ進んでいる。その、証左。
 それは、衝動になる。心を、体を突き動かす。鼓動は、ただ、ざわめいて。
 止まるな。足を止めるな。立ち止まるな。突き進め。ひたすら前へ。
 倒れることは許されない。許さない。


 そのために、そのたびに、息を吸う。埃にまみれた空気が、身の内に満ちてくる。血にまみれた臭いが、鼻に喉元に絡みつく。そして大きく、息を吐く。逆巻く感情を、呼気とともに外に吐き出す。決して、治まりはしないもの。鎮まりはしないもの。


 ひとりじゃ、ないからな。
 隣にある体温を確信しながら、彼はただ笑う。こうして戦場に立っていると、普段はどれだけかみ合わなくても、どれだけ人に「まるで正反対」と言われようとも、そんなもの何でもないことを、確信する。こうして命を懸けて立っているときに、走っている時に息があうことは、何よりも自分たちが切り離せないものかが、よくわかる。
 そして、ひとりならさすがに、無茶はしないかもしれないな、と思う。――実際にはどうかもわからないが。
 ひとりだったら、もうとっくに、ここには立っていられなかったかもしれないな、とは思う。
 自分の呼気。隣に立つ人の呼気。それはもう、同じものだ。その息が止まるなら、この、身のうちを流れる感情は、鼓動は、意味をなくす。



 そうして、満ちていくもの。
 呼吸ととも、息を吸うたびに、体の中に満ちていくもの。
 熱情と、深い満足と。同時に渇望と。
 君の、体温。







一言 


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 これはね、無双をやってて、心の底から実感しましたよ。
堅パパのときですけどね。
他のキャラ使ってたら、勝手に前線に出て孤立して、本陣苦戦!!ですもの。
周瑜の気持ちがよーくわかりました。頼むから、後ろで大人しくしててくれ…!!

 ってか、隣にある体温ってのは周瑜のことですね。名前出してないんですけどね…