宮城全労協ニュース/第280号(電子版)/2015年2月15日

「実効性ある避難計画とは?」
宮城県原子力防災訓練を実施



 1月27日、宮城県の原子力防災訓練が実施された。当日、広域避難拠点の一つとなった登米市を中心に訓練の状況を見たYさん(郵政合同労組・石巻)からの報告です。



大震災後初めて30キロ圏自治体が参加する原子力防災訓練


 県は昨年12月2日、いわゆる30キロ圏(UPZ/原子力災害の緊急防護措置区域)の広域避難に関するガイドラインを公表した。

 30キロ圏内7市町村(女川町、石巻市、登米市、東松島市、涌谷町、美里町、南三陸町)21万人が対象となり、各自治体は県のガイドラインを参考にして年度内の計画策定を求められている。

 ガイドラインでは「21万人分の避難場所を、宮城県内のUPZ外に全員分確保」することがポイントの一つとなっている。そんなことが可能なのか。ガイドラインや避難計画が本当に役に立つのか。住民たちは不安をつのらせてきた。

 避難訓練(主催は県と7市町村)には国や自衛隊をはじめ約60機関2万人の参加だという。しかし、実際に7市町村から移動して避難訓練に参加したのはごく限られた住民だ。「自宅待機」とされた住民たちはどうなのか、さらに2万人はどこでどのように動いているのか?

 この訓練がどのように実施されるのか、見てみようと思った。







「実効性」はまったく疑わしい〜実際の訓練を見て


 今回の訓練は東日本大震災以降、県内では事実上初めての原子力防災訓練であり、30キロ圏自治体がそろって参加した。
 
 午前9時40分頃、私たちは石巻市雄勝町で待機。女川町からの避難者を乗せた車両が通過するはずだが、確認できない。

 10時45分過ぎ、石巻市の防災公報は「3号機は事故収束に向かっており、屋内退避訓練を終了する」と放送した。石巻市内での屋内退避指示は約15分間だが、市の事前広報によってどれほどの規模の住民が行動したのだろうか。状況が把握できないまま時間が過ぎた(◎注1)。

 そこで、女川からの「避難者搬送車」はすでに通過したのだろうと判断し、30キロ圏外退避拠点の登米市総合体育館に向かった。

 体育館には女川町、石巻市、東松島町の住民が到着していて、ほかに津山町や南三陸町からの避難マイクロバスも駐車していた。

 会場では訓練が始まっていた(*写真)。屋外では白くて簡易な放射線防護服らしきものを着た自衛隊員が30人ほどで作業しており、避難に使用したバスの放射線量測定と洗浄を行っていた。地面にはビニールシートを張っていたが、洗浄に使用した水はそのまま流れていた。

 体育館は防護所と避難所に区分されていた。同じような白い服を着た関係者が20人から30人、避難者への対応を行っていた。「スクリーニング」、簡易除染、安定ヨウ素剤の服用方法の説明などだった。

 内部被曝の恐れのある人は屋外に駐車しているJAEA(日本原子力研究開発機構)の移動式全身カウンタ車により測定が実施される手はずとなっていた。

 そうした光景を前にして、3.11の体験を思い起こしていた。現実となればこんな整然とした状況にはないだろう。安定ヨウ素剤服用にしても手続きだけで大混乱だろう。

 「実効性ある原子力防災訓練」はあるか? 現実は程遠いし、ますます疑問に思う。住民は避難計画を必要としている。国と県は市町村に丸投げして責任を負わない。そして市町村は、無理だと思っているはずだ。実際、計画策定は大幅に遅れるだろうと予測されている。






(◎注1)

 石巻市の防災公報は当日に「屋内退避訓練」を実施すると予告していた。訓練は「市内全域」、当日は防災無線、緊急エリアメール、広報車などの公報により、「自宅への屋内退避(建物内へ避難)」を行う。今回は学校施設は退避場所とはしない。退避した段階でこの訓練は終了となる、というものだった。これが「実効性ある避難訓練」かと思うと同時に、実際、どれほどの住民が動いたのだろうか疑問に思った。

 ちなみに、石巻市内に残っていた仲間によれば、防災公報の時刻と内容は次のようなものだった(「訓練」である旨の告知などは省く)。

○8時30分
「女川原子力発電所3号機で事故発生」「現在、所内すべての原子炉は停止しており、東北電力で復旧作業を進めている」

○9時40分
「3号機で発生した事故は、内閣総理大臣から原子炉緊急事態宣言が出された」

○10時27分
「3号機の事故により、屋内退避指示がだされた」「住民の皆さんは屋内に退避」「今後の情報に充分、注意を」

○10時45分
「事故は収束に向かっている」「これをもって、屋内退避訓練を終了」

○11時55分
「3号機で発生した事態は収束した」「これをもって、訓練の一切を終了する」

「避難計画策定」は困難


 訓練は日常生活への支障を考慮して計画される必要があるとしても、実際に見て疑問や違和感を強く感じた。

 事故想定がそもそもリアルではない。宮城県のガイドラインは「複合災害を念頭とした防災対策」としているが、今回の訓練想定には「津波」がない(◎注2)。東日本大震災と福島第一原発事故を経験したうえでの原子力防災訓練に「津波」がないのだ。沿岸部住民が不安を抱き、実効性があるのかと問うのは当然だ。

 県は「ガイドラインのポイント」で「人命確保を最優先(よりリスクが高い局面(津波等)での対応を予め検討)」としている。沿岸部の自治体はどのように対応するのか。

 避難計画の策定について、2011年以降、多くの点が指摘されてきた。その論点を参考にしながら、列記してみる(反原発全国連絡会発行『避難計画の実効性を問う/再稼動なんてあり得ない!』をぜひご覧ください)。



1.避難指示

 複合災害では原子力防災の指示はどの時点で出されるのか。地震と津波と原発事故の関係、その間の時系列的な対応と指揮系統(とくに津波が襲えば交通網が遮断され、孤立が想定される地域)。

2.避難の手段

 21万人を避難させる交通手段。自家用車の扱い、「公共交通」と自家用車の関係。バスなどの車両と運転手をはじめ輸送労働者を同時に大量に確保する態勢、運転手を守る法的根拠。その対策と法的な位置づけ。

3.避難経路

 地震・津波は道路網を破壊する。しかも、女川原発からの避難に際して、代替道路がない地域が多数ある。東日本大震災時、女川町から石巻に向かう国道は地盤沈下と津波冠水で寸断された。同じく雄勝地区へ向かう国道では崖崩れが多数発生した。また今回の訓練に参加した石巻市半島部の住民(牡鹿半島寄磯地区の漁業者)は「寄磯からの避難はまず原発方面に向かわなければならず、車での避難は考えにくい」とコメントしている。

4.避難集合場所

 複合災害下において、想定される避難集合場所が物理的にまた人員配備の点で、はたして利用可能か。

5.避難先

 県の指針(ガイドライン)によれば、避難元の自治体は受入先の自治体と個別に協議して協定を締結しなければならない。県の指針では受入先はすべて県内の自治体だ。他県の自治体が対象となれば
当然、協議や協定に宮城県が責任をもつことになろう。そのために県内に限定したのではないかという指摘もある。

 県は「受入側自治体が被災した際にも、(県内)全市町村で受入をカバーする仕組みを構築」と明記し、さらに(被害が甚大で、県内では対応できない場合は隣県でカバー)と付記している。福島で起きたことと正面から向きあっていない。あのとき、避難は県外に広がっていったのであって、県内に限定するほうが非現実的だ。

 女川原発から同心円的に30キロ圏を設定することも、放出された放射性物質が同心円的に拡散していないという事実を反映していない。上空の風の向きと強さによって、30キロをはるかにこえる地域にまで広がった。それが「指定廃棄物」問題となって宮城県民にも重くのしかかっている。

6.避難弱者への配慮

 この点も福島第一原発事故、とくに福島県浜通りの病院や介護施設などの避難状況を思い起こす必要がある。大熊町の双葉病院では長距離避難時に50名もの患者たちが死亡する悲劇となった。

 今回の訓練でも、女川町、石巻市、東松島市などの小中学校や保育園など約2万2千人の学校単位での屋内避難が注目された。東松島市のある小学校では、校内放送と資料を使って放射線の怖さなどを学んだと報道されている。屋内避難で安全だと子どもたちや学校現場で誤解されないだろうか。屋内避難によって「時間が過ぎるのを待つ」という発想になり、事態を軽く見ることにつながらないか。



「避難計画」に国と電力会社は責任をもて!


 避難元の各自治体は今回の訓練を踏まえて避難計画を策定する。県は「実効性をともなった避難計画を策定できるように支援する」という。

 県の想定する広域避難は、女川町7200人、石巻市15万2千人、登米市1万6百人、東松島市3万6700人、涌谷町800人、美里町100人、南三陸町2300人だ。とくに石巻市は受入れ先自治体が県内全域にわたっており、広域合併による行政機能の低下が避難と復旧に大きく影響したと指摘されてきたことを考えれば、きわめて困難だろう。

 原子力防災の避難計画策定には多くの抜け穴がある。川内原発再稼動をめぐって鹿児島県知事は、10キロまでは(計画を)つくるが「30キロまでの避難計画は現実的ではない」、作ろうと思ったら「空想的なものは作れるが、ワーク(機能)しない」と言い切り、再稼動にゴーサインを出した。<計画は機能するのか、これで住民が守れるのか>ということではなくて、再稼動のための<作文>なのだ。

 現在、政権は原発再稼動を進めている。そして宮城県知事は震災以降、「原発は国策」と言い続けてきた。7市町村のなかからは、自治体が避難計画を策定することは女川原発再稼動を前提とするものではない、という声が上げられてきた。当然の主張だ。

 住民の生命・財産を守るという自治体の基本的な任務を遂行させるために、避難計画の問題点を指摘し、あらゆる機会を通じて対策を求めよう。不十分な計画しか策定できないのであれば、自治体は女川原発の再稼動に反対する以外にないと強く要求しよう。

 2015年、東北電力と宮城県知事の言動にいっそう注目しよう(郵政合同労組・石巻/Y記)。


(◎注2)参考:訓練にあたっての「想定」

1.宮城県沖にて地震が発生し、定格熱出力運転中の女川原子力発電所3号機が自動停止するも外部電源を喪失、その後、機器故障に伴い非常用発電機も停止し、施設敷地緊急事態(原災法第10条相当)となる。

2.これを受け、それまで警戒体制をとっていた県は、県庁に災害対策本部を、オフサイトセンターに県災害対策現地本部を設置する。また、関係市町は、それぞれの庁舎内に災害対策本部を設置する。

3.非常用発電機の停止(全交流電源喪失)から30分経過後全面緊急事態となり、原災法第15条に基づき内閣総理大臣から原子力緊急事態宣言が発出される。

4.オフサイトセンターにおいては、原子力災害合同対策協議会(合対協)が設置され、県は、国及び関係市町等関係機関と連携して、緊急時モニタリングや住民避難(PAZ)等の各種応急対策を実施する。

5.その後、環境中へ放射性物質が放出されるが、外部電源の復旧により放出が収束するも、UPZの一部地域で放射線量の高い地域(20μSv/h以上)があり、住民の一時移転を実施する。

*宮城県「平成26年度原子力防災訓練について(原子力安全対策課)」より抜粋



■以上/宮城全労協ニュース280号(2015年2月15日)