宮城全労協ニュース/第124号(電子版)/2009年4月14日

<本号の内容>
◎宮城全労協メーデー集会のご案内
◎麻生政権、最大規模の追加支出へ


<宮城全労協メーデー集会のご案内>

昨年9月、米国発の金融パニックは一瞬にして地球を周回しました。株価は大暴落、バブルは吹き飛び、金融市場が凍く。「暴走するマネー資本主義」の破綻が現実となった瞬間でした。

「金融恐慌」は世界同時不況に直結し、企業は労働者の大量解雇に走りました。一方、たとえばAIGは、米国政府から巨額の公的資金援助を手にしながら、膨大な報酬を企業幹部にばらまこうとしました。現実には、多くの企業幹部たちはすでに、多額の退職金を手にして企業を去っています。「強欲資本主義を許すな!」「労働者にツケを回すな!」。怒りのデモやストライキが世界中に広がっています。

日本では「派遣切り」と「賃下げ」が強行されました。大企業の横暴に対して、政府の無策と安全網の不在が明らかになった半年でした。そのなかで、国と行政に緊急対策を要求した「年越し派遣村」は、労働者民衆の共生・連帯を訴えるものでした。

いま「小沢政治資金問題」によって政治の混迷が深まっています。麻生首相は「解散権」をかざして攻勢に立とうとしており、連休を前後して補正予算審議の攻防に入ります。05年小泉郵政総選挙から4年目を迎え、いずれにしても今年秋までには歴史的な解散・総選挙が実施されます。

09年メーデー集会にあたり、講演では「雇用崩壊」の様々な実態を具体的に検証し、労働運動の挑戦課題にせまります。


●宮城全労協5・1メーデー集会

講演 安田浩一さん(ジャーナリスト)
演題 「雇用崩壊」と闘う

5月1日18時30分/仙台市戦災復興記念館



<麻生政権、最大規模の国費支出へ>

麻生首相は4月10日、政府・与党がとりまとめた追加経済対策を発表した。与党は連休前には09年度補正予算案を参議院に送って早期成立をはかろうとしており、解散ぶくみの緊迫した政局展開が予想される。

15.4兆円という過去最大規模の財政支出である。政府・与党は09年度予算案の審議中から、追加対策を策定すべく水面下で「政策の総出動」をはかった。「(GDP比2%超という)規模ありき」だった、と報じられている。

「衆院選をにらむ与党議員は省庁や関連業界と手を携え、支持基盤向けに予算の分捕り合戦を展開した」。その奪い合いのなかで、農水省1兆円などの枠が固められ、総額が積み上げられていった(日経新聞4月11日)。与党族議員、霞が関官僚、「特需」を期待する経済界の合作である。

露骨な「予算ぶんどり」合戦について様々な報道がなされている。たとえば、「就学前3年間の子供に年3万6千円を支給する「子育て応援特別手当」を第一子にまで拡充する措置」について、「需要刺激効果は不明なうえ、今年度1年限りの時限措置としたことで少子化対策としての意味合いも薄い。自民党と公明党の妥協の産物で、中途半端な政策だ」(日経社説/4月11日)。

そのようにして15兆円(事業規模57兆円)が積み上がった。小渕内閣は1998年、大型緊急経済対策を組み(8.5兆円)、効果も少なく国家財政を悪化させたと後に酷評されたが、単年度の追加予算としてそれを大幅に上回る額だ。財源の大半(10兆円以上)は建設国債と赤字国債である。麻生首相は、財政出動は消費税を含む税制改革と一体である、民主党案には財源の裏付けがないと述べ、「景気回復を前提とする消費税増税」の方針を改めて明言した。


麻生首相の成長戦略と追加経済対策

麻生首相は4月9日と10日、タイ訪問の直前に、連続して経済方針に関する会見を行った。

麻生首相は「アジアの成長力強化」と「アジアの内需拡大」の二点を提案する予定だった。首相にとってG20後の最初の国際会議であり、東南アジア諸国+中国・韓国に「アジア経済倍増に向けた成長構想」をアピールする算段だった。4月12日に予定されていた東アジア首脳会議はタイの国情によって中止されたが、麻生提案は各国からどのように受けとめられただろうか(首相官邸ホームページ、4月9日首相スピーチを参照)。

9日のスピーチでは、「経済危機、経済有事のピンチをチャンスに変えることができた国が、将来大きな繁栄をつかめる」とし、「ひとり日本だけが旧来型品目の輸出に依存した成長軌道に復帰することは現実的ではない」「新たな成長モデルに向けて、いち早く行動する」と強調した。「低炭素革命で世界をリード」、「安心・元気な健康長寿社会」「日本の魅力の発揮」を三つの柱とし、投資の集中と制度改革によって成長を実現するという。

「2020年には実質GDPを120兆円押し上げ、400万人の雇用機会を創出する」「当面3年間では、累計で40兆〜60兆の需要を創出し、140万〜200万人の雇用を創出する」。数値や項目の羅列であるが、経済界の中からも「ビジョンが見えない」との批判を受けてきた首相としては、「当面の15兆円の経済危機対策」が「中長期的な未来開拓の成長戦略」に基づいたものであることを印象づけたかったのだろう。
       
15兆円の財政支出について全国紙の評価は大きく二つに分かれている。朝日新聞と毎日新聞は社説で「大盤振る舞い」と批判した。

「旧態依然とした対策の策定過程といい、与党の選挙向けとも受け取られる要求に最大限の配慮をしたことといい、与党の言い分には疑問を持たざるを得ない」「大盤振る舞いは大半を国債の増発で手当てしなければならない。これだけでも09年度の国債発行残高は40兆円台半ばに達する。・・財政を壊した時、そのツケはとてつもなく大きい」(毎日社説10日/「大盤振る舞いの結末は」)。

「大型補正の編成作業を急げ」と主張してきた読売新聞は政府・与党案を支持したが、それでも「15兆円を賢く使え」と予防線を張った。「賢い支出・賢明な投資・尊敬される公共事業」が流行言葉となっているのは、大型財政出動に疑問符がついていることの表れである。

「よくみると本当に景気対策として有効なのか首をかしげたくなるものも少なくない」「(公共事業では整備新幹線など)従来の延長戦上の項目も潜り込んでいる」と指摘した日経新聞の社説は、「規制改革に再点火せよ」「改革を進めてこそ需要追加策が生きる」とあえて「改革」を強調した。


米国と経団連の要求に応えた麻生首相

麻生首相は10日、記者会見で「15兆円の根拠」を問われ、「2%とか3%を最初から頭に置いて逆算したのではない」「政策を積み上げていった結果、財政支出で約15兆円、GDP比3%という最大級の経済対策になった」と答えた。

実際には「2%超」が先にあった。米国政府は主要各国に2%超の財政出動を求めていた。麻生首相は「第一位の米国と第二位の日本が協調して対応する」と繰り返してきた。G20に際して麻生首相は、大型財政出動に反対するドイツを名指しで批判して波紋を広げたが、<米英資本主義とのスクラム>が日本のスタンスだということだ。

15.4兆円は日本の国内総生産の3%に相当する。IMF(国際通貨基金)は日本の実質経済成長率(09年)を前年比マイナス5・8%と予測した。米国がマイナス2・6%、英国がマイナス2・8%であり、その差3%を埋めることが「日本政府の至上命題」となった、といわれている。

大型補正予算は日本経団連の要求でもあった。経団連は、日本でGDP比5%の需給ギャップ(25兆円)が生じており、それを財政出動で埋めるべきだとの論陣を張ってきた。3月9日、緊急提言を行った経団連は「平成21年度補正予算の早期実行」を政府に求め、そのことによって低支持率にあえぐ麻生政権に手をさしのべた。

緊急提言の第一項目は「即効性のある需要創出策」であり、以下の3つの柱が設定されている。

○低炭素・循環型社会の実現
○重要インフラの整備推進・前倒し
○個人金融資産の活用促進のための税制措置

その細目には、「環境対応自動車」「省エネ型家電・高効率給湯機器・家庭用燃料電池・太陽光パネル」「省エネ住宅」などが明記されている。公共事業では羽田空港、成田空港、京浜港をはじめとする具体名とともに、整備新幹線、公共施設の耐震化・グリーン化、地上波デジタル対応機器、ブロードバンド基盤等がならんでいる。

これらの要求は政府・与党の対策に盛り込まれた。たとえば「環境対応車購入支援」に3700億円、「エコポイントの活用によるグリーン家電の普及」に2900億円が当てられた。

ちょうど一ヵ月前には7千円を割る直前だった日経平均株価は、その後持ち直し、とくに麻生首相の記者会見当日には、取り引き時間中に一時9千円を回復した。追加経済対策関連の企業に買いが集中した効果による。とくに目立ったのは、エコカーのトヨタやホンダ、地上デジタル関連でシャープやパナソニックなどだったという。

日本経団連の御手洗会長は「09年度補正予算の一刻も早い成立と実施」を要求している。「特需」を期待する企業にとって、補正予算の効果はボーナス商戦で発揮されねばならない。主要企業の年間一時金は16%の大幅減となった。製造企業では20%の減少だ(3月31日現在/日経新聞社第一次集計)。企業は、賃下げによる消費の減退を国費で穴埋めしようとしている。

日本経団連は小泉政権以降も「小さな政府」をかかげ、麻生政権の発足にあたっては構造改革の放棄による「大きな政府への逆行」を牽制した。それがどうか。いまや「大きな政府」による個別企業、個別業界の救済を要求しているではないか。


消費税大増税を呼び込む国費の乱用

麻生政権はすでに三度の対策で12兆円(事業規模で75兆円)を投入してきた。それに追加しての15兆円(事業規模57兆円)である。麻生政権の政策の中心は、金融・銀行支援、株価対策、企業支援、富裕者優先の消費刺激策だった。消費拡大・生活支援策も疑わしいものが並んだ。「2兆円定額給付金」は強い批判を浴びた。高速道路料金の休日値下げでも、ETC車を優遇している、天下り法人への資金還流ではないかなど、様々な疑問が出されている。与党は1年前、ガソリン値下げは「地球温暖化対策」に反すると主張していたのだ。そもそも「低炭素革命」が必要だとして、それをエコカー支援にすりかえるのは自動車産業の育成策に他ならない。

9月の金融パニックが輸出の急減につながるや、企業は労働者への攻撃を一気に拡大させた。象徴が「派遣切り」だった。有効な雇用対策もなされず、厚労省調べによる非正規雇用労働者の失職者は増大し続けている。そして、国費によって資金援助された企業の生産調整と賃金カットが、ことさらに「日本型ワークシェア」と称して奨励されている。

麻生首相は国会審議のなかで、「派遣切り」を強行する個別企業への言及を幾度となく拒否した。それは個別企業の責任を政治は問わないということだった。首相や舛添大臣、与謝野大臣らは、小泉路線の見直しを口にしてきたが、労働行政やセーフティネットなど政策転換は果たされていない。新年度明け、ハローワークには例年の1・5倍の労働者が殺到し、大混雑をきわめた。4月8日、「春の派遣村」が開催された。相談者の一人は「行政に行ったら(生活保護の申請などは)断られると思ってここに来た」と、行政への憤りを語っていた。

そのような中での15兆円追加経済対策である。09年度一般会計の総額は100兆円を超える。国債の発行額が税収を上回るという戦後初めての事態になる。首相は「中期プログラム」の改訂を明言している。

麻生政権は「100年に1度の経済危機」を口実にして、小泉政権が敷いた「歳出削減路線」の重しを外した。返す刀で、国家財政危機を民衆につけ回し、消費税大増税の時代を切り開く呼び水にしようと画策している(注)。


解散タイミングをはかる麻生首相

3月3日、小沢民主党代表の秘書が政治資金規制法違反容疑で東京地検特捜部に逮捕された。そこから「政局の景色」は一変した。それまで麻生内閣の支持率は10%台に落ち込み、自民党議員から「日没30分前の内閣」だという自嘲がもれ、「ポスト麻生が政局の焦点」となっていた。その落差はきわめて大きく、民主党の後退は著しい。「自民党議員には波及しない」との漆間官房長官発言問題も追い詰めることができなかった。

容疑と逮捕自体については、検察側も小沢代表側にも疑問や謎が多く、この点で多くの議論がある。地検特捜部は政治的意図を否定したが、秘書の逮捕が小沢代表の「政治生命」を危機に直面させ、民主党を失速させ、政権交替の可能性に急ブレーキをかけたことは明らかである。

小沢代表の説明は納得できるものではない。地検特捜部の対応に批判があるにもかかわらず、世論調査では小沢代表の辞任を求める声が圧倒的である。民主党は党として、代表の続投表明を了承したが、多数の議員と支持者にとっては「このままでは選挙は闘えない」というのが本音だろう。民主党はいまだ、この困難な局面を打開する方途を見いだしていない。「小沢代表は辞任カードを切るタイミングをはかっている」との希望的観測がさかんに流されているが、事態は予断を許さない。

民主党が受けた打撃は甚大だが、各種調査に表れているように、政権交替を求める声は依然として強い。民主党がその「責任」を果たし得るか、真価が問われている。

地検特捜部は自民党サイドへの捜査も進めており、連休前には結果が明らかになるといわれている。民主党は独自に選挙情勢の調査を行っており、その結果について何らかの態度表明がせまられるだろう。また「第三者委員会」による検証作業が始まり5月中には報告書にまとめられるという。国会では補正予算案が上程され、「海賊対処法案」等の審議をふくめて民主党への揺さぶりが強まる。解散のタイミングについて諸説が流されているが、いずれにしても連休を前後して次の政治局面が始まろうとしている。

麻生首相は絶好の「敵失」によって息をついた。小泉元首相の「反乱」が大勢への影響力を持たなかったことも、麻生首相に有利に作用した。それでも首相の立場は厳しい。内閣支持率は回復しつつあるが、不支持率はいまなお過半数の水準にある。

首相は9日の記者会見で、09年度補正予算への与野党の対応こそが、来る総選挙の争点だと強調した。完全なすり替えであり、政府・与党の「争点隠し」を許してはならない。小泉元首相による「05年郵政解散」以降、3代にわたる政権たらい回しを厳しく糾弾し、自公を政権の座から下ろさなければならない。


(注)
たとえば経済財政諮問会議の民間議員である吉川洋は、「消費増税/議論を逃げるな」と主張している(日経新聞4月2日、内閣府政策統括官との共論)。

消費の低迷は、「賃金が伸びなかったことも重要な一因」だが、「社会保障制度の将来不安」が「消費者の財布のひもを必要以上に締めている」からだと吉川は指摘する。だから「経理区分による消費税収」を「国民還元」すればよい。「経理区分」(税収をすべて社会保障に充てること)を明確すれば、消費税の増税は国民に還元され、「所得格差は是正される」。このような理屈によって、「中期プログラム」(*)や麻生首相の「中福祉・中負担」路線を正当化する。

吉川は、「タイミングを逃さず、高度な政治判断」をせよと求めている。「万一、今回の不況克服後の消費税の引き上げが速やかに行われず、次の不況のサイクルに入るときまで議論が続いてしまうと、景気の下降局面での負担増が難しくなり、結局、いつまでも増税できないことになりかねない」(同上)。

(*)「持続可能な社会保障構築とその安定財源確保に向けた『中期プログラム』」。昨年12月末、閣議決定。


■以上/宮城全労協ニュース第124号/2009年4月14日