宮城全労協ニュース/第164号(電子版)/2010年9月18日

菅改造内閣がスタート
〜秋季年末の闘いへ


 民主党代表選挙は菅と小沢という「トロイカ体制」の頂点が激突し、厳しい党内闘争の末に菅候補が勝利した。

 円高・株安対策、普天間基地移設の日米合意の扱いに加え、中国との外交懸案の再燃など、再び厳しい現実が民主党と新内閣を待ちうけている。臨時国会は10月上旬に開幕し、自民党政権の崩壊に直結した「ねじれ国会」の重圧にさらされる。

 菅首相は「選挙が終わればノーサイド」と言い、小沢グループは「当面は静観」の構えだが、対立はなんら解消されていない。

 「内憂外患」をかかえた政権の行く末について、いろいろなシナリオが語られている。菅政権が、いわば政権基盤の弱さを武器にして、大メディアや財界や米国の「支援」を受けて危機をすり抜けていく可能性もなくはないだろう。しかし多くは、政権の危機と党内抗争の激化を予測している。内閣総辞職か衆議院解散かの選択を迫られる局面も想定される。

 この夏、民主党は国会議員を先頭に権力闘争の高揚の中にいた。党内闘争に集中することによって、政権運営の重圧から一時、逃れていたということもできよう。同じとき、記録的な猛暑が民衆生活に大きな負担と犠牲を強いていた。多数の高齢者が熱中症で死亡し、「無縁社会」への警鐘を鳴らし続けた。3年前の参議院選挙と1年前の政権交代には、このような社会の行き詰まりを変革せよとの期待がこめられていたはずだ。

 与党の代表選挙は国民生活に大きな影響を与える。にもかかわらず「国民不在」「コップの中の争い」との非難が浴びせられた。政権に対する民衆の不信に民主党はどう応えるのか。

 菅政権は一方で「保守現実主義」の色彩を強め、他方で「みんなの党」と新自由主義政策を競おうとしているようだ。新政権の動向に注目し、政策の改悪や社会正義の裏切りを許さず、秋季・年末闘争、01春闘・統一地方選に向かって闘いを開始しよう。



伯仲した得票結果と新人事


 得票結果についての評価は様々だ。選挙期間、全国紙の論調は反小沢に傾斜していた。なかでも朝日新聞社説の「(小沢の立候補には)あいた口がふさがらない」という表現は際立っていた。

 菅候補は国会議員、地方議会議員、党員・サポーターの全分野で勝利した。注目の国会議員票では、小沢候補は僅差(@注1)であったが多数をとることはできなかった。菅陣営はこれによって、国会議員を二分する反対派をかかえながらも、党と内閣人事の主導権を得た。

 721対491の大きなポイント差は、党員・サポーター票(投票率67%)での「小選挙区」的効果が大きい。この分野の獲得総数はおおむね60%対40%であり、地方議員の投票結果と同じだった(@注2)。

 地域の党員・サポーターは「世論」とより近く、国会議員とは意識の落差があるとの解説もあったが、必ずしもそうは言えない。6対4という党員・サポーター票は、小沢のいわゆる「政治とカネ」問題にもかかわらず、菅首相や仙石官房長官、枝野幹事長らへの批判の大きさを示している。「大差で再選」と大書して報じた朝日新聞も、小沢の「党員・サポーター支持4割」「国会票も半数」と見出しをつけた。菅の勝利・小沢の敗北を強調するか、小沢の善戦を強調するかは、各々の立場性による。

 日本経団連や米国政府、大メディア、それに霞ヶ関官僚の多くは、結果に一安心だっただろう。表向きの理由は「四半期首相」では海外に顔向けもできない、小沢の勝利は「クリーンで透明な民主党」に反するというものだ。しかし、菅の方が御しやすい、民主党を体制維持の「現実主義」路線にシフトさせるためには菅続投でなければならない、という政治的な判断が働いたことも明らかだろう。

 <菅の勝利や「国民世論の支持」は、反小沢・非小沢という消極的なものだ。民主党が「夢を語る時期」はとうに過ぎている。党内闘争を慎み、保守系野党との政策協調に踏み出し、国難に立ち向かう経済・財政・外交政策を遂行せよ>。そのような要求が民主党に突きつけられている。首相がそのような「期待」に応えるような政治力を発揮できるのか、内閣が機能するのか。菅を支持した諸勢力は不安をもって見守っている。


 党三役人事と内閣改造が実施された。「脱小沢の強化」「脱トロイカ」「論功行賞」などと報じられている。党内バランスに著しく欠けるとの批判に対して、首相サイドは副大臣や政務官、各種の党人事で小沢支持派の若手を多く取り込むことで配慮を示しつつ、小沢支持派の分断を図ろうとしている。

 「脱小沢」は党役員人事でより鮮明だ。とくに参議院選挙大敗の責任者が、幹事長代理であれ役職にとどまることは異例だろう。小沢支持派や落選候補者たちへの居直り的な挑戦状に等しい。

 両陣営の激突にはそれなりの経緯がある。小沢サイドからは、菅との対立は政権交代時点からのもので根深いとの指摘がある。民主党はこの対立をどうしようとしているのか。仙石官房長官の主導のよる「正面突破」人事と称されるように、菅首相の本意はそれほど明らかではない。幹事長人事についても、朝日新聞は「岡田幹事長が首相の本命」を強調し、読売新聞は党内融和を図ったが失敗し「岡田幹事長は誤算の末の決断」と異なっている。

 党内対立は結局は「民由合併」に立ち戻って分裂をもたらすことになるのか。自民党、公明党、保守分党との関係を含めて、いろいろな憶測が語られている。どのような決着となるか、現実の政治過程が実証していくことになる。


秋季年末の闘いへ!


 「第一に経済、金融、財政、第二に国際活動、第三に地域主権」。菅首相は17日深夜の記者会見で述べた。短時間の会見ではあったが、代表選で連呼した「雇用」や持論である最小不幸社会への言及はなかった。東アジア共同体、新しい公共、ナショナル・ミニマムといった鳩山政権時代のキーワードも口にしなかった。「グローバリゼーションの中でのプレーヤー」を強調した仙石官房長官の発言には、「グローバル資本主義」へのひとかけらの疑念も感じられなかった。

 政策的な矛盾を深める菅政権は、労働者民衆に犠牲を強いながら政権維持にしがみついていく可能性が高い。


 代表選挙では沖縄での小沢期待、菅拒否が際立っていた。12日の名護市議会選挙は、現市長とともに「日米合意」「辺野古移設」への反対を貫こうとする候補者たちが勝利した。菅陣営は落胆の色を隠さなかった。県知事選挙でも同様の策動を強めるだろう。

 改造内閣では北沢防衛大臣が留任、新外務大臣に前原が就任した。これは「沖縄との対話」を再スタートさせようとする布陣ではない。日米合意の白紙撤回、県知事選挙の勝利のために、この秋の闘いを進めよう。


 法務大臣、環境大臣、農水大臣ら多くの閣僚が交代した。政策の監視が必要だ。厚生労働大臣も交代した。年金、医療、福祉など「官僚依存の強まり」が指摘されている。取り扱いがますます不透明になっている労働者派遣法の抜本改正を求め、闘いを継続しよう。


 菅首相は国民新党との連立継続を確認し、郵政改革法案の速やかな成立を再確認した。しかし、基本的な位置づけで合意されているとは言えない。前政権時代から野党の反対に耐えられないとの指摘がなされてきたが、民主党はそのまま放置してきた。

 8月19日、民主党の混乱の間隙をつくように、民主党政権下で始めての郵政民営化委員会が開催された。議題は「ゆうパック」遅配問題だが、田中直毅委員長は記者会見で「金融2社の肥大化は認めない」などと発言した。「休眠委員会の再開」が反攻宣言であることは明らかだ。交代した新総務大臣の中心軸は「地域主権」にあるし、そもそも「ねじれ国会」では法案が通る目処は立たない。「郵政民営化反対」「郵政民主化」「労働条件の大幅改善」「非正規雇用労働者の正規雇用化」を求めて闘いを強化しなければならない(@注3)。


 「新成長戦略実現会議」がスタートし、政府税制調査会(12月税制改正大綱)とともに管政権の経済・財政政策を左右する場となる。実現会議には3つの経営者団体の各代表、連合代表、5人の「有識者」たちが関係閣僚、日銀総裁とともに参加する。初会合(9月9日)で、議長である管首相は「企業の競争力を強化し、雇用を基軸として新しい経済成長を達成したい」と述べ、法人税率引き下げ議論の年内結論を求めた。

 実現会議と民主党政権の中心構想だった国家戦略局との関係は相変わらず不明のままだ。財界は自民党時代の経済財政諮問会議の位置を持たせようとしており、民主党からそれに呼応する声が強い。日本経団連など経営側は実現会議で政府、日銀、有識者への攻勢をかけようとしている(@注4)。

 代表選さなかの9月10日、管首相は経済関係閣僚委員会で「3段構え」の経済対策を示し、その第一弾として1兆円弱の予備費の投入を打ち出した。

 製造大企業はリーマン危機以降、企業利益の大幅な回復を実現した。固定費削減などリストラ効果が大きい。あげくの果てに、企業が手元にためこんだ資金は200兆円だという。賃金にも設備投資にも使われていない手元資金であり、その1%でも2兆円になる。最低賃金引き上げのために中小企業向け支援策として厚労省がしぼりだしのは62億円だ。菅政権の緊急対策(9150億円)のうち、雇用には1750億円が振り向けられたにすぎない(@注5)。

 雇用と賃上げのために、大企業がためこんだ利益を引き出すという方向性は、政府にはない。管首相は「最小不幸社会」の実現と「強い経済・財政・社会保障」の一体的好循環なるものが、労働者民衆にとって何を意味するのか、説明しなければならない。

 厚労省は来春卒業予定の高校生求人は昨年に増して悪化していると発表した。雇用は一向に改善されず、労働者犠牲が続いている。雇用と賃金、貧困・格差の解消を求め、秋季年末闘争、2011年春闘に向かおう。




(注1)無効3票、投票に参加していない国会議員2人。



(注2)<党員・サポーター票(民主党発表)>

○一般党員・サポーター投票(郵便投票=300小選挙区各1ポイント)
小沢一郎候補   51ポイント
菅直人候補   249ポイント

○地方自治体議員党員投票(郵便投票=全国100ポイントをドント式で配分)
小沢一郎候補  927票 40ポイント
菅直人候補  1360票 60ポイント
無効        7票
(有権者数  2382)

○国会議員投票(直接投票=各2ポイント)
小沢一郎候補  200票 400ポイント
菅直人候補   206票 412ポイント
無効        3票
(有権者数   411)

◎獲得ポイント合計
小沢一郎候補  491ポイント
菅直人候補   721ポイント



(注3)郵政民営化路線の堅持を主張する田中直毅(国際公共政策研究センター理事長)は別のインタビューで次のように政府の経済政策を批判している(毎日新聞9月15日、「菅首相続投 バラマキで雇用作れない」)。

「・・代表選で勝利した菅首相がやるべきことは、納税者の金を使って政府が人を雇うような持続不能な「雇用対策」ではない。直ちに輸出企業のトップ100社の執行役員を官邸に呼んで、彼らの声を聞き、「日本は投資するに値する国だ」ということを政策でもって内外に示すことだ。消費税増税を含めた財政の健全化で、財政危機のリスクを低減させることも、その一環として進めるべきだ」。

また小沢については、「・・衆院選マニフェストのバラマキ路線から脱しきれず、暴論に近い財政、経済政策だった」と批判し、「代表選で大差がついたのは、バラマキでは持続的な雇用は作れないと民主党支持者の意識が進んだ表れと言える」。



(注4)「(代表選の意義は・・)菅首相は、代表選突入後に追加経済対策を決定し、新成長戦略実現会議も創設した。政治空白は最小限に抑えられた。民主党内で菅首相の現実路線が選ばれ、路線が定まった意味がある」。
「(成長戦略の実現に向けた課題は・・)戦略の実行部隊である企業をどう誘導するかだ。新成長戦略実現会議では連合とも連携し、経済再生に向けた雇用や成長戦略を徹底的に議論したい。アジア諸国との経済連携協定を視野に、農業などについても話す必要がある。必然的に、かつての経済財政諮問会議のように幅広い分野を扱うことになる」(米倉・日本経団連会長インタビュー/読売新聞9月16日)



(注5)「対策(緊急的な対応)の規模」

1.「雇用」の基盤づくり   1750億円程度
@新卒者雇用に関する緊急対策  250程度
A雇用創造・人材育成の支援  1150程度
B中小企業に対する金融支援   300程度

2.「投資」の基盤づくり   1200程度
@低炭素型雇用創出産業立地支援の推進
               1100程度
A中小企業等の高付加価値化、販路開拓等の緊急支援
                100程度
B新たなPPP・PFI事業の案件形成支援

3.「消費」の基盤づくり   4500程度
@家電エコポイント制度の延長  850程度
A住宅エコポイント制度の延長 1400程度
B優良住宅取得支援制度(フラット35S)の大幅な金利引下げの延長
               2200程度
4.耐震化・ゲリラ豪雨対策等の「地域の防災対策」
               1650程度
@病院等の耐震化等対策     550程度
Aゲリラ豪雨対策等緊急防災対策1100程度

5.日本を元気にする規制改革100

(合計)国費9150億円程度(事業費9.8兆円程度)

「新成長戦略実現に向けた3段構えの経済対策 〜円高、デフレへの緊急対応〜(9月10日)」 より。菅政権はこれによって「20万人程度の雇用創出あるいは雇用の下支え効果」を見込むと発表した。
               


■以上/宮城全労協ニュース164号(2010年9月18日)