宮城全労協ニュース/第287号(電子版)/2015年8月21日

最賃審議への首相の<介入>
「800円」以下への抑制



宮城地方最賃、「目安」と同額の答申


 宮城地方最賃審議会は8月7日、最賃改正決定の内容を宮城労働局長に答申した。「時間額726円(前年から16円引き上げ)」、つまり「目安」と同額である。

 「目安」答申(7月29日)以降、さほどの日数も経っておらず、審議内容が地域で報じられることもなかった。

 宮城全労協は、地方審議会に対して行った要請内容(資料)とかけはなれており、最賃審議の公開への改善も示されていないとして、異議を申し立てている。

 政権交替後の二度の最賃審議に比して、関心は大きく低下した。安倍政権の姿勢が影響している。

 首相は7月の経済財政諮問会議で「大幅引き上げ」に言及した。首相の意欲が過去最大の引き上げにつながったと、政府は評価した。しかし、この「介入」は「密室審議」「支持率対策」などの批判や懸念を呼ぶものだった。



内閣支持率の悪化と安倍首相の「介入」
 

 経済財政諮問会議(7月23日)には厚労省と内閣府の二つの文書が提出された。

 厚労省資料は、最賃の「真摯な議論」を強調しつつ、引き上げによる「労務コスト」増大にも注意を向ける。総じて、労使と公益三者への配慮がうかがえる。

 内閣府資料は、「賃金の硬直性」を脱却するために最賃引き上げの役割を認め、「賃金が物価上昇をリードしていくことが必要」であり、「政府が一定の役割を果たすことも重要」だと述べる。中小企業対策の必要性は両者同じだが、内閣府資料は「生産性向上に向けた事業転換」などに踏み込んでいる。

 首相は前回会議(7月16日)で最賃引き上げの経済的な効果をただした。内閣府資料はこれに応えて「総雇用者所得への影響」を数値で示した。「プラス10円以下」「プラス20円以下」「プラス30円以下」に区分し、10円と20円について、それぞれ金額を試算している。ところが「30円」については記述がない。

 「目安」は全国加重平均で「時間額18円」、「780円から798円への引き上げ」となった。過去最大の引き上げ額であるが、民主党政権時代の政労使合意でとりあえずの額とされた「800円」にはとどかない。内閣府資料が20円の試算にとどめ、20円以上にふれなかった意味はそこにあるのだろう。経営側にとっても顔の立つ額だということか。

 毎日新聞は「首相が主導」と題して次のように報じた。

 「最低賃金が審議会の「外側」で議論されたことには厚労省内からも「聞いたことがない」と驚きの声が上がった。ある同省幹部は「支持率対策だ」との見方を示す」(7月30日)。
 
 日経新聞は経済財政諮問会議での首相「介入」による「異例の展開」を紹介し、「過去最大の賃上げは政権側の実績となり、労組側はお株を奪われた」と解説した(7月30日「最低賃金上げ、首相『介入』/支持率低下、焦り隠せず?」)。

 過去最大にしては政権側のアピールが華々しいものでないのは、あまりも見え透いた首相の「政治介入」だったからではないか。
 


GDPマイナス/「肌感覚の広がり」認めた甘利大臣


 8月17日、注目のGDP値(4〜6月期)はマイナスだと発表された(速報値)。非政府系アナリストたちは、こぞってマイナスを予測していた。

 甘利経済再生担当大臣は「輸出」「消費」「設備投資」を要因にあげた。とくに賃金と消費との関係について、物価の上昇に賃上げが追いついていないという「肌感覚が広がっている」と説明した。

 国民多数、とくに「地方」「非正規雇用」「中小零細」は生活苦を訴え、アベノミクスへの不支持を表明してきた。甘利大臣の発言は、これまで各種の世論調査や統計が示してきたことを追認したものだ。

 安倍首相は今年になって、アベノミクスは「トリクルダウンの政策」ではないと国会答弁した。首相は(したたり落ちるのを待つのではなく)全体を底上げするのだとして、大企業の労使賃金交渉に「介入」した。

 首相は続いて、消費税増税の影響は一年を経て「剥落」し、実質賃金は(4月以降)上昇に転じるだろうという予測を持ち出した。

 こうして、実質賃金が上昇していないという野党の「アベノミクス」批判は、賃上げと「剥落」効果なるものによって粉砕できるはずだった。しかし、実質賃金の上昇局面に至ってはいない。

 大企業の賃上げ効果は、前年に続いて限定的だった。さらに年金や社会保障の削減などによる生活不安は深まっている。しかも、「はがれ落ちる」のは「前年比」という統計処理上のことだから、消費増税の影響は消えずに生活を圧迫し続けており、消費意欲を減退させている。

 甘利大臣発言は、このような経緯のなかでなされたことだ。「トリクルダウン」ではない、「底上げによる好循環」だ、というのなら、最低賃金の大幅な引き上げは当然である。「800円」は超えないという程度の「政治介入」では打開できない。

 5年前の政労使合意、「1千円」がとりあえずの「目安」でなければならない。その実現に向けて最賃闘争を広げよう。




●資料/宮城全労協/2015年8月4日

最低賃金(2015年)改定審議にあたって
宮城地方最低賃金審議会への要請



 中央最低賃金審議会小委員会は7月29日、2015年の引き上げ「目安」を時給18円増の798円(全国加重平均)と決めました。前政権時代、雇用戦略対話での政労使合意が速やかに達成すべきと確認した800円にも達しない額であり、低所得労働者の生活改善への切実な要求に応えるものではありません。

 私たちは、地方最賃審議会での審議を通して、大幅な上積みを実現するよう求めます。


1.「健康で文化的な生活」から大きくかけ離れた最低賃金


 目安による引き上げでは月額にして13万円程度であり、貧困ラインとしてあげられる年収200万円から絶望的に遠いものです。地方審議会は、そのような額が最低賃金とされることを深刻に受けとめ、審議すべきだと考えます。

 「先進資本主義諸国」と比較して、日本の最低賃金はきわめて低く抑えられています。格差と貧困の拡大は、低すぎる最低賃金が大きく影響していることも指摘されてきました。

 「子どもの貧困」と「シングルマザーの困窮」が大きく報じられました。これらの現実には低すぎる最低賃金が影響しています。

 消費税率引き上げと円安による生活物資の相次ぐ値上げは、低所得労働者層の生活に重くのしかかっています。報道各社の世論調査がはっきり、そのことを示しています。

 政府調査でも同様です。厚生労働省の国民生活基礎調査(7月公表)では、「生活が苦しい」と感じている世帯が過去最高に達しています。また世帯当たりの平均所得額も前年より少なく、1994年以降の減少傾向が続いています。

 消費税の影響は一年が経過して「剥落」する、その結果、実質賃金も上がり始めると政府は説明してきました。あたかも消費税増税の影響がなくなるかのような言い分です。しかし、低所得労働者はますます生活苦に追いやられている、それが実態です。

 内閣府によれば最賃水準で働く労働者は300万人から500万人です。「働く貧困層」の生活改善につながるよう、最低賃金の大幅な引き上げの実現を強く求めます。


2.政労使合意の実現を


 安倍政権は今回の「目安」を成果として強調しています。しかし、春闘での賃上げ「介入」に比して、当初、政府の最低賃金引き上げへの関心は薄いものでした。支持率低下が首相の「介入」の背景にあった、「支持率対策」だったという報道があるように、首相の対応は政治的な意図をもったものでした。

 しかも、内閣府は、最賃引き上げ効果の試算において、10円と20円に限定しており、あらかじめ「20円以下」が想定されていたことをうかがわせます(7月23日、経済財政諮問会議)。798円と800円の差が、意識的に設定されたと疑わざるをえません。

 アベノミクスの成果により経済状況は一変したというのなら、2010年の政労使合意の実現が前倒しされて当然です。


3.最賃格差の拡大は政府方針にも反する


 「目安」によれば、いわゆるAランクが19円、Bランクが18円、CとDランクが16円の引き上げです。これは最賃の地域格差が自動的に拡大することを意味しています。

 政府は「地方創生」が重要政策の一つだと強調していますが、最低賃金の格差拡大はその政策と反するものです。

 目安どおりなら東京で907円、沖縄など7県で693円。差額は2014年の211円から214円となります。800円を越えるのは7都府県にすぎず、16県が700円に届きません。

 東北では宮城(C)726円、福島(D)705円、山形696円、青森・秋田695円、岩手694円です。これらの県は過疎や人口減少という構造的な問題をかかえ、さらに東日本大震災からの復興も「順調」とはいえないばかりか、原発事故による雇用や生産の大きな影響を受け続けています。

 地域の活性化、東日本大震災からの「復興」推進のために、東北地方の大幅上乗せが必要です。


以上、地方審議会への要請とします。(2015年8月4日)


■以上/宮城全労協ニュース287号(2015年8月21日)