宮城全労協ニュース/第255号(電子版)/2013年11月24日

●<復興>の実情と山積する課題
      〜石巻からのレポート



 石巻全労協の仲間からのレポートを紹介します。

 水産業の拠点であり、女川原発の「地元」である石巻市。広域合併の弊害が重くのしかかったまま、復興格差が二重、三重に広がっています。実情と課題を考えるレポートです(書かれたのは今年の9月です)。





写真/被災地では様々な困難と格闘してきた漁業者たちが、かきの出荷をはじめている。東名(東松島市)の「長石のかき」でも、全国の支援者たちへの発送作業のために多くの「体験ボランティア」が連日、参加した(2013年11月)。




オリンピックに被災地を利用するな!


 2011年3月11日から、2年半が経過した。

 福島第一原発事故の収束どころか、汚染水漏れの事態が続き、その対策すらできない状況である。原発事故による避難を余儀なくされている人々の実態がある一方、「オリンピック開催地決定」で異常な報道が展開されている。被災地を利用した誘致もさることながら、15万人を超える原発事故からの避難者を抱えて、大企業の儲けのためのオリンピック誘致に大金を使うというこの国の姿勢に、憤りを越えて呆れてしまうばかりである。

 毎日300トンの汚染水が海に漏れ出しているのに「状況はコントロールされている。決して東京に影響を及ぼすことはない」という国際オリンピック委員会総会での安倍首相の発言には、福島の漁業者をはじめ被災地、被災者から落胆の声や憤りの声が上がっている。あの3.11大震災と原発事故がなかったかのような錯覚すら覚えるほどの騒ぎようだ。被災地切り捨てそのものだ。

 全国メディアが伝える震災、津波、原発事故は片隅に押し込まれ、風化が進む一方だが、被災地の地元紙は、連日復興や被災者の声をはじめとした「震災関連記事」の紙面であふれている。

「復興予算の執行に差」という地元紙のアンケート集計の記事が出ていた。

 市町村に配分された「国庫補助金」や「復興交付金」が使われた割合(執行率)を示すものだが、石巻市では「復興交付金」は(2012年度だけの集計だが)7・4%しか執行されていない。東松島市、女川町も10%台と低い。

 津波被害の大きかった市町村では、集団移転やそれに伴う住民との合意形成、用地取得、設計、造成などで時間がかかる(単年度で済まない)。自治体職員の不足と業務量の増大で工事発注が進まない。資材価格高騰で落札業者が決まらない(「入札不調」)。請負業者は人員不足だ。使われない予算は、次年度に繰り越しされる。被災地復興は遅々として進んでいない。このような数値を見るだけでも深刻な状況がわかる。

「オリンピック開催地決定」を受けて、建設関係の東京集中で資材高騰、人員不足はさらに進むことになり、震災復興が置き去りになるという懸念が拡がっている。一人勝ちで一極集中が進む東京の拡大を横目に、復興計画が進まない被災地では、更地に生えた背丈を超える夏草が虚しく秋風に揺れている。



水産業特区を強行した県と安倍政府


 地元の新聞が次のように宮城県の漁業特区について報道した。

 <東日本大震災の復興策として政府が認めた「水産業復興特区」に基づき、宮城県は8月30日、同県石巻市の「桃浦かき生産者合同会社」に9月1日付で漁業権を与えると発表した。>

 民間企業が漁業権を持つのは全国初で、村井嘉浩知事の主導で準備してきた特区が本格的に始動する。漁業再生へ民間投資を呼び込む狙いだが、県漁業協同組合は導入に反対し続け、混乱は収まっていない。漁業権は漁協に優先的に与えられ、各地で事実上の独占が続いてきたが、特区は「地元漁業者七人以上で構成される法人」などにも同等に与える仕組みだ。村井知事が震災直後から提唱、復興特区法に盛り込まれた(「河北新報」8月31日朝刊)

 養殖海区の範囲を決める宮城県海区漁業調整委員会の二人の海区委員が辞表を提出していたが、漁業権付与の決定を受け、新たに二人の海区委員が辞表を出した。「石巻市桃浦地区の航路を変更すべきだとの意見を県知事が無視した」というのが理由だ。海区委員はこれまで、死亡した以外の理由で辞職した者はいないという。辞表を出した四人はいずれも宮城県漁協関係者であるが、特区ありきの村井知事に対する抗議の意思表示である。

 漁業権は、海を守る自治形態の一つである。漁協は、海域の維持管理、資源保護と地域共生を基盤に海を共有してきた。そこから権限を剥奪して企業に開放するのが特区であり、漁業者による自治を否定するものだ。参入した企業は、海を管理する費用(組合費)を出すわけでもなく、地元漁業者がこれまで培ってきた生業を踏みにじられたことになる。漁協の反発はこれに対する抗議であり、混乱は拡大する一方だ。

 桃浦地区へ向かう県道のいたるところに、「浜を分断する水産特区は不要」という宮城県漁協ののぼり旗が立っている。「法によって敷かれた既定路線。国および宮城県の目的は水産特区の実績づくりだ」。東京海洋大学の濱田武士准教授は「これは、社会災害だ」と批判している。

 政府は今年4月、国が管理する28空港を民間委託する法案を閣議決定したが、宮城県は、2014年度中に仙台空港アクセス鉄道など県が出資している第三セクター三社や国が管理する滑走路などの運営を一元的に民営化する方針でいた。この閣議決定を受け、村井知事は、「首を長くして待っていた。全国で一番早く民営化したい」としている。

 総合商社や流通、金融機関などが、宮城県が開催した民営化にむけた検討会に参加しており、「特定目的会社を設立して入札に参加し、仙台空港で経営ノウハウを蓄積して今後拡大する民営化に備えたい」という話も出ているという。

 水産業特区同様に、実験場として公共サービスを企業に開放し食い物にする「民営化」が、震災復興と連動して展開されようとしている。トヨタ自動車誘致(2009年)も同じく「自動車特区」を使ったもので、村井知事が進める富県戦略に基づく「特区」による企業活動を軸にした復興政策が、地元との軋轢を起こしながら強引に進められている。



進まない住まいの再建と深刻な健康破壊!


「復興予算の執行率」でも触れたが、防災集団移転促進事業による復興公営住宅建設、土地区画整備事業は、自膨大な事業量を担う自治体労働者の人材不足、さらには「入札不調」などで進んでいなかった。

 4千戸の復興公営住宅供給を計画している石巻市では、防災集団移転団地と復興公営住宅の概要を明らかにし、事前登録を9月中旬から開始するとしている。今回は、旧石巻市の市街地のみで、半島部や沿岸部は11月から開始するとしている。

 阪神淡路大震災での災害公営住宅入居後の孤立死(950人)や仮設住宅でのコミュニティ崩壊のなかでの孤立死などを教訓に、最終的には抽選になるものの、3〜10世帯のグループ登録申し込み、震災前の町内会など11世帯以上によるコミュニティ登録申し込み、親族二世帯でのペア登録申し込みも受け付けるとしている。

 震災後、2年半が経過するが、岩手、宮城、福島で完成した復興公営住宅は450戸足らずだ。2016年末まで2万4千戸を建てるとしているが、いずれにしても入居は、来年度以降であり、仮設住宅での生活は続く。

 仮設住宅の建設地として借り受けている民間地の借用期間が迫る中、期間延長を協議しているところが多い。東松島市では、返還を求める地権者との関係や、今後、復興公営住宅への移転で入居者が減るのを見越して、仮設住宅の集約を検討しているという。

 被災者に適用されてきた医療費窓口負担の減免措置が今年3月末で打ち切られるなど、新たな負担ものしかかっている。

 仮設住宅での生活の長期化で、高齢者の健康悪化、うつ、引きこもり、アルコール依存症、虐待などの課題が顕在化している。

 石巻市は「地域包括ケアセンター」を開設して、医療、福祉、介護の関係者が連携して必要なサービスや課題に取り組むとしている。震災の被害の大きかった牡鹿地区、北上地区、雄勝地区など市の「周辺部」にはサテライト施設を、復興公営住宅や集団移転促進事業の造成団地にもサポート拠点を設けるとしている。具体的な取り組みは今秋以降となるが、総合的なケアが待たれる。

 旧北上川の河口で津波の直撃にあった石巻市立病院は解体され、石巻駅前に移転することが決まった。一方、8割の市街地が津波で流失した雄勝地区(合併前の雄勝町)の市立雄勝病院は、人口流出などで再建を断念、自宅訪問診療を中心として診療所化される予定だが、地域の高齢化が進む中で、更なる沿岸部からの人の流出は拡大していくことになろう。

 15mを超す津波に市街地を破壊された女川町も人口流出が深刻だ。山が海岸に迫る女川町は、造成地は山を削って確保するしかなく、現在の仮設住宅も町営野球場や小学校の校庭を使用している。復興公営住宅や造成団地の建設は遅れており、町外への移住希望者が増加している。



対策が遅れ、不安が続くアスベスト飛散


 先日、アスベスト問題を調査している関西の学生グループや東京労働安全衛生センターの仲間が訪れ、石巻、女川地区での調査と解体現場視察に同行した。

 アスベスト使用のビルは自治体が発注者となり、解体業者に委託して解体が実施されている。視察した現場は、室内を厚手の特殊なビニールで覆って飛散しない対策をしたうえで、保護用具を着用しながらの作業であった。

 解体業者からのヒアリングによると、このように対策を講じているのは一部で、ほとんどの業者はカネが掛かるので手抜きをしているという。今回の大震災と原発事故では、放射線に対する危険性と防護は多く語られてきたが、アスベスト対策については重要視されていなかった。

 東京労働安全衛生センターの仲間たちは、震災直後から現地に入り、アスベストの測定を行い、そのデータを行政に示し続けてきた。当初、震災対策の多忙もあり無視されてきたが、ここにきて行政も対策を講じはじめている。センターの啓蒙活動が解体作業における労働者の安全措置や周辺住民の曝露防護に大きな力になっていることを改めて感じるとともに、献身的な活動に敬意を表する。

 啓蒙や危険性の周知は、被災地で遅れてきた。今年で18年目になる阪神淡路大震災時の解体作業でのアスベスト被害が顕在化し、がれき処理などに携わった人々が相次いで中皮腫の症状を訴え、労災認定を受けている。東日本大震災で復旧のボランティア活動に参加した人や、地域住民の被災が気にかかる。阪神淡路の場合は、建物というところでアスベストはある程度封じ込められたが、東日本大震災では津波によって、かなりの量のアスベストが地域に流出、拡散したと思われるからだ。

 石巻労働基準監督署が石巻、気仙沼地区での家屋の解体工事とがれき処理作業での「アスベスト対策緊急自主点検実施結果」(2012年6月〜7月)をまとめた。昨年のデータだが、それによるとアスベストの有無を適切に掲示していた現場は50%、防じんマスクなどの保護具の着用を管理する責任者(保護具着用管理者)を選任していた現場は55.7%、アスベストの有無に関する事前調査を適正に行っていると回答した現場は59%にとどまったと報告している。

 事前調査の不備や適正な防止措置が取られないまま解体されるなど、問題が断続的に発生していたことで労基署が動いたようであるが、しかしあくまでも「自主点検」であり、実態は不明である。



女川原発の再稼働をねらう動き


 東北電力は女川原発のフィルター付格納容器ベント設備の設置工事を開始し、2016年完成に向けて、すでに基礎工事に着手している。防潮堤のかさ上げ工事も29mまでにすると東北電力のHPで表明し、再稼動へ向け動き出している。

 海抜14.8m(地震による地盤沈下で13・8mに)の高さにあった女川原発は、地震と13mの津波で被災した。5系統ある外部電源のうち4系統までが使用不能となり、福島第一原発と同じ大事故からギリギリのところで免れた。重油タンクの倒壊や二号機の原子炉建屋への海水の侵入、一号機タービン建屋の火災、三号機での発電タービンの損傷(一万枚のうち七千枚が破損)、さらに女川の街中にあった宮城県原子力防災対策センター(オフサイトセンター)は津波で壊滅的な被害を受けた。

 国の原子力災害対策指針では、その対象範囲が10km圏から30km圏に拡大した。宮城県は「原子力災害対策について、国の対策論議の動向を踏まえ見直し、修正する」としている。原発不問であり、その責任を国に押し付けて自ら判断しないという「主体性なし」の姿勢だ。住民の健康調査にしても、宮城県南の丸森町のごく一部に限られて実施されただけである。

 地震と津波が女川原発に与えた被害実態は住民に公表されていない。大震災で被災した原発の再稼動はありえない。再稼動を許さない運動が重要になってきている。

 農業、教育、雇用、交通インフラ等の課題について報告しなければならないことが多くあるが、次の機会としたい。

(石巻・H)


■以上/宮城全労協ニュース255号(2013年11月24日)