宮城全労協ニュース/第352号(電子版)/2021年1月8日

「緊急事態宣言」発出
問われる菅政権の責任



 1月7日、政府は東京・神奈川・埼玉・千葉の一都三県を対象に1カ月間、新型コロナ特措法にもとづく「緊急事態宣言」を発出した。

 西村経済再生担当大臣は昨年11月26日、「この3週間がまさに正念場であり、勝負だ」と述べ、飲食店の営業時間の短縮要請など「集中的な対策の強化」の考えを示した。その3週間、感染は抑制されるどころか、増大の一途をたどった。期間の初めでは直前一週間の新規感染確認者数は一日平均2072人、それが期間終盤には2500人を超えた。重症者は2倍近くに増加した。「勝負」の敗北は明らかだった。

 病院や保健所など現場から悲鳴があがっていた。専門家たち、医師会、研究機関、労働組合などから、危機は深まっており状況は危険だと警告と要求が相次いでいた。

 菅政府の対応は遅すぎ、しかも迷走した。「GoTo」事業へのこだわりが大きく影響した。日本学術会議への任命拒否に加え、安倍前首相の疑惑をめぐって批判が高まり、コロナ対応とあわせて内閣支持率は急落した。

 年末年始、急激な拡大が各地で報告された。全国の「一日平均」は4千人を突破していた。「緊急事態宣言」発出の日、感染確認者数は過去最大を記録した。クリスマスを前後する社会状況が反映された数値であっただろう。東京都は初めて2千人、全国では7千人を超えた。宮城県も過去最大を更新した。仙台市では「10歳未満から100歳代までの男女54人のうち、36人は感染経路が分かっていない」という。危険な局面が続いている。

 首相は発出の記者会見で「対策の4つのパッケージ」を説明した。これまで言及されてきたことが並ぶ。その翌朝、一都三県の主要駅では人出にほとんど変化がなかったという。公共交通機関によって職場に向かう労働者たちの戸惑いが感じられる。

「およそ1年の中で学んできて、どこが問題かということは、かなり明確になっている。そういう考え方からすれば、限定的に集中的に行うことが効果的だと思っている」(1月4日、菅首相)。根拠のない思い込み、過信ではないのか。発出後すでに、「一か月で事態を改善させる」ことは「至難の業」だ、対象の拡大と期間の延長は避けられないという指摘が出ている。

 4日の会見では、手元の原稿を読み上げる首相の姿に覇気は感じられなかった。「非常事態宣言の検討」も知事たちの要請を受けてのことだという。どこまでも他人事のようだ。政治トップとして、自分の言動が感染リスクの軽視と「気の緩み」を広めたという自覚はあるのだろうか。首相はせめて反省と政治責任を明らかにすべきだ。



危機を広げた政治リーダーたち


 首相は最近、変異ウイルスに関して「(英国からの渡航者は)一日一人か二人だそうだ」「大丈夫」と述べたと報じられた。放送後数日して官房長官は「1日150人」と修正し、首相の数字は「渡航者で陽性者数を念頭においたものと考えられる」と解説した。「水際対策」に奔走している人々はどんな思いで聞いただろうか。安倍政権から続く不正や隠ぺいの数々を振り返ると、もはや勘違いや偶然だと済ますわけにはいかない。

「勝負の3週間」と西村大臣が言ったとき、集中と連帯を呼びかける言葉としてふさわしくないと、多くの人たちが感じたのではないか。「GoTo」というネーミングもそうだ。「経済を回す」という発想に違和感を覚え、これは分断の政策だと訴えた人々は無視され、多額の国費を投入した事業が強行されていった。西村大臣は「勝負」発言の前、「キャンペーンを使って旅行するかどうかは、国民の皆さんの判断」と述べていた。だから現在、北海道などを除外する考えはない、と。利用者の多くにとっても戸惑いの「GoTo」だったのではないか。

 首相は批判や懸念に対して「エビデンス」を持ち出した。この事業が感染を全国に広げている証拠はないというのだ。「いまは示せないが」という専門家の見解の曲解、悪用であった。さらには「GoTo」による感染者数と称して怪しい数字を持ち出し、リスクを最小限に見せようとした。集計方法を明示することもなかった。感染が確認された旅行者と宿泊施設従業員の集計としては仮に正しかったとしても、それで事足りるわけはない。とくに無症状感染者が旅行期間中に感染を広げても把握できないだろう。

 しかも首相は感染拡大の日々、会食・飲食を重ねていたことが表沙汰になった。西村大臣は前言をひるえして「一律に5人以上はだめ」と言っているわけではないと弁解し、二階幹事長は会食が目的ではない、情報交換のためだとかばった。「新たな日常」を語る資格がどこにあるのか。首相は12月28日、「ウイルスに年末年始はない」「これまで以上に感染対策を徹底し、会合を控え、静かな年末年始をお過ごしいただきたい」と呼びかけた。説得力のない呼びかけだったといわざるを得ない。

 小池都知事の「高齢者は会食やGoToを自粛して」という呼びかけもそうだ。知事は「重症化しやすい高齢者にどうやって感染しないようにしていただくかにポイントを当てる」と説明した。感染拡大を抑えるために、とくに無症状や軽傷の感染者たちの行動のあり方が注目されていた。若者たちや活動的世代とともに社会的な連帯をいかに築くかが問われてきた。知事の呼びかけは高齢者は出歩くなと言わんばかりであり、高齢者をいっそう孤立させるものではなかったか。

 小池知事は感染確認者の増大は検査数の増大の影響と強調したことがあった。知事の発言は適切だったか。東京都が直面しているリスクを正確に伝えようとしただろうか。「陽性率」、検査数に占める陽性者の割合が重要だった(陽性率は「第三波」で上昇し続けた)。

 状況は厳しい。専門家たちからは様相の変化が指摘されている。感染確認者の世代的な広がり、とくに高齢者への拡大は家庭内感染の増大が影響している。クラスターが多様化している。感染経路を終えない「無症状クラスター」が発生している可能性があるという。

「勝負の3週間」について自粛要請の効果は薄かったと指摘されている。こうした状況は政治の影響と無縁ではありえない。個人に行動変容を呼びかけるためには、政治リーダーたちの真摯で真剣な検証と反省が必要だ。



首相交代と棚上げ状態になった課題


 ワクチン投与が行き届いても、克服するのに数年以上かかるだろう。そのような専門家の指摘がある。その場しのぎで解決する問題ではない。政治家には思慮と覚悟が求められている。

「第一波」の混乱の中、安倍首相は「目詰まりが起きている」と周辺にもらしていたという。「第一波」の抑制に続いて「冬への備え」が意識された。インフルエンザとの同時発生が危惧されたからだ。8月28日、安倍首相の最後の会見で、「新たな政策パッケージ」が国民に提示されるはずだった。しかし、会見の中心は健康問題と政局になった。次のコロナ危機に備えようという意識は、首相交代劇を通して大きく後退していった。菅官房長官、新首相は「GoTo」事業の展開を優先、見切り発車した。貴重な時間が失われ、課題の多くが進展しないまま「第三波」に直撃された(ニュース350号「危険な第三波」参照)。

 医療と保健所の体制強化、支援政策が愁眉の課題だった。夏の一時金の削減、労働条件の悪化、家族への攻撃など、解決を求める声が相次いでいた。間に合っていないことは「第三波」で突きつけられた。

 厚労省は「情報把握・管理支援システム」を開発して実証実験に入っていた。現場の軽減に資する新システムだとされた。この「ハーシス」はいま、どこまで機能し、役立っているのだろうか。「接触確認アプリ」についても同様だ。

「無症状クラスターの拡大」「市中感染」の可能性が指摘されている。クラスター発生・認定に至る前の問題、ウイルスとの接触の解析や感染回避の工夫など、議論すべき点は多くあったはずだ。

 安倍首相は最後の会見で、感染症の法的な運用の見直しを強調した。直前の政府分科会では見直し議論をする合意はあったが、首相は踏み込んだ。医療機関や保健所の負担軽減のために見直すとの説明だった。「見直し」は公的な責任の放棄につながる可能性があるとの反対意見が表明されていた。一方、現場のひっ迫は法的位置づけに原因があるとの主張があり、とくに政権支持派とみられる人々が流布していた。首相の踏み込みには意図が感じられた。

 その後、見直し問題はどこにいったのか。「軽症者や無症状者はホテルなどで療養」という態勢が整備され、医療現場の負担が軽減されているだろうか。逆に自宅療養の増大が、自宅死など別の問題を引き起こしているのではないか。年末になって「新型コロナの指定感染症を1年延長へ/感染症法の改正検討」と報じられた。

「PCR検査の拡大」も焦点だった。首相は「1日20万件」の検査や高齢者施設職員などに定期検査する方針を説明したが、実態と乖離していると批判されてきた。いまだに論点にずれがあり、政策上の不一致が克服されていない。(菅首相は1月7日の記者会見で、「PCR検査を大幅拡充して感染状況を正確に把握しようという考えはあるか」と記者に問われ、「検査は必要ある人、必要性を踏まえて」「検査数は1万件から12万件になっている」と述べたが、質問に答えてはいない)

 課題は山積していた。「専門家・科学と政治」もそうだ。「経済がつぶされる」と批判された専門家たちもいた。専門家たちは政府のリスク・コミュニケーションを求めたが、政府は無視同然だ。専門家会議には経済専門家が追加任命され、さらに分科会に切り替わっていった。その経緯も、経済専門家の発言内容と政府方針の関係も不明な点が多い。専門家の知見は分科会議論に限らない。「数理モデル」もそうだろう。政府には専門家たちとの議論や交流が必要だった。日本学術会議への攻撃など論外である。

 ワクチン問題では、過度な期待に警鐘を鳴らす意見があるが、政府は前のめりだ。ワクチンの公正・公平な世界的枠組みという要請に対しては、日本は「裕福な国」としての責任を果たしてきただろうか。そもそも海外メーカーからの買い付けを急いだのは、2021東京五輪開催の条件づくりなのではないか。政治の議論は皆無といっていい。



持ち出された特措法の「罰則規定」


 コロナ関連法の改正が次期国会の焦点に浮上してきている。政府への批判の矛先を変えるための「罰則規定」ではないのか。「罰則規定」は事業者や市民の溝を深める危険性がある。求められているのは連帯であって分断ではない。

 知事たちが主張してきたのは、自粛や時短など要請の「実効性」を高めるために、知事の権限が強化されるべきだということだった。これらの主張に応えるかのように政府与党が動き出してきた。「コロナ事態」を利用しようとするものだ。

 昨年夏、当時の菅官房長官は「休業要請と補償をセットで実施すべき」と発言していた。罰則規定は「私権の制限」につながる危険性があり、慎重さが求められる。それは菅官房長官のスタンスでもあった。

 菅首相は「第三波」で発言を軌道修正させてきた。12月25日には、私権の制限に配慮しながら「給付金と罰則をセットで」と述べた。1月4日の会見では「給付金と罰則をセットにして、より実効的な対策をとるため、新型コロナウイルス対策の特別措置法の改正案を通常国会に提出する」と明言した。

 小池都知事は昨年末、二階自民党幹事長と会談し、特別措置法と感染症法の改正を申し入れた。同様の二者会談は昨年夏にも行われている。小池知事は「時短」等の要請を事業者が守る義務と罰則の規定などを主張してきた。

 自民党の対策本部は「新型コロナウイルス対策の特別措置法などの今の法律では、感染拡大を防ぐのに不十分だという指摘があることから、必要な法改正を検討し、来年の通常国会への提出を目指す方針を確認」したという(NHK12月18日)。休業要請に応じない事業者に対する罰則を含めた、知事による措置の「実効性を高める規定」があげられている。

 東京都議選や東京五輪まで絡んだ思惑があるのではないか。「政治の敗北」を棚に上げ、罰則規定新設を実現しようとする動きは認められない。まして「非常事態条項」を憲法改悪への誘い水にしようとする動きに利用されてはならない。

 野党4党(立憲民主党、共産党、国民民主党、社民党)は昨年12月2日、特措法改正案を提出している。そこでは感染拡大に対して知事が実施できる権限や、休業要請への補償に対する国の負担などが盛り込まれている。野党の審議要求を無視して国会を閉じたのは政府与党の側である。緊急事態宣言を利用した「罰則規定」新設の動きは党利党略である。西村大臣は「事業者への「財政支援」と「罰則」をあわせて法改正を急ぎたいと述べているが、安倍政権が重要法案で多用した「束ね法案」の手法であり、その点でも認められない。


 「第三波」の先行きは見通せない。打撃と犠牲はいっそう広がり深まっている。菅政権の政策の優先は政権維持そのものにあり、そのような政治では救われない。首相退陣、政権交代を訴え2021春闘に向かおう。 (2021.1.8/U.J)


■以上/宮城全労協ニュース352号(2021年1月8日)