宮城全労協ニュース/第175号(電子版)/2011年2月21日

開始された郵政の雇い止め

日本郵便(郵便事業会社)で「非正規雇用労働者への雇い止め」が開始された。仙台でも65歳以上の非正規雇用労働者を中心に雇い止め攻撃が始まっている。全国各地でも同様の動きが伝えられている。


2月12日、各紙は郵便事業会社による雇い止めを一斉に報じた。たとえば朝日新聞は次のような記事だ。

「・・郵便事業会社は、約16万人にのぼる非正規社員の一部について、3月末に切れる契約を更新しない「雇い止め」を全店規模で実施する。昨年夏の宅配便「ゆうパック」統合などで巨額の赤字を抱えたためだ」。

「近く対象者に通告を始めるが、打ち切りは「数千人規模になる可能性もある」(幹部)という」。

「日本郵便は、全国の支店で配達や仕分け業務に必要な非正規社員の規模の見直しに着手。今月に入り、希望退職を募り始めた。今後は配置転換などに応じるか聞いたうえで、非正規社員の大半が3月末に契約期間を満了することから、2月下旬から打ち切りの通告を始める。全店規模で退職を募るなどして雇い止めをするのは初めてという」。

(「日本郵便、大量雇い止め/3月末、非正規数千人規模か」)。


各紙で対象人員に違いがある(2千人ないし数千人)。しかも郵便事業会社の正式なアナウンスやプレスリリースがない中でなされた一斉報道であり、現場の不安や混乱をあおっている。


郵便事業会社の大幅赤字の直接的な原因として、昨年夏の「ゆうパック大量遅配」があげられている。それは新旧の経営陣の失敗がもたらしたものだ。ましてや現場は、システム統合や職員研修などの準備がまったく不十分だと指摘していた。管理者たちは、夏季商戦に間にあわせるために「見切り発車」したのだ。

非正規雇用労働者の「正社員化」を進めるという方針にもかかわらず、他方で雇い止めを強行するというのは、とんでもないデタラメである。

「郵政グループの非正規雇用労働者の正社員化」は、政権交代がもたらした新しい方針として歓迎された。しかし亀井担当大臣が当初かかげた規模からは大きく縮減され、8438人(12月1日付)にとどまった。民営化推進派は「1人当たり年間約200万円のコスト増、人件費負担は今年度だけで168億円増加する」など、経営圧迫だと攻撃している。雇い止めは、このような主張を認め、「非正規の正社員化」という新しい政策を損なうものだ。



12月31日、東京新聞は日本郵便に債務超過の恐れがあり、大リストラを検討していると報じた。そのスクープ記事は今回の雇い止めにも言及している。

「リストラ策の第一弾として計画比3〜5%程度超過している人件費のカットを全国の各支店に通達。正社員の超過勤務の禁止や短期アルバイトの雇用延長の禁止を来年1月11日から実施する。さらに約十数万人に上る期間雇用職員のうち、ボーナスを出しているベテラン職員に的を絞り、削減計画を詰めている」。

年が明けて事業会社は12年度(11年4月〜12年3月)の新卒者採用を全職種で中止すると発表した(11年度には全職種で計1250人を採用する見込み。また日本郵政と他3社は予定通り新卒者採用を実施)。

1月28日、郵便事業会社が総務大臣に提出した経営改善策が明らかとなった。「平成24年度」(2012年度)に営業黒字化をめざす、そのための対策を実施するというもので、具体的取り組みとして成果主義給与体系、賃金カット、非正規雇用労働者の削減と配置転換などのリストラ策が記されている(*注1/全文は事業会社のホームページで公開されている)。



日本郵政の斎藤次郎社長は1月7日、年頭記者会見に臨んだ。

朝日新聞は皮肉をこめて次のように解説した。「斎藤社長が記者会見に出てきたのは、昨年の参議選で与党が敗北してから、初めて。郵政改革法案の成立の見通しが立たず、新規事業の参入も認められない状態になり、姿を隠す戦略から窮状を訴える戦略に転換したとみられる」(1月8日)。

斎藤社長は「郵政改革法案の成立を契機に効率的な企業体を形成するつもりだったが、成立せずに社員の士気も下がった」「(グループ経営は)将来的に見るとやや危機的な様相」「人件費の抜本的な見直しが必要」などと指摘した上で、「(郵政改革法案は)与野党で理解が進んでいる。大いに期待している」と述べた(日経新聞)。

斎藤は「与野党の理解」がどのようなものかには触れていない。読売新聞は昨年12月1日の社説で「(法案)棚ざらしは国民利益に反する」(*注2)と書いたが、政治状況の混迷はいっそう深まっており、旧連立合意による「郵政改革法案」が成立する見通しはまったく立っていない。


政治の混迷が法的な「宙ぶらりん」状況をもたらし、経営危機が拡大しているとして、経営陣はリストラ攻撃の正当化に乗り出している。

この間「郵政民営化」論者がふたたびメディアに登場し「改革逆行の是正」「民営化断行」の主張を強めている。

郵政民営化委員会は「事業会社に巨大な金融機関がぶら下がる形は安定性に疑問がある」と総務省に検討を求めているという。田中直毅委員長は昨年7月の大量遅配問題に関して「路線ごとの利益を把握していなかったJALに似ており、危機的状況だ」と述べている。

労働者への弾圧を許さず、民営化(=郵政私有化)派の巻き返しに反撃しよう。




ところで、産経新聞は1月28日、総務省への経営改善策を報じる中で、次のように書いている。

「宅配便をめぐっては、小泉純一郎政権時代の西川善文・前日本郵政社長が、日本通運の「ペリカン便」と統合することを決定。しかし、政権交代で与党となった国民新党の亀井静香代表が郵政改革担当相に就き、元大蔵次官の斎藤次郎氏を社長に招聘し、民営化路線を大転換した。/サービス低下などを理由に別会社での統合は認められず、郵便事業会社がペリカン便を吸収して手掛けることになった。/日本郵政関係者は「日本通運から人員を含め不採算のお荷物を押しつけられた」と、振り返る」。

(産経新聞1月28日、「郵便事業再建、人件費削減踏み込まず/非効率「巨大官業」へ先祖返り」)


これは、宅配統合問題の責任はもっぱら「民営化路線の転換」にあるとの印象を与えるものだ。


そもそも日通ペリカン便とゆうパックの統合計画は、「西川郵政」の事業拡大策の一つとして、2007年10月、郵政民営化の直後に出されたものだ。宅配のみならず物流業界では当初から評判の悪いものだった。「民業圧迫」批判だけではなく、統合は民営郵政の経営を圧迫するだろうとの指摘がなされていた。実際、合弁による宅配子会社(「JPエクスプレス/日本郵政の66%出資)は郵便事業会社の赤字を拡大させたし、現場は大混乱に陥っていた。

当時、麻生首相と鳩山総務大臣などが、小泉・竹中路線による郵政民営化の修正を狙っていた。焦点は「かんぽの宿」売却問題だった。麻生首相は民営化派の巻き返しによって鳩山大臣の解任に追い込まれたが、西川郵政の経営実態を検証すべきだとの声は高まり、西川体制の存続もかけて激しい闘争が繰り広げられた。

「かんぽの宿」問題に端を発した抗争は、「西川郵政」の不透明きわまる経営実態を浮かび上がらせ、そこに政権交代が重なったのだった。


旧経営による宅配統合は年末商戦を控えた2009年10月1日に予定されていた。9月16日に発足した新政権は、当然にもこの統合を延期させた。10月20日、西川社長は辞任を表明、翌日、斎藤新社長が内定した。

12月4日、連立与党は日本郵政グループ3社の株式売却凍結法を成立させた。

12月24日、郵便事業会社と日通は宅配統合計画を見直し「ペリカン便の買収」と「ゆうパックへの統一」を基本合意したと発表した。こうして西川郵政の計画は破産し、子会社は清算されたが、新事業への統一は「2010年7月1日を目途とする」と明記された。統合は経営に「重い荷物」を背負わせることになるとの懸念を抱えたまま、「7月1日」に向けて事態は動いていった。

総務省は昨年5月、「日本郵政ガバナンス問題調査専門委員会」の報告(*注3)を公表した(委員長 郷原信郎、弁護士・総務省顧問(コンプライアンス室長))。宅配統合問題の調査内容も記されており、「経営判断としての合理性を大きく逸脱していると認められる」と指摘している。経緯の一端を知ることができるが、旧経営陣がなぜ日通との統合を強引に進めたのか、不明の点は多い。そのことは、新経営陣のその後の動きについても同様だろう。


旧経営の抜本的な見直しが実現せず、懸念や警告が現実となり「大量遅配」問題が発生、大打撃を与えることになった。政府・与党と新経営陣はその責任を明らかにし、抜本的な対策をとるべきであって、犠牲を労働者に押し付けることは到底、許されない。



(注1)
「平成22年度中間決算に関する郵便事業株式会社法第13条1項に基づく報告徴求に対する報告」

「中間決算と事業計画の乖離に係る要因分析」「収支改善施策」(経営状況と経営課題、中長期的な課題、短期的な課題)「今後の経営見通し」についての報告。



(注2)
読売新聞社説(2010年12月1日)「郵政改革法案/棚ざらしは国民利益に反する」。

なんらかの政治的な意図があっての社説だろう。小泉政権時代にも同様の論調があった。たとえばNTTへの規制(=開放)に関して、構造改革・競争政策の断行を主張する朝日新聞の論調に対して、読売新聞社説は慎重な対応を求めたことがある。

社説から一部を抜粋する。

「(法案成立が極めて難しい状況になっており)このままでは、日本郵政グループを5社体制から3社体制に簡素化して利便性を高めることも、新規事業に参入してサービスと経営体力を向上させることも進まない。もっと便利な郵便局への改革を求める国民の声に、国会は応えるべきではないか」。

「郵政改革法案は小泉政権の民営化路線を大幅に修正するものだ。今年4月に提出されて衆院は通過したが、6月に通常国会が閉会して廃案となった」。

「(2007秋、民営化をスタートさせたが)ところが、細かく分社しすぎたため、縦割りの弊害も現れた」。

「こうした現状を反省し、郵政改革法案では、郵便局でサービスを一体的に行えるよう、親会社の日本郵政に郵便事業と郵便局の2事業会社を吸収するなど、組織の集約化を図っている」。

「収益の改善を目指し、ゆうちょ銀行は住宅ローンなどの融資業務に、かんぽ生命保険は医療保険など成長分野の保険の取り扱いに新規参入したい意向だ。しかし、郵政改革法案の成立が遅れているため、ストップしている」。

「改革が滞る中で、郵政グループの経営は弱体化が進んでいる。日本郵政の今年9月中間連結決算は減収減益となった」。

「将来の展望が開けない中、社員の士気やサービスが低下するのを防ぐためにも、早急に日本郵政グループの組織見直しを進める必要があろう」。



(注3)日本郵政ガバナンス問題調査専門委員会の報告より抜粋。

<JPEX事案>

郵便事業会社と日本通運株式会社(以下、「日通」)の共同出資により、ゆうパック事業とペリカン便事業との統合をめざしてJPエクスプレス株式会社(以下、「JPEX」)が設立されたが、最終的にはゆうパック事業を郵便事業から切り離すことに関して総務省の認可が得られず、事業統合を断念、同社は清算することとなり多額の損失が発生した。その過程において以下のような事実があり、経営判断としての合理性を大きく逸脱していると認められる。

・両事業の統合については、西川社長において、日本郵政の三井住友銀行出身者に担当させる一方、所要の検討も行わせず、かつ、統合に慎重であった郵便事業会社首脳陣に知らせないまま、平成19年10月5日、日本郵政・日通間の基本合意書を締結した。

・その後、郵便事業会社首脳陣は、統合後のJPEXの事業収支が確定できず、また、いずれにしろ多額の赤字が予想されたことから、直ちに統合を行うことに反対したにもかかわらず、西川社長において、同反対を押し切り、平成20年4月25日、日本郵政・郵便事業会社・日通間の統合基本合意書を締結させた。

・上記締結により、同年6月2日にJPEXが設立されたが、その後も、郵便事業会社において算出したところでは、JPEXの事業収支は統合後5年度の全てが赤字で、累積にかかる赤字は単独806億円・連結943億円に上ったにも関わらず、西川社長において、郵便事業会社がそのような数字を算出したこと自体を叱責したことから、これを受けて郵便事業会社において統合後4年度目に黒字化するなどの事業収支を提出することを余儀なくされ、その結果として、同年8月28日、郵便事業会社・日通間で統合のための最終契約である株主間契約書が締結された。

・その後、ペリカン便事業については、平成21年4月1日、JPEXに分割承継されたものの、ゆうパック事業については、総務省において、統合による郵便事業への影響等が判断しがたいことなどにより、同事業のJPEXへの分割承継を認可しなかったことから、郵便事業会社は、同年11月26日以降、JPEX事業の見直しを決定し、現状、平成22年7月のJPEX解散、同会社資産の郵便事業会社への承継を予定しているが、同解散時点での累積損失額の合計は983億円(平成22年2月 平成22事業年度事業計画認可申請時点の見込み額)と見込まれ、今のところでは、そのうち900億円前後は郵便事業会社が負担することになると思わ
れる。

・上記株主間契約書締結についての日本郵政取締役会への報告の際の社外取締役の種々の有益な意見が執行側から無視された。



■以上/宮城全労協ニュース175号(2011年2月20日)