聴取会で電力社員が意見
エネルギー政策に関する政府(エネルギー・環境会議)の意見聴取会が続いている。2030年までの原発比率の三つの選択について国民の意見を求めるというものだが、この聴取会には当初から疑問が指摘されていた。
「開催地は11都市だけで、発言時間や人数を制限するなど本当に国民の声に耳を傾けるつもりがあるのか疑わしい内容だ。「国民的議論を踏まえ、結論を出す」とする政府のアリバイにされかねない」。
「さいたま、福島、那覇の3市以外(の開催都市)は電力会社の本店所在地だ。・・青森県や、原発が立地する市町村では開かれない」(河北新報7月13日/「国民的議論」に疑問符)。
記事はまた、11の開催地のうち、12日の時点で会場が決定しているのは5都市のみ、福島市は日程すら決まっていないと指摘した。聴取会を取り仕切る「エネルギー・環境会議」事務局は、13日付けでようやく福島市の日程を告知した(*注1)。
指摘は現実となり、さいたま市(14日)での初回の聴取会で早くも「政府への不満が渦巻いた」。参加者たちは「一般参加者の選考基準について何の説明もなく、意見がどのように政府決定に反映されるかも分からない」「われわれはアリバイ作りに使われているだけではないか」「(使用済み核燃料の)処理方法が国民に何も示されていない」などと批判した(河北新報15日)。
翌日、仙台市での聴取会は「政府のアリバイ」どころか、電力社員が電力会社の意見を表明する場となった。続く名古屋市でも中部電力社員の意見表明が行われた。
厳しい批判にさらされた政府は、野田首相がみずから「いささかの疑念も生じさせてはいけない」と述べ、担当大臣である古川元久国家戦略担当大臣に聴取会運営の再検討を指示する事態となった。
●露骨な電力会社の介入
7月15日、仙台市での聴取会では東北電力の幹部社員が「東北電力に勤務している」「せっかくなので、選択肢に関して会社の考え方を、少しまとめて話したい」と発言、「20%から25%程度」とする選択肢への支持を表明した。この幹部社員は理由の一つとして「東北の復興には安い電力が必要だ」と述べた。
東北電を退職した東北エネルギー懇談会(旧名・原子力懇談会)の幹部も意見表明し、「20%から25%程度」を支持した。
会場から「やらせではないか」などの批判が浴びせられ、細野環境大臣が立ち上がって「取りなす」場面もあった。また発言者に首都圏在住者が含まれていたことなどにも疑問や批判の声があがった。
東北電力は河北新報社の取材に対して「企画部門などに電子メールで意見聴取の開催を知らせたが、参加は求めていない。(企画部長は)個人として参加しており、やらせではない」と説明した(河北新報16日)。河北新報は社説で、「何ともお粗末な意見聴取会になってしまった。電力会社の社員の登場には、会場にいた人だけでなく一般の人もあぜんとさせられたことだろう」「電力会社の社員の発言を認めた国も含めて、普通の国民の感覚との落差は驚くばかりだ」と批判した(19日「原子力聴取会/運営もテーマもずれている」)。
NHK仙台放送局は17日、「電力会社の立場表明、事前に容認」と報じた。
「(東北電力は取材に対して)電力会社としての意見を表明することも必要だと判断して、事前に、幹部社員が電力会社の社員であることを明確にして意見を述べることを容認していたことを明らかにした。東北電力では、意見聴取会が開かれることを事前に関係部署に知らせ、聴取会への参加を促すものではないと但し書きを加えていたということだが、結果的には聴取会の場を利用して電力会社の立場で原発の必要性を訴えていたことになる。東北電力では、あくまで部長個人の意思で意見を述べたのであって、組織的に意見表明をするよう働きかけはしていない、としている」(報道番組「てれまさむね」)。
電力会社社員の「当選」と意見発表は、翌日の名古屋市でも続いた。中部電力の課長は「20%〜25%」への支持を表明しただけでなく、「放射能の直接的な影響で亡くなった人はひとりもいない。5年、10年たっても(そのような)状況は変わらない」と断じた。
中部電力には抗議が殺到し、ホームページでの「お詫び文」掲載に追い込まれた(*注2)。
●疑惑深まる聴取会の運営
古川国家戦略担当相は運営方法の見直しを表明、陳謝した。しかし古川大臣は、電力会社社員が連続して選ばれたことは「20%〜25%」支持の応募者が少なかったせいではないか、と解説してみせた。藤村官房長官は「結果として組織を代表して意見を述べたのなら遺憾だ」と批判しながら、「個人としてはさまざまな意見があり、全く排除するのは難しい」と述べた。
政府のちぐはぐで及び腰の発言を見透かしたかのように、電気事業連合会・会長は20日、「国民の一人として、社員が自主的に意見を言うことについては、問題があるとは考えない」と反論した(朝日新聞21日)。
また宮城県の村井知事は次のように答えている(7月17日、定例会見)。
「電力会社の社員の方も一人の国民ですので、国民として意見を述べるというのは、これは許されることではないかと思っております。意図的にその方を政府がチョイスをして、そして意図的に発言を誘導したというならば大きな問題だと思いますが、一人の国民として公正に選ばれて自分の意見を述べられたとするならば、特に問題はないと私は思っております」。
仙台でも名古屋でも「会社としての考え」を公言しており、「国民の一人として」という理屈は立たない。
しかも、運営に関して様々な疑問が指摘されている。聴取会の運営は業者に委託された。事業の発注は経産省資源エネルギー庁が行い、最大手広告代理店2社が入札に参加し、7854万円で落札されたという。東京新聞(7月20日)の記事は、「業者任せ、開催回数や定員縮小、運営・分析も外注」など「入札仕様書から浮かぶ政府の意見聴取会のずさんな実態」を指摘し、疑問を投げかけている。
古川大臣はさいたま市の聴取会当日に放映されたNHK討論番組に参加していた。討論の中で何人かから出された「拙速ではないか、国民の意見は政府の決定に反映されるのか」という質問や危惧に、大臣は明確な態度を示さなかった(7月14日「激論!ニッポンのエネルギー」)。聴取会で電力会社社員が意見表明したのは、その翌日だった。
改善を約束した古川大臣は、どのような調査を行ったのか、その内容を明らかにしないままにこの問題を済ませるつもりなのだろうか。一時しのぎの対応と責任不在の居直りを続けるのだろうか。
政府は「国民的議論」を推進し「戦略を選択する際の材料」にする、そのために「国家戦略室、内閣府(原子力行政)、経済産業省、環境省の政務・事務方が横断的な作業チームを編成し、一丸となって対応する」としている(*注3)。しかし、少なくとも政府の対応が変わらない限り「国民的議論」なるものは成立しえない。聴取会に見られるように、そもそも国の対応は国民の信頼に値していないからだ。
大飯原発の再稼働を強行した政府と原発推進勢力にとって、次の焦点は四国電力・伊方、北海道電力・泊、東京電力・柏崎刈羽だ、などのキャンペーンが強まっている。関西電力社長は25日、「次は高浜原発」と公言した。
「エネルギー・環境に関する選択肢」が示されたのは6月29日だった。2週間後に聴取会が始まった。8月中に「革新的エネルギー・環境戦略」を決定するという。なんという拙速か。再稼働の拡大のために、逆算したスケジュールではないのか。そのような疑念に政府は答えていない。「国民的議論」の押し付けは認められない。
毎週金曜日、首相官邸を大きな怒りが取り囲んでいる。7月17日、「さようなら原発10万人集会」に3・11以降最大の
結集が実現した(*写真)。野田政権と民自公三党政治を包囲し、「脱原発」「民衆復興」を進めよう。
(注1)エネルギー・環境会議事務局による聴取会の告知は次の通り〜「エネルギー・環境の選択肢に関する国民的議論の進め方について」(第二報、7月13日)」より。
〇政府は、全国11都市でエネルギー・環境の選択肢について、直接様々な意見を聴取する場を、主催する。
〇実施形式(全体2時間)
・参加者は公募により一会場100〜200名。動画での中継・配信を行う。
・担当省庁(内閣官房、経済産業省、環境省)の政務が出席。冒頭、政府から選択しについて説明。
・事前に一般から公募した意見表明者が意見を陳述(3つのシナリオごとに3名ずつ、計9名)
第一クールとして9人から意見表明。
意見表明者全員の意見を聞いたうえで、第二クールとして意見表明者よりそれぞれ再度意見表明いただく。
・参加者に対してはアンケートを実施する。
*開催場所、開催スケジュールの欄には、7月14日のさいたま市から最終(8月4日)の高松市と福岡市まで、それぞれ日時、時刻、都市名が記載されている。「問い合わせ先」として、意見聴取会の担当電話番号が付記されている。
(注2)「「エネルギー・環境の選択肢に関する意見聴取会」での当社社員の発言について」(中部電力ホームページ参照)
「7月16日に名古屋市において開催された「エネルギー・環境の選択肢に関する意見聴取会」において、当社社員の意見の中に、福島第一原子力発電所事故の被災者の方々のお気持ちを傷つけるような不適切な発言があったことに関して、深くお詫び申し上げます。その他にも、意見聴取会に当社社員が参加し、意見表明したことにつき、みなさまから厳しいご意見を多数頂戴いたしました。(以下、略)」
(注3)「国民的議論」の項目(説明は上記「進め方について」参照)
1.エネルギー・環境の選択肢に関する情報データベースの準備
2.意見聴取会
3.エネルギー・環境戦略に関するパブリックコメント
4.選択肢に関する討論型世論調査
5.自治体や大学、民間団体主催の説明会への協力
■以上/宮城全労協ニュース228号(2012年7月25日)