宮城全労協ニュース/第87号(電子版)/2007年1月8日

8時間労働制の破壊を許すな!
国会上程阻止!制度を断念させよう!

「日本版ホワイトカラー・エグゼンプション」は、労働側の反対と世論の慎重意見を受け、政府・与党の動揺に発展し、ここに来て暗礁に乗り上げている。選挙に不利という自民・公明与党の議員心理が強く働いている。昨年来の闘いを強化し、政府・与党、経済界の亀裂を拡大させ、07春闘を通して制度の導入そのものを断念させることが全労協をはじめ労働運動と社会運動に問われている。


暗礁に乗り上げている厚労省の強硬方針

柳沢厚労相は5日、新年初閣議後の記者会見で、通常国会(1月25日召集)に法案を提出すると明言しつつ、与党の理解を求めた。しかし、提出見送り論や継続審議論などが噴出し、けっきょく安倍首相みずから慎重論を表明、中川自民党幹事長がこれを追認せざるをえない状況に追い込まれている。安倍首相と中川幹事長の指導力、そして政策の一貫性があらためて問われる事態だ。政府・与党内の路線対立、さらには政府・与党と経済界の関係も問題となるだろう。


労働政策審議会の労働条件分科会(厚労相の諮問機関)は12月27日、大臣に対する最終報告をまとめた。年内決着というタイムスケジュールに従った強引なとりまとめだった。懸案とされた「適用労働者の年収要件」は明記されなかったし、労働側の反対意見を付記するという異例の報告となった。

労働側が反対しただけではない。大メディアは基本方向を支持しつつも、導入の手法や内容に危惧を表明してきた。報告はこれを満足させるものでもなかった。

「労働時間の規制除外は、実際の雇用慣行や仕事の進め方などにもきめ細かく配慮して具体化すべきで、さらに突っ込んだ検討が求められる」(日経新聞社説/「あいまいさ残る労働時間の規制除外」/12月30日)

「働き方が多様化しているのは事実だが、鋭い対立を押し切ってまで、直ちに実現すべき制度だろうか」(読売新聞社説/「導入には意見の幅がありすぎる」/12月30日)

経済界も一様ではない。経済同友会は企業別利害を代弁し、慎重対応を求めていた。

「法制度の改正にあたっては、まず現状を的確に把握した上で、企業規模や業種により一律のルールでは対応しきれない面があること、自律的という視点が、むしろ企業や従業員の負担を増大する面があること等も考慮すべきである」(<「労働法制」及び「労働時間法制に関する意見書>06年11月21日)。

米国とは制度的にも文化的にも異なる日本で、「自律的労働」とはどのような労働を指し、それを誰がどのように認定し管理するのか。最終報告は答えていない。

しかし、強引ではあっても、07年通常国会への法案提出という既定の方針にそったギリギリのとりまとめであったはずだ。厚労省官僚や各種審議会に名を連ねる新自由主義者たちにとっては、事態は腰砕け的であり、認めがたいものであろう。


選挙対策か「人民大衆の声」か

昨年12月、自民党の「厚労族議員」を中心に調査会が作られた。雇用・生活調査会の会長に就任した川崎前厚労相は、「非正規雇用が増えていいと言うなら、自民党は経済財政諮問会議とぶつからなければいけない」と「民間主導」の政策決定をけん制、労働時間規制撤廃に異議を唱えた。

郵政民営化をめぐって、当時の自民党郵政族と竹中大臣らとの間で繰り広げられた対立を想起させる。安倍首相はこれを「抵抗勢力」と断じて粉砕することはできなかった。安倍と小泉の政治手法の違いはあるとしても、安倍は小泉改革の負債を認め「再チャレンジ支援」(その内容がどうであれ)を主要政策としてかかげているわけだから、「残業代不払い法制」のごり押しには抵抗があったということか。

安倍首相の立ち位置を見切っているかのように、反対の声は「族議員」の枠をこえて広がっていった。選挙への影響を心配する与党サイドから慎重意見が相次いだ。「残業代不払い」=サービス残業の合法化・日常化、家庭生活の破壊、成果主義とあいまった賃下げ、過労死やうつ病など労働者犠牲の拡大・・。不安が統一地方選挙と参議院選挙を間近にした与党議員心理をゆさぶっている。

こうして公明党の太田代表は1月2日、東京の街頭で、「残業代がなくなるとか、こんな制度をつくったら大変だという声があふれている。与党協議のシステムが必要だ」と演説した。

自民党の丹羽総務会長は4日、「賃金の抑制や長時間労働を正当化する危険性をはらんでいるという指摘もある。(労働基準法の)改正には慎重に対応しなければならない」と地元後援会で発言した。

一連の期間、当事者の厚労相の記者会見をのぞいて、安倍政府の閣僚からは誰一人として新制度導入を積極的に支持する声は聞かれなかった。

年末・年始にかけて、レールは敷かれていたということだろうか。安倍首相はみずから、与党との論議が必要だと慎重意見を述べ、与党の責任者である中川自民党幹事長がこれを追認した。

「家で過ごす時間は小子化(対策)にとっても必要だ。日本人は少し働き過ぎという感じを持っている方も多いのではないか。経営者の立場、働く側の立場、あるいは、どういう層を対象にしているかについて、もう少し議論を深めていく必要がある」(5日、安倍首相)

「(制度そのものは)労働生産性が上がり、(サラリーマンが)家庭にいる時間が長くなる」、「歓迎されていないのは、長時間労働による過労死や賃金抑制の手段に使われるという懸念があるからだ」(7日、中川幹事長)


経済財政諮問会議と規制改革会議の解体を

安倍首相と中川幹事長は事実上、既定方針を変更させた。彼らにとっては選挙対策上のやむをえない後退であるだろう。しかし、この変更は、政府・与党の基本方針に反し、安倍政府においても重要なエンジンである経済財政諮問会議の確認にも反するものである。

経済財政諮問会議は労働市場改革を重要テーマにかかげてきた。日本経団連の御手洗ら「民間議員」は、その突破口として「ホワイトカラー・エグゼンプション」導入を要求してきた。八代尚宏は経済財政諮問会議の労働市場改革専門調査会会長に就任し、「労働ビッグバン」政策の先頭に立ち、小泉改革の例にならって官邸主導の改革を進める位置に立った。12月28日には調査会の初会合が開かれ、既定方針が確認されている。

八代たちは正規労働者と非正規労働者の労働条件の「均衡」という理屈をつけて、正社員の賃金引き下げと非正規雇用の拡大を主張している。「既得権をもっている大企業の労働者が、(下請け企業の労働者や非正規社員など)弱者をだしにしている面がかなりある」(12月18日、内閣府の労働市場改革などに関するシンポジウムで/毎日新聞)。

また、小泉改革のもう一つのエンジンであった規制改革会議は、12月25日の最終答申のなかに、労働契約法制の整備や派遣労働規制の見直しとならんで、「労働時間法制の見直し」をもりこんだ。そこには、「労働時間にとらわれない働き方を推進する観点から、ホワイトカラーの従事する業務のうち裁量性の高い業務について、労働時間規制(深夜業規制を含む)の適用除外とする制度について検討、措置」とし、「次期通常国会に法案提出等所要の措置」と明記されている。

諮問会議や規制改革会議の面々にとって、教育基本法の改悪と同様に、8時間労働時間制の破壊は戦後労働法制を解体する象徴的な政策である。


「労働ビッグバン」反対!
経済成長至上主義に総反撃しよう!


政府・自民党は選挙対策として方針変更を選択しようとしている。それはとりあえずの方便にすぎない。小泉改革(つまり、労働者階級に対する新自由主義反革命)を引き継ぐのか、それとも別の資本主義コースなのか。安倍政権はあいまいである。

新制度の積極導入派は、8時間労働制の解体が労働者に自由な働き方と同時に余暇をもたらし、少子化対策にもなると主張している。<24時間労働の翌日は休日になり、その日は家族との団欒の時間になる>。それは夢想でなければ、悪意のゴマカシである。現行の労働現場でさえ、たとえば郵政の「深夜勤制度」で働く仲間たちは、「夜勤の次の日は眠るだけだ、いや、眠ることもできずにもうろうとしているだけだ」、と訴えている。

中川自民党幹事長は(おそらく)、ヨーロッパの一部の国の労働・社会モデルを借用し、「非正規雇用の重要性」の論拠にしようとしているのだろう。8時間労働制にとらわれない労働と生活が21世紀日本に多様性と充足をもたらす、と。しかし、経営者側の横暴を規制する国家のシステムや「文化」に欠ける日本で、しかも労働運動を徹底的に破壊しようとする政府・与党のもとで、どうしてそのような期待が可能なのか。

さらに、一年前に打ち上げた中川の経済成長路線=「上げ潮路線」は、地球環境に何の関心も示さなかった。「20年たったら所得が倍増」とか、「すべての日本人が中流以上」とか、まさに20世紀的な発想である。ひたすら中国と成長競争をせよということなのか。21世紀にそのような余裕がどうしてあるのか。「イノべーション」が矛盾を解決するという呪文のごとき政治ではないのか。もっと深刻に、労働、自然環境、社会保障、そして反戦と人権を位置づける政治が必要なのだ。

安倍はまた、「企業から家計へ」と賃上げへの配慮を財界トップに要請してもいる。単なる口先か、それこそ「美しい国」に向かって経済界の横暴を規制する政治なのか。「あいまい主義」はもはや彼の持ち味のようだが、しかし、政治のトップとしては、日本経団連の御手洗ビジョンとはどのような関係にあるのかを含めて、はっきり政策を言うべきだ。同じくそれは、小沢民主党にも問われていることである。


全労協は一昨年来の一連の行動に引き続き、12月、厚労省前での数波にわたる抗議行動を展開してきた。労働法制改悪を粉砕する闘いは、賃上げ・安定雇用の要求とともに07春闘の最重要課題である。さまざまな市民運動、社会運動と連携し、労働と生活を問う闘いを深めていくことが問われている。

動揺する政府・与党のごまかしを許さず、8時間労働時間制の破壊を断念させる闘いを作り出そう。