宮城全労協ニュース/第103号(電子版)/2008年3月19日

「賃上げ期待」に背いた大企業集中回答
−中小零細、非正規の闘いはこれから!



社会的責任の放棄

自動車、電機など製造業大手と連合大労組との賃金交渉が3月12日、いっせいに妥結した。結果は「前年並み」であり、しかも成果主義が強く反映された。また時間外賃金の割増率引き上げ要求はほぼゼロ回答だった。

日本経団連は「個別企業の業績次第」との条件付ではあるが、賃上げ容認を打ち出し、福田首相も経済界に賃上げを要請した。内需拡大、国内消費拡大のためには賃上げが必要だ。それが政府・経済界の共通認識だとされた。だが結果は違った。

「昨年並みでもがんばったほうだ」と経営側はいう。年初以降の経済波乱で環境が一変したとの理由だ。だが08春闘の「賃上げ期待」、すなわち「昨年を上回る賃上げ」は社会的な声だった。大企業は「5年連続の最高益更新」を果たしたにもかかわらず、労働者はリストラ合理化と所得減の犠牲が強要されてきたからだ。メディアは当然にも、「賃上げ期待の失速」「家計への恩恵少なく」「消費への波及は期待薄す」などと報じた。

トヨタを先頭に世界的な大企業の労使がどのような結果をだすか。とくに「非正規」「ワーキングプア」問題に大企業はどのように応えるのか。労働者全体の賃金や労働条件、社会保障の改善につながるような政策課題も注目された。だが「大企業内の論理」に終始するものだった。

一方、福田首相は集中回答の翌日、「きぼうの第一歩」と自分のメールマガジンに書き込んだ。「景気の先行きに不安を感じつつも、ほとんどの企業が去年並みの給与引き上げを確保する回答を行い、中には満額回答を行った企業もありました」(3月13日)。

首相みずから動かなければ「昨年並み」を確保できなかったはずだという自画自賛か。それともこの結果に安堵したということか。いずれにしても福田首相に切迫感は感じられない。

大民間企業の結果は、中小零細企業と非正規雇用労働者にとって厳しいものだ。中小零細の経営者たちは、「トヨタでさえ千円だ、昨年並みだ」(*注1)と主張するだろう。中小零細労働者、非正規雇用労働者にとっては春闘はこれからだ。

電通労組宮城支部は3月14日、第一波ストライキに入った。首都圏支部でもストライキが闘われた。宮城全労協は同夜、「我々の春闘はこれからが本番だ」と春闘討論集会を開催した(*注2)。


(注1)「賃上げ回答」から定昇分を外す方式が定着してから久しい(今回はホンダだけが「定昇込み」7千円と報告されている)。定昇外しは意図的な情報操作である。大企業でベアゼロが続いた05春闘までの5年間、定期昇給は基本的に維持された。しかし、「トヨタだってゼロだ」というキャンペーンが張られ、中小零細では春闘要求を拒否する口実に利用されてきた。

(注2)春闘講演会の内容は後日に。


増税と物価上昇に満たない実質マイナス回答

「前年並み」というが、賃上げ回答の多くは組合要求に満たなかった。最高益を更新してきたトヨタは、組合要求を拒否し、500円を下回って妥結した。「相場のリード役であるトヨタの厳しい姿勢が春闘全体の賃上げムードを抑制した」(毎日新聞13日)。

「果実を分かちあう」ことが08春闘だと福田首相は強調してきた。首相は集中回答日を前にして6日、経済界トップを官邸に招き、「異例」の賃上げ要請を行なった。御手洗・日本経団連会長が反論しようとすると、賃上げの必要性を説き、「熱弁をふるった」という。首相は同日、次のように書き記している。

「物価が上がっても、皆さんの給与がそれ以上に増えれば、問題はありません。しかしながら、働いている皆さんの給与の平均は、ここ9年間連続で横ばい、もしくは減少を続けており、家計の負担は重くなるばかりです」。

「(大企業を中心とする最高の利益は)さまざまな構造改革の成果であり、そうした改革の痛みに耐えてがんばった国民皆さんの努力の賜物にほかなりません」。

「今こそ、こうした改革の成果が、給与として、国民に、家計に還元されるべきときがやってきていると思います。・・企業と家計は車の両輪。こうした給与引き上げの必要性は、経済界も同じように考えておられるはずです」(「果実を分かち合う」福田康夫メールマガジン、3月6日)。

「希望の第一歩」とは首相本人にとっては苦肉の表現なのだろう。だが、増税プラス消費者物価上昇分にも届かない結果であり、低額賃上げ回答であることは明らかだ。賃上げは「実質マイナス」であり、経済浮揚効果も期待できないものだ。


「一時金」と「賃上げ原資の配分多様化」

一方、一時金(年間)は電機をはじめ各業界で最高水準に達した。「業績は手当で報いる」という企業の方針が貫かれた。あくまで年金や退職金には反映されない一時金である。しかも、電機や鉄鋼などで採用されている「業績連動」方式では、安定した将来プログラムは組めない。

それだけでない。何度も指摘されてきたように、大企業の一時金は企業内の閉鎖された報酬であり、中小零細労働者や非正規雇用労働者とは基本的に無縁のものである。トヨタの253万円は「ワーキング・プア」の年間所得を上回る額であるが、低所得労働者の「賃金改善」に寄与しない。そしてこの一時金は、トヨタの「本工」労働者の独占的な報酬であり、多数の関連下請労働者たちは「業績向上の恩恵」にあずかることはできない。


「業績連動」方式に加えて、「賃上げ原資の配分多様化」が導入されている。「一律、大幅賃上げを拒む経営側が認めたのが、賃上げ原資の配分方法を多様化することだ。賃上げ原資が少ない状況の中で働く意欲を高めるには、社員の意識や生活スタイルにあわせて重点的に配分することが有効との考えが、労使ともに定着しつつある」(読売新聞3月14日)。これでは「賃上げ」された所得増加分は労働者の自由にはならない、ということになる。こんなことが許されるだろうか。

しかも、このような配分方式を労働組合側が提案し、経営側は「画期的な仕組み」と応じたという。「働き方や社員の意識の多様化に応じて賃上げ原資の重点配分を強めることで、社員の士気向上や人材確保に役立てようとする」(日経新聞3月13日)。

たとえば、三菱重工業は2千円(2年分)で妥結したが、この賃上げ原資のすべてを「基本給の6割を占める成績反映部分に投入する」。こうして、「働きぶりが評価されれば月額数万円の賃上げが可能になる半面、評価が変わらなければ給与の上昇は定期昇給分だけにとどまる」という。自分の賃上げ分が競争原資に供され、高評価を得た同僚の成果配分に横流しされるというわけだ。

松下電器産業は1千円分の賃上げ原資を、ワークライフバランス(仕事と生活の調和)のための福利厚生に振り向ける。東芝は高度熟練技能職の職務給増額や子育て支援などに当てるという。これでは賃上げ分を福利厚生や技術教育などに流用することではないか。


「ワーク・ライフ・バランス」のゴマカシ

このようなごまかしを「ワーク・ライフ・バランス」という流行の言葉でとりつくろっている。

小泉政権末期、「構造改革批判」が充満しはじめていた。安倍は小泉後継内閣だったが、「改革の痛み」を中和させることによって、小泉政権からの自立性を打ち出そうとした。「ワーク・ライフ・バランス」はその柱の一つだった。小泉改革は労働と生活を破壊し、労働者の人生設計を不可能にした。ポスト小泉の安倍でさえ「調和が必要だ」といわざるをえなかった。

だが、この「バランス」は「働き方(=働かせ方)の多様化」とセットである。経営側は労働者を好き勝手に働かせる自由を求めている。「過労死するのは労働者の責任」と言い放った経営者がいた。これが本音であり、「労働の規制緩和」の本質だ。「仕事と生活の調和」とは、多様化する働き方(働かせ方)に対応した生活を考えよ、という経営側の社員管理にほかならない。

「企業にとっての自由な働かせ方」を規制し、わけても過労死労働やサービス残業を現実に禁止し、年金や高齢者医療と介護にいたるまでの人生設計を可能にするような政策が必要である。

「賃上げの原資を、働き方の改善に使う試みも目につく。・・社員のワーク・ライフ・バランスへの配慮である。三菱重工業は原資をすべて業務成績に応じて配分し、社員のやる気を引き出そうとしている。こうした試みはもっと広がってほしい」。朝日新聞(3月14日)は、どのような立場で、何を考えてこのように主張しているのか。この社説は「春闘後半戦で巻き返せ」と題されているが、実に空々しく響く。


格差・貧困との闘いを発展させよう!

福田首相は「きぼうの一歩」で春闘後半にふれている。「(企業は)非正規雇用に頼らざるを得なかった時期がありました。しかし、これまで不安定な雇用に耐えてがんばってきた人たちのために、経営者の皆さんには、もう一段の努力をお願いしたいと思います」(3月13日)。

あまりにも「楽観主義」ではないか。大企業労使の結論は、中小零細労働者と非正規雇用労働者にとって厳しいものである。政府は春闘後半に光を当てなければならない。「ワークング・プア」や「非正規雇用」問題に対して、小手先な対応ではなく、抜本的な対策に乗り出さねばならない。

首相は10日、「パートや派遣など非正規社員の賃金水準を上げる具体策を早急にまとめる」よう、大田経済財政担当大臣に指示している。大田大臣が経済財政運営を担当していること自体が、福田政府のあいまいさを象徴している。大田大臣は小泉・竹中改革を後継するものとして福田内閣に残された。大田大臣は、企業利益のおこぼれが労働者に「したたり落ちてくる」まで待っていてほしい、と繰り返すだけだった。首相は大田大臣を更迭すべきなのだ。

厚生労働省はいま、規制改革会議や経財諮問会議と微妙な関係にある。たとえば舛添大臣は、派遣労働への厚労省の対応(ガイドライン)が不十分であることを認め、さらに「派遣制度そのものを考え直すことをふくめて検討したい」と答弁している。こうした態度は、全面市場化路線、全面開放路線が社会的な許容範囲を越えていることを反映している。厚労省に対する圧力をいっそう強めることが重要になっている。

非正規雇用労働者の待遇改善、均等待遇は社会的な要求である。それなくして「ワーキングプア」問題の取り組みは進まないことは、もはや政府も財界も認めざるをえない。しかし、その対策が本当に実効をともなうためには、新自由主義によって破壊され再編されてきた働き方そのものを変えなければならない。いつでも好きな時に、好きな条件で労働者を働かせる。労働者をモノとして扱い、暮らしていけない賃金で寄せ集め、使い捨てる。そのような「多様な働かせ方」を許しておいてはならない。

経済財政試問会議や規制改革会議を解体し、労働政策、経済社会政策の全面的見直しに踏み込むことが問われている。


春闘はこれからだ。
格差を許すな、貧困をなくせ。
非正規雇用労働者、中小零細労働者の春闘を!

すべての労働者に最低保障を−
月額15万円、あるいは1200円(時間)を!
成果主義賃金反対・格差の是正を!

最低賃金引き上げの闘いを!
生活保障引き下げを許すな!

非正規労働者の権利確立・均等待遇実現!
労働者の人権を取り戻そう!
ずべての労働者に雇用保険と社会保険を!

派遣労働の規制強化、派遣法改定を闘いとろう!
登録型・日雇い派遣の禁止!
1年を超える派遣労働には派遣先の常用雇用を義務化!

名ばかり店長を許さない!
新しい労働組合との連帯を!

(2008年3月19日/宮城全労協ニュース103号)

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