宮城全労協ニュース/第304号(電子版)/2017年1月11日

焼却炉をくぐりぬける放射能
学習会に参加して岩手を思う



             大船渡防潮堤


           <旧大槌町町役場>

 昨秋から年末、東京オリンピック・パラリンピックの一部会場見直しが浮上した。大騒動の末、「長沼」の地元登米市をはじめ宮城は「持ち上げられ、たたき落され」た。県民の落胆や怒りをよそに、関心事は都議選など「政争」に移った。

 同じ時期、「放射能汚染廃棄物」処分をめぐって緊迫した日々が続いていた。

 8千ベクレル「以上」の「指定廃棄物」については一年前の「詳細調査中断」以降、事実上、環境省が方針を棚上げしたままの状態だ(当時の環境大臣は五輪担当大臣に「横滑り」した)。

 そのことによってもう一つの問題、8千べクレル「以下」の扱いが浮上した。知事は「全県一斉焼却」の方針を提示、「年明けにも試験焼却の実施」という区切りも示された。住民たちは不安や反対の声をあげ、「自分たちがつくったわけではない放射能汚染廃棄物」に各自治体は苦悩しつづけた。

 河北新報調査(12月18日まとめ)によれば直前になっても賛否は定まらず、「35市町村の約6割」が方針を決めかねる状況だった。首長からは「焼却以外の方法、堆肥化やすきこみによる土壌還元や林地還元」などの検討を求める意見、また「保管農家のために一刻も早い除去」を求める意見、焼却処分やむなしの意見などが表明された。

 こうして12月27日の市町村会議では県知事がめざした「全会一致」には至らず、「一斉焼却」の方針は棚上げされた。しかし、村井知事は半年以内にあらためて焼却処分への理解を求める考えだ。


 各地住民はこの間、様々な取り組みを行ってきた。その一つである「緊急学習講演会」に参加したGさんからの投稿を紹介する。

Gさんは反対論拠を紹介したうえで、講演会に触発された岩手への思いを綴っている。

 なお「中見出し」と「注」は編集部による。





焼却炉をくぐりぬける放射能
「放射能汚染廃棄物の全県一斉焼却を考える緊急学習講演会」に参加して


                                
 宮城県の村井知事は11月3日の市町村長会議において、放射能汚染廃棄物の全県一斉焼却を提案した。1キログラムあたり8000ベクレル以下の汚染廃棄物は一般ゴミと混ぜて焼却することで処理を進める内容だ。

 環境省が栗原・加美・大和の3箇所を「指定廃棄物処分場」の候補地に決め、調査を進めようとしたが、各地で住民の猛反対にあい、計画が頓挫した。その後「8000ベクレル以下」の扱いが問われるなかで、いわば村井知事による「助け船」といった考えなのかも知れないが、放射性廃棄物の扱いとしては、はなはだ乱暴過ぎるやり方だ。

 12月11日に、この問題に関する緊急学習講演会が開かれることを知り、参加した。主催は実行委員会で「あいコープみやぎ」「復旧・復興支援みやぎ県民センター」の2団体が連絡事務局となっており、講師は宮古市の医師岩見億丈さん(医学博士・神経内科医院)。

 
 講演内容から分かったことを略述すると以下の通り。


●「99.9%除去できる」は科学的態度ではない


 環境省と地方自治体は、地域住民の不安をよそに、地方自治体が管理するゴミ焼却炉(一般廃棄物焼却炉)で放射能汚染廃棄物の焼却(混焼)処分を進めてきている。その際に安全の根拠とされているのが、<焼却炉のバグフィルター(BF)は排ガスの中の放射性セシウムの99.9%を除去する>という仮説だ。この仮説には科学的根拠がなく、排ガス中の放射性セシウムの数十%がバグフィルター(BF)をすり抜けて大気中に排出されていることが明らかになっている。

 バグフィルター(BF)とは、ガラス繊維等で作られた布であり、耐熱性・耐腐食性はあるが、排ガス中の煤塵(ダスト)をへらすためのものであり、気体状態の有害物質はまったく除去できない。200℃前後に冷却した排ガスからダストを除去するように設置されている。より低い温度の方が、気体状の有害物質を固体等に変えて除去できるのだが、目詰まりが起きやすくなるため、200℃前後で通過させている。それでも数十分に一度ダストを払い落とす必要があり、払い落とし直後は捕集効率は低下する。

 環境省による放射能濃度等測定方法ガイドラインでは、濃度測定用のろ紙を通過した放射性セシウムは、ドレン部と呼ばれる冷却蒸留水で捕捉し検出するとされているが、ドレン部測定法の定量可能性および検出限界についての科学的データを何ら提示していない。根拠がない測定法の結果で<99.9%除去できている>と説明するのは健全な科学的態度とはいえない。

 地方自治体は焼却物と焼却灰の放射能濃度と重量を測定しているが、その資料をもとに検討すると、宮古市焼却炉で約2割、遠野市焼却炉で約3割の放射性セシウムが行方不明になっている。放射能の99.9%が灰に回収されることは100万分の1の確率でしかなく、焼却炉からは排水はないので、行方不明の放射能は大気中に排出されたと判断できる。

 実際に、宮古市焼却炉周囲半径9km以内の324箇所で2014年に行った調査により、過剰な放射性セシウムを検出しており、その総量は焼却炉から排出されて行方不明の約2割の放射性セシウムの総量と大方一致している。

 セシウムは水銀に次いで沸点が低い金属であり気化しやすい。焼却すると全てが塩化セシウムになるとは限らない。気体なのか、微小物質なのか、プラズマ? イオン状態? 化合物? 原子状態? 分子状態? バグフィルターを通すか? 通さないか? それすら分からない。それなのに99.9%除去できるというのは、科学ではない。


印象的だった講師の言葉


 講演後、会場参加者からの質問(質問紙)に回答する時間が短時間だがもたれた。(講師はこの日夕刻の東北新幹線を利用し、宮古市まで戻られる予定という。多忙な毎日にちがいない。)

 その際の発言で、印象にのこった言葉。

 『質問者(質問紙)のなかで、(自分の問題として)まじめに考えていると思えたのは2〜3人だけ。ひとに聞くよりも自分で調べて欲しい。自身、震災当時は、放射線についての知識はほぼ皆無だった。それから勉強し、自分で確かめて、いまに至っている。』

 この日の講演自体、資料、データに基づき、厳密に科学的なものだった。数字が苦手な私たち聴衆のために、合い間合い間に最近の話題性のある画像を交えながら、ユーモアたっぷりに、かつ切々と語る岩見さんの語り口を通じて感じたことがいくつかある。

 一つは、医学博士という肩書きから伝わる科学者(医師)としての自負とデータへの厳密さ。そして、田野畑村出身ということで想起される岩手県内の無医村における医療・保健行政の歴史的蓄積(沢内村・村長深沢晟雄の老人・乳児医療費無料化政策。田野畑村・村長早野仙平の保健行政・無医村解消の取り組み。・・・)が、彼の(医師である前に)人としての生き方を支える一本の筋を通しているであろうこと。



歴史の巡りあわせ/「田野畑村」と「津波」「医療」「原発」


 3.11震災後に、吉村昭の「三陸海岸大津波」が見直されているが、短編小説「梅の蕾」(注)も田野畑村での実話が元になっている作品だと知った。(ちなみに吉村昭は田野畑村の名誉村民でもあるという。)

 当時無医村だった田野畑村に1982年、夫婦で移り住み、5年後に連れ合いを不治の病で亡くしながらも、2001年に後継の医師(田野畑村出身)が現れるまでの十九年を村医として過ごした将基面(しょうぎめん)誠・春代夫妻と早野村長や村民たちが小説のモデルとされている。

 初めて訪れたときに目にした梅の蕾を愛しみ、お金はなくとも梅の花であふれる村にしようと梅の木を植え続けた春代さん。その春代さんが亡くなり、春代さんの実家がある木更津市で行われた葬儀には、早野村長を始め二百名もの田野畑村民がバスを連ねて参列したという。

 その将基面氏が無医村での医療を志すきっかけは、「自分たちで生命を守った村」(岩波新書)を読み、岩手県和賀郡沢内村で深沢村長が医療にかける思いに感銘を受けたからだという。岩手県が「日本のチベット」といわれていた頃のことだ。

 東北地方の太平洋岸(青森県、宮城県、福島県)にいくつもの原発が作られてきたなかで、岩手県にだけ原発が作られなかった歴史は、田野畑村の保健師(保健婦)岩見ヒサさん(昨2015年9月に97歳で逝去)の反対運動を抜きには語れないことを、3・11震災後に知った。

 ヒサさんは、昭和三陸津波(昭和8年、1933年)の際に、犠牲者を弔う寺もなく僧侶すらいなかった田野畑村に宝福寺を興し住職となった種市出身の岩見對山のもとに、大阪から嫁ぎ、看護婦資格を生かし養護教諭や保健婦として長く地域の保健指導に当たったのだという。


 2011年東日本震災とそれに続く福島原発事故の放射線被害に立ち向かう岩見億丈さんの地域医療に尽力する姿勢が、亡き母ヒサさんの姿につながる。これも歴史の巡りあわせか。

(2016年12月23日記す/投稿・G)
  


(注)「梅の蕾」(吉村昭「遠い幻影」文春文庫所収)。3.11震災の後、NHK「ラジオ文芸館」で朗読された。番組アナウンサーが短く読後印象を語ったが、復興を願いつつ、「絆」が強調される風潮への戸惑いもにじませていたように記憶する。何度か再放送され話題となった。「涙が止まらなかった」などの感想をネット上に見ることができる。

(注2)写真は読者提供(2017年1月1日撮影)によるもの。本文とは関係がありません。

■以上/宮城全労協ニュース304号(2017年1月11日)