40県で最賃「1〜3円」引上げ
資料/「最賃宮城」に異議申出書
厚労省は8月21日、各地の最賃審議の状況をまとめ発表した(*参考)。地域別最低賃金(全国加重平均)は「902円」で「前年より1円増」だった。それぞれの労働局での手続きを経たうえで10月に改定される予定だ。
各地で異議申出が行われている。据え置きとなった東京では異議が殺到、前年の5倍に達したという。
*参考/「地方最低賃金審議会の答申のポイント」厚労省
・最低賃金の引上げを行ったのは40県で、1円〜3円の引上げ
(引上げ額が1円は17県、2円は14県、3円は9県)
・改定後の全国加重平均額は902円(昨年度901円)
・最高額(1,013円)と最低額(792円)の金額差は、221円(昨年度は223円)
・最高額に対する最低額の比率は、78.2%(昨年度は78.0%)
(金額は時間額。都道府県別の答申額は厚労省ホームページで公開されている)
宮城では8月3日、地方審議会が労働局長に対して「時間額825円」(前年から1円引き上げ)を答申、異議申出の公示などの手続きを経て8月20日、第3回地方審議会で答申どおりの改定額が決定された。
宮城全労協は8月16日、「異議申出書」を宮城労働局長に提出した(資料)。
「中央審議会が「目安」を示さない異例の事態にあって、不十分な額であっても地方審議の場で「引き上げ」が打ち出されたのは、地域の低賃金労働者への影響を考慮し、また地方格差の拡大を憂えた結果であったと考えます」。
そのように指摘したうえで<「全国一律、どこでもだれでも1時間1500円」のステップとして「1時間1千円」の実現>を求め、以下の理由を付した。
(1)「1時間1円」の引き上げでは生活の改善は望めず、「コロナ格差」は拡大する
(2)「雇用か賃金か」は最賃抑制の口実、中小零細企業の支援は政府責任
(3)「最賃の地方格差」はいっこうに解消しない
(4)「エッセンシャルワーカー」に届けるべき最賃大幅引き上げ
●安倍首相の最後の最低賃金、「コロナ新常態」の正体を浮き彫りに
中央審議会では経営側委員と労働側委員が対立、激しい論争が続いた。地域別最賃の改定「目安」は示されず、審議は各地方に委ねられた。「目安なし」は11年ぶり、リーマン危機以来のことだった。安倍首相の抑制姿勢が影響した(既報/ニュース345号/「最賃宮城」で意見陳述)
安倍首相の「雇用優先」は事実上、最賃の据え置きを意味した。結果について政府からの明確な意見表明はない。1円ないし3円は現行水準の範囲内であり、経営側も受け入れ可能ということか。そのように安倍首相は安堵し、語ることなく退場するのか。
首相は6月3日、今年の最賃への言及に際して、昨年の閣議決定に至るまで7年間の経緯を読み上げた(既報/ニュース343号/最低賃金の大幅引き上げを!)。首相にとって最後となった2020最賃は、本人が自画自賛した実績と貢献に泥を塗っただけではない。「雇用か賃金か」という二者択一論を突きつけ、最賃抑制へのハンドルを切ることによって、政権サイドから流される「コロナ新常態」なるものの正体を浮かび上がらせることになった。首相は会見で述べた「エッセンシャルワーカー」への感謝を、みずから踏みにじった。
最賃の地方格差も温存された。安倍首相は「地方創生」を内政の重要テーマに設定し、審議会などでの検討を急いできた。最賃審議と並行して様々な報告が続いた。デジタル化と「働き方改革」が突破口であり、少子高齢化対策や女性活躍、観光など安倍政権が掲げてきた政策の数々が「地方創生」に盛り込まれる。しかし、これらの「地方創生」議論では最賃は位置を占めていない。
現行の地域最賃では15県が最低額(1時間790円)、その15県すべてが2円ないし3円(8県)の引き上げだった。その結果、最低額は792円となった。せめて800円という切羽詰った地方の声はとどかず、7県(秋田、鳥取、島根、高知、佐賀、大分、そして沖縄)の792円をはじめ、今年も15県が700円台にとどまったままだ。
まったく不十分な引き上げ額である。それでも政府の抑制姿勢に対して、地方の多くが沈黙しなかったことは明らかだ。今回、いわゆる「D」「C」ランクの県を先頭に引き上げが相次ぎ、引き上げ答申は40県にのぼった。今後の最低賃金引上げの闘いに引き継がれるだろう。
コロナ事態のいまがチャンスだと、官房長官や大臣、有識者たちが公言している。いったい「地域最賃」を抑制する「地方創生」とは何か。次の政権は答えなければならない。(8月28日/U・J記)
<資料/2020「宮城最低賃金の改正決定」(答申)への異義申出書>
宮城全労協/2020年8月16日
「コロナ時代」だからこそ最低賃金の大幅引き上げが必要
中小零細企業への手厚い支援は政府の責任!
宮城地方最低賃金審議会の意見に関する公示(2020年8月3日)につき、宮城全労協は改正決定内容への異議を申し出ます。
中央審議会が「目安」を示さない異例の事態にあって、不十分な額であっても地方審議の場で「引き上げ」が打ち出されたのは、地域の低賃金労働者への影響を考慮し、また地方格差の拡大を憂えた結果であったと考えます。その点を述べ、異議の内容と理由を述べることとします。
私たちは宮城地方審議会での意見陳述(7月29日)、また労働局長への要請(6月15日)により「時間1千円」の実現などを訴えてきました。審議会の答申は、宮城の最低賃金額を「1時間1円引き上げ825円」とする、というものです。この改定額では最低賃金水準で働く労働者の生活を向上させるにはあまりに低すぎ、また「新型コロナウイルス感染症」の拡大がもたらす生活不安の解消には遠く及びません。
私たちは「全国一律、どこでもだれでも1時間1500円」のステップとして「1時間1千円」の実現を求めます。
以下、4点にわたり私たちの見解を記します。
(1)「1時間1円」の引き上げでは生活の改善は望めず、「コロナ格差」は拡大する
(2)「雇用か賃金か」は最賃抑制の口実、中小零細企業の支援は政府責任
(3)「最賃の地方格差」はいっこうに解消しない
(4)「エッセンシャルワーカー」に届けるべき最賃大幅引き上げ
(1)「1時間1円」の引き上げでは生活の改善は望めず、「コロナ格差」は拡大する
「1円引き上げ」を報道した地元テレビ局のニュースサイトには「毎日8時間、月に20日として13万円強」などの書き込みがありました。地域最賃への注目と落胆が読みとれます。
宮城は前年維持ではなく引上げたとはいえ、「引上げ率0.12%」は中小企業の今年の賃金上昇率1.2%(厚労省発表7月10日)に比して桁違いの低さです。生活改善が望めないことは言うまでもありません。近年、最賃影響率の上昇も報告されてきましたが、低賃金労働者への影響は多大です。
宮城合同労働組合は意見陳述で「最低賃金に張り付いている中小企業労働者の賃金実態」を訴えました。「賃金が最低賃金の引き上げによってしか改善できない組合員」にとって、影響は単年度の一過性にとどまりません。
しかも最賃抑制は「コロナ格差」の拡大に直結します。この数か月、生活保護申請の急増が報告されるなど、感染拡大の影響は低賃金労働者、不安定雇用労働者に広がっています。
「コロナ禍」は万人を等しく襲っているわけではありません。経済的にも富むものはより富み、貧しいものはより貧しくなると指摘されています。世界最大の感染確認が続いている米国で「豪華クルーズ船が飛ぶように売れている」と報じられていました(NHKWEB記事8月12日)。日本がこうした現実と無縁であるわけはありません。「コロナが映し出す格差」を放置することはできません。社会的不公平の歯止めとして、最低賃金が機能すべきときです。最賃審議は「コロナ禍」のいま、歴史的な要請に応えるべきです。
「コロナ時代」だからこそ最低賃金の大幅引き上げが必要です。「1時間1千円」を実現し、「全国一律、どこでもだれでも1500円」へのステップとすべく再考を強く求めます。
(2)「雇用か賃金か」は最賃抑制の口実、中小零細企業の支援は政府責任
安倍首相は「雇用か最賃か」の二者択一論を持ち出し、2020最賃抑制の流れを作り出しました。しかし「雇用最優先」と言いつつも、実際は雇用破壊が進み「リーマン危機を超える」との予測が現実味を帯びてきています。
「コロナ解雇・雇い止め」は厚労省発表(7月30日)でも全国で4万を超えました。宮城労働局によれば県内でも3月以降の累計で743人、増加が続いています。5月求人倍率は0.12ポイント悪化、下げ幅はオイルショックに次いで過去2番目となりました(厚労省6月30日)。
雇用情勢の悪化は「自粛解除」「経済再開」以降も止まらず、底が見えません。「2020年に休廃業や解散に追い込まれる企業は全国で5万件を超える可能性が高まってきた」とも報じられています。
「コロナ」と消費税増税の二重打撃の影響は、春段階ですでに地域に広がっていました。たとえば河北新報社説は3月、重ねて緊急経済対策を訴えていました(「新型肺炎と地域経済/手厚い支援で打撃の回避を」4日、「新型コロナと経済/中小・零細の窮状を救おう」20日)
政府の対応が厳しく問われています。首相は世界に誇る経済対策とアピールしましたが、その仕組みと有効性には疑義がつきまとってきました。世論調査でも政策不信の高まりが続いています。この夏、右往左往の観光支援対策が混乱をまき散らしています。
このような経緯を振り返るなら、首相は「コロナ」を利用して、「1時間1千円」を明示した昨年の閣議決定をご破算にし、最賃抑制に踏み出したのではないかと疑わざるをえません。
日本弁護士連合会は「労働者の生活を守り、新型コロナウイルス感染症に向き合いながら経済を活性化させるためにも、最低賃金額の引き上げを後退させてはならない」と訴えました(6月3日、日弁連会長声明)。中小企業に対する「長期的継続的な支援」の強化を求め、「最低賃金引き上げが困難な中小企業のための社会保険料の減免や減税、補助金支給等」などに言及しています。政府はこのような提言を検討したのでしょうか。
政府は緊急経済対策として二度の大型補正予算を組みました。地方への援助も様々な名目で予算化されています。これらが最低賃金引き上げにおいて中小企業への支援にあてられているか、点検が必要です。「中小企業・小規模事業者が置かれている厳しい状況」(「骨太方針」2020)を最賃抑制の理由とするわけにはいきません。中小企業への支援は政府の責任であるからです。
(3)「最賃の地方格差」はいっこうに解消しない
最賃の地方格差の是正は早急に解決しなければならない重要課題です。ここ数年、知事や地方新聞による要望が繰り返されてきました。2020改定でも多くの県で1円ないし3円の引き上げ答申が続いており、「隣接する都市部との賃金格差を埋めたいという労働側の意見を重視した」(和歌山県の審議会関係者)などの声が伝えられています。しかし、最賃抑制の現状では、格差解消の流れにブレーキがかかることは否めません。この流れが止まることは「コロナ禍」による地方の疲弊にも拍車がかかるということです。
政府や経済界からは「地方創生」の大合唱です。「コロナ禍」が「東京一極から地方へ」の流れを必然化させるという主張がもてはやされています。政府は様々な仕掛けをつくり、企業の参入をうながしています。
首相の肝いりである「未来投資会議」(7月30日)では次のような提起がなされています。これまでは「一極・大都市集中」で、デジタル化が遅れているために「距離が意味を持つ経済社会」であった。「ウィズ・コロナ、ポスト・コロナ社会」では「新しい働き方を定着させ(テレワーク・在宅勤務、時差出勤、兼業・副業等)、リモートワークにより地方創生を推進し、DXを進めることで、分散型居住を可能とする社会像」などが検討されねばならない、と。
ここにあるのは中央の視点です。あたかも大都市圏から地方へ「三密を散らす」かのような発想です。「リモートワーク」などは主要に大都市部の大企業のオンライン業務であり、しかも、これらの「働き方」を是として受け入れられるのは一部の労働者に限られます。その最たるものが「ワーケーション」なるものです。大企業がリゾートブームに乗って地方に進出したバブル期の再来のようです。
そもそも「地方創生」を掲げる安倍政権は、奇しくも2015年度から5年をかけて人口移動を均衡させるとしましたが、計画が未達成のまま「コロナ事態」を迎えました。1400万人東京が最大の感染拡大地となったことは偶然ではありません。
地方が最賃格差の是正を求めたのは、地方から大都市圏への人口移動、とくに若者世代の流出をなんとしても防ぎたいということでした。地方経済、雇用、社会の活性化のために、ここで育った若者たちが生活できる賃金であるべきだというものでした。そのような政策こそが「ウイズコロナ」「ポストコロナ」の「新常態」でなければなりません。
(4)「エッセンシャルワーカー」に届けるべき最賃大幅引き上げ
最低賃金が果たすべき役割が問われています。「エッセンシャルワーカーに報いる最賃大幅引上げを」という声は「コロナの時代」を象徴する要求です。
高まる感染リスクの不安をかかえてライフラインを維持するために働いている労働者の多くは、劣悪な労働条件、低賃金と不安定雇用のなかにいます。そのような労働者が正当な対価を受け、報われることが必要です。そこに背を向ける政治は厳しく批判されねばなりません。
安倍首相は緊急事態宣言から10日後、記者会見で次のように演説しました。
「この間、毎朝、店を開き、食料品など生活必需品を棚に並べてくださっている皆さんがいます。レジの対応をしてくださっている皆さん、そして、物の流れを絶やすことのないよう、昼夜分かたず配送に携わっている皆さんがおられます。緊急事態の中にあっても、私たちの生活を守るために事業を、営業を継続してくださっている皆様に心より感謝申し上げたいと思います。
高齢者の介護施設や、保育所などでは、多くの職員の皆さんが感染予防に細心の注意を払いながら、必要とする方々のため、事業を続けてくださっています。電力やガス、水道の供給、ごみの収集・焼却、鉄道の運行、こうした社会インフラがしっかりと維持されなければ、私たちの生活は成り立ちません。そのために日夜、頑張ってくださっている皆さん、こうした皆さんの存在なくして、私たちは長期にわたるこのウイルスとの闘いに打ち勝つことはできません。目に見えない恐ろしい敵との闘いを支えてくださっている、こうした全ての皆様に心より御礼を申し上げます」(4月17日、安倍首相会見の冒頭発言)
首相はこのように、当時話題になっていた「エッセンシャルワーカー」と総称される労働者たちに言及しました。これは人気取りにすぎなかったのか。その後の首相の最賃抑制の姿勢は、文字通り「恩を仇で返す」に等しいものです。
あらためて振り返ってみます。
2020年の最低賃金改定は「新型コロナウイルス」の感染拡大が社会に大きな影響を与える中で審議されました。様々な分野で「新常態」が議論されています。最低賃金審議にも当然、「ウイズコロナ」「ポストコロナ」の視点が問われたはずです。ところが安倍首相は「雇用を最優先」と発言(6月3日「全世代型社会保障検討会議」)、最賃引上げの「凍結」「抑制」を強く印象づけました。首相発言が中央審議会の審議に影響を与えたことは明らかです。中央審議の冒頭、審議会会長は首相発言をなぞり、これを追認しました。中央審議会は結果的に引き上げ額の「目安」を示さず、地方審議会に委ねることになりました。
2020最賃審議は「ウイズコロナ」「ポストコロナ」の新しい社会の入り口を示したと歴史に刻まれるでしょうか。地方の最低賃金審議での英断が強く期待されます。
以上(2020年8月16日/宮城全労協)
■以上/宮城全労協ニュース346号(2020年8月29日)