「入札不調」が投げかける問題
被災地での「入札不調」が問題になっている。事業推進を妨げているが、自治体側としては打つ手がなく、国の対応が問われてきた。
皮肉なことに、第二次補正予算がようやく成立して「復旧・復興工事が本格化」し始めた昨年秋口から、この「入札不調」が浮上した。原因は工事量の急増と「人手不足」による人件費の上昇、調達資材の高騰にあるとされてきた。
地震による地盤の変容が影響しているとの指摘もある。地震被害の全貌は明らかになっていない。外からはわからない地盤のき裂や陥没が工事に入ってから見つかり、そのための追加工事が受注業者の負担となっているという。
国土交通省のまとめでは、宮城県発注の「入札不調」は10月で40%、11月は39%。大震災以前(2010年度)は7%だというから、深刻さは明らかだ。12月の「不調率」は、岩手16%、宮城45%、福島51%にのぼる。基礎自治体段階でも気仙沼市や石巻市、名取市をはじめ同様の事態に陥った。これでは事業がピンチだと地元で批判が高まっていった。
さすがに国も放置できなくなった。そこで昨年末、国土交通省が主導する形で関係自治体との「施工確保に関する連絡協議会」が発足した。農林水産省、厚生労働省、岩手・宮城・福島県、仙台市、建設業関連業界団体などによる初会合は、12月27日に仙台市で開催された。それ以降、被災地の実態に見合った工事費の引き上げ、急増する工事を「さばく」現場のやりくりなどが検討されてきた。
とくに地元業者だけではなく、本店が被災地にない企業の入札を受け入れる入札要件の見直しがとりざたされた。国交省としては業界団体からの要求への配慮もあったのだろう。業界メディアは、人手確保のために宿泊費や旅費を公示価格に組み入れるなど、強まる業界要求について報じている。
「入札不調」問題が注目を集めたのは、被災地の復旧・復興事業の推進に大きな支障となっているだけではなく、国の対応は「机上の論理」ではないかという批判が何かにつけて強まってきたからだ。仮設住宅の非人間的な仕様、抽選と運営の方法でも問題になった。どうしてこんなことがまかり通っているのか。
「入札不調」ではどうか。
〇地元雇用を最優先に事業発注がなされるべきだ。
〇中央の大企業がもっぱら「復興特需」を享受するのであれば、被災地の復興事業とはいえないのではないか。
〇なんのための「特区」なのか。国も自治体も現実にあわせて機動的な仕組みをつくればよいではないか。(一例として、橋は橋、道路は道路という縦割りの発注が制度化されており、それに従わねばならないことが困難を招いていると、自治体側は主張してきた。)
このような地元の声は当然であろう。そして、このような声が充満しているのは、平野大臣も就任会見で使った「槌音高き復興」なるものに、被災者たちが不満と疑いを持っているということではないか。
復興庁の実態が明らかになるにつれて、交付金など具体的な施策への疑問が広がっている。平野大臣は「コスト意識」を自治体に求めた。復興交付金は「自由に使えるはずではなかったのか、約束が違うではないか」というのが自治体側の率直な受けとめ方だろう。
復興庁は、交付金の使途を「来年度までに確実な事業」に抑え込もうとしている。実行可能な事業の公平な基準はどこで決まるのか。その段階で既に、自治体間の格差が生ずる。もっとも問題なのは、交付金の大きな部分を占める「防災集団移転」についてだ。方針決定には住民合意が前提になる。自治体が「民主的」であればあるほど、様々な意見をまとめる住民合意の困難性が予想される。逆に言えば、交付金を円滑にもらうためには、反対住民を排除して「合意」を形成すればよいということになる。復興庁がやりだしていることは、そういうことを意味する。
鳴り物入りで発足した復興庁じたいに疑問符がついている。復興庁は調整機関にすぎず、それどころか調整もできず、膨大な税金を「企業特区」や「除染」に振りまきながら時間が過ぎていくだけなのではないか。自治体には復旧・復興政策の「選択と集中」を求め、被災地間には「競争」を強いるのではないか。「復興交付金」はひも付きではないのか。自治体側の懸念は現実になりつつある。
昨年末にかけて、いくつかの法律がようやく通った。そこで「識者」たちは、賽は投げられた、いよいよ「復興元年」であり、これからは自治体が問われると論じた。とんでもない。実際はそうではない。
ひるがえって菅直人前首相の進退がきわまった昨年夏、自民党の石原幹事長は「菅首相のもとでは霞が関は動かない」と断じ、首相退陣の論拠の一つとした。確かにそのような側面はあっただろう。民主党の「政治主導」の限界あるいは混乱は明白だった。しかし、菅首相が退陣したことによって官僚機構が動きだし、震災対応に持ち前の能力を発揮しているといえるか。少なくても3県で、そのような実感はないだろう。超巨大地震がもたらした津波と原発破綻がこの国に突き付けたことは、その程度の問題ではない。
「入札不調」に関して国交省は2月9日、いくつかの改善策を決定した。2月中に発注価格を引き上げる。「遠方からの人手確保」のための宿泊費と交通費を工事費に組み込む。一定の条件内で、主任技術者の複数現場の掛け持ちを認める、などだ。
「入札要件の緩和」として、地元企業と被災地以外の企業との共同企業体を認めるという「復興JV制度」の新設も盛り込まれた。このような措置がいっそう中央ゼネコンに有利に作用し、地元の排除や隷属を加速させるとの懸念も指摘されている。
どのような結果となるか、注目したい。当面の区切りは、年度末の3月末になる。
(付記)「入札不調」問題に関する報道では「(被災地での)労賃単価の上昇が背景にある」ことが強調されている。このような報道は「復旧・復興」に関する労働・雇用問題を一面的に印象づける効果がある。したがって、この間の議論のいくつかを付記しておきたい。
〇「遠方からの労働力の確保」が「人手不足」対策の柱の一つとして報じられている。被災地と「遠方」(つまり東北よりも中央寄り)との賃金格差は、要するに「復興予算」で埋められる。それは一時的なものだ。東北地方とくに被災地での低賃金構造が問題とされねばならない。ところが昨年の最低賃金審議では、宮城も東北各県の審議会も中央目安を受け入れた。政府・与党も自民党も、被災地の最賃引き上げが事実上ゼロ回答であることに、何の関心も示さなかった。「復興特区」によって企業を優先するが、最低賃金は中央の「差別的」目安に従うということだ。
〇労働者犠牲の現実がある。3県で「震災復旧作業中に発生した労働災害で12人が亡くなり、負傷者は262人に上る(10月末)」と報告されている。宮城では労災死亡が5人、負傷者は141人だ。解体現場からのアスベスト散逸も相次いでいる。がれきや化学物質などの健康被害が住民と労働者に広がっている。放射能汚染問題が宮城県内の労働者に無縁でないことも明らかだが、労働現場の健康調査と対策は進んでいない。
〇土木・建設中心の「復興特需」を地元経済の復調につなげようという期待が行政や産業界にある。その効果はあくまで一時的、過渡的なものだ。村井知事もその点に触れている。だから知事は村井県政の柱である「富県戦略」の観点から、「特区」による第一次産業の集約・大規模再編をねらっている。知事が1月、トヨタ自動車を特別待遇して「復興元年」の感謝状を贈ったのは象徴的な出来事だった。「産官学連携」の各種シンクタンクとメディアによる「エコシティ・スマートシティ」構想も、部分的ではあれ幾つか具体化し始めている。だが、津波被災地の雇用回復の中心的課題は第一次産業の復旧・再建にある。
〇被災県での福祉・医療・介護分野の雇用・労働政策が緊急かつ中長期的に求められている。公務員削減や自治体合理化を推奨したり、種々の公共的労働への攻撃を良しとする風潮は、震災によって根本的に改められねばならない。
■以上/宮城全労協ニュース216号(2012年2月23日)