宮城全労協ニュース/第300号(電子版)/2016年8月14日

最賃宮城「748円」
中央審議会目安を追認



 宮城地方最低賃金審議会は8月9日、宮城県最低賃金の改正決定について1時間「748円」とする意見を宮城労働局長に提出した。

 中央最低賃金審議会小委員会は7月26日、人口の多寡を加味した全国加重平均で「822円」(現在798円、24円の引き上げ)とする「目安」を決定していた。

 現在の宮城県の最低賃金は1時間「726円」、2016年度引き上げ目安は「748円」(プラス22円)だった。宮城地方審議会の意見は「目安」を追認したものだ(*注)。



最賃引き上げは「アベノミクス」のPRではない


 昨年来、「時間1500円」を掲げる若者たちの運動が各地に広がり、注目を集めた。運動は既存の労働運動の外側で広がった。このような事態は特筆すべきことだ。

 低すぎる日本の最賃が政策課題に浮上し、民主党政権時代の「政労使合意」が実現した。自民党政権の復活後も、この政府方針は否定されていない。

 安倍首相は雇用の改善と最賃引上げの実績を強調するが、非正規雇用労働者が増大し続け、貧困と格差が広がっている。現行水準の最低賃金では年収200万円からはるかに遠く、「一億総活躍」など空論に過ぎない。

 批判を意識した安倍首相は「年率3%程度の引き上げ」「平均一千円」に言及し、6月2日には「一億総活躍」プランに盛り込んで閣議決定した。過去最大の引上げは参院選へのアピールでもあった。

 首相は選挙後、経済財政諮問会議の場で「全国千円をめざす初年度」だと強調し、3%引き上げへの「最大限の努力」を関係閣僚に指示した。中央目安の「24円引き上げ」は3%に相当し、首相の要求が反映されたことになる。いわば首相の「間接的介入」だ。

 「官製」の最低賃金という指摘がある。「審議会の舞台回しを担う厚労省には後味の悪さだけが残った。(中略)首相の「3%」発言に関し厚労省は終始蚊帳の外だった」(日経新聞7月29日「『官製』最低賃金/首相の念願/異例のスピード決着」)。

 新聞各紙の多くが、公労使という三者協議の審議会と首相意向の関係について触れた。それほど首相の圧力が強かったということだ。地方審議ではこの点を払拭する議論が問われたが、地域に開かれたものとはならなかった。

 経営側の中央審議会での主張が報じられている。「各種統計データに基づかずに、引上げの具体的な根拠が説明できない目安を示すことになれば、地方での審議に大きな混乱を招く」(毎日新聞7月28日)。

 私たちが求めるのは低所得労働者層の生活の改善であり、「健康で文化的」な生活のための最低限の賃金だ。「各種統計データ」も「具体的な根拠」も明らかだ。

 

「3%」でも千円は7年後、しかも「全国加重平均」


 安倍政権は最賃引上げを「経済の好循環」論のなかに位置づけてきたが、実際の動機はもっと露骨に「労働側」への政治攻勢にあった。「3%」「千円」にしても、あいかわらず都合の良い数字を抜き出し並べている。

 年率3%で引上げたとしても「1千円」に達するのは2023年度だという。民主党政権時代、雇用戦略対話(2010年)で合意した「2020年までの目標」に及ばない。

 千円になるといっても「加重平均」でのことだ。「全国平均千円」が実現したとき、Dランク県は800円台にとどまっている。3%引上げが続いても、Dランク県が一千円に達するのは「全国平均」からさらに5年後になるとの試算がある。

 今年度目安が示しているように、地域格差は広がる一方だ。昨年は引上げ額の差は3円、今年度目安では4円に拡大した(Aランク25円、B24円、C22円、D21円)。

 大企業の賃上げ率は今春、昨年を下回った。企業収益の見通しにとって悲観材料が増えている。一年後も、安倍政権の強い関心が最賃引き上げにあり、経済界が首相意向に対して「白旗を揚げる」とは限らない。

 そもそも「3%」といっても、政府は日銀とともに「2%物価上昇」を堅持している。消費税は5%から8%に引上げられ、先送りされた10%の導入は2019年10月だ。


 「生活できる賃金を!」「最賃1500円をめざそう!」「誰でも、どこでも今すぐ1千円に!」。

 全労協はこのスローガンを多くの労働組合や運動と共有しながら最賃闘争を進めている。

 宮城全労協は地方審議会に要請書を提出、「一千円超の実現」などを求めてきた(資料掲載)。また8月の地域審議会では宮城合同労組の組合員が意見陳述を行い、過酷な生活実態を訴えた(続報)。




(注)2016年度引き上げ目安(中央審議会)

(「ランク」/現在(2015年度)/引き上げ目安(引き上げ額)

 ◇青森(D)695円/716円(21円)
 ◇岩手(D)695円/716円(21円)
 ◇秋田(D)695円/716円(21円)
 ◇山形(D)696円/717円(21円)
 ◇福島(D)705円/726円(21円)
 ◇宮城(C)726円/748円(22円)

(全国最低額)
 ◇沖縄、宮崎、高知、鳥取(D)693円/714円(21円)

(Aランク)
 ◇東京 907円/932円(25円)
 ◇神奈川905円/930円(25円)
 ◇大阪 858円/883円(25円)
 ◇愛知 820円/845円(25円)
 ◇千葉 817円/842円(25円)

(全国加重平均)798円/822円(24円)





<資料>

宮城地方最低賃金審議会への要請書
(宮城全労協/2016年3月23日)


最低賃金(2016年)改定審議にあたっての要請


首相は昨年11月24日、経済財政諮問会議の場で「最低賃金」引き上げに言及しました。発言は期待と疑念をもって受けとめられました。<ここまで踏み込んだ発言は異例のことだ><参議院選挙をにらんだ政治的パフォーマンスだ>などの指摘です。

 重要なのは、最低賃金水準は低いと首相が認め、経団連も追認したことです。

 様々な統計や指標が示しているのは、政府や経団連がいうような「好循環」にはないということです。だからこそ安倍政権は「官製春闘」と言われながらも経営側に「賃上げ」をうながし、「最低賃金引き上げ」を主導しようとしたというわけです。

 しかし、大企業集中回答は「昨年を上回る賃上げ」には遠く及ばず、「アベノミクス」の行き詰まりが鮮明になっています。中小零細企業労働者、非正規雇用労働者にとっては一層厳しい状況であり、地域審議会の役割はますます重要です。


 以下、宮城地方審議会への要請とします。



(1)「1千円超(時間)」の実現を求めます。

 「名目GDP600兆円を目指すなかで、年率3%程度、全国加重平均1千円を目指す」という首相発言に関して、甘利大臣(当時)は直後、達成時期について「20年代半ばになるだろう」と答えています。これでは前政権時代の「政労使合意」の内容に及びません。

 首相は国会で、日本の「相対的貧困率」が「長期的傾向ではおおむね緩やかに上昇している」と答弁しました。つまり、相対的貧困率は最悪を更新し続けています。低すぎる日本の最賃水準がその一因です。

 私たちは「1千円(時間)超」への引き上げを求めます。雇用の喪失につながるという主張がありますが、最賃大幅引上げの環境づくりは政府と経済界の責任です。


(2)「好循環」のための最低賃金ではありません

 首相は「企業収益、賃金上昇、消費の増加」という「経済の好循環」は成果を上げてきていると繰り返しています。しかし、実質賃金は低下し続け、消費は落ち込んでいます。

 「最賃を3年間連続で引き上げ、合計約50円の大幅な引き上げを行った」と実績を強調しましたが、その程度のことでは「貧困と格差の拡大」は改善しなかったのです。

 甘利大臣は「賃金・最低賃金引上げを通じた消費の喚起」を表明しました(緊急対応策・案)。しかし、「健康で文化的な生活」を維持できないような額が「最低賃金」であっていいのか。これが最賃審議の本質であり、その点から審議が尽くされるべきです。


(3)地域格差の解消と被災地審議会の役割について

 中央「目安」とほとんど変わらない地域最賃決定が全国的に続いています。昨年度改定でも地域間格差は拡大しました。「格差はなかなか縮まらない」「審議の透明度を高めよ」という意見が出るのも当然です(毎日新聞「経済観測」2月4日、丹羽宇一郎氏)。

 格差是正の達成を最賃審議にあたっての共通認識とすべきです。地方(現行のC、Dランク)の最賃を相対的に引上げることが必要です。

 とくに被災地では人口減少を抑えるためにも、最賃の大幅引き上げが必要です。被災地審議会は政府に対して、復興庁を含めた包括的な対応を求めるべきです。


(4)若者たちの声に応える審議会を

 最賃大幅引き上げを求める若者たちの行動が、ブラック企業抗議とともに注目されてきました。米国の「15ドル」(1ドル120円として1800円)デモなど最賃引上げは世界的な流れです。日本の若者行動はエピソードでも、荒唐無稽な要求でもありません。

 「現状の最賃水準では生活できない」「時給1500円ならばフルタイムで年収270万になり、(ローン、税金や保険料等を支払ったうえで)将来展望もようやく開ける」。若者たちのリアルな訴えを受けとめるべきです。また「最賃は社会正義」という主張は、最賃制度の重要性をアピールするという点においても、大いに評価されるべきです。

 このような声に応える最賃審議会であることは、時代の要請です。組織と運営の改善、見直しを重ねて求めます。(以上)



■以上/宮城全労協ニュース300号(2016年8月12日)