宮城全労協ニュース/第251号(電子版)/2013年9月18日

最賃696円の答申に異議!



 宮城地方最低賃金審議会は9月3日、宮城県最低賃金を「1時間696円」とする答申を行いました(現行685円から11円引き上げ、引き上げ率1.61%、中央審議会の「目安」10円から1円の「上乗せ」)。

 宮城労働局長は同日、答申を公示、宮城全労協は改正決定内容について以下のように異議を申し出ました(宮城全労協の意見書はニュース248号に掲載しています)。




<「宮城県最低賃金の改正決定」(答申)への異議申出書>


 宮城労働局長より2013年度の「宮城地方最低賃金審議会の意見に関する公示」がなされました。宮城全労協は「1時間696円」とする改正決定に対して、最低賃金法第12条の規定に基づき、以下のように異議を申し立てます。

 なお宮城全労協は審議会に対して「1時間一千円超」への引き上げをはじめとする「意見書」(7月17日)を提出しています。


<異議の内容>

1.「1時間696円」は宮城全労協が求めている「1時間一千円超」からかけ離れており、同意できません。
2.地域間格差は是正されるどころか、拡大しています。
3.審議の公開を求めます。


<異議の理由>

1.「健康で文化的な最低限の生活」を保障する引き上げ額ではありません。
2.「好循環」というのなら、最低賃金の大幅引き上げは当然です。
3.流用された復興予算を被災地に!
4.審議の公開が、最賃制度を守るためにも必要です。



1.「健康で文化的な最低限の生活」を保障する引き上げ額ではありません。


 厚生労働大臣は中央審議会の審議にあたって、政府の経済政策文書を示し、その「配意」を求めました。デフレ脱却の「好循環」には、労働者の所得増による消費拡大が必要だと書かれています。しかし今春、安倍首相が経済界に求めた賃上げは「空振り」に終わり、賃金上昇にはいたらず、首相自ら夏の最低賃金引き上げに言及することとなりました。

 そのような経緯に照らすなら「1時間14円の改定目安」は期待を裏切るものでした。「目安」は第一次安倍内閣、リーマン危機後の自民党内閣、政権交替による2010年改定と比較しても特筆すべきものではなく、まして「前例なき異次元」の数値ではありません。そこで、各地の審議会による「上乗せ」が注目されました。

 厚生労働省の9月11日公表によれば、全国加重平均は764円、昨年度749円から15円の引き上げ、つまり「目安」から平均1円の引き上げ答申となりました。東北では岩手が2円、ほか5県が1円の「上乗せ」です。

 全国的に「目安」から引き上げられたことは、新政権が「物価上昇」政策を進める以上、最低賃金の引き上げは当然との認識が反映されたからです。しかし「上乗せ」は最低限度の額にとどまりました。

 第一に、宮城の答申である時給「696円」で「労働者が健康で文化的な最低限度の生活」が可能でしょうか。

 衣食住の必要経費の支出と税金や保険料等を支払った上で、どのような生活が営めるというのでしょうか。せいぜいが毎日生きるだけの収入であり、労働者が未来設計できる額ではありません。最低賃金があまりにも低過ぎるという、根本的な反省が突きつけられています。

 第二に、生活保護費との逆転について、宮城は今回、解消となりましたが、遅すぎたといわざるを得ません。とくに2011年大震災の年の引き上げが「1円」に抑制されたことが、大きく影響しています。

 また、来年以降の議論の方向が不明であり、懸念が広がっていることも指摘しておかねばなりません。インフレ政策を推進する政権が、どうして過去の(しかも恣意的な)物価下落値を利用して、生活保護費の削減を実行したのでしょうか。北海道新聞は「目安」発表前の記事で、生活保護給付が引き下げられる結果として最賃との逆転が解消されるという議論に危惧を表明しています。

 第三に、「地域間格差」は拡大する一方です。最高額(今年度答申、東京869円)と最低額(同じく鳥取、高知など9県で664円)の差は198円から205円に広がると報道されています。西日本新聞は「(地域間)格差を縮めなければ、若者の地方離れが一段と加速するだろう」「目安を上回る引き上げを実現してほしい」と主張しました(8月14日社説「この目安では物足りない」)。宮城の「1円」を含めて、今回の答申に地域間格差是正の方向性を見ることはできません。
 


2.「好循環」というのなら、最低賃金の大幅引き上げは当然です


 10数年来の賃金の低下にともない、2000年代に入って「働く貧困層」の増大が問題となり、「年収200万」が象徴的な指標となりました。200万円以下は1千万人を超え、低所得者層の割合はその後、増え続けています。

 格差・貧困の拡大は深刻な社会的・政治的諸問題に発展する。「構造改革」路線から転換した再分配の政策が求められている。そのような問題意識が前政権にはあり、2010年政労使合意につながりました。いま安倍政権がかかげる「好循環」論は、「2%物価上昇」のために貧困層にも消費拡大をうながすというもので、格差・貧困の拡大を是正し生活改善をもたらすための賃上げではありません。まして、企業に賃上げの動きがほとんど見られない現状では「好循環」は絵に描いた餅です。

 厚生労働省によれば「所定内賃金」の減少(前年同月比)は14カ月連続して続いています。所得総額のわずかな増加は、政府と日銀の政策から直接的な恩恵を受けた一部大企業のボーナスによるものです。

 総務省によれば(労働力調査、4〜6月期)期間中、雇用者の増大は非正規雇用労働者がもたらしたものであり、正社員は前年同期から53万人減少しました。しかも「非正規のうち特に増えているのが、賃金水準が低いパート・アルバイト」であり、「前年同期から増えた非正規106万人うち約7割を占めた」(日経新聞8月14日)。

 公共料金や物価上昇が生活を圧迫しています。被災地では燃油や輸入原材料の値上げに水産加工会社などから悲鳴が上がり、これに電力料金値上げが追い打ちをかけます。「値上げの痛み先行、賃金は横ばい続く」などの報道が続き、日銀・岩田副総裁は「悪い物価上昇とか、賃金が上がらない、と失望せず、効果を見守って欲しい」「金融政策が実体経済に影響を及ぼすには早くて6カ月、長くて1年半くらいかかる」と釈明しています。

 仙台市内のデパートで高級洋酒が100万超の高値で売れたとか、高級腕時計も飛ぶように売れているなど、「アベノミクスによる株価上昇効果」が宣伝されてきました。しかし、低所得労働者たちには「期待感」で消費を拡大する余地はありません。

 目の前には消費税増税が迫っています。答申されている程度の引き上げでは、物価上昇と増税によって飲み込まれてしまうことは明らかです。政府が低所得労働者層の消費拡大をデフレ脱却政策に組み込むというのであれば、いっときのわずかな現金給付などでごまかさず、最低賃金の大幅引き上げに踏み込むべきです。

 また大企業は最低賃金引き上げへの消極・反対姿勢を改め、具体的な支援を実行すべきです。大企業が「内部留保」を労働者の賃上げに向ければ、大きな効果があるということは、国会でも何度も指摘されてきました。大企業が関連・下請け企業に対するコスト削減要求を見直すだけで、中小零細企業はもっと元気になり、地域の労働者の賃金環境も改善されるはずです。

 日本企業の大多数は中小・零細企業です。その最低賃金の引き上げを大企業が支援することは、当然の「社会的な責任」です。地域の労働者の賃金を底上げする役割を、大企業が担わなくてどうするのか。そのような原点に立ち返り、最低賃金の引き上げを大企業に要求すべきです。



3.「流用された復興予算」を被災地に!


 大震災被災地の復旧・復興はこれからが正念場です。また政府には、福島原発の事態を正面から受けとめ、福島県民の要求にこたえる義務があります。

 ところが、強い批判を浴びた復興庁幹部や自民党政調会長の暴言に続いて、東京オリンピック招致の演説で首相は「汚染水はコントロールされている」と<平気でウソをつき>、招致委員会理事長は「福島から250キロ離れている東京は安全だ」と説明しました。福島を切り捨て、被災地を分断させる暴挙です。

 「復興予算の流用」もなんら改善しておらず、その責任は闇の中です。政府は参議院選挙の直前になって、復興予算の使途厳格化と未執行予算の返還を求めましたが、一向に進展していません。流用は震災増税を受け入れた国民への裏切りであり、国家的な詐欺です。

 最近の報道によれば、「震災等緊急雇用対応事業」として都道府県の基金に配分された3千億円で被災者雇用に使用されたのは38%」のみでした(朝日新聞8月31日)。

 宮城労働局長は新任あいさつ等で、とくに「がれき処理終了後」の雇用に危機感を表明し、事態は切迫していると強調しています。現場の認識との落差はあまりにも大きく、「必要な所に、生きた資金を」という被災地の切実な声は政府に届いていないと言わざるをえません。「流用予算」の返還と被災地への適切な投入が実現されねばなりません。

 ウソつき東京オリンピック招致も「復興予算の流用」も根は同じです。被災地を食い物にして自分たちの権益やビジネスチャンスを広げようとする「災害便乗主義」を、政治が助長しているのです。

 被災地の最低賃金審議は、そのような背信に対して毅然たる知見を示し、大震災被災地の労働者と中小零細企業経営者たちを励ます歴史的な使命を果たすことを切望します。



4.審議の公開が、最賃制度を守るためにも必要です。


 多くの労働者にとって、審議の経緯がわからないという現実があります。そのような状況は改善されねばなりません。また、最低賃金で雇用される労働者の多数は労働組合に組織されておらず、その意見を反映させるために審議会委員の構成をふくめた配慮がなされるべきです。

 国政選挙を前にして、最低賃金制度の見直しを求める主張が注目を集めました(選挙公約としては後に撤回されましたが)。昨春、被災地での最低賃金を抑制するために規制緩和を求める主張も新聞紙上に登場しました。最低賃金制度そのものを否定しかねない動きから制度を守るためにも、審議が地域社会に開かれている必要があります。

 たとえば公共職業紹介事業の「民間開放」は、医療・介護や農業などとならんで、規制緩和の重要な対象とされました。政権再交代によって雇用・労働分野の「規制緩和」は中心的な政策テーマに復活し、「岩盤規制の打破」という言葉が無批判的にマスコミによって流布されています。宮城労働局は被災地で雇用確保をはじめ懸命の活動を展開してきましたが、一方、自治体が人材派遣会社等との連携を進め、新政権の雇用戦略議論の先行事例となりました。このようなことは「最低賃金制度」の見直しを求める議論と無関係ではないはずです。

 最低賃金制度を守っていくためにも、最賃審議が地域社会といっそう密着していなければならず、その点でも審議の公開など審議会および労働局の尽力が求められています。


(以上/2013年9月16日、宮城全労協)



■以上/宮城全労協ニュース251号(2013年9月18日)