最賃審議会に意見書
宮城全労協は7月22日、宮城地方最低賃金審議会に意見書を提出した(資料掲載)。
中央審議会の小委員会は26日、今年度最賃改定の「目安」を決定、地域最賃をめぐる審議に引き継がれる。生活保護費との「逆転解消」と大幅引き上げを求めよう。
●中央審議会が「目安」、平均7円上げ(時給744円)
〜宮城は「生活保護費との逆転解消」の対象外に
7月26日、中央審議会・小委員会は、最賃引き上げのいわゆる「目安」額を決定、「全国加重平均で7円」(現行の737円から744円へ)とした。大震災を理由とした2011年の最賃抑制は、今年の「目安」にも引き継がれている。
「東日本大震災の影響は大きく、秋に予定される地域ごとの協議でも、引き上げは小幅にとどまる見通しだ」「宮城県や北海道では、最低賃金での収入が生活保護の給付水準を下回る「逆転現象」が解消しないまま残る」。
河北新報はこのように「目安」を説明しつつ、さすがに「逆転現象」が続く事態に反対を表明した。
「働いても福祉給付に追いつかない賃金水準は、やはり正常とは言い難い。極端な低賃金は地方の崩壊を加速する。構造的な格差問題として、解決の道を探るべきだ」「生活再建を目指す被災者にとって、賃金が少しでも向上することは重要だ。震災を理由に全体的な低賃金が放置されることは避けたい」「被災企業への「配慮」とは、賃金引き上げを猶予する配慮ではなく、賃金向上に向けた努力を促す措置であるべきだ」(社説8月3日:「逆転」最低賃金/本質は地方の苦しさにある)
また小宮山厚労大臣は7月26日、参議院特別委員会で「時給千円を目指すことはなかなか厳しいが、約束しているので努力している」と答弁している。生活保護給付の抑制に言及している大臣は「逆転解消」についても、「北海道など非常に差が開いているところは難しい状況にある」と使用者側主張を追認する姿勢だ。民主党政権は「最低賃金」でも2年前の「雇用戦略対話」当時から大きく後退している。
宮城は昨年、岩手、福島とならんで「1円」の引き上げだった。被災地であるがゆえに最低賃金を抑制してもよい、あわよくば<震災に便乗>して「最賃の規制緩和」を進めようという主張は認められない。
「目安」の主な内容は次のとおり。
〇昨年の「6円」から「1円」、上回っただけ。2年前は平均「17円」だった。
〇いわゆるランク付けではAランクが「5円」、B、C、Dランクは「4円」(宮城のCを除いて東北5県はD)。
〇「生活保護費と逆転」している11都道府県(*)は、ランクにかかわらず、逆転額に応じて目安額に幅を持たせた。
たとえば青森の場合、現行の最賃額が647円で「逆転額」が5円、今回の「目安」が「4〜5円」。目安上限でようやく同額となる。
〇「幅を持たせた目安」の上限値であっても、宮城は北海道とともに、逆転解消には届かない。事実上、最初から逆転解消の対象外としている。
宮城(675円)は「19円」の差額に対して、目安は「7円〜10円」。
北海道(705円)は「30円」の差額に対して、目安は「10円〜15円」。
〇「生活保護費とのかい離」の解消は「原則2年以内に解消をめざす」としている。さらに、地域事情によっては「3年」と解消期限の延長に含みを持たせている。
(*)昨年度の改定で「未解消」は北海道、宮城、神奈川になったが、今年度審議に向けた厚生労働省のデータによれば、青森、埼玉、千葉、東京、京都、大阪、兵庫、広島が加わり、11都道府県に増加した。
●宮城地方最低賃金審議会への意見書
宮城全労協(2012年7月22日)
2012年度の審議にあたり、宮城全労協は宮城地方最低賃金審査会に対して以下の意見を述べます。被災地の最賃審議会が、苦悶する低所得労働者とその家族に希望を与える審議結果を答申するよう切望します。
<意見>
1.最低賃金を全国一律で時給1,000円とすること。
2.「生活保護給付水準との乖離の解消」を果たすこと。
3.「被災地の最低賃金の規制緩和」という主張に反対の意を表明すること。
4.審議を公開し、中小零細・非正規雇用労働者の声を反映させること。
<理由>
1.被災地を励ます最低賃金引き上げが求められています。
2.「675円」では「健康で文化的な生活」はできません。
3.生活保護と最賃の乖離解消は、最賃審議会の責務です。
4.「被災地の最賃の規制緩和」は震災に便乗した最賃制度への攻撃です。
1.被災地を励ます最低賃金引き上げが求められています。
昨年、宮城の「1円引き上げ」は全国最低レベルであり、また「生活保護水準との乖離」も解消されませんでした。「大震災の甚大な影響」が理由とされていますが、経団連など経営側の視点から一面的にとらえた結果であったと言わざるを得ません。審議会委員各位は、被災地だから「1円」と突き付けられた最賃対象労働者たちの悔しさ、家族や地域の人々の落胆に思いをはせていただきたい。
被災労働者民衆を励まし、生活再建の一助とするという視点から、最低賃金の大幅引き上げ、せめて「生活保護水準との乖離」を解消すべきでした。宮城地方最賃審議会は大震災の被災地にあって、歴史的な役割を果たすことができなかった、ということではありませんか。
昨年、私たちは次のように意見と異議を述べました。
「大震災からの「復旧・復興」はあまりにも遅く不十分であり、地震・津波・原発事故の被災地では怒りと絶望が渦巻いています。「自殺・孤独死・関連死」により、連日、多くの人々の命が奪われています。このような現実に踏まえて審議がなされ、被災地と被災民衆が希望を見出しうる最低賃金の大幅な引き上げを答申されるよう要請し、意見とします。」
「「中央の目安」より、1円でも多い引き上げを答申すべきである。それが、地元の労働者民衆とともにあるべき被災地・最賃審議会としての、せめてもの責務であると、あえて意見を述べ、宮城全労協の異議申し立てとします。」
全国から注目された宮城地方審議会は、残念ながら、被災地であるがゆえに抑制するとの結論に至りました。そのような経緯を踏まえ、今年度の大幅引き上げの答申を求めます。
2.「675円」では「健康で文化的な生活」は送れません。
宮城労働局は最低賃金の周知をはかるチラシで、「実際の賃金と最低賃金との比較方法」として、次のような試算を行っています。
<月給116,000円、1日の所定労働時間8時間、年間所定労働日数258日の労働条件では、時間額674.4円となり、最低賃金額675円以上になっておらず、最賃法違反となる。>
試算月額は、年間で1,392,000円となります。これで(実際には最大限の試算であるというべきですが)どのような生活が可能だというのでしょうか。「健康で文化的な生活」に足るとは、到底、言えません。とくに若者世代にとって、出産・養育費の捻出は困難です。貯蓄はおろか、税金や保険料の納付が滞るのは当然です。同居をふくめた親の援助が不可避です。それらが社会にもたらす負の影響を、この間、各種の政府統計が指摘しています。
雇用戦略対話での合意(2010年6月)が成立したのは、経営側も含めて、低すぎる最賃の影響について、そのような認識があったからです。雇用環境の改善は進まず、賃金は低下し続け、さらに社会保障の削減が進んでいます。「できる限り早期に全国最低800円を確保し、景気状況に配慮しつつ、全国平均1,000円を目指す」とした合意は、前倒しして実行すべきなのです。
さらに、最賃額の全国的な「格差」は明らかな拡大傾向にあります。中央審議会への提出資料「最高額と最低額及び格差の推移」によれば、次の通りです。
平成14年/最高額(東京)708円、最低額(沖縄)604円
平成23年/最高額(東京)837円、最低額(岩手・高知・沖縄)645円
格差(最高額に対する最低額の比率)は85.3から77.1に推移。
大都市圏と地方の最低賃金の「格差」は過去10年間、一貫して拡大しており、とくにこの5年間、その差は急拡大しています。労働力を含めた諸資源の大都市圏への集中と地方の衰退を裏付けるものです。
このような格差を是正するためにも、いわゆる「Dランク」県の大幅引き上げを通した全国一律の最低賃金が必要です。「C」ランクにある宮城県の最賃が「Dランク」にある東北地方5県に様々な形で影響を与えることは容易に想像でき、そのような意味からも宮城の最賃引き上げが求められています。
3.生活保護と最賃の乖離解消は、最賃審議会の責務です。
昨年、審議会が始まる前、「被災地での生活保護の打ち切り」が相次いで報道されました。福島県南相馬市で震災義援金や東電の仮払い補償金が収入とみなされて自動的に生活保護が打ち切られ、宮城県内でも同様の事案が報告されました。日本弁護士連合会は事態を憂慮し、「被災地の生活保護費の全額国庫負担」を求める会長声明を発表しました。
このような状況下で、宮城の審議会が「乖離解消」を果たさなかったことは、最賃抑制にとどまらず「生活保護」に消極的なサインを送ったことを意味します。被災地には最賃を生活保護水準以上に上げる余裕はないという理屈は、生活保護受給への「圧力」になったはずです。
芸能人の親が生活保護を「不正受給」していたとされる問題がマスコミをにぎわせました。最賃審議を前にして「生活保護バッシング」の意図があり、実際、この件には一部の政治家たちが関与していました。
生活保護制度は「最後の安全網」としての国民の権利です。その生活保護が最低賃金と密接に関係しており、最賃法には「健康で文化的な最低限度の生活」という憲法25条の条文が盛り込まれています。
2011年度、生活保護利用者が200万人を超えたことも、貧困社会が改善されない結果であり、雇用の危機と低賃金が直接的な要因です。貧困と格差拡大を脱する施策が必要なのであって、生活保護受給の引き締めは事態を悪化させるだけです。相次ぐ貧困死はその「警告」です。生活保護費削減と最低賃金の抑制という昨今の動きは、時代の流れを逆転させようとするものです。
昨年度の改定で「未解消」は北海道、宮城、神奈川になりましたが、厚生労働省の最新データによれば、青森、埼玉、千葉、東京、京都、大阪、兵庫、広島が加わり、11都道府県に増加しています。宮城での解消は全国的な焦点であり、そのことはまた、被災地の生活保護受給者たち、受給すべき人たちに勇気を与えることになります。
4.「被災地の最賃の規制緩和」は震災に便乗した最賃制度への攻撃です。
日経新聞は今年2月21日、次のような社説を掲載しました。
「被災地で期間を限って最低賃金の規制を緩めることも、政府は検討してはどうか。寄付金をもとに被災者を高齢者の買い物代行や清掃などに雇う動きがある。最低賃金の規制を柔軟にすれば、仕事に就く機会が広がる」(「雇用政策の手本を被災地で」)。
被災地での最賃の抑制・引き下げを求めるとともに、具体的な表現を避けながらも被災地での最低賃金制度の停止あるいは凍結を示唆するものです。震災に便乗した、このような主張に、被災地の最賃審議会は毅然たる態度で抗議すべきであると考えます。
50兆円規模の「復興需要」が日本経済を押し上げるだろうという見解がまかり通っています。しかし現実は「復興バブル」が懸念される一方で「復興格差」が広がっています。「特需」効果は地域的には仙台市に集中しています。低所得労働者や高齢者、生活保護世帯、生産手段を奪われた農家、漁業者たちなど被災地では先の見えない苦難がつづいています。
復興財政の多くがゼネコン等の大企業や被災県進出を企図する県外企業に流れています。「がれき広域処理」でも巨額の資金が動いています。一方、被災地域の零細企業や商店などは「震災特需の恩恵」と無縁のなかで、懸命になって雇用を守ってきた、あるいは事業再開によって守ろうとしています。
地元紙も次のように指摘しています。
「沿岸部では、再開にこぎ着けた水産関連の事業所が従業員を募集しても、充足しないケースが目立つ。復興事業に人材が流れ、低賃金といった条件もあって、失業者が多いのに人手不足というちぐはぐな状況にある。」
「沿岸部の人材確保難については、再開事業所の低賃金が要因の一つとされる。ハローワーク気仙沼などは、事業再開に費用がかさみ、賃金にしわ寄せがきているという見方を示す。」
「既に再開した事業所も、(中略)従業員の賃金底上げにつなげられるような支援策を講じられないか、検討する必要がある。」(河北新報社説「東日本大震災 就労支援策/実態を踏まえ点検、工夫を」1月30日)
被災地で「雇用と賃金」を守らねばなりません。被災地の最賃審議会は、その重要な役割に直面しています。「最賃の規制緩和」は被災地の厳しさに便乗した、最低賃金制度への攻撃です。
地域に密着した零細企業とそこで働く労働者たちを押しつぶして進む「復興」であってはなりません。予算の4割が執行されず、他方でローンを抱えた零細企業や商店主などには「生業再建」に必要な「生きた資金」が回らない。ようやく再開にこぎつけても賃金の支払いに窮する。そのような現状の改善のために、被災地の最賃審議会は政府、自治体、経済団体、金融機関等に対して、地域経済と労働者を守るための施策を要求すべきです。
コスト削減を下請けに負わせる大企業の経営方針の見直し、自治体発注事業費の適正な設定と受注企業労働者の賃金への反映、二重ローンの解消と零細企業への積極的な優遇融資などが急がれます。
「支払い能力論」を越え、「復興」から差別される地域の低所得労働者と零細事業者をともに守ることこそ、被災地の最賃審議会の役割であることを再度訴え、意見とします。
(以上、2012年7月22日、宮城全労協)
■以上/宮城全労協ニュース229号(2012年8月4日)