宮城全労協ニュース/第135号(電子版)/2009年9月22日

問われる4年間の宮城県政



村井知事は過日、再選出馬表明にあたって、「政党の推薦を求めない」と述べた。

「県民からの税金で生計を立てており、等しく県民のために働くという意思表示のため、推薦依頼はしない。前々から決めていた」。知事はこう弁明している。だが総選挙で知事は、自民・公明両党への支援の最前線に立ったことは衆知の事実だ。

7月26日、自民党宮城県連の政経セミナーでは、出席した麻生首相を前にして「勝利のために一心不乱になってたたかう」と宣言したほどだ。実際、自民党陣営にとって知事が最大の「選挙の顔」だったことは否定しようもない。いまさら「無党派選挙」などと言われては、「ご都合主義」との指摘も当然だろう。


保守の県政奪還から4年間

皮肉なことに「無党派選挙」は浅野前知事のキャッチフレーズだった。4年前、その浅野が立候補しないと表明したことにより、自民党に大きなチャンスがめぐってきた。

浅野は「3期12年のけじめ」と不出馬の理由を語ったが、2か月後に選挙が迫っていたこともあり、憶測を呼んだ。県連幹事長・村井を擁立した自民党は、民主党などが支援した県庁人脈の浅野後継候補を接戦の末に敗り、県政奪還を果たした。この年の総選挙で宮城の自民党は、5区をのぞき民主党に勝利しており、国政の勢いも後押しした。

振り返れば16年前、ゼネコン汚職で宮城の政官財は大揺れだった。仙台市長に続き県知事も逮捕されるという前代未聞の事態のなか、厚生省官僚だった浅野が改革をかかげ知事選挙に立候補し勝利した。浅野が独自性を発揮したのは二期目の選挙で、「無党派」「勝手連選挙」によって自民・新進・公明推薦候補に圧勝した。

浅野県政の評価については「福祉」と「情報公開」を中心とする政策面でも、「政治」面でも、様々な議論がある。だが、宮城県警との長期にわたる対立が象徴するように、保守陣営にとっては容認しがたい存在であった。

念願の県政奪還を果たした村井新知事は、「前知事は福祉に重点を置いたが、私は産業経済に特化した政策を打ち出す」と浅野県政からの転換を宣言し、保守政界と経済界へのシフトを鮮明にした。その4年間の保守県政、とくに村井知事の「富県戦略」が問われることになる。

(もちろん総選挙後の最初の県知事選挙であり、しかも2つの参議院補欠選挙と同時に実施される。7月の仙台市長選挙は、「仙台の事情」と表現されたように、全国政治と切断されたものとなった。宮城県知事選挙はそういうわけにはいかない。政局と直結した政治戦の側面をあわせもつことになろう。)


企業誘致による「富県戦略」

9月2日、定例県議会本会議冒頭、村井知事は、「トヨタの東北拠点化」とタイアップした「富県戦略」の実績を次のように表現した。

「自動車産業の集積がつち音を響かせながら、宮城の地に姿を現し始めた。経済基盤を構築する揺るぎない流れを、4年の任期で形づくることができた」。

トヨタグループでは1993年、関東自動車工業が岩手に進出、97年からトヨタ自動車東北が宮城(大和町)で生産を開始していた。そのトヨタが本格的な東北進出を企図し(*注1)、セントラル自動車は07年秋、宮城県への移転を決定した。宮城は、岩手などとの誘致合戦(*注2)で、「従来の4倍もの助成」など優遇策をもって誘致をかちとったといわれる。

仙台圏北部の二つの工業団地が急ピッチで造成されていった。企業への直接的な助成だけではない。物流網の拡充、居住施設や通勤交通の整備など、県と自治体による各種の受け入れ策が実施されてきた。麻生政府の「エコカー減税」と連動した自治体の政策や、特定企業製品の公費購入なども進められた。

「トヨタ進出の宮城」は村井県政の代名詞となった。東北経済産業局によれば、08年、宮城県の工場立地面積は前年比8倍超と大幅に増加した。大規模立地も宮城が東北最大だ。「(自動車産業の集積によって)今、着実に繁栄していく明るい展望が眼前に開きつつある」(定例県議会)と、知事は次への意気込みを強調する。

県は地元部品メーカーの受注をはじめ経済波及効果に期待をかける。七十七銀行は、「自動車関連企業の進出が県経済に及ぼすインパクトは極めて大きい」とし、セントラル自動車とパナソニックEVエナジー2社の宮城進出による経済効果を年間3088億円と試算している(河北新報9月19日)。

産業経済構造の変貌が予測されている。「自動車関連の生産額が県内の製造業全体に占める割合は、07年の4.7%から稼働当初は10.2%に倍増。増産態勢に入ると13.6%に上昇する見通し」だという。


「企業一辺倒」への批判

大衡村は工場移転等で人口(5500人)の3割増を見込んでいる。周辺各自治体も1万人規模の雇用と人口の増加を想定し、様々なインフラ整備を実施しつつある。こうして地元自治体の「企業城下町」化が進む。このような「特化」は好ましいのか。「均衡ある発展」とか「地域に根ざした経済社会」と矛盾していないのか。

雇用効果にしても手放しで喜ぶ状況にはない。トヨタ自動車東北は、創業以来初めて、新規卒業予定者の採用を見送った。「新車販売台数は回復しつつあるが、トヨタグループのエンジン供給能力はなお過剰で、トヨタ東北の新工場建設のメドは立っていない」(日経新聞9月17日)。

地元企業からは戸惑いの声もあがっている。トヨタ系が積極的な採用活動を展開するほど「地元企業に人が集まらない」「人材を引き抜かれないか」と不安がつのる。工場誘致が農業離れに拍車をかけるのではないか、との懸念も指摘されてきた(たとえば「河北新報」農業モニター調査、08年5月)。

そもそも昨秋、雇用破壊は輸出型製造大企業の系列工場から始まった。岩手の関東自動車工場でも宮城の東北トヨタ工場でも「派遣切り」が強行された。優遇措置を受けた誘致企業は、雇用維持を訴える自治体に背を向け、「企業の論理」によって地域社会を裏切っていった。

東北全労協は09春闘キャラバンで各県自治体と労働局を訪問した。「企業誘致に依存する構造のままでは地域社会を守れない」。そのように苦悶する自治体担当者たちが先々にいた。リーマン・ショックをこれまでの経済社会政策を反省し見直す契機とすべきなのだ。そのような視点を村井県政は持つのだろうか。

8月の衆議院選挙では4区の動向が注目された。「農業票の動き」とならんで、誘致企業集積への賛否が影響すると見られたからだ。結果はどうか。4区で現職自民党候補が民主党候補を上回ったのは、大衡村(1691票対1373票)と松島町だけだった。黒川郡の大和町では民主候補が上回り、富谷町では大差をつけた。隣接市町村でも民主が勝利した。共産党候補も4区全体で5.23%を獲得している。知事サイドは国政と県政は別とするが、「富県戦略」への疑問が示されていると見るべきではないのか。

「企業一辺倒」「福祉に冷たい村井県政」との指摘がなされてきた。宮城県が08年3月に行った県民意識調査では、医療施策や育児支援への満足度が低かった。そこで知事は「(09年度予算配分では)産業新興策だけでなく、医療・福祉分野にも」と説明し、批判をかわそうとした。だが、基本政策はあくまで、自動車産業集積を核とする「富県戦略」にある。

今年1月時点で、宮城県内の生活保護受給者は2万1千人を超えている。宮城での自殺者は昨年1年間、607人にのぼっている。東北経済の「底打ち」「自動車産業などの生産持ち直し」にもかかわらず、雇用状況は悪化しつづけている。新規卒業予定者の就職は困難をきわめている(*注3)。知事は大企業優先政策と厳しい労働者民衆生活との落差を直視すべきである。


(注1)トヨタの「東北拠点化」計画。

「トヨタグループは東北を中部、北部九州に次ぐ生産拠点に育成する青写真を描く。人材確保や震災リスク分散の観点から『国内3極体制』を築く狙い。セントラル自動車(宮城県大衡村)と関東自動車岩手工場(金ケ崎町)を合わせると、東北で年間40万台体制が整う。自動車需要が回復すれば北米に加え、ロシアや中国の東北地方への直接輸入も視野に入れる。トヨタグループの東北進出を巡っては、セントラルのほか、トヨタとパナソニックが共同出資するパナソニックEVエナジー(静岡県湖西市)が宮城県大和町に販売好調な環境車向け電池工場を10年に稼働する」(日経新聞09年7月29日)。

トヨタグループではこのほか、鋳造部品の加工・製造工場、シートなど内装品生産工場も県内に進出する。

企業誘致は他方で大量の労働者の広域配転を意味する。何度かにわたって、誘致先への見学ツアーが組まれてきた。宮城県庁前では、北に向って出発するチャーターバスを拍手で送り出す光景が見られた。受け入れ側の関心と比べれば注目度は圧倒的に低いが、「セントラル(本社・相模原市)社員、家族約4千人が『片道切符の転勤に動揺を隠せない』」とのルポ記事が掲載された(毎日新聞08年10月19日)。

なお、トヨタの東北拠点化は自動車産業に限定されたものではない。豊田通商(本社・名古屋)は農業生産分野への本格参入を発表した。子会社による農業生産法人が県北・栗原で2010年からの始動を計画し、国内最大のパプリカ生産拠点をめざすという。


(注2)
東北全労協の09春闘キャラバン隊は4月、宮城県との交渉をもった(既報)。そこには「とくに優遇措置を受けている誘致企業の人員削減に対しては、奨励金等の返還や罰則の強化をはかること」との申し入れ項目があった。県の担当者は「ありえない」と申し入れを拒否した(様々な申し入れ項目のなかで、そのような断定的な拒否回答は異例だった)。「他県との厳しい競争による誘致」を理由にあげた担当者の回答は、怒気さえ感じられるものだった。


(注3)
8月末の政府発表で失業率は過去最悪の5.7%(全国平均)となった。東北地方は全国平均を大きく上回っている。宮城労働局によれば、4〜6月の宮城県の完全失業率は1〜3月より0.2ポイント悪化して6.4%に達している。

また来春卒業予定者への求人状況について、厚生労働省は9月11日、高卒者の就職が03年春以来の落ち込みだと発表した。中学生の求人倍率も0.19と半減している。

高卒予定者で就職希望者の求人倍率は、昨年同時期の1.31倍から0.71倍に落ち込んだ。地域間格差が大きく、1倍を超えたのは東京(2.6倍)、大阪、愛知、香川だけだった。最低の沖縄は0.11。

東北は平均で0.29、九州とならんで極端に低い。青森0.16、岩手0.23、秋田0.26、福島0.31、山形0.33で、宮城でも0.45にとどまっている。


■以上/宮城全労協ニュース第135号/2009年9月22日