宮城全労協ニュース/第160号(電子版)/2010年7月20日

民主党の大敗と混迷する政局

 民主党は44議席となり、単独過半数の60議席はおろか、菅首相が勝敗ラインとした54の改選議席も大きく割り込んだ。大敗である。

 自民党は51議席を獲得して改選第一党となった。だが比例区議席は民主党に及ばない。1人区での勝利が大きく、そこでは公明党による票の加算がある。「敵失」による議席回復との評価がもっぱらだ。

 公明党は比例区1議席減で踏みとどまった。参議院多数派枠組みの再編において、その動向が注目される。

 国民新党は改選議席を失った。元郵政審議官である改選議員は前回の28万票を大きく上回る40万票を得たが、自民党から分裂した2つの新党に競り負ける結果となった。


 比例区票を前回参議院選挙に比べると、民主党は480万(得票率にしてマイナス7.9ポイント)、自民党は247万(同4.0ポイント)を失った。その多くがみんなの党(比例区794万、全体の13.6%で公明を上回る)に向かったといえる。

 労働組合への敵意をあおり「小さな政府」「公務員削減」を主張するみんなの党は、菅首相の消費税発言に乗じて攻勢をしかけ、メディアの露出も利用して躍進した。「政界再編」の主役となるか、新自由主義の「あだ花」(与謝野馨)で終わるか、全国政党となるのか大都市圏政党に純化するのか、次の衆議院選挙までがみんなの党にとっても勝負となる。


 社民党と共産党は議席と獲得票を減らし、国会対応でキャスティングボードを握るには厳しい状況となった。沖縄で「革新共同候補」が成立しなかったことも大きな問題だった。比例区票をあてはめると、衆議院東北ブロックでともに議席を失うことになるとの試算がある(河北新報)。

 業界団体票と労働組合票はともに減った。たとえば日本医師連盟は民主、自民、みんなの党から比例に立候補した3人全員が落選し、74年以来の議席を失った。いわゆるタレント候補も伸びなかった。


 争点や対決構図は前回ほど明瞭ではなかった。報道各社の予測にもばらつきが目立った。前半までは民主勝利の予測もあった。終盤になっても、民主は過半数に達しないが自民党を上回るとの予測が大半だった。

 議席数と獲得票の大きな乖離(*注1)、投票率の低下(*注2)、メディアの立ち振るまいなど、検討すべき点も多い。



●民主党の敗北と菅首相の消費税発言


 民主党の敗因についても様々な視点からの意見がある。

 首相は消費税発言が敗因と述べた。朝日新聞の調査によれば、47都道府県連幹部のうち25が「消費税10%発言」を敗因とし、「政治とカネ」が7、「様々な要素」「政権10か月の評価」なども15にのぼる(朝日新聞20日)。

 結局この10か月、鳩山と小沢、菅新代表の3人によって主導されてきた政権運営が問われ、有権者は過半数を与えなかった。

 民主党への期待は大きく二つだった。自民党長期政権にしみついた旧弊の打破であり、小泉政権で頂点に達した新自由主義政策からの転換だった。民主党はその両方で後退を重ねていった。重要政策の多くが壁にぶつかった。党と内閣の一体的な責任体制の欠如や「小沢支配」など、民主党の「体質」にも批判が集まった。

 沖縄基地問題での重大な裏切りと、いわゆる「政治とカネ」問題によって「小鳩体制」は崩壊した。新体制に期待が寄せられたが、菅首相は二つの懸案について解決済みの態度をとった。7月11日参議院選挙の実施を最優先とし、国会運営も強引だった。マニフェストの修正も一方的だった。

 そこに消費税発言が飛び出した。6月17日の発言は慎重に準備されたものだと報じられている。長期政権をかけた秘策だったのだろう。それにしても過信と思い込みが激しい。側近たちのチェックも働かなかった。前原代表時代の「偽メール事件」を思い起こさせる。


 首相からすれば、税制改革は党の既定の方針であり、消費増税の「検討」はマニフェスト違反にはあたらないはずだった。民主党は財界の批判を受け入れて「成長戦略」に基軸を移行させてきたし、菅首相は財務大臣として「第二のケインズ革命」「増税による雇用拡大」などと積極的に発信してきた。新首相として臨んだ国際会議では日本の財政再建をアピールした。世論調査では「財政再建」や「消費税増税」で賛否は拮抗していた。メディアの積極的な支持も追い風に感じただろう。

 そこで菅首相は二重の意味で争点外しをもくろんだとされる。メディアが消費税発言に飛びつき、表向き「沖縄」と「政治とカネ」は争点から外れることになった。仮にこの二つが争点となっていたら、民主党はさらに多くの議席を減らしていただろうとの指摘もある。しかし、争点外しによって民主党が失ったものは大きかったはずだ。民主党は本質的なところで政治的攻勢に立つことができなかった。沖縄で候補者を擁立できなかったことが象徴している。

 沖縄は「二つの問題をクリアして」という菅首相発言を厳しく批判した。沖縄は全国最高の投票棄権率によって抗議を示した(*注3)。

 菅首相は同時に、自民党案に乗ることで消費税増税の影響をやわらげようとした。菅首相の策略じみた「10%」発言を有権者は許さなかった。内閣支持率は急落した。マニフェストの説明なき変更であり、内容も定かでないとメディアの集中的な批判をあびた(*注4)。首相や側近議員は誤解だと弁解したが、事態は悪化の一途をたどった(*注5)。

 各種世論調査では、多数が雇用と景気、年金など社会保障が選挙の焦点だと答えている。とくに地方1人区では地域経済政策、農業者への戸別所得補償制度や高速道路無料化、子ども手当など重点政策の成否が注目されてきた。民主党はマニフェストの修正を誠実に説明するという姿勢をとらなかった。菅首相の発言は、政策の行き詰まりを「消費税増税」で打開するというトップダウンの通告と受けとめられ、1人区での大敗につながっていった。



●新しい混迷政局に立ち向かおう


 ともあれ参議院選挙の結果、連立の小規模な組み替えでは政権維持は困難となった。再編シナリオが飛びかっているが、現時点で確からしいものはない。

 最新世論調査では内閣支持率は大きく下落した。多数が選挙結果はよかったと答える一方で、菅首相の続投を求めている(*注6)。顔のすげかえによって逃げることは認めない、政権党として責任をまっとうせよ、ということだろう。執行部にとっても反対派にとっても、ハードルは高い。

 当面、党と国会の双方で菅政権はきわめて厳しい状況に直面する。「8月末検討完了」の日米合意、9月の党大会と臨時国会、来年度予算編成作業。どれ一つとっても難題である。「日本の国際的な位置の低下」も避けられない。

 参議院は常任委員会の開催すらままならず、現状では労働者派遣法を含めて対立法案がそのまま通る可能性はほとんどない。参議院の運営は、自民党、公明党、みんなの党の少なくてもいずれかの「協力」が不可欠となる。新しい協力関係は民主党の基本政策を左右し、党内対立を激化させる。政権の立ち往生や自壊の可能性も否定できない。

 日本経団連会長は首相続投支持の異例の発言を行った(*注7)。経済同友会代表も「首相を簡単に代えて済む話ではない」と警告した。メディアも「政策本位の政治」を要求しているが、見通しは立っていない。この3年間、「衆参ねじれ」下での国会運営システムは検討されてこなかったし、とくに「みんなの党」は「ねじれ」を政争に利用し政界再編を進めると公言している。

 混迷政局の過程で菅政権は、労働者民衆の要求を切り捨てるだろう。とくに枝野幹事長らの主張する「みんなの党」との連携は民主党の「変質」を加速させるものだ。

 8月から秋に向かって、普天間基地の県内移設反対、最低賃金の大幅引き上げ、労働者派遣法の抜本改正などを求めて闘いを強化しよう。


 民主党は今後6年間、参議院で過半数を得ることはおそらくできない。「政治改革」の20年間、日本資本主義の新しい政治体制として、「五十五年体制」から「政権交代可能な保守二大政党制」への移行をめざすと説明されてきた。しかし二大政党はともに票を失い、単独安定政権にはほど遠い。議会政治の機能不全や政治の劣化も指摘されている。資本主義政治体制の側に妙案はない。

 労働者民衆闘争の発展、労働組合の組織化、左派労働運動の政治的な挑戦がさらにいっそう問われる局面に入っている。




(注1)民主党は2270万票で28議席。39議席を獲得した自民党は約1950万票。1人区の持つ「小選挙区効果」が大きい。

 朝日新聞は「一票の格差」にスポットをあてている。「 民主党は「軽い一票」の都市部での得票が多く、自民党は人口が少なくて「重い一票」の1人区で議席を積み上げた。票数と議席数の関係のゆがみは一票の格差の弊害そのものだ。 /選挙区でも比例区でも民主党を下回る票しか集められなかった自民党は、果たして本当に勝者と言えるのか。そんな疑問すら抱かせる結果である(社説7月15日「一票の格差―選挙結果ゆがめた深刻さ」)。

 枝野民主党幹事長は選挙戦最中、みんなの党を意識して、「単独過半数を得れば、マニフェストにある衆議院比例80議席の削減を、民主党だけでも実行できる」と発言した。与党幹事長として、選挙制度に関するこのような発言は認められない。



(注2)宮城選挙区の投票率は53.34%で全国のワースト2。前回を2.45ポイント下回り、1998年以降の5回で最も低い(期日前投票は前回より18%伸びている)。

 宮城では自民党が分裂、みんなの党が民主党幹部を擁立して分裂、民主党も2人区2人擁立で競合となった。民主党は合計で33万票、前回より10万票(比例)も減らした。2人区2人擁立が失敗し、選択に困ったことが投票率低下の一因にもなったのではないか、という意見が民主党内にあるようだ。



(注3)「確かに政治とカネとか、普天間のことで少し心配をおかけしたが、それもクリアをして、いよいよ時計の針を進めようという時の選挙だ」(10日、福井県での菅首相発言)。沖縄地元紙は12日の社説で首相発言を批判した。

「これが菅内閣の限界である。普天間問題では沖縄県議会が9日に辺野古移設の「日米合意」撤回を求める意見書を前回一致で決議したばかりだ。「クリアした」との認識は甘すぎる」(琉球新報)。「普天間問題はほんとうにクリアされたのか。「政治とカネ」の問題は再発防止に向けた道筋が示されたのか。いずれもノーである。口が滑ったでは済まない失言だ」(沖縄タイムス)。

 また参院選沖縄選挙区の投票率は52.44%で、前回を7.88ポイントも下回り、参院選本選で過去最低となった。



(注4)主要全国紙は発足直後の菅政権に対して「財政再建」を要求した。

「財政再建が歴史的使命」(朝日)「政権党が次期衆院選まで(消費税)税率を据え置くという無責任な対応で良いのか」(読売)「財政再建の道筋示せ」(毎日)などだ。

 続いて各紙は6月17日の「消費税10%」発言を大きく持ち上げた。朝日新聞社説は「消費税タブー」を超えた菅首相の踏み込みに「大変な様変わりだ」と賛辞を贈った。

 だが6月21日、朝日と読売が内閣支持率の急落を報じて以降、メディアは一斉に菅批判に転じた。各紙は選挙後ふたたび「ひるまず消費税を」などと叫んでいる。



(注5)宮城選挙区で民主党新人陣営に張り付いたベテラン国会議員は、「最後に風は完全にとまった」と選挙戦最終日の独特の雰囲気を振り返っていた。



(注6)直後の世論調査から(7月12、13日調査、%は四捨五入)

<共同通信>
○内閣支持36%、不支持52%
○選挙結果はよかった29、よくなかった20、どちらともいえない49
○首相を辞めるべきだ15、辞めなくてもよい53
○政党支持率。民主44、自民28、みんな16・・支持政党なし11

<朝日新聞>
○内閣支持37、不支持46
○選挙結果はよかった48、よくなかった30
○菅首相は辞任すべき17、辞任する必要はない73
○「いまの自民党は政権を任せてもよい政党だと思うか、思わないか」。
任せてもよい政党だ17、そうは思わない64
○政党支持率。民主27、自民21、みんな9・・支持政党なし30、答えない・分からない6。

<読売新聞>
○内閣支持38、不支持52
○首相続投に賛成62、反対28
○民主が連立を組む最も望ましい政党。みんな35、自民14、公明7、国民新7・・
○政党支持率。民主28、自民24、みんな12・・支持政党なし23



(注7)
「強い経済、強い財政、強い社会保障の実現に一直線に進んで欲しい」(7月12日)。米倉会長はさらに、「以前の体制を引きずっていればもっと大敗したと思う。失政があったわけでもなく、なぜ責任論が出るのか不思議だ」と踏み込んだ発言を行っている



■以上/宮城全労協ニュース第160号(2010年7月20日)