●最低賃金の大幅引き上げを!
最低賃金の2009年度改定審議がようやく始まり、6月30日には中央最賃審議会が開かれ、厚生労働大臣による「目安」の諮問が行われた。
6月初旬の開催予定がここまで遅れた、上げ幅について政労使の議論が進まなかったからだ、といわれている。経営側は強硬姿勢を貫いているし、危機に瀕する政権側としてはそれどころではないというのが実情なのだろう。
麻生首相は昨年12月1日、経済団体トップを官邸に招いて賃上げを要請した。春闘が本格化する直前の「極めて異例」な要請であり、その効果が注目されたが、経営側の返答は「ベア見送り」「定昇一部凍結」だった。大企業集中回答の直後、政府、日本経団連と連合は「政労使合意」を演出し、「日本型ワークシェアリング」推進による雇用安定をうたいあげた。しかし雇用情勢は悪化の一途をたどっている。
6月末に公表された5月の完全失業率は4ヵ月連続して悪化し、5%を突破した(5.2%)。完全失業者は前年同月比で過去最大の77万人増を記録した。有効求人倍率は12ヵ月連続して悪化し、0.44倍と過去最低だった。厚生労働省は「さらに厳しさを増している」と雇用・失業情勢の判断を下方修正した。失業率は5%台後半から6%に達するだろうとの予測がもっぱらだ。「景気は底を打った」と政府は宣言したが、労働者犠牲は拡大しつづけている(注1)。
一年前の最賃審議は「格差・貧困の是正」を求める声に押し上げられ、マスコミの多くも大幅引き上げの論陣を張った。
その前年秋の臨時国会で改正最賃法が成立し、08年7月から施行となっていた。参議院選挙で自民党が大敗し、「改革見直し」の圧力が政府・与党を法改正に追いやった。「衆参ねじれ国会」での民主党と与党との初めての共同修正でもあった(注2)。
それから一年、各紙の論調は消極的なものとなっている。日経新聞(6月30日)は、「引き上げを求める労働側と、引き上げを阻止したい経営側の対立は根深い。昨年秋からの金融危機と景気後退が響き、賃上げの環境は例年より厳しいとの見方も出ている」とし、「現状維持」「現状維持または引き上げても2〜3円」とする「専門家の見方」を示している。
「賃金も大きく低下した。残業代などを含む現金給与総額は昨年6月から11ヵ月連続で前年同月の水準を下回っている」「企業収益が悪化しており、賃金改定状況ベースの賃金上昇率もマイナスになるとの観測が浮上している」(同)。つまり、賃金が上昇していないのだから最賃も上がらない、というわけだ。
また「労働分配率が過去最大に」との数値を持ち出し、リストラの必要性を説く主張も出始めている(注3)。小泉政権下、竹中大臣によって盛んになされたものだ。経済財政担当大臣だった竹中は、「日本の労働分配率はまだまだ高く修正が必要だ」「修正はまだ半分くらいで、時間をかけて調整していかねばならない」などと主張した。それは最賃の凍結・抑制を正当化するものだった。
そのような企業論理をひっくり返すことが必要だ。最低賃金の大幅引き上げは、生活防衛のための当然の要求である。企業が賃金を抑制・引き下げるなら、最低賃金は逆に引き上げなければならない。現行の制度において企業が抵抗するのなら、政府は労働者の最低賃金引き上げを保障しなければならない。最賃法には「健康で文化的な最低限の生活」(つまり憲法25条の生存権)が明記されている。
経営側のねらいは09年度引き上げを一時的に凍結するだけではないだろう。07年と08年になされた一定の引き上げ水準を例外化させ、小泉時代に再び戻そうとの思惑があるだろう。小泉政権が強行した格差拡大・貧困化政策をただすためにも、最賃引き上げは必要である。
小泉政権下の極端な最賃抑制は非正規雇用の急拡大とあいまって、格差拡大・貧困化をもたらした。「行きすぎた改革の是正」が政策テーマとなった。安倍首相と中川幹事長は経済成長によって格差・貧困を吸収するという、いわゆる「上げ潮」路線を打ち出したが、07年参議院選挙で大敗し、政府・与党はいっそうの後退を余儀なくされてきた。
麻生首相の一連の発言や、小泉時代の経済財政諮問会議と規制改革会議を批判する与謝野大臣らの発言は、そのような流れの中にある。「ワーキングプア、ニート、子どもの貧困、医師不足。政府はこれらの問題に対応できていなかったことは認めなければならない」(6月25日の日本記者クラブでの首相会見)。最賃引き上げが労働政策の中心テーマの一つにならざるをえないことは、麻生政権も否定できない。
経営側は、08年度の引き上げ幅(昨年、全国平均で16円引き上げ、時給703円)が大きすぎたと反発してきた。だが、この引き上げ幅は1990年代半ばにようやく戻ったという水準である。経営側は、昨年の円卓会議の合意(高卒初任給の最も低位の水準に5年程度で引き上げる)すら反古にしようとしているのではないか。最賃抑制・低位固定への引き戻しを許してはならない(注4)。
「生活保護費との逆転解消」が焦点になるとのマスコミ解説がある。それによって、平均すれば結果として一定の引き上げ幅が計上されることになる、との読みだ。だが、この「逆転解消」は当然のことである。
小泉時代の最後、「06年度骨太方針」は社会保障費の伸びを5年間にわたり毎年2200億円削減すると明記した。攻撃ターゲットの一つが生活保護費だった。最賃引き上げ要求に対して、安倍・福田政府は生活保護費の削減をリンクさせようとした。舛添厚労大臣も当初、生活扶助基準引き下げによる逆転解消の検討に言及していたが、後退せざるをえなかった。これらの経緯は小泉−竹中路線の後退を象徴するものだった。
こうして、生活保護給付水準よりも少ない最賃を引き上げることによって、この逆転を解消すべきだという見解が、08年度の改定論議で示され、「09年度で原則解消」が目標となった。現時点でなお9つの都道府県が逆転状態にある(注5)。日本商工会議所は「解消の凍結」を主張したと報じられているが、解消の実現は09年度改定の当然の責務であり、そして必要なのは生活保護費の引き上げなのだ。
6月30日の中央最賃審議会では労使の主張が対立し、「激しい攻防が予想される」と報じられている。連合は今年、昨年と同水準の15円引き上げをねらうという。だが高木会長は「本来なら30円、50円という額を言いたいが、経済状況を考え、自制して15円を求めていく」と述べたという(朝日新聞6月19日)。連合は昨年、時給50円引き上げを要求しているではないか。このような状況であるからこそ、要求を値切ってはならない。
中央審議会からの「目安」答申は7月下旬の見込みで、それ以降、各地方最賃審議会での実質審議に移行する。宮城地方最賃審議会では実質審議に先立って、労働局長からの諮問などが7月8日になされる。
最低賃金の大幅引き上げを求めよう!
(注1)
<非正規雇用労働者の失職>
昨年10月以降に職を失ったか、または今年9月までに職を失う見通しの非正規雇用労働者は全国で223,243人。東北地方では29,028人。
青森 3,117人(0.26、47位)
岩手 4,609人(0.32、42位)
宮城 5,111人(0.38、33位)
秋田 3,443人(0.28、45位)
山形 5,619人(0.32、42位)
福島 7,129人(0.35、38位)
かっこ内は5月の有効求人倍率とその全国順位。
全国平均は0.44倍、1963年調査開始以来最低。
(厚労省6月30日)
(注2)
宮城全労協ニュース109号(08年9月4日)参照。
(注3)
「生産や輸出に持ち直しの動きもあるが、労働分配率が過去最大になるなど雇用や設備の過剰感は依然強い」「利益のうち、雇用者にどれだけ支払ったかを示す労働分配率は72%(ニッセイ基礎研究所試算)と過去最大になった。1〜3月期の企業の人件費は前年同期比7・8%減だが、調整圧力はなお強い」(「雇用・設備なお過剰感」日経新聞6月5日)。
(注4)
<高卒初任給との均衡>
宮城全労協08年意見書より抜粋
・・・宮城地方最低賃金審議会では6月20日の中央円卓会議における政労使合意にとらわれない審議を要求します。この政労使合意は「小規模事業所の高卒初任給の最も低位の水準との均衡を勘案して、これを当面5年程度で引き上げることを目指す」となっています。これは労働者側の主張する小規模事業所(10人から99人)でも、2012年までに755円までしかあがらないということです。使用者側の主張だと、「小規模事業所」の定義をもっと低額になるデーターも満足にないといわれる20人以下の企業を対象にせよ、と主張しています。論外だと考えます。高卒初任給の水準も5年で大幅に上がる根拠もありません。むしろ21年度末に必要な再検討を行う、ということが述べられており、更に低額になる可能性もあります。
5年かけて68円増の755円では、前述したように欧米主要国の中でも相変わらず並はずれて低水準であるとともに、貧困の解消に何ら寄与しないどころか、むしろ貧困の拡大、固定化につながりかねません。「最低賃金制度が十分なセーフティーネットとして機能するよう必要な見直しをおこなう(安倍前首相)」どころか逆の結果を招きかねません。中央円卓会議の合意に縛られない大幅な最低賃金引き上げにむけた審議を要請します。(後略/2008年8月4日)
(注5)
読売新聞(6月29日)より。
「厚労省が昨年夏、生活保護費を都道府県ごとの平均値に換算した額と、最低賃金とを比較したところ、逆転状況だったのは12都道府県。このうち、青森、秋田、千葉の3県が秋までに最低賃金を引き上げた。現在の状況は同省が調査中」。
<最低賃金が生活保護水準を下回っている都道府県>
*2008年秋時点、厚生労働省の資料より作成
北海道 667円(707円)40円
宮 城 653円(659円) 6円
埼 玉 722円(743円)21円
東 京 766円(819円)53円
神奈川 766円(825円)59円
京 都 717円(733円)16円
大 阪 748円(765円)17円
兵 庫 712円(719円) 7円
広 島 683円(691円) 8円
最低賃金(生活保護水準)差額の順。
■以上/宮城全労協ニュース第128号/2009年7月6日

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