| 06春闘学習会(3月15日)レポ−ト |
| 宮城全労協パンフレット(2006年6月) |
<はじめに> バブル崩壊の1990年代、リストラ攻撃が激化した。不当な解雇や労働条件の改悪が横行し、「個別労使紛争」が急増していった。「労働契約」法制の必要性が高まり、労働側からの提言が積み重ねられた。 2003年、厚生労働省は「研究会」を設置。2005年9月、研究会報告が公表された。資本・経営側の要求にそった報告に、労働団体はこぞって反対を表明。しかし、厚生労働省は07年度の法制化をねらっている。 宮城全労協は06春闘討論集会でこの問題を取り上げ、学習会を開催した。 また、宮城全労協は4月12日、研究会報告に基づいた法制化をしないよう、宮城労働局に06春闘申し入れを行った。 なお、厚生労働省は5月25日、個別労働紛争解決制度に基づく労働相談が過去最高を記録した(05年度)と公表した。 ◎宮城全労協/06春闘学習会(3月15日) ◎テーマ:こんな労働契約法制はいらない! =厚生労働省の研究会報告を批判する= ◎講師:遠藤一郎(宮城合同労組書記長) 1.1990年代、バブル崩壊し、経済危機下の攻撃が広がった 2.労働組合が問題とし、必要としてきた労働契約法 3.急増した個別労使紛争 4.研究会報告を批判する ●解雇について ●有期契約について ●労働条件の不利益変更について ●労働時間規制除外について ●労使委員会制度について *資料掲載/全労協声明(2005年9月20日) *参考/全労協・労働契約法制リーフレット(06年春発行) (1)1990年代、バブルが崩壊し、経済危機下の攻撃が広がった 労働契約法という新しい法律が作られようとしています。春闘ですから運動の話をしたいのですが、これは非常に重要な問題なので、今日の学習会のテーマに取り上げました。私は法律の専門家ではありません。少し込み入った話になりますし、法律上の議論も必要です。そこで、できるだけ分かりやすく進めたいと思います。 まず、この間の経緯について簡単に振り返ってみましょう。 1990年前後に日本経済は大きな波乱に直面します。80年代後半になって、「日本の経済は世界一」だ、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」だ、などと持ち上げられました。たとえば、世界中の銀行を資産評価したリストで、1位から5位を日本の銀行が独占します。その絶頂期に、三菱地所がニューヨークのロックフェラー・センタービルを買収して大きな話題になったことを、皆さんは覚えているでしょう。この買収劇は1989年のことでした。 しかし、90年から91年に入って、「バブル」がはじけてしまい、日本経済は大変な危機に陥ることになりました。そこで日経連は、1995年に、『新時代の日本的経営』というレポートを出します(*注)。 日経連は「財界の労務部」、つまり労働者対策の総本山です。2002年、日経連と経団連がいっしょになって、日本経団連(日本経済団体連合会)になりました。 このレポートについて、私たちはこれまで、いろいろ場で取り上げてきました。要するに、バブルがはじけた後、日本の経営者はどのように労働者を扱っていったらいいのか。新しい時代の雇い方、働かせ方、首の切り方の指針を提案したものでした。 (*注)労働者を3つのグループに類型化し、@雇用形態、A対象(職種・部門)、B賃金、C賞与、D退職金・年金、E昇進・昇格、F福祉施策、の各々で「差別化」したもの。その後の雇用破壊、労働規制緩和の戦略文書となった。非正規化、成果主義導入などもここに依拠した。3グループは、「長期蓄積能力活用型」、「高度専門能力活用型」、「雇用柔軟型」と名付けられた。 ●<リストラ解雇、非正規化、労働条件の不利益変更、労働時間規制の緩和>・・ バブルが崩壊し、『新時代の日本的経営』が提案され、そして、何が起こったか。 まず、リストラ解雇の嵐が吹き荒れました。当然、失業率がグーンと上がる。日本の失業率は94年まで2%代でしたが、90年代の終わりにかけて上昇して、5.5%にまでなる。約400万人が失業しました。 第2に、正規社員を減らして非正規社員を雇う。とりわけ有期契約の労働者に置き換えていく。 第3に、労働条件の一方的な不利益変更が次々に行われる。「バブルがはじけて日本の経済は危機だ。首を切らなければいけない企業がたくさんある。工場閉鎖の企業もたくさんある。失業率は5.5%だ。だけど、うちは首を切らないで企業を継続するから、労働条件を切り下げてくれ・・」。こんなことが、宮城合同労組でも相次ぎました。 たとえば、ある縫製工場では2割の賃金カットがなされました。東京本社の取き引き先銀行から、「お前の工場はいつも赤字じゃないか、これじゃ安心して金を貸せないから閉鎖しろ」。こうして、閉鎖して全員解雇になったほうがいいのか、それとも、労働条件の不利益変更を飲むか。我々には組合があったから、いろいろ交渉をして賃金引き下げの歯止めをかけたけれども、とくに組合のない多くの職場では次々と不利益変更が行われました。 そして第4は、「労働時間の規制の緩和」です。日本の労働基準法のなかでは1日8時間、週40時間であり、そして年間の総労働時間を少なくしていって1800時間をめざす。これが大きな流れでした。昔は、自動車学校でも48時間でしたね。時間短縮がなかなかしにくい職場だということで、労働基準監督署の時間監督官を呼んで勉強会を開いたりもしました。48時間が44時間になって、全体で最後は40時間になる。こういう形で時間が短縮されていく。それは世界的な流れでした。 しかし、日本では労働時間の規制、つまり時間短縮という流れが下のほうから崩されはじめていく。裁量労働制とか、フレックスタイム、変形労働時間が導入されていく。裁量労働制は、労働時間を測りがたいから、労働者の裁量にまかせて働いて、何時間とみなす。そうして、どれだけ働いても8時間とみなされる。フレックスタイムは、4時間のコア労働時間があって、自由に前後にスライドして働く。変形労働時間は、週、月、3か月、1年という長さで、どんどん範囲を拡大して、労働時間の規制がゆるんでいく。 労働時間の規制が緩むということは、経営者が好きなときに好きなだけ働かせられるような、経営者にとって都合のいい働き方を押しつけることです。この結果は、ぼうだいなサービス残業、未払い残業です。 (2)労働組合が問題とし、必要としてきた労働契約法 このように、バブル崩壊後、労働者への攻撃が広がっていきました。解雇の嵐が吹き荒れ、正規雇用から非正規雇用への置き換え、一方的な労働条件変更、そして、労働時間の規制が緩められ、「労働時間の弾力的運用」によって様々な働かされ方が増え、サービス残業や不払い残業が急増する。 労働の最低基準が労働基準法に定められますが、解雇のルールや、有期雇用、労働条件変更、労働時間規制などのルールは(労働時間に関しては、基本的に労働基準法のなかにありますが)、主要に「労働契約」という分野に入ります。労働者が使用者と契約を結ぶ際の入り口が採用で、契約に基づいて働き、その途中に出向とか配転、賃金や労働時間が契約変更として提案される。そして、契約の最後が、定年で退職するか、解雇されるか、ということになります。 つまり、90年代になって、契約の入り口と途中と出口の様々な局面で、問題が噴出してきた。そのような状況のなかで、労働組合の側が、「労働契約法」を問題にしていきます。年を追って、その流れを見ていきましょう。 ◎94年 日本労働弁護団/「労働契約法制立法宣言」(第一次案発表) ◎97年 全労協/「解雇制限法案」発表/解雇制限法制定の要求署名 ◎98年 有期雇用労働者ネットワーク/「有期労働契約に対する法規制」提言 ◎01年 連合/「労働契約法案」(骨子案発表) 日本の労働法では、たとえば解雇については、労働基準法の19条(解雇制限)と20条(解雇予告)があるだけです。解雇の制限は、産前産後の労働者の解雇や、労災中の労働者の解雇はいけないというようなことがあるだけです。解雇予告は、1か月の予告期間が必要であり、そうでない場合は1か月分の賃金を解雇予告手当として払わなければならない。基準法上の解雇はその2つだけです。ところが実際には、いろんな解雇があります。 ●闘いとってきた「整理解雇の4要件」や「解雇権の濫用」の法理・・ 経営者は、「会社が左前になったから人員整理をしたい」と言う。しかし、整理解雇の場合、会社が好きな人間の首を切っていいか。労働組合に熱心な労働者だからと首を切っていいか。それを書いている法律はありません。そこで、整理解雇をするといっても、基準があるはずです。 まず、経営上の必要性が本当にあるのか、その上で解雇をしないですむ方法を一生懸命に考え、解雇回避努力をしなさい。どうしても解雇をしなければいけないときには、だれを解雇するかという選定基準を公平にしなさい。あるいは、組合に十分に説明しなさい。整理解雇について労働者が闘い、そのような判決を積み重ねていった。こうして、「整理解雇の4要件」を満たさなければ一方的に解雇してはいけないということが、長い歴史のなかで勝ちとられてきたのです。 同じように、「解雇権の濫用」の法理があります。お前の顔が気にくわないから明日から会社に来なくていい、というような解雇はいけない。いくら解雇自由の契約があったとしても、契約を解除する権利が経営者にあったとしても、社会通念上相応ではない、合理的な理由がない、そのような解雇については「解雇権の濫用」としてこれを認めない。 さきほど、合同労組の仲間から不当解雇の裁判報告がありました。裁判で労働者が闘って、やっと「判例法理」として積み上げてきた。法律に明記はされていないけれども、こんな不当は解雇はイヤだと労働者ががんばって闘いとってきた。その成果が最高裁までいって一つの論理として確定し、法律に準ずる法理として積み重ねられてきました。 ●90年代、判例無視の解雇と判決が相次いだ・・ ところが、90年代、そのような判例法理を引っくり返すようなメチャクチャな首切りが多発しました。東京地裁のいちばん若手の裁判官が集まって、「整理解雇の4要件」は「4要素」でいいんだというような解釈が行われていきました。 <企業にとっては、「存続できるか、できないか」が大問題だ。だから、十分に組合に説明したかとか、平等に行われたのかとか、解雇回避の努力がどれだけ行われたかとか、そんなことを全部満たさなければ解雇できないといっていたら企業がつぶれてしまう。したがって、本来、「4要素」でいい>。そういう内容のひどい判決が、東京地裁(*)で次々と出されていきました。 もっとひどいのは、解雇権の濫用についてです。東京地裁の若手裁判官たちはどんなことを考えたか。<本来、労使の契約が対等である以上、契約を破棄する権利は両方にある>、と。現実には、労働者が破棄することはあまりないですよね。しかし、破棄する権利は両方にあり、それは保証されなければいけない。こうして、「解雇権は自由」、「解雇自由の原則」と平気で書く裁判官がでてきた。<裁判の判例によるルールは、法律で決められていないので、社会の状況が変化したら判例法理もまた変化してよい>、というわけです。 (*)とくに99年から00年にかけて、東京地裁は解雇をめぐる労働者敗訴の判決を連発した。全労協パンフ「首切り自由を許すな」(01年発行)は、8本の判決を取り上げて、「解雇の自由・整理解雇の法理の否定」を解説しているので参照してください。東京地裁労働部がこの時期に下した8件は次のとおり。 ○東洋印刷事件、○日本ヒルトン事件、○角川文化振興財団事件、○明治書院事件、○ナショナルウエストミンスター事件、○東京魚商業協同組合葛西支部事件、○廣川事件、○カンタス航空事件 このような経緯のなかで、首切りが増え、争いが増えていきました。そこで、先ほど説明したように、全労協などの取り組みが始まります。全労協は、いままで作ってきた判例法理を法律としてきちんと明記して、「解雇制限法」という法律を作るべきだと主張しました。労働契約の法律の最後に、労働関係が終了するときのルールをきちっと法制化すべきだ。それが解雇制限法の提案でした。 また、パート、アルバイト、臨時、派遣が急増していきました。安上がりで、いつでも首が切れるということで、正規社員をどんどん替えていく。私たちは長い運動の歴史のなかで、有期雇用労働者であっても反復更新の場合、正規雇用として扱えと要求してきました。たとえば1年契約で働いていて、5回、10回、20回と1年契約の更新をしている労働者がたくさんいます。皆さんの家族でも、スーパーなどでパートをやられている方の多くは、2か月、3か月という期間を繰り返し更新して、長く働いているでしょう。そのような場合、有期契約の労働者でも、繰り返して雇用が継続されている労働者にとっては、本来、「期間の定めのない雇用」、つまり正社員と同じ扱いをすべきだと要求してきました。 (3)急増した個別労使紛争 バブル崩壊以降、最初に人員整理をされたのはパート、アルバイト、臨時の労働者たちです。契約満了だということで、なんのためらいもなく首が切られる。現在そこで働いているパートの人たちが、そのような扱いを受けるだけではない。たとえば、正社員100人のうち20人が退職した。新しく20人を雇うが、有期契約で、パート、アルバイトとか、1年契約の雇用とかにする。 ヨーロッパでは、労働契約の入り口である雇用のあり方について、どうなっているでしょうか。本来、雇用は安定したものでなければいけない。いったん雇ったら、そこで安定的に働くことができる。それが必要な雇用であり、労働契約である。もし、1年とか2年とか区切って、有期で、つまり期間の定めのある雇用をする場合には、それなりの理由が必要です。正当な理由がなければダメだというのが、ヨーロッパでは当たり前のルール(*)になっています。したがって、雇用の入り口で、有期雇用がどんどん増えるなんてことはありません。安定した雇用がすべてです。 今回のフランスの新雇用契約制度(初期雇用契約/CPE)は、この入り口で「理由なき解雇を認める」というもので、学生、労働者が反対運動に立ち上がり、国を揺るがしています。 (*)<これら有期雇用契約で働く労働者はつねに雇い止めの不安を抱えています。「契約が更新されないかもしれない不安」は労働者に使用者の顔をうかがわせ、法が保障する労働者行使や労働基本権=団結権の行使さえ主張できない状態に労働者が置かれてしまいます。 そこでヨーロッパでは、EU指令で有期雇用契約が規制されています。(『有期労働に関する枠組み協定指令』1999年)。それは「期間の定めのなき雇用契約が雇用関係の一般的形態であること」を前提に、「有期契約の締結や更新に当たり、客観的正当事由を条件とすること」、「最長継続期間、更新回数の制限を設け、有期契約の濫用防止」を義務づけています。>(以上、全労協の労働契約法制リーフレットから) ●有期雇用への置き換え、非正規労働者の急増・・ 安定した雇用がなければどうなりますか。いつ雇用がなくなるか、わからない。もう1回、雇用を更新してもらわなければならないが、そういう雇い方をされて、経営者に物が言えますか。「こんな安い時給ではイヤだ、なんとかしてほしい」と思っている。しかし、3月31日に契約が切れる。4月1日から契約を続けてくれるかなと思えば、上げてくれとは言えないですよね。たとえ「安定的な雇用」であっても、労使は力関係が違う。労働者一人一人は力が弱い。だから、組合を作らなければいけない。そういうことでしょう。弱い立場の労働者が、さらに不安定な、期間の定めのあるような雇用を強いられたら、どうなりますか。物が言えないでしょう。 有期雇用の労働者、1年契約や2年契約の労働者が労働組合を作り、いろんな要求をする。すると会社は何を言ってくるか。<あなたとの雇用契約は3月31日で終わりました。あなたが憎いのではない。あなたが組合をやったから怒っているのではない。契約の期限が切れたから、満了だから、新しい契約を結ばないだけです>、と。これが雇い止めです。そういう仕方で、事実上の首切りをする。何回も更新できると思っていたのに、雇い止めになる。組合を作ったら、そのような扱いを受ける。 そのような状況のなかで、98年、有期雇用労働者のネットワークが立法提言をしました。<ヨーロッパなみの規制をすべきだ。有期の雇用は理由がなければだめだ。そのような立法をすべきだ>という提言です。 しかし、実際に経営者がやってきたことは、正規社員をどんどん有期社員に置き換えることでした。いま、非正規社員の比率は32.7%(*)だといいます。3人に1人です。正規雇用労働者は急速に減っています。 (*)総務省の最新報告によれば、33.0%(平成17年10〜12月平均)。「役員を除く雇用者に占める非正規の職員・従業員の割合は33.0%。昨年同期に比べ1.4ポイント上昇、男性は17.8%、女性は53.4%」(総務省統計局/06年3月3日) さらに加えて、委託契約とか、業務請負などが増えています。これは、公的な統計上、労働者ではなく、自営業者にくくられます。個人事業主です。これらの人たちを入れるとどうなりますか。正社員の割合は、97年で63%。04年になると、53%に落ちていきます(注/労働力調査/総務省統計局)。非正規雇用労働者が32.7%でしたね。正社員が53%ではあわせても100%になりません。さきほど言った委託や業務請負のように、実際は労働者なのに形だけが一人親方とか個人事業主にされている人たちがかなりいる。だから、こういう統計の差になるんです。 非正規雇用労働者がどんどん増えていく。きちっとルール化しなければ、このままでは大変なことになる。だから、解雇や非正規雇用労働者の問題について法律を作るべきだ。こうして、冒頭に説明したように、労働契約法の制定要求が始まりました。1994年に日本労働弁護団が(私たちの活動をいつも支えてくれている弁護士の全国組織ですが)最初の立法提言を行い、以降の取り組みが始まっていきました。 ですから本来、労働契約法は、労働組合なり労働運動の側から問題にされたものです。そして実際、労働契約について、個別に様々な闘いが始まっていきました。さきほどの仲間の報告もそうです。彼は自分で労働相談に来て、合同労組に組合員になって、裁判を起こしました。そのように、様々な人たちが全国で労働相談の窓口を訪ねたりして、個別労使紛争が起こっていきました。 どのくらい増えたのか。全国の労働基準監督署や労働局などに寄せられた個別労使の相談は、2004年度で16万件を超えています。これは、こんなのはたまらないと怒って、わざわざ自分が紛争を起こすということで来た人の数です。泣き寝入りをした人はこの数には入っていないわけですから、非常に多くの労働者が問題を抱えていることが分かります。労働局に寄せられた労働相談の内容を見れば、解雇、労働条件の引き下げ、退職勧奨で約半数、そのほか、様々な相談が寄せられています。 (4)「研究会報告」を批判する さて、2003年に労働基準法が改悪されました。そこで「解雇の金銭解決」の扱いについて議論になりました。それは一度引っ込められますが、このとき、衆議院、参議院で付帯決議がなされ、<新しい労働契約法を作るのか、もし作るとすればどんなものでなければいけないか。このことについての研究会を、厚生労働省のもとに設置しなさい>ということになりました。その結果、05年9月に、「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」報告が出されました。 最初にお話したように、嵐のような解雇をきちんと制限する。有期雇用労働者がどんどん増えているので、そういう採用の仕方を入り口で規制する。途中で労働条件の不利益変更が進むというようなことはあってはいけない。そのように、労働者にとっても経営者にとっても、こういうことをやってはいけないという基礎的なルールとして、労働契約法が作られるべきだと私たちは期待をしていました。ところが、この研究会報告はまったくメチャクチャなものでした。 この報告は、労働現場の現状を直視しようとしていません。そして同時に、経営者側、使用者側の要求にそったものです。主な内容を見ていきましょう。 ●解雇について 報告の内容は、解雇の制限ではなく、もっと解雇しやすくするものでした。<いままでの裁判を起こした労働者のケースを見ると、裁判に勝っても職場に戻っている例はすごく少ない。よって、職場に戻さなくていい>、と。つまり、「これは解雇権の濫用であり、この解雇は無効だ」となっても、職場に戻さない。一定の解決金を積めば、金銭解決、金銭処理ができるという内容です。 ●有期契約について 私たちの仲間がある場所で、「有期雇用は本来、制限されるべきだ」と主張したことがあります。この研究会の管野和夫座長(東大名誉教授)は、そのとき、「いまや有期契約なんて当たり前じゃないか、もっと増えていく」と返したことがあります。韓国では実際、正規雇用労働者はもう50%を割っています。日本でもいま正規は53%です。<こんな状況になっているんだから、入り口で規制することなんてできない>、というわけです。 報告は、「試行有期雇用契約の導入」ということを述べています。つまり、普通は正規社員で雇われると試用期間がありますね。合同労組のある職場で今春、23名を新規採用した。4月から6月まで、3か月間の試用期間がある。これが普通で、本来は正社員を雇ったうえでの試用期間です。そうではなくて、有期雇用を「試行」として契約を結んでいい。たとえば1年間、試みに雇い、様子を見る。ダメだったら、有期が終って正社員にしない。本採用にしない。こういう形で、有期雇用契約を結んでいいという提案です。 これが許されるとすれば、どういうことになるでしょうか。いま有期雇用契約の上限は、労働基準法では3年になっています。ですから、たとえば新人を試行有期雇用契約で採用する場合、最大3年間、様子を見ることができる。3年間、馬車馬のごとく働いて、コイツは上司に文句を言わない。だったら4年目から正社員にする。そうじゃないヤツは、たとえば6か月毎にこれを使っていけば、経営者は3年の間の半年毎に首にできる。 ●労働条件の不利益変更について リストラのなかで賃下げや労働時間の延長が行われました。お前はあそこに出向しろとか、配転するとか、さきほどのNTTの仲間たちのように、仙台に家族を置いて東京に行けとか。そのような契約の途中での労働条件の変更について、もっとやりやすくする。 もともと労働条件の不利益変更はやってはいけないというのが、最高裁の基本的な考え方です。これが秋北バス事件の判例で、労働条件の一方的な不利益変更を受け入れなければならないのかを争点とした裁判です。 「新たな就業規則の作成または変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課すことは、原則として許されないと解すべきであるが・・」というのが、最高裁判決の前段部分です。もともと経営者のほうが強い。一方的に就業規則を制定できる権利があるわけだから。そのような労働者と使用者が結んだ契約を、一方的に使用者の側から、労働者にとって不利益に変更することは、原則として許されない。しかし、特別に、合理的、社会通念上相当な場合には、その不利益変更に労働者は一定の形で従わなければいけない。これが最高裁の判断でした。 ところが、バブルがはじけた後の日本経済で、労働条件の不利益変更が相次ぎ、これについて「原則としては許されない」という判決はなくなっていきました。たとえば、有名な話ですが、仙台から石巻に配転をするなどというのは不利益の範囲に入らない。東京の南の端から北の立川あたりまで約2時間、そこで配転をしても容認できる範囲の変更であり、不利益とまでは言えない。そのような判決が次々に出されました。研究会報告は、そのように不利益変更を認めていく状況を、制度として確立しようというものです。 いくつか具体的に見てみましょう。まず、「個別的労働契約変更を強制する雇用継続型契約変更制度」の導入があります。<労働条件をこのような内容で不利益に変更したい>と、会社は個々の労働者に提案する。それがイヤだったら解雇する。たとえば<東京に行って働け、賃金は2割カットだ>と、いわゆる個別的労働契約の変更を会社が提案する。イヤだと拒否をすれば解雇する。拒否をしないで、東京に行って賃金カットを受け入れる場合、これは不当だと裁判をする権利は保証してやろう、と。 こうして、会社側はひどい労働条件を提案して、変更することができる。その提案について、<異議を保留したまま従うなら、その間に裁判を起こしなさい。しかし、その不利益な労働条件を受け入れずに拒否をしたら、解雇してもいい>。これでは、解雇の脅しで不利益変更をするのと同じです。これは「変更解約告知」(*)といって、いままで日本にはなかった制度ですが、名前を変えて導入しようとしています。 (*)スカンジナビア航空事件(スカンジナビア航空日本支社でのリストラ)が有名。東京地裁は1995年4月、変更解約告知方式による解雇を正当であると判断。大問題となり、批判が巻き起こった。この件では東京高裁で和解。 ●労働時間規制除外について さきほどお話したように、労働時間の規制がどんどん緩められてきました。労働契約法とあわせて、「労働時間規制」をさらに緩める。ある意味で「労働時間規制」を撤廃してしまおうという提案も行われています。それが「ホワイトカラー・エグゼンプション」、「労働時間規制除外」ということです。週40時間の規制、1日8時間の規制、月間や年間の労働時間規制がまったく適用されない労働者を作ろうというものです。 適用範囲は、<ホワイトカラーで、かつ一定の年収以上の労働者>、だとされています。みなさん、「ホワイトカラー」とはどういう労働者だと想像しますか。自分が「ホワイトカラー」だと思う人はあまりいないですよね。丸ノ内とか、仙台だと国分町あたりで、ネクタイをきちっと絞めて、背広を着て事務労働をしているのが「ホワイトカラー」だというイメージでしょう。だから、あまり多くいるとは思っていないでしょう。 雇用者総数(04年総務省)は5355万人。そのなかで、厚生労働省がホワイトカラーだと規定している労働者は、なんと2954万人です(*)。全労働者の55.2%です。専門的・技術的職業従事者、管理的職業従事者、事務従事者、販売従事者、これが全部、ホワイトカラーです。そうすると、55%の労働者の労働時間規制を外してしまえ、ということです。 (*)総務省統計局の労働力調査(2004年)では、以下のように区分されている。 ○専門的・技術的職業従事者(814万人)、管理的職業従事者(186万人) ○事務従事者(1197万人) ○販売従事者(757万人)・・ここまでがホワイトカラー、計2954万人 ○保安職業、サービス職業従事者(615万人) ○農林漁業作業者(42万人)、運輸・通信従事者(188万人) ○採掘作業者(3万人) ○製造・制作・機械運転及び建設作業者(1189万人) ○労務作業者(329万人) 以上、全労協リーフレットから。 3千万人の労働者を外せばいくらなんでも大騒ぎになるので、いまのところは「年収要件」があって、1075万円以上の労働者です。だから、そんなに年収があるなら、時間外をもらったりしなくてもいいじゃないかと、なんとなく思わせる。ここがミソなんですね。 派遣労働法が導入されたときに、最初の適用業種は16でした。これもさきほどの菅野という人が中心になって新しい立法を作ったのですが、彼は得意然として、「小さく産んで大きく育てる」と言ったのです。たった16業種で導入された派遣が、いま、全製造業まで適用されて、ほとんどの業種で派遣が可能になった。 同じように、最初は1075万円だという。民間職業紹介所で、紹介してほしいという労働者の側から紹介料を取っていい基準が1075万円以上の年収ですが、おそらくこれも小さく産んで大きく育てる。最初はいくつかハードルを高くしておいて、実際にはどんどんこれを下げていく。その証拠に、日本経団連が要求しているホワイトカラーエグゼンプションの基準は年収400万円です。400万円以上の労働者は全部、時間規制から外せということです。2954万人のうち、年収400万円以上の労働者は約6割です。だから、1800万人の労働者が、労働時間規制の適用から除外されてしまう。 みなさん、たとえば自動車学校の職場ではどうなりますか。これではやってられないでしょう。時間外はゼロ、いくらやってもゼロです。最初から「残業」はないのですから。「サービス職業従事者」がホイワトカラーの枠のすぐ下にありますね。しかし、この枠がいつ動くかも分かりません。そう考えると、大変な事態が起こる。 こうして、私たちの問題提起がまったく無視され、同じことを取り上げながらもっと悪い法律にしようというのが、今回の研究会報告です。管野和夫という人は日本の労働法学会の現在の主流中の主流に位置する人ですが、この人が座長になり、自分の大学時代の教え子たちを周りに集めて研究会を作った。もともと、研究会は厚生労働省の私的な機関ですから、労働者代表などは入っていません。 「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」報告のままで、労働契約法が作られるとすれば、それは労働者を苦しめることにしかならない。こんな法律は作らせてはいけない。そのための運動を強化しようと、いま考えています。 ●労使委員会制度について 以上が、解雇、有期雇用、労働条件の不利益変更、労働時間規制撤廃についての要点です。このほかに、労使委員会制度の問題があります。 これは要するに、労働組合の組織率が17.8%まで下がってしまっている。だから、影響はほとんどないからということで、労使委員会を作ってそこにいろんな権限を与えようとする。なにか親切な印象を与えるものです。それは大きなお世話なのですが、問題は、この労使委員会は経営者が設置するものです。「労働者の同意を装った使用者の道具」です。そんな委員会で労働者の代弁ができるわけはありません。実際には労働組合の否認、とりわけて少数労働組合の否認につながるということで、いま、大問題になっています。 「労使委員会制度」の新設はとても重要な問題ですが、今日は時間が足りないのでこれ以上はふれませんが、パンフレットなどをよく見ておいてください。この制度には事実上の労組法改悪という性格もあるので、別の機会でとりあげたいと思います。 以上、大別して5つの問題点がある労働契約法を、このままで通してはいけない。 今日は法律の話ばかりで申し訳ありませんでしたが、要は、企業を救うために労働者の働かせ方をもっと悪くする。ある意味で、規制を全部とっぱらう。それが今回の契約法制の動きです。 全労協は「研究会報告」への批判を明らかにしてきましたが、こんなことをやらせてはダメだという運動に、これからさらに取り組んでいきたいと思います。 職場の昼休みなどを利用して、組合の学習会などを組織して、この問題の理解を深めていただきたいと思います。今後の運動については、また別の機会で論議していきましょう。 (2006年3月15日) ●<資料>全労協声明(2005年9月20日) 厚生労働省「今後の労働契約法制のあり方に関する研究会」報告に対する見解 全国労働組合連絡協議会 1.2005年9月15日、厚生労働省の「労働契約法制のあり方に関する研究会」は報告書を正式発表した。初めて労働契約法を作ろうとするための研究会報告にもかかわらず、4月に出された「中間取りまとめ」に対するパブリックコメントなど多くの意見を十分に検討することなく、わずか数か月で最終報告を取りまとめた。全労協は、「中間取りまとめ」に対し7月19日付で見解を発表したが、研究会はその疑問、意見に何ら答えていない。 研究会の拙速な検討態度と全労協見解の無視に対し強く遺憾の意を表明する。 2.全労協は、先の見解で表明した有期労働契約に関する入り口規制の必要性、「試行雇用契約の導入」反対、経営者の設置する労使委員会制度導入反対、雇用継続型契約変更制度導入反対、解雇の金銭解決制度導入反対、ホワイトカラーイグゼンプション導入反対の見解を引続き強く主張していく。このような内容での労働契約法制は、公正で透明なルールと言えず、とりわけ、労働者のためにならないからだ。 3.公正かつ透明な雇用契約ルール、力関係の弱い労働者が真に対等な立場に立つことが出来る労働契約法の必要性はわれわれも主張してきた。そのために、従来から提起していた解雇制限法を始め、有期契約を結ぶ際の要件を明確にするなどの規制を含んだ幾つかの立法提言を今後積極的に提起していく。 4.今後、労働政策審議会で労働契約法に関する審議が進められる。その際、本「研究会報告」も一つの見解として、他の多くの労働団体、労働弁護団などの見解、提起と平等に扱い、充分な検討を行うことを求める。 われわれは、先の見解で表明したように、研究会報告に沿った立法が強行されるなら、他の労働団体、弁護士、有識者と連携を取り、「報告書にもとずく立法化反対」の運動を取り組んでいくことを表明する。 ■以上 |