最低賃金(宮城)答申に異議
厚生労働省は8月28日、地域別最低賃金の答申状況を発表した。7月29日に中央最低賃金審議会から示されていた「目安」を受けて、全国各地の審議会で調査と審議がなされていた。
厚労省は「答申のポイント」を3点、あげている。
〇全国加重平均額は780円。昨年度764円から16円の引き上げ(注1)。
〇最低は677円(鳥取、高知、長崎、熊本、大分、宮崎、沖縄)、最高は東京都の888円(注2)。すべての地方審議会で13円以上(13円〜21円)の答申。
〇2008年の改正最低賃金法施行後、最低賃金と生活保護水準との乖離がはじめて全国的に解消される見込み。
(注1)目安を上回る答申を行った審議会は相当数ある。なぜか全国紙では、この点の詳報がない。たとえば東北地方では青森、秋田、福島で1円、山形で2円、目安を上回った。それでも平均すれば目安と同額だ。安倍首相は担当大臣まで新設して「地方創生」が内閣の重要課題だとアピールしている。しかし、最低賃金を1円でも上げようとする地方の努力は公表値に反映されていない。大都市圏に大きく左右される「全国加重平均」のなかに埋もれてしまっている。
(注2)地域間格差は現行の205円から211円に拡大する。
●宮城全労協、宮城労働局長に異議申出書を提出
宮城地方最低賃金審議会の答申は8月19日になされた。宮城全労協は答申に対して宮城労働局長に異議申出を行なっていたが(資料参照)、審議会は9月4日「答申どおり決定することが適当」と結論づけた。
宮城の改定額は、現行の「1時間696円」から「1時間710円」となり、引き上げ額は目安と同額の14円にとどまることが事実上、決まったことになる(諸手続きを経て、10月16日発効予定)。
宮城全労協が主張した「異議」の主な内容は次のとおり。
第一に、引き上げ額は消費税増税と物価上昇の影響を補うに足るものではない。
第二に、最低賃金の地域格差がいっそう拡大する。
第三に、地域に開かれた審議にはなっていない。
政府は、「アベノミクス」により賃金の大きな上昇がもたらされている、いっそうの「好循環」を実現していくと説明してきた。とくに首相は<近年にない給料の上昇やボーナスの増額>が実現したと繰り返した。マスコミも今春、<大企業を先頭に軒並み大幅賃上げ>などと報道した。
しかし、消費税増税と円安の影響が深まるにつれて、「実質賃金の低下」「実質ベースでは所得は減少」「物価上昇に賃上げが追いつかず、実質賃金の目減りにより個人消費の不振につながっている」などという表現が当たり前のように登場している。「官製春闘、ベアの波」などとセンセーショナルに報じた半年前とは大きな違いだ。
「今回の最低賃金の引き上げは政府が主導した。逆転現象への対策だけでなく、賃上げで消費を増やす狙いもある」(日経新聞8月28日)というが真相はどうなのか。
たしかに今年度改定では、「最低賃金が生活保護費を下回る」という逆転現象は宮城県をふくめて解消された。しかし、そのことをもって最低賃金引き上げの抑制へと舵を切ろうとする財界の思惑も見えた。連動するかのように安倍首相は、昨年度改定とは明らかに異なり、最低賃金への言及を避けた。
「健康で文化的な生活」のための最賃大幅引き上げに向け、まずは2010年政労使合意の早期達成を求め、来年度改定へと運動をつなげていくことが問われている。
(注)なお、宮城全労協による審議会への「要請」はニュース268号(7月30日)に掲載しています。
●資料/宮城労働局長への異議申出書
(2014年9月1日/宮城全労協)
「宮城県最低賃金の改正決定」(答申)への異議申出書
宮城労働局長より2014年度の「宮城地方最低賃金審議会の意見に関する公示」がなされました。宮城全労協は「1時間710円」とする改正決定に対し、最低賃金法第12条の規定に基づき、以下のように異議を申し立てます。
なお宮城全労協は同審議会に対して「2014年度最低賃金改定審議にあたっての要請」を提出(7月25日)しています。
<異議の内容>
1.「1時間710円」は宮城全労協が求めている「1時間一千円超」からかけ離れており、同意できません。
2.審議の公開に向けての改善努力がなされていません。
<異議の理由>
1.「目安」と同額では物価上昇と消費税増税を補うことができない
2.「健康で文化的な生活」が最低賃金の原点
3.「働く人が地方から流出しないような賃金水準」が必要
4.「生活保護費との逆転解消」を「最賃抑制」の口実とさせてはならない
5.審議の公開、地域社会に支えられる最賃審議へ
1.「目安」と同額では物価上昇と消費税増税を補うことができない
2014年度の最低賃金改定では、引き上げ基調の維持にとどまらない大幅な上昇が求められました。物価上昇と消費税増税の影響が低賃金労働者の生活を直撃しており、少なくてもそれを補うに足る最低賃金の上昇が切実な要求であるからです。
地元紙・河北新報は目安審議に対して次のように主張しました。「増税分を含め物価は3%以上も上がった。増税分を考慮し最低賃金(全国平均)を3%上げれば、23円の増となる。そうなって、やっと増税前の生活水準に戻れる格好だ」(社説「格差是正へ底上げの道筋を」7月15日)。
さらに安倍首相は「アベノミクス」により日本経済の景色は一変したと繰り返し、長期デフレからの脱却が進んでいる、「好循環」のサイクルが拡大していると強調してきました。
首相は「好循環実現国会だった」と通常国会の成果を誇示しました。「この春、多くの企業で給料がアップした。連合の調査によると、平均で2%を超える賃上げ、過去10年間で最高だ」「中小企業でも、その6割で給料アップが実現しているとの調査もある」「この夏のボーナスは、経団連の調査では、過去30年間で最高の伸びが見込まれる」(6月24日、記者会見)。昨年暮れ、財界人らとの会合では「大企業の業績の果実が中小企業や従業員に行き渡らねば(アベノミクスは)失敗だ」と述べています。
すでに2010年の政労使合意では「できる限り早期に全国最低800円を確保し、景気状況に配慮しつつ、全国平均1千円を目指す」ことを「2020年までの目標」に設定し、中小企業への支援や最賃引き上げに考慮した官公庁の公契約などに言及しています。首相発言から当然のこととして、合意達成への大幅上昇が期待されました。
しかし、首相は最低賃金引き上げへの言及を避け、「官製春闘」と称された今春賃上げへの関与に比してその落差が問題視されました。こうして「安倍首相からは春闘で見せたような意欲は感じられなかった」(毎日新聞社説「最低賃金/地域間格差を是正せよ」7月31日)などと報じられることとなりました。
このような政権の姿勢を反映するかのように、使用者側委員は中央審議会小委員会で最賃引き上げ抑制の主張を展開しました。結果として「目安」額は平均値で昨年より2円、実際の引き上げ額からはわずかに1円の増加にとどまりました。これでは物価上昇と消費税増税に及ばず、また地域間格差は拡大する一方です。
こうして「目安」からの増額が地域審議会に求められることとなりました。「目安」と同額という審議会の結論に失望を禁じえず、異議を申し出るものです。
2.「健康で文化的な生活」が最低賃金の原点
「ワーキングプア」という言葉が登場し、「貧困と格差」が日本で進行しているという認識が広がってからかなりの時間が経過しています。ボーダーラインとされた年収は当時の「300万円」から「200万円」に低下しました。いまや労働者の3人に一人が「200万円」以下であり、労働者所得の急激な低下をもたらした非正規雇用は4割を前後するまでに増大しています。
「厚労省が100人未満のオフィスや工場を調べたところ、最低賃金で働く人の割合は13年度で7.4%と前年度から2.5ポイント上がった」(日経新聞7月24日)。こうして最低賃金の役割と影響がいっそう高まっています。
ところが最低賃金で雇用される労働者は「200万円」から絶望的に遠く、「フルタイム雇用」でも5割から6割にとどまる水準です。これでは「健康で文化的な生活」は到底無理な話です。
最低賃金審議のさなか「日本の相対的貧困率の悪化」が報じられました。厚生労働省の国民生活基礎調査によれば、2012年時点で「子どもの貧困率」は16.3%、過去最悪でした。大人を含めた「相対的貧困率」も前回調査から悪化し16.1%で、どちらもOECD加盟国の平均(13.3%と11.3%)を大きく上回っています。
厚労省の研究班による小学生調査では、低所得家庭の子は朝食を抜きがちであり、野菜の摂取はより少なく、即席食品により大きく頼っています。
「格差と貧困」の拡大は世界三位の経済大国である日本の現実です。国際的に見ても低すぎる最低賃金の影響がこのような数値となってあらわれ、社会的な危機を推し進める要因の一つとなっています。
最低賃金改定の審議はこのような実態の真剣な反省が出発点でなければならず、まずは2010年「政労使合意」の早期達成を共通の意思とすべきです。
3.「働く人が地方から流出しないような賃金水準」が必要
「目安」は四つのランクによって「差別化」され、「下位ランク」ほど引き上げ額が少なく、その結果、地域間格差がもたらされてきました。地方からは構造的な問題であるとして、格差是正を求める声が広がってきました。
この間「ローカル・アベノミクス」なる造語が流布されています。「アベノミクス」の効果は大企業と大都市圏に限定され、地方や中小企業に及んでおらず、政府は対策を迫られています。しかし、これは統一地方選挙の対策ではないか、パフォーマンスにすぎないのではないか。地方から懸念や批判が上がっています。政府は「地方創生」と言いながら、一方で大都市圏集中を加速させる規制緩和や特区制度を進めているからです。端的な問題が「四つのランク」による最賃格差の拡大です。
たとえば一年前、西日本新聞社説は「この目安では物足りない」と問題点を列挙し、そのなかで次のように主張しました。「地域間格差も深刻だ。東京都の最低賃金は現在、佐賀、長崎県などより197円も高い。格差を縮めなければ、若者の地方離れが一段と加速するだろう」(2013年8月14日)。
このような地方の声にもかかわらず、今年度の目安でも「地域間格差」は拡大しています。「本県(岩手)の現行665円は青森、秋田、山形、鹿児島の4県と同じで、664円の9県とともに最低水準。全国加重平均764円とは99円、最高の東京の869円とは204円の開きがある」(岩手日報2014年7月10日)。「目安通りなら、最も高い東京が888円、最も低い島根、沖縄など9県は677円。差額は211円で、前年度の205円より拡大する」(毎日新聞2014年7月30日)。
差額はこの10年間で二倍に拡大しました。ランク分けによる格差が続く限り、大都市圏と地方、あるいはAランクとDランクの間の差額は自動的に広がることになります。「D、Cランク」の引き上げ幅を相対的に大きくすること、そのことによって「2020年までに平均1千円」を早期に、全国一律で実現すべきです。
「目安」を受けて毎日新聞社説(7月31日)は「地域間格差を是正せよ」と主張しました。「安倍政権は人口減少を食い止め「地方創生」を重要課題として掲げるが、まずは賃金格差の是正に取り組むべきだ。これまで地方の中小企業で働く非正規雇用の人々の声が反映されてきたとは言い難い。地方審議会は働く人が地方から流出しないような賃金水準を目指すべきだ」。このような姿勢が審議会に求められています。
東北地方においては唯一の「Cランク」であり、被災県でもある宮城の位置が問われています。この点でも、宮城審議会の「目安と同額」は同意できません。
4.「生活保護費との逆転解消」を「最賃抑制」の口実とさせてはならない
今年度改定によって、宮城をはじめ「逆転」がとりあえず解消されることになります。遅すぎたと言わざるをえません。
大きな乖離額が残されてきた北海道で地元紙は「生活保護との逆転が解消されるからと言っても、それは当然であり、スタート台に立ったにすぎない」と述べ、低い「目安」を「上げる知恵」が必要だと指摘しています(北海道新聞7月31日社説)。
今年度審議にあたって、「ここらで休みたい」という経営側の発言が報じられました。「逆転解消」への過程で最賃引き上げコストが増大した、「今まで無理してあげてきた」というわけです。「(逆転が解消されて)来年度の最低賃金の労使交渉では、経営側がより厳しい態度で臨むことになりそうだ」という観測記事も登場しています(日経新聞7月30日)。「逆転解消」を再賃抑制の口実にしようとするものです。
最賃上昇が地方の中小企業の経営を追いつめ、雇用の悪化をもたらすという主張が経営側から繰り返されていますが、責任逃れの逆転した議論です。中小企業への支援は政府の責任です。大企業による「系列」へのコスト転嫁は地方の中小企業を不当に締め付けています。現在、法人税減税のために中小企業に増税負担を求めることが検討されていますが、そのような政府と大企業の姿勢が地方の中小・零細企業を追いつめています。
今後、新しい統計値によって各地でふたたび逆転現象におちいる可能性があります。低すぎる最低賃金が問題であり、大幅引き上げが求められています。
5.審議の公開、地域社会に支えられる最賃審議へ
中央でも地方でも審議公開を求める声が高まっています。法定の最低賃金という公的な審議過程で、その中心的な部分が非公開となっています。その意図はどこにあるか。審議会から納得のいく説明はありません。
とくに被災地を考える場合、「非公開」とする必要がどこにあるのでしょうか。公開することによって復旧・復興に資する道が開かれると、審議会が公労使の立場をこえて考えないのか、きわめて疑問です。復旧・復興に必要なのは、被災者をはじめとする地域住民の参加であり、多様な意見の集約です。この間の「防潮堤」問題が示しています。
少なくても審議内容の途中経過が地域社会に広く伝わるための「改善策」を審議会として示すべきです。また労働局はホームページ上で関連する情報を答申後に掲載していますが、内容と方法の双方でいっそうの改善を求めます。
以上/宮城全労協(2014年9月1日)
■以上/宮城全労協ニュース271号(2014年9月15日)