<東北22ヵ所で要請行動>
09春闘東北キャラバンは3月6日から13日まで、東北6県をつないで実施された。6か所の労働局、県と市など、計22ヵ所で要請事項(注)への回答を受け、申し入れや意見の交換を行った。各地では交流会も開かれた。
労働局や自治体の対応は前向きなものであり、共通の認識を確認することもあった。その上で、ここでは明らかに対立した点、認識がすれ違ったり、時間の制約もあって触れられなかった点をふくめて、討論素材として幾つか取り上げたい。
キャラバンを主催した東北全労協は、労働局や自治体との継続した議論を展望している。議論をおおいに発展させていただきたい。
(注)各自治体と労働局への要請はニュース第120号、121号に掲載。なお、事前に提出した労働局への要請書(2月12日付)第9項「地域最低賃金の大幅引き上げ」のなかで、「宮城では使用者側委員が審議を「ボイコット」するという異例の事態になりました」の部分は、事実と異なり誤解を与えるので正式提出に際して削除した。使用者側委員は昨年8月、最賃審議会・専門審議での採決に際して欠席した。
●キャラバンに対する前向きな対応
東北地方経済はさらに厳しさを増している。日銀仙台支店は3月報告で、景気判断を「悪化している」から「一段と悪化している」に引き下げた。企業の減産は電子・自動車などでさらに拡大しているし、とくに「雇用・所得の悪化は全国水準を上回り、想定以上」だとコメントした。有効求人倍率は続落し、雇用者所得はマイナス3・9%と全国水準を大きく下回ったという(08年12月時点、前年同月比)。新規卒業者の就職状況も厳しい。
地域経済社会へのダメージは新年に入ってさらに深刻化している。自治体税収の大きな落ち込みも必至だ。たとえば宮城県内36市町村では、法人住民税収入の見込み(1−3月期)は前年同月比の42%まで落ち込んだ。09年度も、少なくても同じ規模でダウンすると予測されている。
そのような状況にあって、6ヵ所の労働局と各自治体の回答からは、この苦況を打開しようと奮闘する姿勢を感じる内容もあった。なかには予定された時間をこえて話し込み、「どんなことでもいいから指摘や問題提起をしてほしい」と要請されたり、申し入れ内容を「提言」の形にして提出してほしいと「逆提案」もされた。
たとえば石巻市では、漁業と製造業の両方で打撃を受ける地域の実情について、意見交換するシーンもあった。「マグロ船減船により陸に上がった漁業従事者たち」が「派遣切り」にあい、路頭に迷っている。苦慮する自治体をふくめて、まさに地域社会の「知恵がもっと必要」だ。
●引き続き緊急対策の拡充が必要
企業の一方的なリストラ強行に対して、国も自治体も「出し抜かれ」後追い対応に追われてきた。「年越し派遣村」が突き付けた課題に応えることは、自治体にとってますます重要になっている。
緊急の雇用と失業防止対策は、引き続き実施することが必要だ。失職者に対する生活保護をはじめ「食・職・住」の保障。早期再就職を可能とする行政の諸施策。雇用破壊を防止するための企業に対するあらゆる対策。新規採用されなかった卒業者への支援など、対策の拡充が求められている。
自治体臨時雇用に関しては、それが「ワークシェアリング」であるという自治体側の位置付けに格別の意味があるとは思えない。緊急の「臨時雇用」として実施すること、失業者の各々の事情に配慮すること、雇用・労働条件を少しでも改善すること、「より安定した次の就職」につなげること、などが必要だろう。
臨時職員への応募が伸び悩んでおり、自治体にとっては「拍子抜け」であるとの報道がなされてきた。採用期間が短い、時給が安い、補助的労働が中心、失業保険に不利、などの問題点が指摘されている。改善が必要だ。
宮城県の加美町では、3月下旬に実施された2回目の臨時職員募集(定員23人)に4倍超の応募(元派遣労働者、解雇された製造業・建設労働者、新卒者など)があったという。町は今回、雇用期間を5ヵ月から1年に伸ばし(前回は2ヵ月)、失業時期も限定しなかった。「多くの町民が働き口を求めていて、雇用環境の悪化をあらためて痛感した」と町商工観光課はコメントしている(河北新報3月28日)。
自治体側に言い分があることも確かだ。財源の問題がある。また企業に対する行政権限が現実には役立たないケースが多々ある。だからこそ、雇用問題を地域の社会的な問題としてとらえる視点と構想力が自治体行政に問われているのではないか。
●求められる「富県戦略」の再考
宮城県は「3年間で5300人の雇用創出」をめざすという。財源は08年度補正予算からの91億円。「ふるさと雇用再生特別基金」(1年以上の継続的雇用)が60億、「緊急雇用創出事業」(臨時的雇用)に31億である。この財源をどのように使って5300人の雇用を生み出すのか。企業論理と一線を画し、地域社会との協議によってより良い施策を作り上げていくために、議会と行政の賢明な対応が求められている。
宮城県知事は当初、効果が定かでないとの理由で「自治体臨時雇用」に消極的だった。知事の立場はいわば「上げ潮派」であり、経済成長による雇用創出にこだわった。知事は昨秋、全国的にも突出した「県職員の一律6%削減」の方針を打ち出しており、「財政規律」上からも臨時雇用に反対したのだろう。
「派遣切り」への緊急対策が迫られた宮城県は、1月上旬になって臨時雇用の方針を打ち出した。知事の「転換」は県庁内部の推進意見との妥協だと報じられた。臨時雇用の規模は当初、市町村と比較しても小さなものだった。
知事の対応は自身がかかげる「富県戦略」とからんでいる。実際、新知事誕生を期に、宮城県はトヨタ系列をはじめ企業誘致に格別の配慮を払った。宮城県庁から誘致先に向けたバスが出陣するなど、派手な演出も話題になった。仙台圏北部を中心に、誘致企業の工場造成が急ピッチで進んでいった。
その直後、事態は一変した。衝撃は岩手県北上市からやってきた。誘致企業地帯であっという間に雇用破壊が進んだ。地方新聞は「北上川流域の社会崩壊」を伝えていた。厚労省は同時期、福島県の失職者が全国3位であると発表した。東北各県は大企業の雇用調整の波に一気に飲み込まれた。誘致した企業による地域社会への裏切り行為であったが、自治体にはそれを防止する方策はなかった。
●大企業・中央資本に「依存」するのか
そのような反省の上に立って、緊急対策の拡充と同時に、地域経済社会を再構想することが問われているはずだ。
しかし、宮城県の基本スタンスは、いまなお「富県戦略」の堅持である。宮城県の回答で真っ向から対立したのは、人員削減を強行する誘致企業に対して優遇措置の撤回などのペナルティを科し、企業を規制すべきだ、という項目だった。
「県は企業誘致のために優遇措置をもうけている。隣県と企業誘致を激しく争っている最中であり、ペナルティなどは考えていないし、まったくありえないことだ」。担当部局の回答は要請を全面的に否定した。担当者の発言からは怒気さえ感じられた。
自治体は誘致企業に雇用と税収の多くを頼っている。だから企業に強く主張できないという現実的な関係が生じる。そのような関係の「逆転」を本気で考えるべきではないか。「地域密着」とは、そういうことなのではないだろうか。
労働者犠牲が一方的に、しかも大規模に起こっている。企業と国に責任があることは明らかだが、自治体をはじめ地域社会が反省すべき点がたくさんある。大企業の横暴を許さないために、社会的な防衛と包囲を作らなければならない。そのような対策は次の自治体づくりの基礎となるはずだ。
自治体が特定企業から公費で製品を購入する動きが全国的に広がっている。自動車や家電など、自治体と関係の深い企業製品を公費で購入する。「たった2台だが、少しでも早く手を差し伸べたかった」。ホンダ車2台の購入を予算化した宮城県角田市の総務課長の話だ(読売新聞3月2日)。
行きすぎればWTO(世界貿易機関)違反の恐れがあると政府は指摘している。宮城県議会でも同様の議論が起きている。WTO違反として法的に問われるか不明だが、一方的に雇用破壊を強行した特定企業を援助するために、自治体が公費購入を行うことは本末転倒ではないのか。まさに「企業城下町」化を深めるということであり、「輸出型製造大企業の誘致に依拠しすぎた」という反省から逆行している。
郊外型大型商業施設の進出に関しては、仙台市周辺への展開に集中しており、他県とは様相を異にしていることを付記しておく。東北地方では仙台圏への一極集中が進んでいるが、当の宮城県や仙台市はこの事態をどう考えているか。
●企業誘致の優先と農業振興
企業の誘致促進は、農林水産業の将来像と密接にかかわっている。トヨタなどの企業進出、東北地方の製造業拠点化は農業にどのような影響を与えるか。河北新報が実施したモニター調査(農業従事者対象)によれば、悲観的な声が多い。
<自動車関連企業誘致が地域農業に与える影響(をどう考えるか)>
○農業生産が拡大する=12・7%
○農地が集まりやすくなる=28.3%
○農業生産が縮小する=44.3%
○影響はない=9.9%
○その他=3.8%、分からない・無回答=0.9%
(河北新報08年5月26日)
この調査結果について河北新報は、「自動車産業が集積した先進地の農業の現状は、必ずしもばら色ではない。地域の農業生産力を維持するため、県や市町村には農地利用や新規参入の促進などできめ細かな施策が求められている」と解説している。
少なくても「農業生産の縮小」を危惧する人々にとっては、「派遣切り」はとてもリアルな問題だ。企業誘致を優先的な政策とする自治体は、このような農業従事者の懸念・疑問をどのように考えているのか。
●「再雇用の受け皿」と農林水産業
第一次産業はいま、「再雇用の受け皿」として脚光を浴びている。農林水産省は第一次産業で5千人規模の雇用創出をかかげている。しかし現実は厳しく、自治体にとっては短期的な「呼び込み」ではない持続的な支援が課題となっている。
問題はそれだけではない。いわゆる規制改革派にとっては、企業の農業参入にとって絶好のチャンスだ。たとえば外食産業はこの分野への参入に強い関心を示してきた。チェーン店の展開にとって「国産農産物の安定的な確保」が必要になっているからだ。
小泉政権時代、建設業の農業進出が相次いだ。規制改革派は、公共事業のカットによって経営難におちいった企業を救済し、同時に農業活性化になると説明した。その後の状況はどうなっているのか。
ところで水産業はいま規制改革要求のターゲットになっている。農業と同様に、水産業への参入をはたすために現在の雇用破壊状況を利用しようという意図が透けて見える。
規制改革会議の第3次答申(08年12月)は「水産業への新規参入」に踏み込んだ。水産業の生産性が低いのは、既得権益が守られているために新規参入障壁が高いからであり、「市場原理」が必要だというわけだ。規制改革派の主張を自治体はどのように受けとめるのか。
河北新報は宮城県漁協専務理事の反論を紹介している。「企業が参入すれば、弱肉強食の論議で、父祖が営々と築いてきた漁業の習慣、文化が壊される。漁業は浜の生活基盤であり、生活権の侵害だ」「(70年代以降のギンザキ養殖のように)企業は経営状況が悪くなるとすぐ撤退し、その結果、漁村社会は崩壊の危機に直面する」(3月29日「規制緩和にハマ動揺/水産業改革の議論広がる」)。
このような「生産者の声」はいわゆる「改革派」にとっては粉砕すべきものだ。自治体はどうするのか。小泉構造改革が地域に与えた打撃、企業優先政策が一方的に裏切られた現状を検証しなければならない。
いまや「地域密着」「共生・連帯」「非営利」など、様々な場で新しい地域経済社会づくりが語られている。そのような提案を積極的に取り入れるために、自治体は政策の再検討を求められているのではないだろうか。
(注)労働局への申し入れについては続報。
■以上、宮城全労協123号(2009年3月30日)

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