労働者民衆から離反する菅政権
〜第二次改造内閣のスタート
●TPP参加と消費税増税を阻止しよう!
菅首相は1日の年頭所感で「今年の国政に臨む3つの理念」を発表した。「開かれた国(平成の開国)」「最小不幸社会の実現」「不条理を正す政治」である。
その後の一連の発言では、消費税増税を含む税制と社会保障制度の「一体改革」、ならびに環太平洋戦略的経済協定(TPP)への参加について、6月を目途に結論を出す、そこに「政治生命」をかけると述べた。
5日には経済3団体の年始会合が開かれた。財界人は菅首相に対して、とくに「一体改革」とTPP参加の実行を求めた。団体首脳は記者会見で、菅政権に最低レベルではあれ、合格点をつけるという余裕のパフォーマンスを行った。一年前とは異なった風景だ。
菅首相は昨年12月、党内の反対・慎重意見を押し切って法人税率5%下げを決定した。連合の古賀会長は、政府が「社会保障と税の骨格」を示せば、消費税増税も受け入れると応じた。消費税増税へ向けた労使協調の枠組みが組み上がってきている。
菅首相はさらに1月14日、内閣改造に踏み切り、あわせて党人事を刷新した。枝野幹事長が復活した。党内反対派の排除がいっそう鮮明になった。
自民党を離党し次をうかがっていた与謝野が、この局面で経済財務担当大臣に起用された。安倍政権時代の与謝野は「増税派」として「上げ潮路線派」と対立したが、同時に「市場原理主義」への批判者でもあった。改造内閣では消費税増税の牽引役であり、また連立のパイプ役も期待されているという。
菅首相は次のように人事の焦点を解説して見せた。
(仙谷)党代表代行として、手腕発揮には大いに期待している。
(与謝野)考え方の共通性が高い。今まさに党派を超えた議論が必要な
分野で、橋渡し役になって下さることを期待する。
(海江田)貿易自由化に熱心であり、経済産業大臣のポストで大いに期待する。
「社会保障制度の建て直しや財源問題、貿易自由化、農業改革・・これらの重要課題に積極果敢に取り組める陣容が整った。この体制で・・国会に臨む」「今度こそ、諸課題の先送りは許されない。日本の危機に対峙すべく、政も官も、与党も野党も、総力をあげて取り組む時だ。歴史が、私達を見ている」(菅首相ブログ1月14日)。
菅政権は安保・外交政策でも舵を切っている。鳩山首相は「現実主義」に舞い戻ったが、菅政権では「開国のための日米同盟の深化」がキーワードとなった。
「我が国自身が防衛面で努力しつつ、日米同盟を二十一世紀にふさわしい形で深化させ、国民の安心・安全に万全を期す」(首相年頭所感)。20日の講演会では「政権交代にかかわらず、日米同盟は維持・強化されるべきだ」と演説した。
沖縄普天間基地問題では、日米合意の実行のために、首相をはじめ沖縄訪問が相次いでいる。自衛隊海外派兵のための恒久法や集団的自衛権行使への検討も民主党内で進められている。
私たちは菅政権のこのような基本政策に反対する。
●法人税引き下げ決定を糾弾する!
財界は念願だった法人税率の引き下げを果たした。経産省の勝利でもあった。海江田大臣などは早くも、引き下げ幅の段階的拡大を主張している。
政権交代当初、財界と民主党は緊張した関係にあった。財界や保守派は民主党を「アンチ企業」「反ビジネス」「社会主義」などと批判した。最低賃金の審議は激しい対立の場となった。そのような関係はとくに菅政権になって変わっていった。その焦点に法人税の引き下げ問題が浮上していった。
自民党政権の末期時代、経団連は法人税引き下げをトーンダウンせざるを得なかった経緯がある。消費税の増税分と法人税の減税分は、相殺関係にある。消費税増税は法人税下げの穴埋め財源だという批判が広がり、自民党も後退を余儀なくされたのだった。
ところが菅首相は「雇用・経済・財政の一体的取り組み」「新しい経済成長戦略」という位置づけを与え、法人税引き下げを強行した。明らかな財界へのすり寄り、屈服である。
朝日新聞は、法人税の「引き下げ戦略を描くとき」だと鳩山政権に要求した。
「企業が負担する税の水準をどう下げるか。世界の企業を日本にもっと呼び込んで投資や雇用の機会を増やす成長戦略の観点から、避けて通れない課題になってきた」。
「追加の財源が必要だ。それを消費税や所得税の引き上げなど個人の負担増でまかなうことが考えられる。しかし、家計に負担を求めれば反発が予想される。消費税を引き上げるなら、増税分を医療・福祉や年金に使うべきとの声が上がるだろう」。
「税率を下げさえすれば企業の投資が増えるわけではない。日本の市場と社会に、ビジネスの機会と将来性がみなぎることが大切だ」。
「だからこそ消費税をどうするかも含めて税制改革と成長戦略の全体像を描き、夏の参院選で堂々と国民に信を問う。そのこと与野党に求めたい」(2010年4月9日社説)。
当時の菅財務大臣は、このような論調に追い風を感じていただろう。ところが菅新首相が参議院選挙で「消費税率上げ」を持ち出し、有権者からの反発にあうや、マスコミは一斉に菅攻撃に転じた。ハシゴを外された形の菅民主党は大敗をきっした。マスコミはその後、「消費税増税への覚悟」を首相に要求した。民主党政権は揺さぶられ「財界への歩み寄り」に急傾斜していった。
日本の法人税率は、企業の社会的負担を含めて欧米と比較すれば、決して高いものではない。また法人税下げによって雇用や賃金が改善する保障はないし、企業の内部留保に回る可能性が高い。このような反論をマスコミの多くは無視した。
民主党内にも異論があった。企業優遇の諸税を見直して(部分的には事実上の企業増税を行い)減税財源に充てる案や、雇用や設備投資への「具体的約束」を財界に求める案が検討された。経団連はこれに激しく反発し、米倉会長は「このような考えは資本主義ではない」と拒否した。
政府・与党内の綱引きが続く中で12月、菅首相は法人税率5%下げの決断を下した。新聞各紙は首相決断を歓迎しつつ、恒久財源としての消費税増税を要求して更にダメを押した。
「法人減税の決断そのものは妥当とはいえ、首相は大事なものを失いかねない。財政の規律と、それに対する国民の信頼である」「財源が整わなければ、首相の決断も値打ちが半減してしまう」(朝日新聞12月15日社説「皮算用だけでは心もとない」)。
「減税の裏付けとなる財源の確保はできておらず、「見切り発車」との印象は否めない」(読売新聞12月15日社説「確かな成長の後押し役に」)。
菅首相の経済ブレーンとされ内閣府参与となった経済学者の小野善康は、朝日新聞の連載コーナーで、「(法人税の減税で企業が)恩恵を受けるなら企業は雇用をつくれ」と主張した(*注1)。
だが問題は、これを企業に対していかに強制するのか、だ。菅政権に財界と闘う姿勢はない。
●TPPへの参加を断念させよう!
TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)が2006年に発効した段階では、ブルネイ、チリ、ニュージーランド、シンガポールの4か国の協定だった。それが大きな問題となったのは、米国が東アジアの主導権をねらってオーストラリアとともに乗り出し、日本政府に態度を迫っているからだ。
「農業の破壊、社会の破壊を許すな!」など、反対の声が広がっている(*注2)。
東北では青森、岩手、山形の3県議会が反対、宮城、秋田、福島が慎重対応の意見書を採択した。都道府県と政令指定都市の66議会のうち、反対は14議会、慎重対応が32議会に達している(共同通信調べ、1月16日まで)。
民主党内にも強い反対意見がある。統一地方選挙をひかえて動揺は収まらないだろう。
前原外務大臣は「1.5%しかない農業」のために日本が犠牲になっていいのか、と断じた。農業従事者を侮辱する攻撃的発言を、民主党は放置しておくのか。
批判は国内からだけではない。東アジアを共通ベースとした経済協力関係を優先すべきだ、東アジア共通通貨の展望など中国との関係を熟慮すべきだなどの意見がある。しかし安全保障問題と同様、菅政権は米国との同盟を最優先し、それを「新しい開国」のためとゴマカシている。
中国と対抗する米国主導の経済体制への参加が、どうして「新しい日本の開国」なのか。首相も民主党も、中国との「戦略的互恵関係」をかかげてきたし、市場原理主義の経済を見直すべきだと主張してきたのではないか。菅首相は小泉流の一言政治はやめ、説明しなければならない。
しかも政府は「例外なき自由貿易」に踏み出すために、「コメ問題」を政略的に焦点化しているのではないかという疑念がある。「例外なき100%の自由化」なのだから、農産物自由化だけではない。たとえば米国とEUが一貫して求めてきた郵政3事業の「開放」(民営化とそれ以降の外資の自由参入)は再び大問題となるだろう。米国や外資の要求は、民主党連立政権が進めてきた「郵政民営化の見直し」とは相容れないものだ。マスコミも批判を繰り返してきた。
そもそも民主党は統一見解を持っていない。昨年春、亀井担当大臣の「独走」に対する不満が噴出した。急先鋒が菅、仙谷の両大臣だった。そして当時、主導権争いを演じながらも見直し案を取りまとめた亀井と原口総務大臣は、いま閣内にいない。厳しい国会情勢の中で、しかも強まる米国やマスコミの攻撃を受けながら、民主党は郵政問題をどのように動かすつもりなのか。菅政権の中に、「外圧」を利用して「郵政民営化の見直し」をご破算にしようとする企てがあるのではないか。
ソ連・東欧圏の崩壊後、IT技術革命とともに、新しい市場を求める闘争が一挙にグローバル化した。世界にマネーがあふれ、富は偏在し、絶望的な貧困と餓死と失業が拡大した。新自由主義と対決する労働者農民たちの激しい闘争が国境を越えて展開された。米国が求めた新世界経済秩序(世界貿易機構)の試みは成功せず、二国間あるいは地域の貿易協定でその場をしのぐこととなった。アフガン・イラク戦争の失敗と国際金融恐慌が米国支配による世界秩序を直撃した。
菅首相は政権獲得前夜、「暴走する資本主義」からの転換が必要だと主張していた。確かな展望と方策があったわけではないだろうが、そのような姿勢は、自民党政権の行き詰まりにかわる代案として、政権交代への期待につながっていった。いまの菅政権に、そのような問題意識を見ることはできない。
●変質深まる民主党政権
民主党内の闘争が激化している。事態は流動的であり、結末がどうなるのか不明だが、両者はすでに修復不可能の関係にあるようだ。
対立は政策問題とからんでいる。一方は、民主党の苦境を沖縄や予算など鳩山代表・小沢幹事長が主導した政治路線に求める。他方はマニフェスト違反こそが民主党後退の原因だと主張している。しかし、現状は労働者民衆に開かれた政策論争ではなく、「小沢」をめぐる権力闘争として事態は進んでいる。
政権交代を前後して様々な攻撃が民主党に加えられただろう。野党と政権党では雲泥の差だ。検察の動きも、それを支持した大メディアにも、当然、政治的な意図があったはずだ。だが民主党は攻撃をはねかえすことに成功してこなかった。検察権力やメディアの攻撃との対決を組織すべきだった民主党は、党内闘争に追いやられ、いまや深刻な分裂的危機に陥っている。しかも何のための党内闘争なのか、民主党は説明できていない。
さらに小沢の政治資金規正法問題については、検察が立件を断念した。検察審査会については、制度的にも運用面でも疑義が出されている。しかも大阪地検特捜部の不正・違法捜査で「検察の威信」は地に落ちた。特捜問題は小沢関連の捜査と無関係ではなく、「陸山会事件」で起訴されている元秘書の調書問題にまで及んでいる。
そのような経緯にもかかわらず、新聞などの報道姿勢は、一年前の検察情報にもとづく一斉報道から基本的に変っていない。
菅首相らは、このような報道を背景にして、政権維持のために「小沢排除」を強めている。それは小泉元首相と似通った手法のように思える。反省したはずの大メディアの政治報道も、当時の「小泉劇場」に似る。しかし、小泉手法は何年も続かなかった。そのあげく自民党は衰退し、分裂し、政権を追われたのだった。民主党は同じ道を歩むのだろうか。
江田法務大臣は大臣就任会見で、菅首相は「保守でも二世議員でもない市民運動出身の政治家」だと強調し、盟友として激励した。
菅首相は確かに伝統的な保守政治家ではないし、新自由主義者でもない。そして政府の審議会などには新自由主義政策に反対してきた人々が多く参加している。にもかかわらず、政府はますます日米同盟へ、財界へ、グローバル資本主義競争へと傾斜している。経団連が笑い、労働者民衆が苦しむ政策が、政権維持をもくろむ菅首相の下で進められている。江田大臣はどのように説明するのだろうか。
民衆の支持・期待の多くは民主党から離れてしまった。統一地方選の敗北も必至の情勢にある。それは民主党の責任だが、民主党の後退だけにとどまらない。政権交代への落胆と幻滅の結果、自民党への支持が復活傾向を見せている。「みんなの党」の躍進が地方レベルでの「公務員たたき」の風潮を拡大させている。菅政権の下で、政治の流れに大きな逆転の変化が進んでいる事態を許すわけにはいかない。
2011春闘・統一地方選挙を闘おう!
(*注1)
「恩恵受けるなら雇用つくれ/法人税の減税」(朝日新聞12月22日オピニオン欄)。以下、一部引用。
「日本では不況が続き、雇用創出が急務だ。しかし産業界は、金銭的余裕がないから投資も雇用も増やせないと言って、法人税の引き下げを要求している。政府もこれに応え、法人税減税を税制改正大綱に盛り込んだ」。
「実は法人税は、企業の海外移転を考えなければ設備投資や雇用に影響しないことが、理論的にわかっている」「・・企業が従来の生産活動を続けるだけなら、税負担を免れた分は、所得税、相続税の増税や社会保障の削減などで、負担が消費者や社会保障受給者に回るだけだ」。
「それを知った上で、政府はあえて高収益企業への負担を減らして、需要と雇用をつくって欲しいと願い、企業もそれを承知で減税を要求する以上、企業には雇用と需要を増やす責任がある。つまり、政府からお金をもらって、雇用と需要創出を請け負ったようなものである」。
「・・法人減税には、(厳しい就職戦線を経て敗北感を感じている)彼らに十分な職場を与えて欲しいという願いが込められている」。
「日本に踏みとどまる企業は、国民の負担増のもとで減税の恩恵を受けるのだから、インドや中国の顧客向けに安い物を作って輸出で稼ぐという発想を乗り越えるべきだ。・・内需を刺激する義務があろう。・・それができないなら、法人減税で免れた税金を政府に返上し、そのお金で、政府が国民の必要としている分野の雇用をつくる方がよい。それによって日本の雇用状況が改善し、若者の就職も改善する」。
(*注2)
「農文協ブックレット/TPP反対の大義」(農山漁村文化協会編)などを参照。
■宮城全労協ニュース173号(2011年1月22日)

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