新政権の復興政策〜最初の一か月
安倍首相は「できるところから始める、スピード感が大切だ」と繰り返している。復興政策では、予算の増額、復興庁とくに福島局の権限強化などを打ち出してきた。しかし、参議院選挙を勝ち抜くための「実績作り」にしたいという「政略」が目立ち、民主党政権時代と何が異なるのか、政策上の転換であるのか、はっきりしてはいない。
衆議院選挙から内閣発足、そして補正予算決定から予算案提示まで、助走段階は終わった。安倍首相のいう「ロケット・スタート」が政策と政局の両面で問われる局面に入るが、ここ数日の国会論戦は低調だ。
新政権の復興シフト、首相ら関係閣僚の被災地へのかかわり、新政権の復興政策について、自公政権復帰後の動きを追ってみる。
●復興予算増額と被災地の現実
宮城県知事をはじめ被災自治体首長らは「復興予算の増額」を新政権に求めた。地元新聞やテレビは「新政権の本気度が試される」という表現を使った。
首相の増額指示を知事をはじめ地元は歓迎した。財政規律と復興予算増額の双方を被災地としてはお願いする立場だと、知事は述べた。復興予算の流用や「増額ありきの予算計上」への批判が根強くある。だから知事は、あえてそのような微妙な言い回しをした。
問題は「巨額な予算と被災地の現実」の間に圧倒的な落差があることだ。
「道路は治った、除染はした。しかし人は戻ってこなかった」では「本末転倒」だ、という指摘がある(注1)。「人間復興をめざせ」(注2)など、復旧・復興の根本にかかわる問いかけも続いている。
宮城県では最近、ネズミの被害が大きな問題になっている。県南部の津波被災地・山元町では「ネズミが急増し、仮設住宅を荒らしている」。原因は確定できないが「農地の除塩作業で掘り返された土から出てきた可能性がある」という町役場の担当者の声が紹介されていた(河北新報)。被害地域も広がってきている。
一年前、仮設住宅では寒さに震える日々が続いた。宮城県の防寒対策の遅れが失望と批判をよんだ。今冬はネズミと闘う日々だ。被災者たちが直面させられている、このような現実は、氷山の一角である。
●「原発見直し」宣言と福島再生総局
自民党立候補者たちは、民主党政権は被災地の要望に応えられていないと批判し、復興庁の被災地移転を主張した。政権交代するや、その主張は大きく後退した。
自治体の側からも移転に慎重、消極的な意見が出された。被災自治体は復興予算が増額されたことに安堵した。「いまさら本庁移転か」ということだが、とくに宮城県知事や仙台市長など大規模自治体からすれば、国が前面に出てきても困るというのが本音だろう。
復興庁移転問題は、このような経緯もあって、福島問題に移行した。
新政権の閣僚が相次いで被災地を訪問、震災対応が最重要課題の一つだとアピールした。その多くは一般論にとどまるものだったが、突出していたのは安倍首相の言動だった。総理就任直後の12月29日、首相は最初の訪問地に福島を選び、事実上、原発維持・推進に向けた新政権のメッセージを発した。
首相の「見直し発言」はこれまでの国会答弁を含めて、再稼働や新増設に関して具体的な「工程」を示すものではない。茂木経済産業大臣は1月16日、青森県の三村知事と会談し、核燃料サイクル事業を「国策として進める」と述べた。茂木発言も「継続」以上のものではない。慎重に構えているという側面と、結論が出せないという両面がある。
最初の訪問地・福島で「福島復興加速」とあわせて、民主党政権の原発政策の見直しを明言したことに、安倍首相の姿勢が示されている。原発関連株価は大きく上昇し、この間の活況をけん引している。マスコミ論調は「脱原発の分散」だ。このままのスタンスで、参議院選挙を押し切れるという読みが、首相にある。
「福島復興」と「原発維持(=見直し)」。安倍政権は、当面する半年間の攻防の前線拠点として、福島再生総局をスタートさせた。
●新内閣の復興シフトと首相の指示
新政権がこれまで打ち出した政策のかなりの部分は、前政権からの引き継ぎだ。だから、たとえば公的支援対象外の住宅再建への予算付けが、政権交代の成果だと政府・与党が言うのは、強弁である。中小企業再建への支援策についても同様だ。
年末、平野・前復興大臣の辞任会見は無念さがにじみ出ていた。前政権が被災地の要望を受けて考慮していたことは、いまや新政権の実績となる。
平野大臣の会見の翌日、12月27日、根本匠・新大臣が就任会見を行った。復興施策の総点検、現地主義の徹底、司令塔機能の強化、そして福島原発事故再生総括担当大臣として強いリーダーシップを発揮したいと述べた。「除染は環境省の所管だが、環境省に意見を言って我々が引っ張っていく」という発言は、環境省への対抗意識を感じさせるものだった。
1月10日、安倍内閣は民主党政権からの経緯を引き継ぎ、五回目となる復興推進会議を開催した。
復興庁は「復旧・復興の現状と課題」を、これまでの復興庁業務の継続として提出したが(注3)、安倍首相は次のように指示して政権交代を印象づけようとした(以下、口頭指示の要旨)。
○復興庁は現場主義に徹する。これまでの体制や取り組みを厳しく検証する。
○福島原発事故再生総括担当である復興大臣のもと、福島で2本社体制を築く。
○前政権の「5年間19兆円」を見直し、あわせて使途の厳格化につとめる。
○住宅、まちづくり、なりわい等を加速化する。被災地の批判、要望に耳を傾けた柔軟な対応をめざす。
○福島の早期帰還・定住プランを、(福島復興の)経済対策の一環としても進める。
○手抜き除染の検証と再発防止策を復興大臣の下で来週中にも提示する。除染の総合的企画・推進を進める。
2月2日、復興庁の福島再生総局が発足した。その場で復興大臣は縦割り行政の解消と福島復興の加速を指示した。「窓口一本化」に期待するという地元自治体首長の歓迎の弁が報道されていた。期待が現実となるか、安倍首相の指示した「(復興庁の)2本社体制」は機能するのか。新政権の復興政策の試金石となる。
復興大臣は「各省庁に分散している権限」を復興庁に集約する、そのための調整を一月中に終える、被災地常駐の復興庁職員も大幅に増強するなどと意気込んできた。復興大臣と環境大臣が仕切る作業チームも発足したが、明確な方針提示にはいたっていない。
「福島復興」とは、どのようなことなのか。政権の思惑を越えた復旧・復興の努力と諸事業が、発足した福島再生総局を検証していくだろう。
●復興推進委員会の「人事刷新」?
復興推進委員会の人事を刷新するという報道が一部にあった。その後、具体的な進展は見られない。新政権は「刷新」を水面下で進めているのか、あるいは棚上げしたのか?
委員会(五百旗頭真委員長、御厨貴代理、飯尾潤委員ら)は、菅政権が作った復興構想会議を事実上、引き継ぐものだ。だから人事の刷新であれ、委員会の改廃であれ「過去の経緯」にふれることになる。
復興構想会議には当時の政局が深くからんでいる。その後、何人かの政治家の言及はあるが、議論されているとはいえない。原発事故について、分析と現状評価、原子力行政と事故の関連、政権対応などで異なる見解が示され、対立も浮き彫りとなり、論争が続いている。一方、復興推進構想の中心的な部分の多くは「政治の闇」の中にある。
大震災直後の一定時期、「大連立」の選択肢が持ち上がったことがある。けっきょく政局の中心は菅首相の進退問題に収れんしていく。
復興構想会議は首相の延命策であり、そのため復旧・復興が遅れたとの批判は当時からあった。<復興構想会議のような「二段構え」あるいは「前提」は不要である。内閣が全責任をもって事態にのぞむべきだ>という主張もあった。
菅首相から任命された五百旗頭真は、当時、自民党首脳に協力を要請し、前向きの返答をもらった(あるいは感触を得た)。そうならなかったのは自民党内に政治的な理由があったからだろうと述べた。
自民党は当時、復興構想会議への非協力方針を選択した。その後、自民党は谷垣総裁を下ろし、安倍総裁のもとで政権交代を果たしたということになる。新総裁は、自民党の震災対応に責任をもつ立場にはなかった。
復興推進委員会は昨年9月、中間報告を公表した(第四回復興推進委員会)。「風化」への懸念や原子力災害への対応の危惧が強調されている。復興構想宣言へのこだわりであり、力なき民主党政権に対する抗議だと読むこともできる。
中間報告を経て「年次報告」にいたる。その前の人事刷新は、作成中の報告文に影響を与える。政権交代であるから、過去のしがらみを一掃するのも良い、となるだろうか。「統治」という言葉がはやっているが、3.11以降の政府対応について多くの疑問が残されたままだ。全分野にわたる検証責任はいま、自公政権の側にある。
●復興予算マジック
前政権との違いを最大に印象付けようとしたのが復興予算の増額だ。参議院選挙に向けた景気対策の意図が露骨であり、「5年間19兆円」からの増額が一人歩きしている。民主党政権の復興予算は「5年19兆円」と同時に「10年23兆円」でもあった。10年の長さで見れば、新政権の25兆円と大きな違いはない。
問われているのは依然として、必要な所に必要な資金が回るのか、ということだ。
〇財政規律?
政府・与党は来年度当初予算案で「財政規律」を守った、民主党政権のばらまき財政を立ち直らせたと主張した。政権交代後の補正予算の財源にあてられた建設国債を含めると、この説明はウソである。まして安倍首相は「(補正と当初予算を合体させた)15か月予算」で経済対策に打って出ると言っていたのだから、来年度当初予算だけをとって「財政規律」を言うことはできない。政府・与党がこの点をあいまいにしているのは、マジックだと自覚しているからだ。
補正予算案に対して、多くの新聞が「景気底上げへ大判振る舞い」「増額ありきの数字」と書いた。予算の積み上げを指示された各省庁担当者が、無理に無理を重ねてひねり出した数字だ、というのだ。
その内訳はどうか。最重要とされた「復興・防災」の3.8兆円のなかで、復興事業は3千億強。「復興債の減額・償還」が1兆3千億弱、これをあわせても1兆6千億円。残りの2兆2千億が「全国防災」だ。「全国防災」を「震災復興」とタイアップさせる、あるいはもぐり込ませた自民党の手法、つまり「流用」は、そのまま新政権に持ち込まれている。
○「未消化」と「流用」
民主党政権の復興予算で批判された点がクリアされていない。「未消化」は会計検査院が指摘した。「予算の4割が使われていない」。「人手不足」と「資材高騰」が、予算未執行に大きく影響していた。そのため、予算が組まれても消化できないだろうと何度も指摘されてきた。
この点を新政権が熟考したとは思えない。予算をつければ復興は加速する、という立場だ。自民党はどうして、地元の建設業界が無理だといっていることを尊重しないのか。
それ以上に衝撃的だったのは「復興予算の流用」をあばいた、昨年秋のNHK報道だった。復興は長期の所得増税で支えられる。国民への裏切り行為である。
○復旧・復興と「全国防災」は、分けるべきだ。
中央防災会議が東海以南について見直した津波の数値を、沿岸部住民と自治体はどのように扱うか。街づくりや産業のあり方を根本的に議論せざるをえない。東日本大震災の復興基本方針となった「高台集団移転」はどうするか。結論に至るには、政治と行政の透明性が何よりも必要だ。経済対策上のカンフル剤という短期的な、しかも政略的な視点では、事はまっとうできない。
大震災の復旧・復興事業と「全国防災」は、別の問題だ。震災対策の名目を利用するという姑息な発想では「全国防災」への真剣さを受け取ることはできない。
安倍首相は国会答弁で、公共事業を悪とする「単純なレッテル貼りから卒業」し「思慮深い議論を進めていく」と繰り返した。議論を発展させようというのなら、まず「全国防災」と「東日本大震災」を予算項目上で明確に区分すべきだ。
首相は、公共事業に関して対立する複数の著名な論者を、政権に関与させている。この点も、早晩、問題になるだろう。
○財源と郵政株売却問題
財源はどうするのか。これもあいまいな点が多い。
とくに政府は、民主党政権と同様、「郵政株式売却益」を復興予算にあてようとしている。
政権交代以降、すでに郵政トップ人事が変わっている。鳩山総務大臣(麻生首相)時代、郵政トップが批判され、事実上の更迭にいたった。当時、交代劇は大きな事件だったが、今回はひそかな出来事であり、また特定郵便局長らの大きな態度変更の動きも社会的な関心事になっていない。だからといって「郵政問題」が音もなく進むか。
民主党連立政権誕生直後の株式売却凍結法にかわって、昨年4月、郵政民営化法が「改正」された。これにより自民党時代の「完全民営化」方針は見直されたが、株式売却の道が再び、開かれた。安倍政権の対応が問われる。
(注1)丹波史紀・福島大学准教授
「生活再建実感できる施策を(毎日新聞1月13日)」
「新政権の課題“出番と居場所”>づくりを」(NHK視点・論点/1月21日)
<・・防災・減災に名を借りた公共事業優先の政策によって、被災者の生活再建は一層遠のいていかないか不安をぬぐいきれません。>
(注2)室崎益輝・関西学院大学教授
「2012年積み残した課題(1)“人間復興”を目指す」(NHK視点・論点/2011年12月25日)
<「復興が前に進んでいるのは、ごく一部の地域や被災者」であり「・・復興をあきらめ故郷を離れる人が、後を絶たないという現実を見逃し」てはなりません。>
(注3)「復旧・復興の現状と課題」(平成25年1月、復興庁)
<現状と課題>は項目のみ。全文は復興庁のホームページに公開されています。
○避難者は、ほとんどが仮設住宅等に入居済み。
○主要ライフライン・公共サービスの応急復旧は、速やかに完了。
○広域で見た被災地域全体の鉱工業生産は、被災地域以外との差がなくなりつつある。
○津波浸水地域の住宅再建、高台移転や産業復興、原子力災害による避難者の帰還・定住支援と長期避難者に対する支援が今後の課題。
<現状と課題>
○被災者支援(孤立の防止と心のケア)
○まちの復旧・復興(インフラ等の復旧、住宅再建及び高台移転、災害廃棄物(がれき)処理)
○産業・雇用(産業の復興、雇用)
○福島の復興(帰還・定住支援策の強化、長期避難者等の対策
■以上/宮城全労協ニュース238号(2013年2月3日)