「漁業法」改悪反対!
問われる「水産業復興特区」
政府与党の強引さが際立つ。「出入国管理法」改定案は11月27日、衆議院で強行採決された。「反対のための反対は無意味」と野党を批判するメディア論調もあるが、しかし、審議を尽くそうとしないのは政府与党だ。審議にたえない法案を提出した政府の横暴こそ、批判されねばならない。
法務省のデータ改ざんが発覚した。前国会では裁量労働制に関する厚生労働省の改ざんだった。文科省や財務省など一連の「不祥事」について、首相を先頭に責任をとろうともしていない。「モリカケ」以降、政治腐敗は深まり、おごり政治が蔓延している。消費税増税対策もそうだ。
そのような状況の中で「漁業法」が「対決型法案」とし浮上してきた。政府与党は会期中の成立をねらい、衆議院農林水産委員会での早期採決を画策してきた。
まともな議論はない。10月30日、自民党水産部会は法案を了承したというが、与党議員たちが水産庁と規制改革派の主張を検討し、納得しているかも疑わしい。11月15日、衆院で審議入りしたが大半のメディアは素通り状態だったといってよい。委員会での強行採決(28日)に続く本会議(29日)も、テレビを含めて詳細は報じられていない。警鐘を鳴らすべきメディアが社会的無関心を助長させている。
あまりにも唐突で、当事者である漁業者たちが無視されている。漁業、とくに沿岸漁業について、消費者、流通業者など関係者との議論もない。「岩盤規制破壊」「既得権益破壊」「生産性向上」のかけ声によって「浜の自治」「浜の歴史と生活」を押し流し、それらを支えてきた「協同組合」を解体しようとするものだ。
立憲、国民、無所属の会、共産、自由、社民は反対してきた。漁業調整委員会の公選制の廃止、「資源管理」の一方的な設定や漁船の「トン数規制の撤廃」などが「成長産業化」と称して強要され、「浜」に競争と分断が持ちこまれる。各党は問題点を追及、拙速審議を厳しく批判した。
法案は自民、公明、維新などの賛成多数により可決され、参院での審議に移る。漁業権を漁民から奪い、企業参入を優先させる暴挙に反対しよう。
●「70年ぶりの漁業法の抜本的改正」(所信表明)
安倍首相は「一億総活躍」から始まり「人生100年時代構想」など、論証抜きの言葉をつなぎ、そのつど最大の政策だと繰り返してきた。水産業もいま、その一つとなった。
所信表明(10月24日)で首相は「農林水産新時代」と名づけ、その重点政策の一つとして「70年ぶりに漁業法を抜本的に改正」すると述べた。
「生産性」「新規参入、規模拡大」など、荒っぽい言葉が羅列されている。「若い人たちが、自らの意欲とアイデアで挑戦できる新しい農林水産業」、これが結語だ。
「水産業改革」は安倍政権の成長戦略と規制緩和政策の実績を示すために、とくに経済界との協調を確認するために持ち出された。規制改革推進会議(6月第三次答申)では「水産分野」での「今期の重要課題」が示され、「骨太の方針」に盛り込まれた。(◇注1)。
規制改革推進会議に設置された水産部会(W.G)のメンバーは、関連業界人と学者で占められ、文書は「改革派」の主張で染められている。
各地の単位漁協と地元漁業者たちは「抜本改正」の議論から事実上、排除されてきた。
さらに「東南海」大地震が漁業に与える影響を政府はどれほど検討しているのか。「70年ぶりの大改革」との関係は明らかにされていない。
「農林水産新時代」は「全世代型社会保障改革」「外国人材」とともに、<地方創生>の章に脈絡なく列記されている。その<地方創生>は政策のトップである<強靭な故郷づくり>の章から続いている。このような所信表明の構成は、首相の視線がもっぱら、総裁選挙で投じられた党内の地方反対票に向けられていることを物語っている。
●広がる「浜」の不安/地元紙の二つの社説
河北新報は今年、二つの社説をかかげ、この問題を論じてきた。
「政府の水産改革/漁業者の声をよく聞きたい」(6月27日)
「漁業法改定/漁民切り捨てではないのか」(11月23日)
前者では、政府の水産改革方針の経過を説明したうえで、「改革は誰のためか。漁業者の尊厳と水産業の未来を両立させるため、浜の声を聞く努力が求められている」と指摘した。
「漁業者は長年、魚場と水産資源の管理を担い、全国の浦々で漁民自治を築き、海を守ってきた。「漁業権の主体は漁業者」という原点を忘れた改革は禍根を残しかねない」。
それから半年、懸念や不安が列記され「政府主導」の議論への警戒が示されている。
「果たして利潤追求を目的とする大手企業に浜の未来を委ねていいのだろうか。今回の水産改革は経済成長のみにとらわれ、漁業の多様性や海域の未来を見通す視点が欠けていると言わざるを得ない」(11月23日社説)
こうして地元紙として、半年の経緯に照らして、法案への疑問を明らかにしたことになる。
急を聞いて東北など各地で、全国沿岸漁民連絡協議会など漁業者たちや地域住民による集会が開催されている。しかし、それらの多くは新聞でもテレビでも報道されていない。漁業者の声を受けとめ、その主張を地域に広げていくことが必要だ。
●宮城の<水産業復興特区>が突きつけたこと
宮城県知事は改革法案の閣議決定を聞き、「宮城の事例が国に成功と評価された」と「感慨に浸った」という(河北新報11月24日<検証 村井流(上)>)。
大震災の年、政府の復興構想会議の土壇場で、宮城県知事の主張が波紋を呼んだ。「復興特区」による企業参入を水産業に適用するか、議論は紛糾した。
復興構想会議には二つの論点があった。方針と理念。緊急の復旧方針と同時に、「復興」の捉え方がテーマとなった。五百旗頭真(復興構想会議議長)たちには、阪神・淡路大震災とつなげて、忘れ去られてきた震災列島としての在り方を問う歴史的な角度から「災後日本」を探ろうという発想があった(◇注2)。
宮城県知事の「水産復興特区」の要求は特異なものだった。知事は、受け入れなければ退席するというほどの勢いだったといわれている。壊滅的な被害により、生産手段の復旧すら進まない時期であった。漁業者たちが総反発しただけではない。批判は保守系議員たちからもあいついだ。知事は舞台を中央の場に移すことで、事態を強行突破しようとしたといえる。
その後、漁業特区が宮城県内の一つの浜で実現した。順調であったわけではない。生産や経営の問題点も指摘されてきた。漁業者たちの特区への支持は広がらないまま現在に至っている。
「漁業権を民間に与えても当初大きく問題視されていたようなことは発現しなかったと捉えていただきたいと思っております」(◇注3)。あくまで強気の発言を貫く知事だが、<成功体験>として一方的な感慨に浸っているわけにはいかないはずだ。「引き裂かれた」関係のなかで、反対した漁業者たちが浜の安定を最優先させたのは、せめてもの救いであった。
関心事は当初、「浜の再建」にあった。壊滅的打撃から立ち直る可能性を、住民たちは模索していた。「水産会社が来る」ことに希望を託した住民たちもいた。しかし、いま被災住民たちは戻っていない。特区による企業進出は実現しても、浜は再建されていない。
当時、多くの人たちが再建された浜の絵を描いた。首都圏からの支援グループもそうだった。若者たちが集うリゾートを構想した人たちもいた。しかし、そうはならなかった。
浜の再建の厳しさは、被災地全域をおおう大問題である。「特区」はその特効薬ではないばかりか、負の側面が大きく、業業者たちに重くのしかかっている。被災地の検証もない「70年ぶりの抜本改正」が強行されようとしている。反対しよう!
投稿U.J/仙台在住(2018年12月1日)
(注1)
◇「水産分野」(1)今期の重要課題/抜粋
「第一の課題は、水産資源の回復に向けた、新たな資源管理システムの構築」、「第二の課題は、漁業者の所得向上に資する流通構造改革」、「第三の課題は、遠洋・沖合漁業を中心に、若者にとっても魅力ある漁業に転換し、国際競争力を高めるための制度改革」、「第四の課題は、養殖・沿岸漁業の発展に資する海水面利用制度の改革」(「規制改革推進に関する第三次答申〜来るべき新時代へ」6月4日)
◇「農林水産業全般にわたっての改革を力強く進めることで、攻めの農林水産業を展開し成長産業にするとともに、美しく伝統ある農山漁村を次世代に継承していく。これらの取組により、食料安全保障の確立を図る」(「骨太の方針2018」6月15日閣議決定)
(注2)そのような議論は、復活した安倍政権によって一掃された。就任直後の安倍首相は「必要なのは行動だ」と一喝して民主党政権時代の人事を改変、トップには著名な経済学者を起用した。しかし、この後継組織の活動内容は被災地住民に理解されているだろうか?
(注3)参考:宮城県知事定例会見(2018年8月6日)宮城県ホームページ
■以上/宮城全労協ニュース325号(2018年12月1日)