宮城全労協ニュース/第147号(電子版)/2010年1月23日

   経団連、春闘指針を公表
     〜全労協が批判声明


 日本経団連は1月19日、経営側の春闘方針である「経営労働政策委員会報告」を公表した。

 全労協はこれを批判し、10春闘に立ち上がるよう呼びかけた(◎転載資料を参照)。2月3日には「10けんり春闘」が東京で正式発足し、2月以降の春闘を具体化していく。ともに闘おう。

 

「賃金より雇用」?

 経団連は「賃金より雇用重視」と主張している。賃金については「定期昇給の凍結・延期も議題」になるという。「ベースアップは困難」とする09春闘からさらに踏み込んだ賃金抑制方針だ。

 「雇用は極力守るが、人件費の総額はぜったい増やせない・・そんな経営側の意志が透けて見えるものとなった」という報道があった(朝日新聞20日)。「雇用は極力守る」!?それはせいぜい大企業と「連合・正社員大労組」との関係だろう。経団連が「雇用重視」というのなら、大企業労使の利害を越えて、労働者雇用の「社会的な責任」をもつべきだ。現状も「報告」も、そうなってはいない。

 「報告」では、時間外労働の削減や一時休業など「賃金減額措置の活用」によって雇用を守るという。つまり「日本型ワークシェアリング」は経団連にとって、もっぱら賃金削減の手段となっている。さらに「雇用維持」は多くの場合、政府の雇用調整助成金に依拠したものだ(11月で186万人)。

 非正規雇用労働者への待遇改善(同一労働同一賃金)を促進させるという経営者団体としての姿勢はない。派遣労働規制には反対を貫いている。

 あくまで企業利害を最優先させた報告だ。「雇用は守るから賃金はガマンしてほしい」という類の説明はデタラメである。



危機的な雇用と賃金

 リーマンショック以降の「派遣切り」は今なお続いている。「正社員の解雇・早期退職強要」も後を絶たない。雇用危機は恒常化し、いつ悪化してもおかしくはない。

 今春の新規学生採用は過去最悪水準にある。宮城では12月末時点で、高校生の就職内定率は62%にすぎず、前年比14ポイントの大幅減だ。企業の採用抑制方針は「再来年春の就職戦線」にまで影響を及ぼしている。

 失業率は高止まりしている。完全失業率は昨夏09年7月に5.7%を記録して以降、下降傾向にあったが、11月に5.2%と再悪化した。

 そもそも政府統計はハローワークを通したものであって、「公的な求職活動をあきらめた人」を含めるなら、失業実態は公表値の少なくても2倍に達するとの指摘が一貫してなされてきた。

(「ニート」といわれる人々の存在を重要視すべきだとの指摘があったし、最近では「失業率の思わぬ低下は主婦の労働参加増が一因」だという研究もある(注1))。

 賃金低下は2001年以降、いまなお継続している(注2)。日本経済は「戦後最長の景気拡大期」を経験したが、輸出企業主導の「実感なき景気回復」であったと小泉政権以降の自公与党も認めざるをえなかった。その間、「雇用の非正規化」が大きく進展し、労働者の賃金は平均賃金と給与総額ともに低下した。しかも配偶者特別控除や定率減税が廃止され、社会保険料が増大したため、可処分所得はさらに減少した。

 公務労働者の賃金削減(民営化・外注化を含めて)が、「公務員バッシング」とあいまって強行された影響も大きい。NTTの違法・脱法「50歳リストラ」方式は、経営側によって姿形を変えて採用されていった。

 特にこの1年半、賃金は歴史的な落ち込みとなった。経団連によれば大企業の昨年末のボーナスは15%減少し、その減少幅は過去最大だった。零細企業の労働者は、どれほどの打撃であったか!

 そのような経緯の上でなお、賃金削減を強行するという。経団連方針を許せるわけがない。

 

謝罪も反省もない御手洗経団連

 戦後最長の景気拡大とその後の後退を通して、「働く貧困層」「格差拡大」が社会問題に浮上した。労働規制緩和による「非正規雇用」化が大きな要因だった。

 労働劣化・不安定化が、小泉構造改革の競争至上主義や自己責任論とあいまって、社会を荒廃させていった。労働現場では労災、精神疾患、過労死が広がっていった。長距離トラック運転手の事故多発や教育労働者の過労死など、重大な警告があった。

 賃金低下の10年間、自殺者は年間3万人を超え続けた。「介護破綻」の結果、家庭内殺人という最悪の悲劇が相次いだ。市民活動が厳しい状況に立ち向かったが、公的な対策の不備が多く指摘された。

 06年、日本経団連会長に就任したキャノンの御手洗会長は「希望の国」を説き、小泉後継・安倍新首相の「美しい国・日本」との蜜月をアピールした。自民党が衆議院で圧勝し、「郵政民営化」法案を成立させていた。「2005年体制」の成立と絶賛された。小泉−ブッシュのイラク戦争協力によって、日米関係も良好とされた。

 財界と政権は「わが世の春」の思いだったかもしれない。だが御手洗会長のお膝元で「偽装請負」が発覚した。労働局から文書指導されたのは05年、06年秋には労働者が不正に抗議して組合を結成した。キャノン問題は「非正規雇用問題」がクローズアップされるきっかけとなった。御手洗会長の「アメリカ型新自由主義」という資本主義観を再検討すべきとの意見が高まった。

 当時、年金や社会保障制度の危うい現状が次々に暴露され、政治問題になっていった。総じて小泉−竹中路線のツケがはね返り、その後の自民党政権は立往生した。

 あげくの果ての「リーマン・ショック」だ。天下の製造大企業が「派遣切り」「有期切り」に走った。1年前、「派遣村」が実態を社会に突き付けた。「労働者性」に反感をもつ保守派でさえ、現実を認めざるをえなかった。しかし経団連も自公政権も、「貧困と格差」の解決を第一級の課題として対策に乗り出すことはできなかった。それは政権転落につながっていった。

 御手洗経団連は、労働者に謝罪しなければならない。加えて経団連は、自公政権転落の共同責任者として、政権転落の「反省」を明らかにすべきだ。それが経営者団体として春闘の第一歩である。



問われる鳩山政権

 政府は昨年10月「緊急雇用対策」を策定し、11月末、「政労使」による「雇用戦略対話」の初会合を開いた。

 経団連の大橋副会長、連合の古賀会長が出席している。主に雇用助成金の適用緩和などの公的支援策や新規学卒者の就職支援などが論議された。

 鳩山首相と連合会長の定例会談も開かれ、首相は連合政策の実現に全力で努力すると表明した。自民党など保守派は政権と労働組合・連合の「癒着関係」を批判している。しかし、労働者の要求を政策過程に取り入れることは当然のことであって、小泉政権が労働団体を完全に排除したことが「異常」だったのだ。

 鳩山政権は、民主党と連合という個別利害関係を越えて、労働者要求と向き合うべきだ。

 「成長戦略がない」との批判が政府に集中している。経営側は、派遣労働規制反対、法人税引き下げと消費税増税、二国間貿易協定推進など、もっぱら企業活動の利益になる政策を要求している。「成長戦略がなければ雇用も賃金もありえない」「企業は海外に出る」という恫喝を前にして、「外需から内需へ」「コンクリートから人間へ」という民主党主張が大きく揺らいでいる。

 一方、都市部を中心に多くの自治体が「ワンストップサービス」に取り組んだ。東京都では宿泊受け入れ予定を上回る労働者が相談を受けた。検討課題も指摘されているが、「公設派遣村」と称された行政施策は政権交代によって初めて可能になった。

 10春闘は、通常国会での予算案攻防の時期と重なる。鳩山政権と民主党の対応が問われる。

 内閣支持率の急落には、鳩山首相と小沢幹事長の「政治とカネ」問題が大きく影響している。「透明・クリーンな政治」は、自民党長期政権の悪弊と対峙し「政治改革」を訴えてきた民主党のセールスポイントだった。その点で、両首脳と民主党のこれまでの対応に国民は納得していないし、鳩山政権と民主党も打開の方途を見出していない。不安と疑念は民主党支持者にも拡大しており、鳩山政権と民主党は重大で深刻な岐路にある。

 経営側に対して、政権交代の意味と決意をどのように示すのか。筋を通すことができなければ、鳩山政権はさらに後退の道に追いやられるだろう。

 鳩山政権は毅然として経団連の不当な主張を批判し、労働者民衆の要求とともに進むべきである。




(注1)
社団法人・日本経済研究センター(1月7日公表資料)

「失業率の思わぬ低下、主婦の労働参加増が一因/一人当たり賃金は低下、マクロの所得環境の改善には至らず」。


(注2)
「春季労使交渉の経営側指針の推移」(日経新聞1月20日は、この間の春闘賃金交渉の推移を記している。ただし、08年の記述については検討が必要。)

2004年/
 定昇の廃止・縮小、ベースダウンも労使の話し合いの対象となる。
2005年/
 国際的にトップレベルの賃金水準をこれ以上引き上げることは困難。
2006年/
 生産性の裏付けのないベアは企業の競争力を損ねる。賃金決定は個別労使で。
2007年/
 企業の好業績によって得られた短期的な成果は賞与・一時金に反映
2008年/
 生産性向上による付加価値増加分は人件費改定原資へ(=賃上げ容認)
2009年/
 企業の減収傾向が強まる中、ベアは困難と判断する企業も多い。
2010年/
 賃金カーブを維持するかどうかについても労使が実態に応じ話し合い




(資料)
経団連報告に対する全労協声明



<経労委報告(2010年)に対する声明>


1.1月19日、日本経団連の経営労働政策委員会の報告書が出された。これは、経営者側の10年春闘に対する基本方針である。総じて言えば、この間の「派遣切り」という「派遣・非正規」労働者を雇用の調整弁として「切り捨て」てきたことに何の反省も示さず、「雇用確保」と企業の「存続・発展」のためには、「定期昇給」も困難として、賃下げ・総額人件費管理の強化を正当化するためのものである。


2.「総額人件費管理の徹底」の項では、所定内給与の引き上げは、残業手当、福利厚生費、賞与・一時金、退職金、年金等の増加をもたらすので注意せよと。特に、所定内給与が毎年上がる定期昇給制度は総額人件費管理の不徹底となるとして、「仕事・役職・貢献度」を軸とした制度への見直しを求めている。
 更に、新連立政権の下で「子ども手当」の支給が始まることを逆手にとって、賃金・諸手当について、見直し(家族・扶養手当)のきっかけになると提起している。
 また、「割増賃金の引き上げ」の今年4月実施について、その内の「月45時間以上の割増賃金率の引き上げ努力義務」は総額人件費の増加だけをもたらすとして「慎重に」と後ろ向きである。


3.この間、「労働分配率」が低下しているとの批判に対して、景気拡大局面では「労働分配率は低下する」が、景気後退局面では「労働分配率は上昇する」と。また、利益配分が「役員報酬」、「株主配当」に回されているとの批判に対し、「欧米企業に比べて低い水準にある」などと弁解している。しかしこれは、企業経営を日本型「従業員重視」からアメリカ型「株主重視」へと変えたことによるものであり、その結果、賃下げ、長時間労働・過労死、雇用破壊という労働者無視の経営となったものであり、その改善が求められていることの何の解決にもならない。


4.「労使交渉の基本的考え方」の項では、「賃金より雇用を重視」とし、企業業績は賞与・一時金への反映が基本とし、定昇・ベースアップは困難としている。そして、「雇用調整助成金」を大幅に活用していることは、企業の「雇用の確保努力」としているが、「派遣・非正規」労働者を「切り捨て」てきたことを棚上げしている。また、「労働時間の上限規制・過重労働」をなくせという要求に対しては「生産性向上が前提」として、現状の「長時間労働・過重労働の解消」については後ろ向きである。


5.また、「非正規労働者」処遇改善では、「非組合員の待遇改善要求」について「個別労使」で解決できる事項か「慎重に対応」とし、また、非正規労働者の「同一労働同一賃金」について「熟練度や責任、見込まれる役割」などが異なるので「同じ処遇は公正さを欠く」と後ろ向きであり、そして、短期雇用の非正規労働者の処遇を「中長期的に判断されるもの」と自己矛盾を記している。最後の項では「雇用確保と企業の存続・発展に向けて、従来以上に冷静でぶれない判断と対応」が求められるとしている。


6.以上、この間の市場原理・儲け主義路線の破綻、「派遣・非正規」労働者の切り捨て、雇用破壊・ワーキングプア層の増大、貧困・格差社会の深まり、などの今日の社会問題を置き去りにし、企業の「社会的責任」を放棄した報告書と言わざるをえない。
 全労協は、日本経団連の企業優先の雇用・総額人件費管理攻撃と全面的に対決し、「雇用」と「生活できる賃金引き上げ」の確保、派遣法の抜本改正を求めて、「派遣・非正規」労働者や外国人労働者との連帯を強め、スト戦術や大衆行動で全力で闘い抜くものである。(以上)


2010年1月20日
全国労働組合連絡協議会(全労協)



■以上/宮城全労協ニュース第147号/2009年1月23日