宮城全労協ニュース/第248号(電子版)/2013年8月7日

最賃「目安」14円にとどまる



 厚生労働大臣の諮問機関である中央最賃審議会の小委員会は8月6日、2013年度地域別最低賃金の改定「目安」額をまとめた。「目安」は7日、田村厚労大臣に答申された。

 宮城(時給685円/生活保護費との逆転差額9円)の引き上げ目安は「10円」だった。「目安」が示している主な特徴は次の通り。


○全国平均で時給14円の引き上げ(昨年度749円から763円へ)。

○全国4つの「ランク別」では「A」19円、「B」12円、宮城など「C」と青森・岩手・秋田・山形・福島など「D」10円。

○「生活保護費との逆転」については、昨年度引き上げで11都道府県から6都道府県(北海道、宮城、東京、神奈川、大阪、広島)となったが、今年度審議会の調査によって新たに5府県(青森、埼玉、千葉、京都、兵庫)を加えて11都道府県に戻った。

 このうち北海道を除く10都府県は、今年度改定目安によって「逆転解消の見通し」と報じられている。22円の差がある北海道については「11円から22円」という引き上げ幅が示され、「2年以内に、できるだけ速やかな解消に向けた審議を行う」とされた。

○大都市圏と地方との格差はさらに拡大する。目安額によれば、東京は869円。一方、島根や高知は662円、沖縄が663円、岩手663円、青森・秋田・山形664円などとなる。


 マスコミ各社は「安倍シナリオ反映」(読売新聞)「政権主導」(朝日新聞)など、安倍政権の積極的な姿勢により「3年ぶりの二ケタ」「高水準」となったと報じた。

 しかし、第一次安倍内閣の2007年も14円だった。それは小泉政権の最賃抑制に批判が高まった結果の引き上げだった。その後、福田内閣は16円、リーマン・ショックに直撃された麻生内閣でも10円だった。政権交代の2010年は「目安」が15円、引き上げ額は17円となった。「14円」が「前例のない、異次元の政策」という触れ込みに対応する額だとは、とうてい言えない。

 公共料金や輸入関連品など生活物価の上昇が始まっている。生活保護費の削減が開始され、年金減額から消費税増税と続く。政府はデフレ脱却のためには賃金上昇による個人消費の拡大が必要だと説明している。しかし「14円」を賛美するようでは、政府の説く「好循環」が回転するわけがない。最賃水準で働いている労働者たちの生活改善は、競争力や規制緩和を論ずる人々が想定する「好循環」の環に正当に位置づけられてはいない。

 しかも、安倍政権による生活保護費削減が、来年度以降の最賃引き上げに影響を与えるだろうとの観測が出始めている。たとえば読売新聞(8月7日)は「「逆転現象」ほぼ解消へ」と題した記事の中で、次のように指摘している。「ただ、今回の審議で比較された生活保護のデータは2年前の実績値だ。生活保護費は今年8月から引き下げが始まっているため、実際に最低賃金が引き上げられる10月以降は、逆転現象はほぼ解消されるとみられる」。

 北海道新聞は目安答申前の8月4日、生活保護費の減額と北海道内の最低賃金との逆転(現在22円)について「遅くとも2015年度には解消される見込み」と報じた。同社の試算によれば「(道内の)最賃が現在の時給719円で据え置かれたとしても、1時間当たりに換算した生活保護受給額は減額前の平均741円から15年度は696円に下がる」という。記事は「ただ、生活保護の減額によって逆転が解消されても、最低賃金の引き上げ議論にブレーキがかかってしまうマイナスの影響を懸念する声が出そうだ」と指摘している。

  
 宮城全労協は7月、宮城地方最賃審議会に意見書を提出し、被災地からの大幅引き上げを求めてきた。8月、地域審議会の動向に一層の注目が必要だ(下掲資料参照)。





資料/宮城全労協(2013年7月17日)

「宮城地方最低賃金審議会への意見書(2013年度)」


 2013年度の宮城地方最低賃金審議会の審議にあたり、宮城全労協は以下の意見及びその理由を述べます。

 歴史的な大震災被災地の最賃審議会が、苦悶する低所得労働者とその家族ならびに地域に希望を与える審議結果を答申することを切望します。



<意見>

1.最低賃金(昨年度宮城685円/時)を全国一律で一千円超に引き上げること
2.「生活保護費との乖離」については、今年度改定において解消すること
3.審議公開の具体的な検討を行い、実現をはかること


<理由>

1.田村厚労大臣の諮問と参議院選挙をはさんだ今年度の最賃審議について
2.インフレ・消費税増税・福祉削減は低所得労働者の生活に大打撃を与える
3.「大震災の甚大な影響」は「逆転」据え置きの理由にならない〜「解消」は審議会の責務
4.大震災被災地から「全国一律最低賃金」の要求を
5.最低賃金と地域を結ぶための審議公開を検討すべき



●1.田村厚労大臣の諮問と参議院選挙をはさんだ今年度の最賃審議について


 7月2日、厚生労働省の中央最低賃金審議会が開かれ、最賃改定の「目安」決定に向けた実質的審議がスタートしました。

 田村厚生労働大臣は審議会に出席し「すべての所得層での賃金上昇と企業収益の好循環を実現」するために「最低賃金の引き上げに努める」ことを求め、「調査審議」にあたっては6月14日閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針及び日本再興戦略に配意」するよう言及した諮問を行いました。

 また7月5日開催の宮城地方最賃審議会でも同様の諮問がなされています。

 田村大臣はこの閣議決定後の記者会見(6月14日)で、前例(平成19年、柳澤大臣)をあげながら最賃審議会への出席と引き上げ要請の意向を示し、「政府をあげて最低賃金を引き上げていくことに協力をお願いさせていただく」と述べていました。

 今年度の最賃審議は参議院選挙をはさんだ日程で行われています。この選挙は「政権再交代」をもたらした先の衆議院選挙につづくものです。政府・自民党は選挙の争点は経済政策だと主張しており、労働者の雇用・賃金に大きな影響を与える選挙となります。

 新政府は今春、経営者団体や大企業に対して「賃金引き上げ」を要請しましたが、これに応える動きはごく一部にとどまり「アベノミクスによる賃金上昇」はいわば空振りに終わりました。そこで最低賃金はどうなるのかと関心が集まっています。実際、7月2日の中央審議会には昨年を倍する傍聴人と報道陣がつめかけたと伝えられています。

 このように注目を集めている最賃審議ですが、田村大臣は二つの重要な点を十分に説明していません。そのことは最賃引き上げに対する政府の姿勢を曖昧なものにしています。

 第一に、前政権での「政労使合意」との関連です。

 2008年7月の改正最賃法の施行から政権交代を経て2010年6月「政労使合意」にいたる過程は、最低賃金引き上げを凍結・抑制した自民党小泉政権時代からの転換を象徴するものでした。貧困、格差、ワーキングプア、派遣切りなどが社会的な問題として噴出し、新自由主義「構造改革」政策の見直しが強く意識されました。政権再交代後の現政権による「すべての所得層での賃金上昇」は以上の経緯とどのような関係にあるのか、明確に述べられていません。そのため、たとえば「合意」に盛られた「官公庁の公契約」への言及を新政府が踏襲しているのかなど、不明なままです。

 第二に、福祉予算の削減、なかでも生活保護費削減との関係です。

 自民党は野党時代に生活保護行政の見直しを強調しましたが、当時の生活保護費削減の主張は「デフレ」を根拠にしたものであり、現在の「インフレ政策」は想定されていません(しかも当時、根拠とされた物価は受給者の生活実態を無視しているとの指摘もなされたほどです)。政府は最低賃金の引き上げに努めるとする一方、8月から生活保護基準を引き下げ、3年かけて平均6.5%、最大10%という大幅削減を実行すると宣言しています。それは生活保護(受給者)を「好循環」の環から排除するものであり、その点でも矛盾しています。

 政府・与党の思惑がどうであれ、インフレ・消費税をはじめとする増税・福祉削減という現政権の政策が、低所得労働者の生活をいっそう悪化させ、格差を拡大させることは明らかです。「賃金上昇なき物価上昇の恐れ」「実感なき景気回復」「アベノミクスの矛盾」などとマスコミも報じています。「好循環」のなかに賃金上昇と最低賃金引き上げを位置づけているのは、政府がそのような批判を自覚しているからだということもできます。

「最低賃金引き上げ」の要請が、選挙対策や政権支持率の維持を意識したリップサービスやパフォーマンスであってはなりません。また最賃引き上げと「労働市場の規制緩和」をリンクさせる動きがあるとの報道もありますが、まったく不当なことです。

 審議会が貧困労働者の切迫した現状認識を共有し、その声に応える審議と答申を行うよう求めます。

 とくに宮城地方最低賃金審議会は「生活保護費との逆転の解消」にとどまらず、大幅引き上げをもって大震災被災地を再建する推進力となるべきです。



●2.インフレ・消費税増税・福祉削減は低所得労働者の生活に大打撃を与える


 田村大臣が「配意」を求めた閣議決定文書は経済財政諮問会議や産業競争力会議など新政権の議論を受けたものです。そこには「再生の10年」を通した「マクロ経済の姿」が描かれており、「実現を目指す」とか「期待される」という表現が多用されています。

 今後10年間の平均で「名目GDP3%、実質2%程度の成長」が期待され、「2%の物価上昇の下、それを上回る賃金上昇につなげることで、消費の拡大を実現し、所得と支出、生産の好循環を形成する」「物価の上昇が想定される中、賃金や家計の所得が増加しなければ、景気回復の原動力となっている消費の拡大は息切れし、景気が腰折れすることにもなりかねない」等々。

「好循環」は社会の実態を無視した、机上の論ではありませんか。何よりも循環の輪が崩れたとき、そこから排除されるのは「弱者」です。好循環には「生産性の高い部門への労働移動」が埋め込まれていますが、転職がスキルアップやステージの飛躍につながる労働者はごく一部であり、多数の労働者は買いたかれることになる。それが「流動化された労働市場」の現実です。

 就業人口の4割に迫ろうとしている非正規雇用、年収200万未満は1千万人超。新政権の「三本の矢」政策に加え「第四の矢」として「分配政策」や「貧困・格差対策」を入れるべきだとする主張が保守陣営からもなされていますが、政府はこれを受け入れようとはしていません。政府が示しているのは「財政規律」であり、「国土強靭化」や「企業減税」によって膨らむ財政支出を穴埋めするのは福祉予算の削減ということになります。


「(2%物価上昇に対応して)全国平均749円の2%、平均15円超の引き上げ」や「(2012年度改定と比較して)前年度12円超が焦点」などとする予測記事がでています。仮にその程度の額では、前政権時代と比較しても大きな引き上げではなく、まして前例なき異次元緩和という政府や日銀の自画自賛ぶりとは全くかけ離れたものです。

 現時点での全国平均である「1時間749円」は1800時間で134万8千円です。このような額がまかり通っていることこそが問題であり、これでは「働く貧困層」の拡大をとめることは不可能です。「健康で文化的な最低限度の生活が営める」という改正最低賃金法の深刻な違反です。

 インフレに加え、福祉予算の削減、消費税などの増税、年金削減が進みます。「介護地獄」が社会問題となってからかなりの時間がたっていますが、葬式代が工面できずに家族の遺体を放置したり、生活困窮者が救いの手もなく餓死に至るような事態が続いており、「アベノミクス」によってますます「社会の底が抜ける」ことが強く懸念されます。

 私たちは「時間1千円超への引き上げ」を求めていますが、最も単純な計算で、1千円で1800時間(月150時間)として年額180万(月額15万円)です。
つまり、この額でも「年収200万円」には到達しないのです。その意味で「時間一千円」は、最賃労働者のこれ以上の困窮と際限なき格差拡大に歯止めをかけ、生活改善に向けた足場を築くために必要な最低限の賃金として実現されねばなりません。



●3.「大震災の甚大な影響」は「逆転」据え置きの理由にならない〜「解消」は審議会の責務


 最低賃金審議の注目点は引き上げ額と同時に、「生活保護費との乖離の解消」の行方です。宮城は昨年度改定でも「逆転」状況が続いた6都道府県の一つです。今年度改定での「解消」は当然であり、審議会としての責務です。

「逆転解消」に対して、生活保護費を切り下げることによって「つじつま」を合わせようとする議論がありました。自民党が進めてきた生活保護への攻撃は、このような議論の実践だといえます。今年度改定においては「生活保護費が8月から下がるため、最低賃金を上げなくても逆転現象が解消する可能性もある」という解説も登場しています(日経新聞6月19日)。

 一方、政府・与党の選挙公約や田村大臣の発言からは「逆転解消」問題への責任ある対応を見ることはできません。政府・与党の生活保護費削減への波紋を抑えようとする意図を感じます。そのような政府・与党の姿勢が「解消」への抑制要因になることがあってはなりません。

 宮城の審議では「大震災の甚大な影響」が逆転を据え置いた理由だとされてきました。これに対して私たちは過去2年、問題の立て方が逆だと指摘してきました。大震災被災地であるからこそ、最低賃金を大幅に引き上げて生活再建と地域再建に力を与えるべきだと、私たちは訴えてきました。


 昨年度、中央審議会の改定「目安」に対して、地元紙・河北新報は「働いても福祉給付に追いつかない賃金水準は、やはり正常とは言い難い。極端な低賃金は地方の崩壊を加速する。構造的な格差問題として、解決の道を探るべきだ」と主張し、次のように述べています(2012年8月3日社説・「逆転」最低賃金/本質は地方の苦しさにある)。

 「被災企業への「配慮」とは、賃金引き上げを猶予する配慮ではなく、賃金向上に向けた努力を促す措置であるべきだ」「被災企業には震災後さまざまな雇用支援策が取られているが、一層の制度拡充や期間延長が欠かせまい。企業の体力を強化する支援策も重要となる」。

 社説は具体的な例として「がれき撤去など割のよい短期雇用が、長期的だが低賃金の地元求人より人気を集める雇用ミスマッチも生じている」と指摘しています。一年が経っても「雇用ミスマッチ」は改善されていない状況の中で、「震災がれき処理」問題は次の局面に入っています。

 震災がれき処理を請け負っている共同企業体が「処理業務に就く被災者らの雇用を、契約が切れる前に打ち切っていたことを(宮城労働局は)明らかにした」と報じられました。「がれき処理はいずれ終わる。その後、処理業務につく数千人の雇用確保が円滑に進むよう、県と連携して対応する」との労働局長のコメントが紹介されています(朝日新聞7月7日県内版)。しかし、労働局の奮闘にもかかわらず、「数千人の雇用確保が円滑に進む」ことはきわめて困難です。

 震災がれき処理は地元雇用に貢献するという議論がありました。「がれき処理=地元雇用」は、被災地の職場・雇用再建が進んでいないことを前提としていました。今後「数千人」が生活再建を期して再び地元で働くためには職場再建が必要ですが、一方、「いまの最低賃金では生活を支えていくことは難しい」
「医療費援助も打ち切られ病院にも通えない」という声が被災地であがっています。その声に応えなければなりません。

 中小零細企業への支援が必要です。支援策を具体化させるための態勢が準備されねばなりません。その点を含めて国の任務であり、とくに復興庁の自覚が求められます。復興予算が流用され、一方で「入札不調」などにより復興予算や補助金が使われないまま銀行に滞留しています。これらは税金であり、生きた資金として、被災地域の企業再建、雇用と賃金に回すべきです。政府は何をやっているのか。最賃審議会は政府に迫り、必要な支援を求めるべきです。



●4.大震災被災地から「全国一律最低賃金」の要求を

 今春の県内高校生の就職率は前年度から大きく伸びました。2011年3月を振り返ってみれば喜ぶべきことですが、反面、県外の大都市圏に職を求めざるをえなかった若者たちが増加しています。一時の限定的な復興事業が卒業者たちの雇用を保障するわけではありません。

 やがて戻ってきて故郷の再建に役立ちたいと述べていた高卒者たちと、その言葉に涙する被災者たちがテレビに映し出されていました。過疎対策として「地元に戻りたいと希望する若者を支援すべきだ」という提起は少なくありません。具体的な支援策として、最低賃金の大幅引き上げを地域社会全体のテーマとすべきです。

 大都市圏への就職には賃金格差が影響しています。賃金を含めた地域間格差の拡大をこのまま放置しておけば「過疎」地域はますます人口が減り、経済力も衰退の一途をたどることは明らかであり、それは国が予測していることです。

「単なる現状復旧」ではなく「未来志向の復興」が必要だという復興論が相次ぎました(もちろん善意の提言も含まれていますが)。被災地はもともと過疎地域であり、「単なる復旧」は過疎化に拍車をかけるだけだというわけです。「復旧すればするほど現状維持的になり、創造的復興を阻害する」などと、復旧を求める被災者たちは税金泥棒だと言わんばかりの主張さえありました。

 最低賃金の地域格差の拡大を容認しておいて「未来志向の復興」を堂々と語るような人々は、おおむね「中央目線」の人たちです。過疎地域の最低賃金を大都市圏よりも相対的に引き上げるべきなのです。

 東京をはじめ大都市圏を中心とする「特区」が構想され、人材も流通もエネルギーもいっそう集積しようという議論が、新政権の「成長戦略」のもとで沸騰しています。首都圏へのエネルギー供給基地として福島原発があったという「反省」はどこにいったのか。地元では怒りと憤りが充満しています。

「Dランク」という区分には差別と抑圧の歴史が刻み込まれていると、福島第一原発事故はあらためて教えています。最賃ランクは地域格差を助長するものであり、やめるべきです。
 
 最賃の全国一律制への見直しを求める要求は、大震災から次の社会をめざして立ち上がっていく可能性を秘めています。被災地の最賃審議会がそのような議論を深め、全国に発するべきです。



●5.最低賃金と地域を結ぶための審議公開を検討すべき


 なによりも最低賃金が直接的な意味をもつ労働者たちの声を、審議会に反映させることが必要です。その点で改善・配慮すべきことが多くあるはずです。審議会は検討し、審議会委員の構成を含めた具体的な施策に移すべきです。

 同時に、地域的な審議のあり方も考慮されるべきです。なぜなら最低賃金は地域にとって大切な指標の一つであり、個々の労使関係の「外側」にいる地域の様々な人々の関心のもとに審議され、決定されるべきであるからです。

 とくに被災地である宮城では、長期にわたる復旧・復興のたたかいが不可欠です。最低賃金の審議と決定に被災地全体が関与することは復興にとっても、地域の民主主義の観点からも重要な事であり、<改定審議を地域に開く>という発想と努力が審議会に求められています。


 以上、意見ならびにその理由とします(2013年7月17日)。


 
■以上/宮城全労協ニュース248号(2013年8月7日)