宮城全労協ニュース/第220号(電子版)/2012年3月29日

骨抜きの改正派遣法



 3月28日、民主党と自公両党による労働者派遣法の改正法案が参議院で可決成立した。改正労働者派遣法は争点であった製造業派遣・登録型派遣を温存し、労働者保護を骨抜きにした。

 全労協は同日、このような改正案の成立に対して、「今後も真に労働者保護に役立つ抜本改正に向けた闘いを続けていく。今国会で審議が始まる労働契約法改正案やパート労働法の見直しなどと連携させ、有期労働契約規制を実効性のあるものにし、偽装派遣の摘発強化、非正規労働者保護を拡大する闘いを強化しよう!」と呼びかけた(●資料1)。

 また派遣労働問題に取り組んできた日本弁護士連合会は「改正労働者派遣法成立に当たって、引き続き、真に労働者保護に値する抜本的な改正を求める」と題する会長声明を発表している(●資料2)。



 <多様な雇用機会の提供><自由な働き方を求める若者たちのニーズに応える>などをキャッチフレーズに、派遣業界の活動は90年代から勢いを増していった。業界の攻勢はメディアによって増幅され<ハケンはやりがいのある自立した労働>だともてはやす風潮が広められた。はやりの評論家たちは「小泉構造改革」と連動して、<グローバル時代の雇用の弾力化と規制緩和>を説き、一周遅れの新自由主義労働政策を浸透させた。既存の労働組合とくに大企業労組は、非正規雇用労働者の増大に対して<大企業正社員労働組合>として対峙する姿勢をとった。そのことが、労働者間の対立をあおる新自由主義者たちの攻撃に口実を与えた。

 2008年秋、「リーマン・ショック」が世界経済を襲った。対応に追われた大企業は最初に国内での「派遣切り」を強行した。東北各県をはじめ地方は、過酷で理不尽な派遣労働の悲劇を連日のように報じた。派遣労働は企業にとって使い捨て自由の「安全弁」にすぎない。このままでは地域社会がつぶれる。製造大企業の誘致に活路を見い出そうとした地方都市から悲鳴が上がった。数か月後、派遣労働の実態を突き付けた日比谷「派遣村」は年末から年始にかけての全国的なトップニュースとなった。当時の自公政府・与党も制度の改善に言及し、派遣労働者問題はこうして緊急の政治問題となった(「秋葉原事件」は2008年6月のことである)。

 「駅前シャッター通り」に加えて、誘致企業撤退(北上川流域の地域崩壊!)が続いていた09年、東北全労協は春闘の東北キャラバンを実施した。

 小泉政権が強引に進めた新自由主義攻撃は労働・教育・医療・福祉・社会保障と第一次産業分野に及び、地方を衰退させ、格差を拡大し、労働者民衆生活の破壊をもたらした。その「反動」として、小泉以降に三代続いた政府・与党は、軌道修正を模索した。結果として政策的混迷と路線対立が深まり、活力は喪失していった。「2005年体制」と称された小泉政権時代からの自民党の衰退と堕落が、09年夏の政権交代の下地となった。



 こうして労働者派遣法の抜本的な改正は、民主党と連立政権にかせられた実現すべき重要政策の一つとなった。派遣労働の改善と法の抜本改正には、格差是正と生活の向上、、人間らしい労働、社会正義の実現を求める労働者民衆の要求と期待がこめられていた。

 2010年4月、当時の鳩山政府は製造業派遣と登録型派遣を原則禁止とする改正案を国会に上程した。しかし、経営者団体と自公野党の反発をはねのけて抜本改正を貫徹することはできなかった。そこには連合大労組系議員の働きがあったと多くの指摘がある。

 民主党は直後の参議院選挙で大敗し、その果てに今回の三党合意がある。このような労働者派遣法をめぐる経緯は、民主党の混迷、破綻、敗北を象徴的に示している。

 野田首相ら政府にとっては「政局」を乗り切る、あるいは回すための材料の一つとなった。もはや民主党の議員心理にとっては、追いやられ失ったということではなく、自公両党との関係で効果的なタイミングをねらったという認識が多数ではないか。消費税増税やTPPで強く反対している反野田の諸グループからも、労働者派遣法の三党合意に関しては抗議の目立った動きはなかった(与党から反対したのは、国民新党の亀井亜紀子議員のみだと報道されている)。 いわゆる「ねじれ」国会対策上の妥協であるのか、立場や方針の変更・転換なのか。これまでの様々な案件と同様、民主党は説明していない(●注)。



 
(注)民主党マニフェスト

◆2009年衆議院選挙マニフェストでの記述

<5.雇用・経済>

(39)製造現場への派遣を原則禁止するなど、派遣労働者の雇用の安定を図る

「政策目的」
〇雇用にかかわる行き過ぎた規制緩和を適正化し、労働者の生活の安定を図る。
〇日本の労働力の質を高め、技術や技能の継承を容易にすることで、将来の国力を維持する。

「具体策」
〇原則として製造現場への派遣を禁止する(新たな専門職制度を設ける)。
〇専門業務以外の派遣労働者は常用雇用として、派遣労働者の雇用の安定を図る。
〇2ヵ月以下の雇用契約については、労働者派遣を禁止する。「日雇い派遣」「スポット派遣」も原則禁止とする。
〇派遣労働者と派遣先労働者の均等待遇原則を確立する。
〇期間制限を超えて派遣労働者を受け入れている場合などに、派遣労働者が派遣先に直接雇用を通告できる「直接雇用みなし制度」を創設する。


(*)ちなみにこの項目の前後は以下のとおり。
37.月額10万円の手当つき職業訓練制度により、求職者を支援します。
38.雇用保険を全ての労働者に適用する
40.最低賃金を引き上げる
41.ワークライフバランスと均等待遇を実現する


◆2010年参議院選挙マニフェストでの記述

<6.雇用>

〇2011年度中に「求職者支援制度」を法制化するとともに、失業により住まいを失った人に対する支援を強化します。
〇非正規労働者や長期失業者に対して、マンツーマンで就職を支援する体制を整備します。
〇高校、大学などの新卒者の就職を支援するため、専門の相談員の配置や採用企業への奨励金支給などの対策を強化します。
〇同じ職場で同じ仕事をしている人の待遇を均等・均衡にして、仕事と生活の調和を進めます。


なお、「民主党政府がこれまで取り組んできたこと」を報告するコーナーに、以下の記述がある。

<46.派遣制度の見直し>
雇用の不安定化の大きな要因となっている製造業への派遣を原則禁止するための法案を提出しました。




<資料1>全労協の主張


派遣労働者を「政争の具」にして〜
労働者派遣法・民自公修正案が成立!
〜製造業派遣、登録型派遣を温存し、労働者保護を骨抜き!


 3月28日(水)、参議院本会議に於いて労働者派遣法の改正案が可決成立した。前日27日、参議院厚生労働委員会はたった4時間の審議をもって採決を強行し、可決したものである。成立した改正労働者派遣法は製造業派遣や登録型派遣の原則禁止を削除し、労働者保護を大きく後退させた民主・自民・公明三党による修正案である。

 2009年、日比谷に出現した派遣村によって派遣労働者の悲惨な実情が明らかなものとなった。当時の日本経団連・御手洗会長出身のキャノンなど、自動車や電機など大手製造業製造業から中小企業まで「派遣切り」が横行した。会社から「解雇」・「雇い止め」を宣告されて職場から放り出され、同時に「住い」も奪われて、寒空の中でお正月を迎えなければならなくなった派遣労働者のために、食事を用意し労働生活相談に対応するためにテント村が出現したのである。テント村は厚生労働省の目の前にある日比谷公園の中で、労働組合や市民団体が協力して運営が行われた。全国からも多くの支援が寄せられた。全労協の仲間も多くが活躍した。

 この派遣村の出現は低賃金、不安定雇用というワーキングプアの悲惨な状況が社会的にも明らかなものとなり、その元凶に労働者の使い捨てを促進する労働者派遣法があることも明らかとなった。ワーキングプアは大きな社会問題となり、貧困と格差社会の広がりの中で労働者派遣法の抜本改正は政府の喫緊の課題として取り組まれることが求められたのである。そして自民・公明による弱いものイジメの政治と決別する政権交代実現の要因ともなったのである。

 労働者派遣法の抜本改正は09年夏の総選挙によって民主党を中心とする社民党・国民新党による連立政権の中心的課題として位置付けられ、2010年には登録型派遣、製造業派遣の原則禁止、違法派遣は直接雇用とみなす制度を柱とする政府案が国会に上程されたのである。

 しかし、2010年参議院選挙で民主党は大きく後退し、衆参ねじれ国会の下で、財界と自・公などの抵抗によって審議は進まず、継続審議を繰り返していたのである。

 ところが突然2011年秋、民主党と自民・公明三党による政府案の修正協議がまとまったのである。これは民主党野田政権が消費税引き上げに自公両党の賛成を取り付けるため、大幅修正を容認するという取引材料とされたものであり、弱い労働者、特に派遣労働者を政争の「具」とするものであり許されるものではない。改正案の柱であった製造業派遣、登録型派遣の原則禁止は削除され、参考人招致もなく、可決成立したのである。27日、参議院厚生労働委員会の傍聴席は満員となり、傍聴者から批判と怒りの声が大きく挙がった。

 私たちは今後も真に労働者保護に役立つ抜本改正に向けた闘いを続けていく。今国会で審議が始まる労働契約法改正案やパート労働法の見直しなどと連携させ、有期労働契約規制を実効性のあるものにし、偽装派遣の摘発強化、非正規労働者保護を拡大する闘いを強化しよう!

(全労協fax情報/2012年3月28日)




●<資料2>

日弁連会長声明(2012年3月28日)からの抜粋


「・・当連合会は、2011年12月5日にも会長声明を公表し、与野党による修正が大きな後退であるとして、抜本的な見直しを求めたところである。すなわち、当連合会は、労働者派遣法の抜本的な改正に必要な8項目(派遣対象業務の限定、登録型派遣の禁止、日雇い派遣の全面禁止、直接雇用のみなし規定の創設、均等待遇の義務付け、マージン率の上限規制、グループ内派遣の原則禁止、派遣先特定行為の禁止)を指摘してきたものであり、これを実現するよう強く求めた。

 改正法は、@法の目的に労働者保護をうたい、取締法規としての性質から労働者保護法への転換を図っていること、A日雇い派遣の一部禁止を導入したこと、B直接雇用のみなし制度を導入して、派遣先の責任を強化したこと、Cマージン率の公表を義務付けたこと、D派遣労働者の待遇改善を派遣先、派遣元に努力義務として要請したことなどが盛り込まれたものの、なお抜本的な改正には程遠いものである。また、国会における審議も不十分であり、派遣労働者の実態に迫るものでなかった点も問題点として指摘せざるを得ない。

 登録型派遣及び製造業務への派遣の禁止規定については、今回の法案から削除されたものの、法施行1年後に労働政策審議会で検討を開始することとされており、派遣労働者の実情に応じた抜本的な改正へ向けた議論を再開するよう強く求めるものである。

 東日本大震災から1年が経ち、依然として被災地の雇用情勢は悪く、また、日本経済全体が回復へと向かってはいない。労働者全体の雇用の安定と労働条件の向上は日本の経済全体にとって極めて重要であり、労働者派遣法の抜本的な改正は依然として重要な課題である。今回の改正法は、規制強化へのわずかな第一歩にすぎない。

 当連合会は、今後も引き続き、真に労働者保護に値する抜本的な改正を粘り強く求めていくものである。」



(*)なお、日弁連は3月23日、「より多くのパート労働者が厚生年金に加入できる制度への改正を求める会長声明」を発表し、「今回の政府案は、半歩前進ではあるものの、企業規模等の要件が厳格にすぎて、適用対象者があまりにも少ない」と指摘し、「中小零細企業の負担増に対しても適切な配慮をしつつ、現政府案よりも大幅な適用対象拡大を今国会で実現するよう」求めている。



■以上/宮城全労協ニュース220号(2012年3月29日)