鳩山・小沢の辞任と菅政権の出発
●新政権と民主党の国会強行突破
菅新政権は本日6月16日、野党の抗議のなか、通常国会を閉じた。野党に提示していた予算委員会や党首討論もないままの強行突破だった。
民主党は鳩山代表、小沢幹事長のダブル辞任によって局面を打開しようとした。「鳩山・小沢隠し」という党派の勝手な事情と「新民主党の宿命」である党内闘争。その二つが同時進行したが、菅代表の選出によって再出発を果たした。
昨年夏「麻生降ろし」の抗争に直面した自民党は、次の手を見い出すことなく総選挙に突入し、大敗をきっした。民主党はその再現を回避した。自民党など旧政権勢力は事態の推移を見守るだけであり、鳩山内閣に不信任を突きつけることさえなかった。
その効果は早くも6日、横浜市区補欠選挙であらわれた。民主党候補が事前予想をくつがえし、みんなの党候補を破った。「形勢は一変」した。
各種世論調査は、鳩山政権発足時の支持率には及ばないが、続落状態からの「V字回復」を示した。その勢いのままで6月24日公示、7月11日の参議院選挙に突入すべきだ。新政権はそのような判断を最優先し、国民新党の抵抗も押し切った。
菅内閣は「選挙管理内閣」ではない。マニフェストの見直しなど、前政権からの大きな軌道修正も進んでいる。にもかかわらず民主党は、与野党の妥協によって審議時間を確保することさえ拒否した。
しかも菅首相は、鳩山が辞任の理由としてあげた二つの問題に対して、解決済みとの姿勢をとった。首相は、いわゆる「政治とカネ」の問題について、辞任により政治責任を果たしたと述べた。普天間問題では日米共同声明の実行を表明した。留任した外務大臣と防衛大臣は8月期限の日米作業は地元合意を必要としないと発言した。
加えて消費税増税への踏み込んだ発言など、鳩山政権と明らかに異なる政策も浮上している。
普天間基地に関する「日米共同声明」の撤回、大企業減税・消費税増税反対を政権に突きつけよう。
菅政権はどこに行こうとしているのか。重大な関心をもって参議院選挙にのぞもう。
●拒絶された「小鳩体制」
「疑惑隠し」にもかかわらず、新内閣と新民主党体制に高い支持が寄せられている。人々の「小鳩体制」の拒絶と「脱小沢」への強い支持が反映されている。政権交代の選択をわずか8か月の「挫折(菅発言)」で終わりとしたくはないという思いも働いただろう。
6月下旬、日米共同声明と社民党・福島大臣の罷免を前後して、内閣と民主党への支持はさらに続落した。大惨敗もありうるとの危機感が高まり、参議院民主党から「鳩山降ろし」の声が噴出し始めていた。
「チラシを受け取ってもらえない」「1年前とまったく違う」。候補者たちの悲鳴が党本部にあがっていった(鳩山はそれを「国民が聞く耳を持たなくなった」と表現した)。倒閣運動寸前のタイミングで鳩山・小沢が辞任し、短期間で党代表選挙が実行された。
メディアの大方は直前まで「小鳩体制」は継続せざるをえないだろうと報じていた。二人は一蓮托生だ。とくに小沢幹事長は自分を守るためにも権力の座を手放せない。次の連立工作をしかけるのは小沢しかいない。参議院選挙の敗北が小沢の出番を作る。つまり「小沢史観」の論調が紙面をにぎわしていた。だが実際は違った。
政変の原動力は「小鳩体制」を拒否する人々の政治意識にあったということだろう。とくに小沢への拒否感はかつてなく高まっていた。菅直人を押し上げた非小沢連合の合意は「脱小沢支配」であり、それが支持率回復の第一の要因となった。
もちろん「小沢問題」は解決していない。
鳩山・小沢会談の真相は公表されておらず、対立する解釈がある。幹事長辞任は小沢の策略であり「9月反転攻勢」をしかけるだろうという類の憶測解説も多くある。だが、小沢が政治力学によって再び表舞台に立つ時が来るとしても、圧倒的な「世論」の反対と闘わねばならない。小沢にとってかつてなく厳しい状況だろう。
小沢の政治資金問題と検察の捜査の双方に関して、様々な見解がある。メディアが政治的な意図をもって「世論形成」を図ったとの批判もある。そうであっても、小沢は説明を尽くしていない。民主党が「検察の不当弾圧」との対決を党と支持者をあげて組織したわけでもない。
また小沢の後退によって、民主党政策が規制緩和や市場主義へ傾斜しやすい環境が生まれるという現実も無視できない。その意味でも「小沢問題」は終わっていない。
●鳩山首相の敗北
鳩山政権にとって普天間基地問題は何だったのか。不明の点が多々ある。
鳩山への期待は大きく「県外・国外」発言は多数から支持されていた。ところが鳩山は、期待を力にして米国要求を拒否し、その責任をとって職を辞したのではない。「迷走」の末に日米共同声明を強要され、裏切りへの怒りと落胆に耐え切れず首相の座を降りたのだ。
変節は政権発足直後から始まっていたとの指摘がある。一方「県外・国外移設」は本音だったという説がある。米国、防衛省と外務省、そして官邸による鳩山包囲網がしかれたともいう。鳩山は「こんなはずじゃなかったのだが」ともらしていたとの証言もある。
「甘えと幻想の結末」(読売新聞)と断罪された。だが、最後の首相発言となった6月2日の両院議員総会で、そのような評価に反発した。
(鳩山理想主義だと批判されたが、それは)「今の日本の姿ではなく、5年先、10年、20年先の姿」なのだ。数十年後に「わかっていただける時が来ると確信」している。「新しい公共」も「東アジア共同体」もそうだ、と。
鳩山は「8か月」の経緯を語るべきだろう。それが期待を寄せた沖縄民衆と国民に対する責任のとり方ではないか。
英国はイラク戦争について国家としての検証を行っている。米国の旧政権内部からも、ブッシュを批判する発言が相次いだ。しかし日本の国会も内閣も問い直してはいない。日本の首相経験者のなかで、その是非は別として、歴史的な検証に貢献する証言をなした政治家はほとんどいない。小泉元首相もそうだ。
「東アジア共同体」は歴史の大きな流れである。自民党議員が靖国参拝を菅首相に迫っていたが、そのような姿勢は財界も許容できないものだ。
鳩山の「東アジア共同体」が構想力と外交力に欠けていたことは明らかだが、逆にそこから私たちが学ぶこともあるだろう。保守勢力やメディアの多くは、実現不可能な絵空事として「鳩山理想主義」を切って捨てようとしているが、日米同盟を不変の原理としようという企みを認めるわけにはいかない。
●米国と財界要求をはね返す社会的な闘争を
菅新政権は「日米共同声明」の実行を確認した。外交・安保政策は「現実主義」へと大きく振れた。明日17日にも発表される参院選マニフェストは「自民政権とほぼ同内容」になり、「国家の外交・安保政策は、政権交代があっても継続するという『鉄則』に民主党がようやく近づいてきたようだ」と読売新聞は解説している(16日)。
経済社会政策はどうか。
「最小不幸社会」や「第三の道」が政策理念だという。菅首相は、格差・貧困対策に積極的に取り組む、市場原理主義とは相容れないなどと答弁しているが、矛盾となって政権が立ち往生する可能性は大いにありうる。
なかでも「強い経済、強い財政、強い社会保障」に財界やメディアが飛びついている
。朝日新聞は「法人減税と規制緩和を/消費増税の最終形示せ」という竹中元大臣の談話を掲載した(10日)。小泉以降の自民党政権の政策に批判的だった竹中は、「結構いいことを言っていて、私はあえて菅さんに期待している」とさえ語っている。
大メディアは次のような社説を連発している。
「財政再建が歴史的使命」/参院選で消費税問え(朝日6日)
「責任ある成長戦略と財政再建策をぜひ」/企業の力強める方向で(日経8日)
経団連は8日「新内閣に望む」を突きつけた。8項目の要求の第一は「産業の国際競争力強化による民主導の経済成長と雇用創出に向けた『成長戦略』の実行」、第二は「歳出入一体改革の実現と行政改革の徹底」だ。
同じく8日、経団連会長と日本商工会議所会頭の連名で「子ども・子育て新システム構築に向けた要望」が出された。その第一は「子ども・子育て支援施策は(企業負担の拡大ではなく)公費対応が基本」、第二は「(企業・個人拠出による)特別会計・基金の創出には反対」というものだ。
これらに呼応する動きが政権内部で強まっている。
直島経済産業相は「法人税を(税制改革を待たずに)来年度にまず5%下げる必要がある」と発言した。「法人税は税制の一つではあるが、財政の枠組みではなく、成長戦略の政策の一環として考えよう、ということを(菅首相と)確認した」という(日経新聞11日)。
経産省は1日「産業構造ビジョン」を公表している。2020年までに「戦略5分野」で258万人の雇用を創出する。「国を挙げて産業競争力強化に乗り出す」ためには法人税の引き下げが必要だと主張する。
自民党末期政権時代でも、ここまで露骨な法人税引き下げの要求にはならなかった。金持ち・大企業優遇との批判に配慮したためだ。経団連も、消費増税分が法人減税分にあたるとの批判を前に、トーンダウンさせた。それがいま、政官財あげての大合唱となりつつある。
「初めての非世襲・非自民出身の市民派」をアピールして民主党政権への期待をつないだ菅首相が、財界、国家官僚、大企業正社員労組官僚の主張を受け入れ、労働者民衆の要求を切り捨てる場面が予想される。
財界政策と対決する労働運動を強化すること、様々な民衆運動と連帯して民主党政権に対する要求を組織すること、社会的な力の結集によって法的実現を勝ちとることが問われている。
旧政権勢力の復活を阻止すること、民主党の単独過半数に反対し、社民党と共産党が政策の成否に対するキャスティングボードを握る参議院状況を作り出すことも課題となるだろう。
■宮城全労協ニュース第158号/2010年6月16日

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