「労働ビッグバン」との対決へ!
(宮城全労協メーデー講演録)
宮城全労協は5月1日、2013年メーデー集会を開催しました。第一部は「労働分野の規制改革攻撃」をテーマに遠藤一郎さん(全国一般全国協議会副委員長)が報告、第二部では「復旧・復興への取り組み」の提起がなされました。
ここでは第一部の報告を掲載します。
政府の各機関での議論が進んでいます。その一定の結論が6月中旬に公表されようとしています。最低賃金審議会や生活保護をめぐる議論もあわせて注視しながら、以下の講演録を活用してください。
なお配布された資料からの転載など、いくつか講演を補足しています。また末尾に注釈をつけています。
●6月「骨太方針」から参議院選挙へ
一ヶ月前に仙台で、東北全労協が主催した講演会があった。講師の浜矩子さんは、多岐な視点から「アベノミクス」を批判した。そのことを前提に、今日の宮城全労協メーデーは安倍政権による「労働規制への攻撃」にしぼって報告したい。
日韓・日中・日露など安倍政権の外交路線、改憲への策動、辺野古新基地建設と4.28式典の強行などが論点になっている。それらの問題も、いわゆる政局問題を含めて省略する。
報告の要点は次の三点。
第一に、政府が経済財政諮問会議のもとに産業競争力会議と規制改革会議を置き、議論していることは、自民党政権時代の「労働ビッグバン」の継続・発展である。
第二に、政府議論の多くが日本経団連の主張と共通している。
第三に、6月「骨太方針」にそれらが盛り込まれる。参議院選挙の重大な争点として、労働側の反撃が必要だ。
日銀新総裁の登場が、いわゆる「アベノミクス」の号砲となった。大型補正予算から新年度予算を通じて、年間で20兆円の公共事業投資、10年間で200兆円といわれている。安倍政権はTPPへの参加を決めている。かつての日米構造協議を思い出す。その結果、どうなったのかという反省が、高い支持率のなかでかき消される勢いだ。
この半年、円安が進行し、株価は上昇している。野田首相が解散を持ち出した昨年11月の局面では8千8百円だった。株を持っている人たちにとっては、素晴らしい回復力だ。株を基礎にした企業にとっての資産価値の観点からも、すさまじい成果だ。輸出企業大手は1円の円安で、たとえばトヨタでは200億円の「利益」、帳簿上の黒字が増えるといわれている。
日銀新総裁は3月に就任した時点では「インフレターゲット2%」を2年をめどに達成すると打ち上げた。最近の発表では「15年度物価上昇率は1.9%となった」。
消費税の3%引き上げ、さらに8%から10%への2%の引き上げが予定されている。それらが当然、一層の物価上昇の要因になる。朝日新聞はこれらをもとに、物価は17年の3月には10%上昇になると書いていた。4年間で10%、単純に割れば年間2.5%。大変な物価上昇だ。
すでに生活必需品の値上がりが進み、燃油も、電力とガスも上がっている。東京電力は3か月連続引き上げた。こうして生活を直撃し始めている。
一方、13春闘での賃上げはどうか。政府による経団連への要請にもかかわらず、大企業のなかでのごくごく一部の動きにとどまり、「賃金置き去り懸念」とマスコミも書いた。「物価だけ上がって賃金が上がらないということはない」(黒田総裁)、「物価が上がれば年金額も上がる」(安倍首相)と懸念解消に躍起だ。
●「成長戦略」とは?
金融や財政出動はあくまで導入句で、それだけではどうしようもない。「3本の矢」の最後、「経済成長戦略」が決定的だとさかんに言われている。しかしそれは、真っ赤なウソであることが赤裸々になっている。小泉政権下でいわゆる「トリクルダウン」が構造改革の推進論拠として持ち出された。政権の後半に批判の嵐にさらされたためか、安倍政権ではこの言葉は意図的に隠されているようだが、「トリクルダウン」論が政策の前提となっていることは明らかだ。
安倍首相は、日本を企業が世界一、活動しやすい国にすることだと強調した。資本が海外から日本に入ってきて、自由に動く。そういう国にすることが成長戦略であり、そのために「規制改革」が必要だ。国内産業をどうするのか。依然として、はっきりしない。とにかく「規制緩和」「規制改革」だと(*注1)。
首相を頂点に経済財政諮問会議が発足し、そのもとに屋上屋を重ねるように産業競争力会議と規制改革会議が組織され、そこに小泉政権時代に名をはせた人物たちが復活している。たとえば竹中平蔵元大臣は、規制を全部改革すればいいのだが、抵抗勢力がいてすべて撤廃というわけにはいかないので妥協しているのだと言っている。
どんな議論がなされているのか。産業競争力会議、規制改革会議、そして日本経団連の資料を検討してみよう。マスコミ報道も含めて、聞こえのよい表現も多用されているので注意が必要だと、あらかじめ注意喚起しておきたい。
●「解雇自由」(民法)を持ち出す議論
産業競争力第四回会合(3月15日)に「人材力強化・雇用制度改革について」(長谷川閑史、テーマ別会合主査)という提起がなされた。
少子化対策、教育制度改革、若者・女性・高齢者の雇用・活躍、外国人の積極活用、国内雇用の確保の項目が並んでいる。最もスペースをとっているのが「雇用制度改革」だ。そこで三つの重点施策(*注2)があげられ、そのための具体策が次のように5点、示されている。
1.多様な働き方を差別なく認める(画一的な正社員中心主義を改める)
2.労働市場の流動性を高め、失業を経由しない成長産業への人材移動を円滑にすると同時に、セーフティネットを作る
3.再就職に向けた労働者の教育・訓練・職業紹介
4.若年労働者の職業訓練・見習雇用支援
5.解雇ルールの明確化
1点目で「多様な労働契約(3年超の有期雇用、地域限定、職種限定、プロジェクト限定など)の自由化」とある。労働基準法では有期契約の最長は3年と定められているが、それを延長する。そして「地域限定、職種限定、プロジェクト限定」の社員をつくる。さらに「過剰な派遣労働規制、有期雇用規制の見直し」を進めるとある。有期雇用規制(労働契約法新18、19、20条)は4月1日に施行されたばかりだが、早くもその見直しを持ち出している。
5点目では「解雇ルールの明確化」を要求している。民法627条には、いわゆる解雇自由の原則がある(*注3)。解雇自由と書かれているわけではないが、2週間の予告で契約は解約できるとある。それを労働契約法に明記しろと要求している。これはウルトラな要求だ。
民法の「契約自由」のなかに労働契約も入っているというのが、解雇自由論者の基本的な考え方だ。しかし、労働基本権はきわめて大切だという視点から、特別法として民法の上につくられてきた。
そこには実際の歴史的な経緯があり、労働者の闘争によって、解雇自由を認めないという判決を勝ちとってきた。解雇乱用は認めないのだと。整理解雇の4要件もそうだ。会社が経営上の都合で解雇する労働者にはなんの責任もない整理解雇は、それが絶対必要、努力を尽くしても解雇に代わる方策がない、人選基準を平等にしなければいけない、労使の話し合いが必要、という4つの項目を満たしてはじめて成立する。これも労働者の闘いを通じて積み上げてきたことだった。そのように労働者の解雇にはさまざまな制約や規制を加えてきたが、その歴史を反故にしようということだ。
●「雇用改革」三つのシナリオ(規制改革会議での議論)
一方、規制改革会議(第4回、3月8日)はワーキング・グループによる検討項目と、それぞれの優先事項を示した。「健康・医療」「エネルギー・環境」「創業等」と「雇用」の4分野であり、「雇用」のワーキンググループは8つの検討項目をあげ、「働きやすい労働環境の整備」のなかの2項目にあたる「勤務地や職務限定」型労働者の雇用ルールと、職業紹介事業の見直しを優先事項とした(*注4)。
このような議論の理解のために、規制改革会議の「雇用ワーキング・グループ」の資料、「雇用改革の「三本の矢」〜人が働くために」(3月28日、第一回会合)を見てみよう。提出者は座長である鶴光太郎という慶應大学の教授だ。今の財界の主流とは言えないまでも、新しい考え方がそこにある。
●「シナリオ1」〜「デフレ脱却と賃金上昇のために」
彼は、企業は雇用調整に関して「数量調整」よりもあまりに「価格調整」に頼りすぎたのではないか、労働者の数の調整よりも、賃金の調整つまり「賃金の抑制・低下及び非正規雇用の活用に頼り過ぎたのではないか」と「失われた20年」を振り返っている(このような分析は、いくつか公表されている)。非正規雇用の拡大はまずかったのではないかと聞こえなくもない、そういう表現を使って彼らなりの総括をしている。
「春闘」にも言及している。「日本のマクロ経済の大きな特徴であった「春闘」という言葉も形骸化」し、「基幹産業の賃金引上げが国全体に均てんしていくプロセスの消滅」と現状を評価している。
春闘はもともと大企業での賃金引上げが中小企業の闘いに引き継がれ、公務員闘争と合流し、それが年金にまで波及していった。労働者の春闘は、6月から7月にかけて米価を中心とする農民の闘争に大きな影響を与え、事実において二つの闘争は連動した。
こうした基幹産業の賃上げが国民全体の生活の引き上げにつながったという意味での「春闘」はなくなった。だからどうすべきなのかと、向こう側が指摘している。
こうして「今こそ、「価格調整」に偏り過ぎた雇用を巡る調整のバランスを取り戻すべき時では」と課題を組み立てる。そこで強調されているのは、「賃金を上げるのであれば、雇用の柔軟性を高める政策を実行すべき」だというもの。そして企業・経営側にとって「6重苦」の一つと(デマとして)宣伝されている労働規制への対処を求める。
実はこの出発点的論理が分からない、というよりもデタラメだ。資本主義の下では労働力も商品だから(世間的には労働力市場という言葉が当たり前のように通用している)、その動きには市場の論理が働く。その市場の論理では、雇用が柔軟化されれば買い手市場化が強まり、賃金は下落する。そうしたメカニズムは経験的にも十分に実証済みだ。だから労働組合自身、労働力カルテルとして出発している。つまり、賃金を高めるための雇用柔軟化、という理屈は、最初から嘘をごまかす御都合主義の作文にすぎない。
しかしいずれにしろ、こうしたことの結論として「雇用改革の3本の矢」と称し、「出」(企業から人が動く、正社員改革)、「入」(企業に人が入る、民間人材ビジネス規制の見直し)、「中」(就業までのサポート、セイフティネット・職業教育訓練の強化)が提示されている。
●「シナリオ2」〜「人口減少に負けない成長力強化」
また「長期的な観点からは、人口減少社会への対応が重要」であり、「成長力強化のためには、女性・高齢者等の労働参加促進と就労者すべての生産性向上が必要」と主張している。
「女性・高齢者の労働力率」を高めるためには「多用な働き方」が必要であり、生産性向上のためには「人的資本強化」「労働再分配の促進(人が動く)」の方策が求められるという。
●「シナリオ3」〜「労働市場二極化是正」
ここでレポートは再度、「労働市場二極化是正」に戻る。「数量調整」より「価格調整」に頼った結果、正規社員と非正規社員に二極化した。非正規社員はいま35%、ある統計によると37%までになっている。このような労働市場の二極化を是正する必要があり、「有期雇用など正社員になれなかった不本意な非正規雇用の増大、雇用形態による処遇格差」が問題になっているとして、このような非正規雇用の増大は「訓練・能力開発機会の減少等による生産性低下や、社会的一体性の喪失につながる恐れも」あると指摘する。
そういう問題を克服するために、非正規雇用を正規雇用に転換させる必要があり、そのための「転換サポート」が問われていると、このレポートはつなげていく。「合理的理由のない不利益取扱い禁止など、非正規雇用対策を進める必要がある」と書かれていて、ここだけ見ると、なかなかいいことじゃないかと思われるかもしれないが、しかし「正規雇用への改革も含めて行われなければ二極化の抜本的な解決なし」という文が結論として続く。
つまり二極化は問題だが、是正のためには非正規雇用ではなく、正規雇用を改革する必要があるということになる。
●「人が動く」その鍵は「正社員改革」
こうして「3つのシナリオ」は、いずれも「人が動く」ことがカギだと結論付けられている。その具体例として、2章以降、いろいろな項目がつらなっているので、ぜひ検討していただきたい(*注5)。あげられている中心課題は「正社員改革」であり「民間人材ビジネスの規制見直し」であり「セイフティネットの整備、職業教育訓練の強化」だ。
正社員改革の焦点に「解雇ルール」がある。「多様な形態による労働者に係る雇用ルール」、その「整備」が必要だという。ここで最初に指摘した産業競争力会議の議論と関連していく。「勤務地や職種が限定されている労働者についての雇用ルールの整備」が優先的検討課題に設定されている。「労使双方が納得する解雇規制の在り方」、「解雇に係る規制の明確化、解雇が無効であった場合の救済の多様化」も検討事項だ。
さらに労働時間規制の見直し、「働きやすい労働環境整備」として、企画業務型裁量労働制の見直し、フレックスタイム制の見直し等が続く。
こうして、非正規雇用が問題だ、二極化した結果としての非正規の処遇も問題なのだと言いながら、それを克服するためには正規社員の解雇ルールを見直せと主張している。その延長には「ホワイトカラーエグゼンプション」、いわゆる残業ゼロ法案、過労死法案がつながっていくだろう。
座長である鶴光太郎慶應大学教授の別の文書を読むと、これらの議論の焦点が「正社員改革」にあることが浮かび上がってくる。
従来の正社員、期間の限定がなく転勤も配置転換も要求されるような正社員は、労働者の一割いればよい(かつてペンシル雇用といわれ、鉛筆の芯だけあれば残りは有期雇用だけでよいという議論があった)。非正規社員は、さきほど取り上げた意味で弊害があるから、減らしていかねばならない。残りは、職種限定社員、勤務地限定社員、プロジェクト限定社員という「正社員」につくり変えていく。そのように分解していって、今の非正規社員の一部も正社員に組み入れる。
そこで解雇ルールの見直しと結びついてくるが、職種や勤務地やプロジェクトが限定しているという場合の正社員とは、その職種や勤務地やプロジェクトがなくなれば、解雇の手続きなしにクビが切れる、そういう正社員だ。この点は、また後にとりあげたい。
●経団連の労働法制改革の提言
ここまで政府の二つの機関、産業競争力会議と規制改革会議で検討されていることを見てきた。そこで考えられていることには共通性がある。ある意味で非常に斬新に見えながら、落とし穴が多くあることもわかる。そのことを前提として、日本経団連が何を考えているのか、これら二つの政府機関との関係はどうなのか、次に検討したい。
日本経団連は4月16日、「労働者の活躍と企業の成長を促す労働法制」という提言を公表した。そのはじめに経営労働政策研究会報告が取り上げられている。経団連は春闘対策として出している報告書に、今年、三つの要望を示した。第一が労働時間制度改革、第二に勤務地・職種限定の無期契約労働者に対する使用者の雇用保障責任明確化、第三に労働条件不利益変更ルールの明確化の三点だった。
4月16日の提言は、これらの要望について具体的な内容を取りまとめたものだ。経団連はそのように位置づけながら、まず、前提として次のように主張している。
法人実効税率の引き下げ、社会保険料(企業)負担の軽減、エネルギー・環境政策の転換、労働規制の見直しについて、「一気に実施」する必要があるという主張だ。
今日のテーマは労働政策に限定しているので、一言だけにとどめたいが、エネルギー・環境政策の転換とは、3・11以降の事態の中で、あれやこれやがあった上で「原発依存からの脱却」といった民主党の方針、いわゆる「脱原発」の方向性があったが、そこからの転換だ。これを労働規制見直しなどとともに一気に実施する必要ありと日本経団連が主張していることは特筆されるべきだ。
●「ホワイトカラーエグゼンプション」への再攻撃
経団連はこの提言で「労働者が働きやすく、透明性の高い労働法制に向けた具体策」として、次の三点をあげている。
第一に「労使自治を重視した労働時間法制改革」、第二に「勤務地・職種限定契約における使用者の雇用保障責任ルールの透明化」、そして第三に「労使自治を重視した労働条件の変更ルールの透明化」。
第一の「労働時間法制の改革」では具体的に次の五点をあげている。「企画業務型裁量労働制の見直し等」「フレックスタイム制の見直し」「変形労働時間制の見直し(天災時のカレンダーの変更)」「特段の事情がある場合の36協定の特別条項に関する基準3の柔軟な運用」「休憩時間の一斉付与規制の撤廃」。
第一項目「企画業務型裁量労働制の見直し」については、「対象業務と対象労働者の範囲」を見直せ、手続きを簡素化せよなどと主張している。労働時間について労働者が自分で一定の範囲で「裁量」して働いたとみなすのが裁量労働制だ。つまり企業が労働者に労働時間管理をゆだね、そのうえでトータル何時間の労働と把握する。このことを拡大していくと「ホワイトカラー・エグゼンプション(労働時間規制の適用除外)」にいく。そこで経団連の具体策は「事務系や研究・技術開発系等の労働者の働き方に適した労働時間制度」とつながっていく。
企画業務型裁量労働は職種が限定され、手続きも面倒だ。この法律にしばられているために広がっていかない、実際にこれを採用している企業は5%とか6%しかない。したがって、このような労働を広げていくことが必要だと経団連はいう。その主張は、ホワイトカラーの労働時間管理を外してしまうということに行き着く。
いわゆるホワイトカラー労働者はどのくらいいるだろうか。この闘いを展開した当時、厚生労働省の労働者分類で約57%だった。要するに、事務系の一部の労働者は労働時間の管理が難しいので、そこは自由にしようという話ではない。6割の労働者が対象になる。
さきほど開会にあたって宮城全労協から、メーデーの出発は8時間労働だという話があった。それを超えれば残業になり割増賃金だと。ところが労働時間規制から外すということは、何時間以上働いたら残業という当たり前のことがなくなることを意味する。だから、前回の攻撃の時には「残業代ゼロ法案」「過労死促進法案」だと廃案に追い込んだ。経団連が望んでいるのは、これを通すことだ。
●勤務地・職種・プロジェクト限定の正社員
二点目の「勤務地・職種限定契約における使用者の雇用保障責任ルールの透明化」。勤務地限定、職種限定、プロジェクト限定の正社員をつくる。そこまではなんとなくありか、という印象を与えるかもしれないので、経団連の意図をはっきりさせる必要がある。
たとえばスーパーのレジ担当で働いている場合、いきなり仙台から石巻へとはならない、そういうことで働いている。その意味では勤務地限定だが、そのような労働者は圧倒的に非正規雇用だ。しかし、そこに非正規はひずみがありすぎるから正規にしなければならない、という先ほどの話をもってきて、だが正規にすると解雇規制がきつすぎるから正規社員にできない、と言う(実際は正規の解雇規制がきつすぎるということはなく、むしろ2008年のOECD30カ国の国際比較によれば緩い方から七番目であり、まさにデマなのだが、そのような解説が堂々と流布されている)。
全国、たとえば東京で採用されて北海道に飛ばされても文句を言わない、企業に縛られている、そういう正社員の実態がある。本当はそれを問題にし変えなければならない。しかし今、議論されているのはそれをすり抜けて、あるいは当たり前のあり方として決めつけて、勤務地や職種、プロジェクト限定の正社員を作ろうという話だ。そして、企業にとっては解雇できなければこまる、せっかく非正規を増やしてきているのになぜ正社員にして抱えなければならないのか、という身勝手な話だ。
そこで、そういう人たちのために「雇用保障責任ルール」をつくって、「特定の勤務地ないし職種が消滅すれば契約が消滅する旨を労働協約、就業規則、個別契約で定めた場合には、当該勤務地ないし職種が消滅した事実をもって契約を終了しても、解雇権濫用法理がそのまま当たらないことを法定化すべき」だ、そういうシステムを入れるべきだと主張している。
●経団連の求める労使自治
もう一つ重要な点は、経団連提言の底に流れる考え方は「労使自治の尊重」だということ。
労働基準法がきわめて画一的で、企業実態を反映していない部分があると経団連は主張している。しかし、労働基準法が画一的でなくてどうするのか。最低基準を法で定めて、それ以下で働かせたら刑事罰を含めた罰則を適用する。これが労働基準法だ。その意味で、労働基準法が「画一的」であるのは当たり前だ。
画一的な労働基準法のレベルを越えて処遇する場合に、企業は柔軟でいい。たとえば残業代は二割五分増しといっているけれど、自分のところは三割やろうと。あるいは五割にしようと。これは労使の自治でやっていい。しかし、最低レベルは画一的でなければならない。そうでなければ基準に値しない。経団連は、これがダメだ、企業実態を反映していない、だから「集団的労使自治を尊重」する仕組みへ見直せという。企業労使に任せろ、それでうまくいくというわけだ。要するに経団連は基準ゼロの世界を求めている。
それはどういう世界か。たとえば先にあげた4番目の項目に「特段の事情がある場合の36協定の特別条項に関する基準の柔軟な運用」とあり、「全体として一年の半分を超えない」という要件を緩和せよと主張している。限度時間を超えて労働時間を延長するための特別条項があり、厚生労働大臣の通達で「詳細な定め」が決められている。経営側は、そういう問題について画一的に決めるな、労使自治でうまくいっているからと主張している。
「特段の事情がある場合」には特別条項を発効して長時間残業の申請をして認めてもらう。この特別条項で年間最大1千時間あるいは1千5百時間働くことができるという特別協定を結んでいる大企業がある。これは本来おかしいのだが、厚生労働省は受け入れてしまっている。しかし、この協定は過労死問題でいつも批判の対象となっている。
会社の役員と「モーレツ社員」、そして会社の幹部予備軍たちが担っている大企業労働組合。そういう構造にまかせておけば、いくらでも長時間の働かせ方ができる。そういう実態があるなかで、経団連は「労使自治」にまかせろと言っている。逆に言えば、労働組合が問われている。
●「雇用維持型から労働移動型」へ
こうして、政府の機関でいま議論している労働分野の規制改革と経団連、つまり日本の総資本が考えていることが非常に似ていることを見てきた。さて、そのような議論はどこまで進んでいるのか、そしてどのような反撃が求められているのか、最後にとりあげたい。
あらためて、いま考えられている「雇用制度改革」の特徴はなにか。その主要項目を見ていこう。
第一に「雇用維持型から労働移動型」へ政策をシフトさせる。これまで日本の雇用調整は「雇用維持型」だったというが、政府や経営側の言い分だ。そこから転換して「維持」ではなく「移動型」にする。これが前提的な主張となっている。
仕事が減った。次に仕事が戻る、景気が回復する、そのときまで労働者をどうして抱えていくか。そのような現実を前にして、中小企業は雇用調整助成金を使ってしのいできた。労働者を維持している間に生産が戻れば、助成金を打ち切る。そのような国のシステムによって、景気変動があっても雇用を守ろうとしてきた。私たち労働組合も、このような国の制度を活用してきた。
いま、この制度が攻撃されている。保護が淘汰をじゃまし、不採算部門の維持につながった。そういうことは、もうやめようという構造改革路線の一環である。
そこで何が検討されているのか。雇用調整助成金のあり方を変える。それを縮小し、かつ性格を変える。
リストラをした企業に、労働者の教育訓練費用を補助する。労働者が次の企業に移ることができるための職業能力開発の教育費して、民間の職業教育ビジネスに資金を与える。労働者に直接、資金を渡すのではない。これまで雇用調整助成金として使われてきた資金は、人材ビジネス企業に回るのだ。これでは企業に対するリストラ補助金ではないか。人材ビジネス支援ではないか。
厚労省が政府会議に提出した資料によれば、「行き過ぎた雇用維持型から労働移動支援型への政策シフト」として、「離職する労働者の再就職支援を民間人材ビジネスに委託した事業主に助成する労働移動支援助成金を抜本拡充」する。
しかも、雇用調整助成金は、本来、中小企業が対象だったが、そこに大企業も入れる。中小企業対象であり、労働組合も労働者のために積極的に活用してきた助成金を、大企業に流す。厚生労働省では、年間8千4百億円ほどが雇用調整助成金としてあった。それを縮小しつつ、移動させる。企業はどんどん雇用を縮小すればよい。新しい雇用支援のための助成金は企業に回す。首を切られた労働者は、企業から勉強先を紹介される。勉強しても、次の就職先は分からないだろう。あったとしても、移動先を示されるだけだろう。それが、ここでいわれている労働力移動のシステムの実態だ。このことがいま、予算も含めて、実行されようとしている。
●「限定正社員」「第二正社員」
限定正社員というものをつくって、解雇をしやすくする。同じく厚労省の資料では「「二極化」した働き方から「多元的」な働き方へのシフト」とある。ここには「多様な正社員」、つまり職種限定とか勤務地限定の正社員の解雇に対する雇用管理上の留意点、そのモデルが示されている。
第二正社員とか限定正社員は、この間、政権交替を期に急速に広められている言葉だ。こられの施策は法改正で進められるのではない。
「雇用管理上の留意点について、有識者の懇談会等でとりまとめ」とある。それで「企業での試行的な導入」がされ、多様な正社員モデルの「普及・促進」となる。
就業規則や労働協約でこう書けば、解雇をこのようにできるという指導書を「有識者の懇談会」でつくる。それを厚生労働大臣の指針として流す。だいたい、就業規則を見せろと労働組合が要求しても、なかなか通らないなかで、こういう事態が進行していくとどうなるか。正社員雇用の拡大だと喜んでいては、とんでもないことになる。そういう仕掛けを、向こう側がしている。
職種とか勤務地が限定された正社員は、それがなくなったと言われた瞬間、自分たちの職場にいることはできなくなる仕掛けだ。それが書いてあるか、それを労働者が雇用された際に見ることができるか。法律を遵守して就業規則を開示している企業は、実はそれほど多くはない。
日本郵政の非正規労働者は就業規則の定年制規定を楯に解雇されたが、その就業規則は彼らに公開されていなかった。もちろん就業規則は労働者の同意を必要としない企業側の規則だから、そこに書かれているからといって、それがそのまま法的に有効になるわけではない。しかし、それでも経営側は、それを徹底的に活用しようとするだろう。
しかも、その一連は法改正ではなくて、有識者の懇談会でとりまとめる。厚生労働大臣の指針などにゆだねて行く。このような動きで、いわゆる第二社員問題が進もうとしている。
●ハローワーク見直しと国際先端テスト
ハローワークの見直しは、これまでも規制改革の主要テーマになっていた。人材移動や紹介などを労働省が国の業務として独占的に行っているのはおかしいと問題にされ、かなりの部分が民営化されてきた。民間企業の参入が進んでいるが、もっと進めろと特区構想が考えられている。
さらにいま、新しい取り組みとして「国際先端テスト」なるものが経済財政諮問会のなかで注目を集め、それを実際に使う動きが広がっている。ある分野でいちばん活用されている諸外国の例を調べ、それを日本に適用する。ある分野について各国の状況を調べ、最もうまくいっているとされる例になぞらえて日本のシステムを変える。そのテストの対象にハローワークや民間人材ビジネスがそのテストの対象になっており、この分野が大きな焦点になっていることを示している。
労働時間法制の改訂についても、「裁量労働制」は今秋にも総合的に検討を開始し、労働政策審議会へ送り、来年国会上程をめざすとされている。「時間外労働規制」の緩和については、提案はされているという状況だ。
先ほど説明したホワイトカラー・エグゼンプションの導入には、前の安倍政権時代のいきさつもあり、労働側と世論の批判が根強くある。労働政策審議会については、労働関係の法律を決めるときには公労使三者の審議会で事前に検討し、その答申に基づいて扱わなければならないというILOの勧告を日本は守っている。前政権時代、その労働政策審議会にかかって、やると決まった。ところが反対が強くて国会上程を断念しており、現安倍政権の動きが注目されている。
●「解雇ルールの見直し」「金銭解決」
いま、最も注目されているのが「解雇ルールの見直し」だ。
金銭を払えば解雇できるという「再就職支度金」の提起がある。「支度金」として一定額を支払って解雇する。「解雇自由」論者の主張だ。しかし、そんなものは世界のどこにもない。さすがに、これは例がないと経団連も認めている。ドイツにもないと、厚労省もいっている。したがって、これは無理だろうということになってはいる。
今日のメーデーで労働側が「解雇自由は許さない」という主張を強く押し出していたのは、そのうえで、次の論点がからんでいる。裁判で労働者側が勝ち、労働契約が残った。その契約を金銭で解消する(*注6)。
つまり、解雇された労働者が、これは不当解雇だと提訴し、解雇無効で勝利する。勝てば当然、復職だ。それまでの賃金もバックペイだ。ところが、経営側がいま主張しているのは、裁判までやれば労働者は大変だ、勝ったにしても職場に戻るのは難しいだろう、だから金をやるからやめてくれ、と。これが「解雇の金銭自由化」の一番のねらいだ。
裁判で勝利した後、戻ることは現実的にはなかなか大変なので、金で解決することがあってもいいのではないかと、いかにも労働者側に同情を示しているかのようにそれを提起している。入り口の「支度金」で解雇というのはひどすぎるという意見が今、大勢だ。裁判で労働者が勝ち、使用者が負けたときに、こういうシステムがあれば、労働者の救済になるのではないかという、聞こえの良い話だ。
しかし、私たちはこれまで、いくつもの例を見てきた。たとえば大企業から解雇され、長期裁判の末に全面的勝利したが、会社側は将来にわたる賃金相当額の支払いまで提起して、絶対に復職させたくないという意図をあらわにした。そのようななかで職場復帰ではなく金銭支払いで退職という選択も実際にはあった。しかし、それはあくまで対象の労働者が合意した上での選択だ。
いま検討されている制度はそういうものではない。労働者の同意が不要な、労働者に有無を言わせず強要できる制度だ。
しかも、退職時までの賃金をもって契約を解消するということではない。推進側は、労働審判で解雇が争われた実態を調査している。金銭解決の金額は10万円から20万円が40%だという。1回、あるいは3回程度の審判で決められる労働審判だから、金額は低く出るだろう。その「統計値」を「金銭解決」に適用しようという。
こういうことを許せば、労働者にとってどうなるか、明白だと思う。「金銭解決」のルールで最大50万とか100万となっていけば、たとえ裁判で勝ったとしても50万、100万で終わると使用者側は圧力をかけるだろう。損ではないか、と。まさに、これは「解雇自由」に道を開くだろう。
たとえ裁判で負けても解雇するのが先決だと、労働組合攻撃の武器に使われることにもなるだろう。不当労働行為だ、組合つぶしだと言われようが、気にくわないやつは解雇すると。
これが、いわゆる「解雇ルールの見直し」という向こう側のポイントだ。これを許してはいけない。
●「労働ビッグバン」と対決する闘いをめざして
さらに「派遣法の規制緩和」「労働契約法、有期規制の撤廃」「女性の雇用機会の拡大」「労働条件不利益変更ルールの明確化」と続く。その内容について、ここでは省略せざるをえないので、今後の検討の場に移していただきたい。
「女性の雇用機会の拡大」について一言加えれば、パート労働法の改定が去年の労働政策審議会で、建議までされている。しかし、法案要綱も出てこない。そのような実態があるなかで、安倍首相は数日前、「成長戦略」の重要項目として「女性」を取り上げ、育児休暇の3年への延長を強調した。ところが、3年延長に何の保障もない。実効性はまったくない。その前に政府はまず、パート労働法をきちっとやるべきだ。育児を語るならば、男にも等しく責任があることをはっきりさせるべきであり、その上で大幅時短にまじめに取り組むべきだ。
以上、「第二正社員」や派遣法改悪、「解雇自由」の金銭解決を許してはならないなど、重点テーマを確認しながら、向こう側のねらいの全体像をとらえて反撃の道筋を立てていくことが必要だ。
「解雇の自由」「金銭解決」に反対するということについては、労働界の共通の主張だ。全労協は「労働ビッグバン」に対抗するプロジェクトを立ち上げ、闘いを進めている。
自民党政権時代、ホワイトカラー・エグゼンプションを粉砕したときは、労働弁護団や過労死弁護団、労災職業病との闘いをはじめ、全国からの様々な合流があり、共同アピールを出して闘った。5月15日は日本労働弁護団の主催する集会がある。様々な闘いが組織され、合流していくことが問われている。
安倍政権下で進められている議論には、民主党政権時代とは一変して、労働側はいっさい参加していない。三者原則は無視されている。安倍政権は6月に「骨太方針」を提示し、7月参議院選挙にむかう。そして、その勝利によって、全面的な攻撃に出ると言っている。「労働ビッグバン」を許さない闘いを労働運動は組織し、安倍政権の野望に反撃していこう。
(以上)
(注1)参照:「世界で一番ビジネスのしやすい環境をつくる」
(地域活性化担当大臣・新藤義孝/第6回産業競争力会議資料〜
第1回国家戦略特区ワーキンググループ会議(5月10日)配布資料)
(注2)雇用制度改革「重点施策」
●雇用維持型の解雇ルールを世界標準の労働移動型ルールに転換するため、再就職支援金、最終的な金銭解決を含め、解雇の手続きを労働契約法で明確に規定する
●雇用維持を目的とした現行の雇用調整助成金を基本的に廃止し、その財源をもって、職業訓練バウチャー、民間アウトプレースメント会社等の活用助成など、人材移動を支援する制度に切り替える
●ハローワークの持つ求人情報や各種助成金を民間開放して、紹介・訓練・カウンセリング・アウトプレースメントなどを一体的・効果的に提供できる仕組みを作る
(注3)民法627条には「雇用に期間の定めがなければ各当事者はいつでも解約の申し入れをすることができ、申し入れ後2週間の経過によって雇用は終了する」とある。この民法627条に明記されている解雇自由の原則を労働契約法にも明記し、どういう場合には解雇を禁止するか、あるいは解雇の際に労働者にどういう配慮をすべきか、といった規定で明文を設けるべき」
(以上、注2と注3は「人材力強化・雇用制度改革について」よりの引用)。
(注4)規制改革会議、雇用ワーキング・グループの検討項目(3月8日)
1.働きやすい労働環境の整備
(1)より多様で柔軟な働き方を可能とする労働時間規制にするために、企画業務型裁量労働制の見直し、フレックスタイム制の見直し等をはかるべきではないか。
(2)勤務地や職務が限定された労働者の雇用に係るルールを整備することにより、多様で柔軟な働き方の充実を図るべきではないか。
2.労働条件の変更規制の合理化
3.「付随的業務」の範囲等の見直し
4.派遣元の無期雇用労働者に関する規制の緩和
5.医療関連業務における労働者派遣の拡大
6.職業紹介事業の見直し
求人者と求職者のマッチングを促進する観点から、有料職業紹介事業における年収要件の引下げ、「経営管理者」の限定の柔軟化等を行うべきではないか。また、ハローワークと民間人材ビジネスの補完関係の強化等を行うべきではないか。
7.高卒新卒者採用の仕組みの見直し
8.労使双方が納得する解雇規制の在り方
〜以上のうち、1の(2)と6が優先事項。
(注5)「雇用改革の「3本の矢」」〜第2章以上の項目
2.雇用改革の「3本の矢」の具体化例
(1)正社員改革
(2)民間人材ビジネスの規制見直し
(3)セイフティネットの整備、職業教育訓練の強化
3.雇用(規制)改革を行うに当たっての7原則
4.今後の進め方・検討課題の仕分けについて
(1)優先的検討事項
(2)その他の検討事項
(注6)
「「金銭解決」というと誤解されがちだが、お金を払って解雇するのではない。それを認めると「気に入らなければクビ」がまかり通る。人間の尊厳に関わり、そんな制度はどこの国にもない。あくまでも、解雇が裁判で不当と判断された場合に、働き手が受けられる救済措置の選択肢を増やすことが目的だ」(鶴光太郎・規制改革会議「雇用ワーキンググループ」座長、朝日新聞4月26日インタビュー「転職のしやすさ探る」より)
■以上/宮城全労協ニュース243号(2013年5月28日)