宮城全労協ニュース/第222号(電子版)/2012年4月22日

郵政民営化法が改正へ〜
民営化の抜本的見直しを!



●民自公3党合意による「民営化法の一部改正」
●不透明な3党合意内容
●民主党の郵政マニフェストと政権交代後の現実
●「大震災と郵政」を問い直そう


 
「郵政民営化法」の一部改正法案が4月12日、民主・自民・公明の三党合意により衆議院を通った。審議は尽くされないまま今月中にも参議院で可決、成立する運びだ。

 とくに郵貯・簡保両会社の株式売却「義務」が外されることについては自民党内から異論が出たが、党内の大勢は決していた。「時代は変わった」という自民党幹部の言葉が象徴的だ。皮肉なことに法案成立が確定的になった過程で国民新党は分裂した。

 金融二社の株式売却義務や4分社化は「小泉郵政改革」の根幹部分であったから、その変更は完全民営化からの後退を意味する。米国は直ちに反応し、TPPへの日本参加にとって、とくに「かんぽ」が障壁になると警告した。もちろん全銀協は従来通りの抗議を繰り返し、経済界も改革逆行だと懸念を表明する。

 「郵政民営化委員会」は合意案上程に先だち、民営化法に基づく報告を提出した。今期限りで退任する田中直毅委員長は「世界に例を見ない巨大な国有の2金融機関(ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険)を民間の経済秩序のなかに融合させる」必要性を繰り返している。

 法案には小泉民営化からの後退とともに、政権交代当初の「民営化見直し」からの後退という二つの側面がある。3党合意は「政局」がらみであり、法案の内容も妥協の産物である。

「郵政民営化」は決着がついていない。3党合意に反対したみんなの党は、民営化促進を求める法案を準備している。大阪の橋下市長の動向も注目される。民主党政権攻撃の材料として郵政問題を取り上げても不思議ではない。まして橋下ブレーンには完全民営化の著名な論者が複数、含まれている。

 野田政権は完全民営化派からの抗議や批判に対して回答しなければならないが、党内議論を重ねた上での首尾一貫した決意が政権にあるとは思えない。郵政の効率化やリストラ努力を持ち出して批判をかわそうとするのであれば、場当たり対応以上ではない。


「公共郵政」の実現と郵政事業の民主化を訴え、闘いを続けよう。



民自公3党合意による「民営化法の一部改正」


 朝日新聞は「小泉郵政改革、終幕」と報じた(4月13日)。郵政民営化の旗を振った朝日新聞の感慨が伝わってくる。

「郵政こそ改革の本丸」と主張して衆議院の分裂選挙に勝利した小泉首相は、党内反対派を屈服させ、民主党を「抵抗勢力」と切り捨て、郵政民営化法を成立させた。「聖域なき構造改革」が日本を席巻するだろう、「2005年体制」の歴史的スタートだと持ち上げられた。

 しかし、小泉政権の絶頂の下で「改革からの変質」が始まった。郵政民営化の立役者だった竹中担当大臣はそのとき、総務大臣として「改革逆行」に警鐘を鳴らした。「小泉郵政改革」を修正しようとしたのは自民党自身であったからだ。「造反」議員を復党させたのは安倍首相であり、麻生首相の下で鳩山総務大臣は「かんぽの宿」売却問題をあばき「西川郵政」を攻撃した。自民党が政権を失ったのは、その半年後だった。「地方の疲弊、格差の拡大と貧困、市場競争原理主義がもたらす荒廃」が社会的な問題となり、「生活が第一」を掲げた民主党が勝利した。

 自民党内の完全民営化派の多くは分散霧消し、衆議院での「造反」は4人にとどまった。谷垣総裁は「この問題は打ち止めにしたい、郵政に終止符を打ちたい」と述べ、郵政対立に翻弄された自民党の事情を率直に語った。自民党の完全民営化派が党内で復権する道は厳しいだろうが、対立の火種はくすぶり続けている(*注1)。


 民主党はどうか。民主党は次のように公式見解を発表している。

「民主党、自民党、公明党の3党は30日、郵政民営化法を見直す法案(郵政民営化法等の一部を改正する等の法律案)を共同で衆院に提出した。/法案は、自民・公明両党の小泉政権下で行われた郵政民営化について、内外の社会・経済情勢の変化などを踏まえ、現在の5社体制を4社体制に改め、郵便局株式会社と郵便事業株式会社を合併して日本郵便株式会社とし、日本郵政株式会社(日本郵政グループの持株会社)と日本郵便株式会社に郵便業務と貯金・保険の基本的サービスを郵便局で一体的に提供するユニバーサルサービスの責務を課すことがその主な内容。/(中略)この動きを受けて政府は2010年に提出して衆院で継続審議となっていた郵政改革3法案を撤回することを同日朝の閣議で決定した」(3月30日)

 政権交代後の連立政権で議論されたのは「郵政民営化の見直し」だった。2年半が過ぎて改革法案は撤回され「郵政民営化法の一部改正」となった。その間、民主党は郵政問題を事実上、棚上げした。

 「たなざらし」にされてきた郵政問題が動き始めたのは、野田政権が株式売却益の「復興財源」化を盛り込んだからだと報じられている(*注2/復興財源確保法の附則)。公明党が再協議を主導し、民主党と自民党は公明党案に乗りながら懸案の郵政問題をクリアしようとした。政権交代直後の09年12月に成立させた郵政株売却凍結(停止)は、その後、民主党政権にとってやっかいな重荷になっていた。これを外す口実に、売却益の復興財源化が使われたということもできる。多く指摘されているように「単純計算で5.5兆円」という売却益が得られる保証はないからだ。

 日本郵政の斉藤社長は、株式売却凍結と復興財源確保の二つの法律は矛盾している、郵政は身動きがとれない状況にある、与野党協議によって打破すべきだと強く求めた。郵政の経営再スタートだけではなく、それが復興協力への道を開くという理屈だ(年頭記者会見)。3党合意は郵政経営陣の主張を取り入れるものだった。



不透明な3党合意内容


 共産党は民営化反対の立場から、とくにユニバーサルサービスの切り捨てであり、郵便局ネットワークの縮小を容認するものだと批判し、法案に反対した。みんなの党は逆に、民営化から逆行すると反対した。両党が異なる立場から反対したのは、3党合意内容の曖昧さを物語るものでもある。

 3党合意案のポイントは次のようなものだと解説されている。

(1)郵貯・簡易保険にもユニバーサルサービス義務が及ぶ。
(2)郵貯・簡易保険の株式は全株処分を目指し、できる限り早期に処分。
(3)郵貯の預入限度額は当面引き上げない。
(4)郵貯・簡易保険の2分の1以上の株式売却後、新規業務は届け出制に(緩和)する。
(5)簡易郵便局の法的位置づけを明らかにする。


 目指す、できる限り早期、当面などの言葉が並んでいる。ユニバーサルサービスと株式売却はどのように両立するのか。2分の1以上の株式売却と新規業務の関係もはっきりしない。簡易郵便局の「法的位置づけ」の真意も定かでない。

 曖昧だからこそ、衆議院通過にあたり6項目の付帯決議がつけられた(*注3)。官業批判への配慮と経営拡大を求める郵政への配慮の矛盾、「ユニバーサル・サービス」と民営会社の矛盾は、そのまま附帯決議に反映されている。2005年秋、出直し郵政国会での民営化法案成立直後、「どのような議論がなされたのか、それを1年後に説明できる人はいないだろう」と指摘した学者がいた。同じことが繰り返されている。

 郵便部門の経営が改善される見通しは立たないし、金融二社の新商品開発と販売攻勢にはたえずクレームがつき「完全民営化派」からの攻撃にさらされる。曖昧な3党合意内容は今後、次の政権枠組みのもとで、ふたたび争点となるだろう。



民主党の郵政マニフェストと政権交代後の現実


 民主党は「地域社会を活性化するため、郵政事業を抜本的に見直す」と2009年のマニフェストに書き、小泉改革への批判者であることを強調して衆議院選挙を闘った。これは小泉派が2005年選挙で打ち出した「郵政こそ改革の本丸」に対抗するものだった。

「かんぽの宿」一括売却問題は最後の自民党政権の下で表面化した。小泉・竹中路線が生み出した「西川郵政」は敗北した(新自由主義的経営を標榜した社外取締役たちもいつしか退任していった)。政権交代した民主党には、その次が問われていた。最初の答えが元大蔵事務次官の日本郵政社長就任の承認だった。民主党は「天下りには当たらない」と釈明した。

 国民新党との間には新たな緊張関係がもたらされた。原口総務大臣と亀井担当大臣の郵貯・簡保資金の運用をめぐる対立は「新たな郵政利権をめぐる縄張り争い」の様相を呈したが、肝心の論争は深まらなかった。亀井大臣は「非正規雇用労働者の正社員化」を大胆に実行すると明言した。それは初年度目標を大きく下回る規模で実施されたが、昨秋、報復するかのように高齢労働者たちの大量解雇が強行された。日通宅配との統合問題について、民主党は経営責任を事実上、不問に付した。

 そして何よりも、民営化の検証と竹中大臣らの責任追及は貫徹されなかった。「新しい公共」という民主党のチャレンジは失速した。


 こうして振り返るなら、政権交代以降の民主党にとって郵政問題はなんであったのか、多くの疑問がある。野田政権が2009年マニフェストの郵政項目を引き継いでいるのか、まっとうな説明はない。そもそも09年マニフェストが妥協の産物であり、民主党は「巨大官業批判」と「ゆきすぎた小泉民営化批判」との間で揺れ動いてきたともいえる。郵政改革からの逆行は改革支持票を失うという論争が小泉政権以降の自民党で闘わされたが、この対立構造は民主党にも共通している。3党合意がいつまでも続くわけはない。


 3党合意の最大の問題はけっきょく経営形態を曖昧にしている点にある。郵政をどうするか、労働者民衆の側からの提起と闘いが必要だ。

 郵政民営化が公共サービスを弱め、とくに地方・過疎地での役割が後退していることが指摘されてきた。そのような認識が広がるいっぽうで、郵政の実態は旧態依然であり、職場環境はむしろ悪化してきた。

 郵政は日本で最大の非正規雇用職場である。多くの若年労働者たちが不安定雇用、差別待遇、低賃金のもとで明日の展望を持てぬまま、カップ麺や持参の握り飯で食事をとっている。連立政権が実行した「正社員化」の一方で高齢労働者の解雇が強行された。

 過労死・ノルマ労働は改善されていない。導入された「トヨタ方式」は役立っていないばかりか、官僚機構を補完する労働者支配の道具となっている。宅配統合に示されたように、無責任経営は蔓延し、現場は犠牲にされている。

 郵便部門の経営赤字を埋めるために金融部門の経営拡大が必要だという視点では「ユニバーサルサービス」は防衛できない。経営赤字であっても「公共郵政」は守られねばならない。「公共と市場原理主義」のせめぎあいに対して、郵政労働者と地域の共闘が築かれねばならない。


 
「大震災と郵政」を問い直そう

 
 郵政民営化の全面的な見直しを要求し、「公共郵政」の確立と「郵政の民主化」を現場と地域から実現するための闘いが求められている。そのためにも「大震災と郵政」が問い直されるべきだ。

 大震災では、民営化は地域民衆の救援には役立たなかった。郵政を重要なネットワークとして、地域拠点として積極的に活用する視点は政府にも見られなかった。そのため、地域の郵便局による緊急の金融対応などは、善意のエピソードにとどまった。

 郵便配達労働者は住民の状況を多く把握していたが、その情報を国や自治体は有効に活用できなかった。「郵政」は、地域に多数居住している退職者たちを含めて、震災に立ち向かう公共の力として発揮されることが求められていた。

 当時の新聞記事を引用する。3月30日の日本郵政発表の報道であるから、報道各社、ほぼ同じである。

「日本郵政は30日、民主党の総務部門会議で郵政グループ各社の東日本大震災の被害状況を報告した。社員ら死者・行方不明者は計59人に上り、106局の郵便局が全壊などの被害を受けた。亡くなるか行方不明になっている社員は、日本郵政が3人、郵便事業会社(日本郵便)が30人、郵便局会社が20人。県別では、宮城県が31人と最も多く、岩手県が18人、福島県4人。郵便配達や窓口業務を担当していた社員が犠牲になった。

 このほか、小規模な簡易郵便局の業務受託者6人も死亡1 件か行方が分からないという。グループのうち、ゆうちょ銀行とかんぽ生命はそれぞれ東北で約千人ずつの社員の無事を確認した。
 被災した郵便局数は計106局。地震で壊れたり津波で流されるなどして61局が全壊し、10局が一部損壊、35局が浸水被害に遭った。また避難指示などの影響も加わり、東北6県全体(1932局)の8%近くを占める148局の郵便局が再開できていない。簡易郵便局も648局中、97局が閉鎖している」(日本郵政はその後「人的被害は61名」と発表)。

 郵政のホームページには震災特設サイトがあり情報が提供されているが、郵政各社と政府・与党は、社会に対して積極的に説明しようとする姿勢ではなかった。

「ユニバーサル・サービス」という思想は、震災のなかでこそ具体化される必要があった。たとえば被災地と仮設住宅地域で、住民は郵便局の再開を求めた。仮設からの移動もままならない人々が生活苦を訴え、郵便・小包と郵貯窓口の再開を待ち望んだ。それこそ「郵政」の出番であったし、実際、自分の持ち場で行動した労働者、職員たちは多くいた。郵政の受けた被害は甚大であったとはいえ、郵便各社と政府の対応は大きく遅れた。

 その後「震災と郵政」というテーマは、政府はもちろん自治体の復興会議でも取り上げられることはなかった。消防団、自治体、学校、幼稚園、病院、介護施設などで、検証と反省が続いている。対比して郵政は「控え目」であり、あるいは閉鎖的であると言ってもよい。犠牲になった郵政職員、破壊された地元の郵便局、近隣に多数いたであろう退職者たち。その実像は社会的なテーマになっていないし、さらに郵便局員の放射能被ばく問題については報道すらない。


(2012年4月22日)


 

(注1)中川秀直元自民党幹事長の見解を引用する。

「・・郵政完全民営化の見直しを入口とする「民から官へ」の逆流は、なおしばらく続くかもしれないが、持続不可能であり、「官から民へ」に戻ることは歴史の必然である。しかし、そのプロセスで国民の貯金が犠牲となり、国民負担増が求められるリスクがある。そして、競争条件が不公正になる日本の金融市場について国際社会から批判をあびて、日本は孤立するかもしれない。それがこの法案の問題点である」(中川秀直ブログ/4月12日)。

「2009年の総選挙では、民主党のほうがより急進的な改革を行なうと期待した都市住民は、民主党を選択し、自民党の改革派が大量に落選した。都市住民は、民主党は真の改革派勢力ではないことを学んだ。次期衆院選では、大量の改革派が国会の場を占めるはずである。改革はここから再起動する。民意は「官から民へ」「大きな政府から小さな政府に」を支持している。ここの目測を誤る党は次期衆院選で勝利することはできないだろう」(4月13日)。



(注2)
「日本郵政株式会社の経営の状況、収益の見通しその他の事情を勘案しつつ処分の在り方を検討し、その結果に基づいて、できる限り早期に処分するものとする。」



(注3)衆議院での附帯決議

(1)郵便局ネットワークについて、利用者ニーズを踏まえ、地方公共団体からの委託等を通じ、地域住民の利便の増進に資する業務を幅広く行うための拠点として、より積極的に活用されるよう努めること。

(2)郵政民営化法第百七条及び第百三十七条の規定に基づき、他の金融機関等との間の競争関係、金融二社の経営状況等を勘案して政令で定めることとされている限度額の水準については、本法の施行により直ちに勘案すべき事情が変わるわけではないことから、当面は引き上げないこと。

(3)日本郵政株式会社が金融二社の株式の二分の一以上を処分した後の金融二社の新規業務等に係る届出制が、単なる届出ではなく、他の金融機関等との間の競争関係への配慮義務並びに郵政民営化委員会への通知義務を課すとともに、内閣総理大臣及び総務大臣による監督上の命令の対象としていることに鑑み、これらの規定に基づく政府及び郵政民営化委員会による二重チェックが有効に機能することとなるよう、制度の適切な運営に努めること。

(4)簡易郵便局が今後とも、過疎地、離島等におけるサービスの提供に重要な役割を果たし、ユニバーサルサービスの一翼を担っていくことに鑑み、簡易郵便局の置局状況を適切に把握するとともに、置局水準を現行法より後退させることのないよう、必要な措置を講ずること。

(5)郵政民営化後の日本郵政グループの経営状況をしっかりと検証の上、本法の施行後、郵政民営化委員会の意見も踏まえ、グループ各社及びそれらの経営陣により、適切な経営努力が行われるよう努めること。

(6)かんぽの宿及びメルパルクについては、本法の公布に伴い、郵政株式処分停止法が廃止されることから、その事業の継続、譲渡又は廃止が日本郵政株式会社の経営判断に委ねられることを踏まえ、会社の経営に及ぼす影響を勘案しつつ、適切に対処されるよう努めること。




■以上/宮城全労協ニュース222号(2012年4月22日)