| <講演録>宮城全労協07春闘学習会 |
(1)◆日時:2007年3月16日 ◆講師:遠藤一郎(宮城合同労組書記長) ◆テーマ: 『希望の国』の正体と新しい労働運動の挑戦 −日本経団連・御手洗ビジョンを批判する− ■目次および転載資料 1.日本経団連の『希望の国、日本』(御手洗ビジョン)を批判する ◎「雇用破壊」と「貧困の罠」 ◎07春闘への経営側の方針 ◎『希望の国、日本』(御手洗ビジョン)とは? ◎御手洗・キャノンの「偽装請負」と「労働ビッグバン」 2.労働者はどのような状態に置かれているか ◎史上最長の景気持続、史上空前の企業利益 ◎労働者の置かれている状況(いくつかの統計数値から) 3.進行する労働法改悪 ◎時間外割増について ◎先送りされたもの ◎御手洗の「一周遅れの新自由主義」 4.労働運動、反撃の視点 ◎「死ぬのがいやなら組織せよ!」 ◎憲法改悪と関連させた反撃を ◎現場の怒りと結びつけた闘いを構築しよう ◎新自由主義グローバリズム反対の闘いと結合して ■転載資料/全労協新聞2007年2月16日号 <労働ビッグバンと対決し、労働法制改悪を阻止しよう> 全労協常任幹事 遠藤一郎 (1)日本経団連の『希望の国、日本』(御手洗ビジョン)を批判する 安倍晋三は昨年夏、『美しい国へ』というタイトルの本を出しました。安倍はこれを政権構想にして自民党総裁選挙を闘い、総理大臣の椅子を手にしました。 一方、日本経団連は今年1月1日、『希望の国、日本』と題した中期的なビジョンを発表しました。会長である御手洗冨士夫を名前をつけて、<御手洗(みたらい)ビジョン>と呼ばれています。 パソコンを扱う人はインターネットで読むことができますが、どういうわけか印刷できないようになっている。コンピュータ上で長い文書を読むと疲れてしまうので、仕方がなく買って読んでみました。 『美しい国』と『希望の国』はタイトルも内容も非常に似ています。財界のトップが、このようなビジョンを通して、どのような日本にしていこうとしているのか。そこには、私たちの将来にとって見過ごすことのできない内容が盛り込まれています。 1.「雇用破壊」と「貧困の罠」 労働者はいまどのような状態に置かれているのでしょうか。『週刊東洋経済』という雑誌は、この間、非常に良いレポートを出しています。1月13日号では「雇用破壊」の特集、2月24日号には「貧困の罠」。雇用はどのように破壊されているのか。世界で第2位の経済大国である日本でどういう事態が進んでいるのか。とてもリアルな内容が書かれています。 2005年春闘のとき、私は、「貧者の行進を」という提案をしました。労働者の貧困化が現に始まっている。それに対する反撃が問われている。各地でそのような討論をしましたが、モノの豊富なこの日本で貧困などという話がどこにあるのか、「貧者の行進」なんて現実性がないではないか、という反応が多かった。 しかし、たとえば今年の3月11日、外国人労働者が「安定した雇用と生活」を求め、ムシロ旗を立てて日比谷を行進しました。いまの日本で本当に労働者の貧困化が進んでいる。どうしてそういう社会になっているのか。この社会は今後どこにいってしまうのか。きちんと見すえておかないと、私たちの闘いは十分に組み立てられないと思っています。 2.07春闘への経営側の方針 ●日本経団連の3つの主張(経営労働政策委員会報告) 日経連の労働問題研究委員会が毎年1月に報告を出していましたが、それを日本経団連が引き継いでいます。07春闘に向けて12月13日に報告を公表しました。まず、その内容を見ておきましょう。経営者側は大きく三つの点を主張しています。 第一は、<経済成長と企業利益の増大があってこそ、労働者の雇用と所得がある>。そのための政策として、行革の推進や地方の切り捨て、道州制の導入などが並んでいます。さらに<社会に貢献した人々をたたえる社会風土>や<公徳心>など、道徳的な説教が強調されています。 第二に、<労働分野の規制緩和の要求>です。政府はいま労働基準法をはじめ、労働契約法、雇用保険法、パート労働法、最低賃金法など多くの法律を変えようとしていますが、それについて多くの注文をつけている。たとえば「自律的働き方の労働時間規制改革」、割増賃金引き上げには断固反対、パート処遇を「法で一律的に規定するのは不適当」、一定期間を経た派遣労働者への雇用契約申し込みの義務は撤廃せよ、ハローワークを民営化せよ、産別最賃制度は廃止せよ、等々です。 第三に、<賃金交渉のスタンス>です。トヨタが千円のベアだ、電機は去年が500円だったが今年は千円だなどと報道されていますが、企業はそれぞれ史上空前の利益を上げているにもかかわらず、基本賃金は上げない。経営者側の基本的スタンスは、<企業収益の増大はボーナスで報いる>、というものです。 ●トヨタの「史上最高のボーナス」が意味するもの トヨタは258万円、史上最高の一時金です。しかし、トヨタでこの額をもらえる労働者はどのくらいいるのか。10万人もいませんね。トヨタの下請け、孫請け、曾孫請けの労働者はどうなっているか。さきほど紹介した「貧困の罠」のなかで、トヨタの下請けの社長たちの話が紹介されています。 トヨタは毎年新車を出しますが、そのとき同時に、下請け会社には「今年の納入価格の引き下げ目標」がインターネットで送られてくる。それに従って下請けの納入単価が決まってくる。10年で1%ぐらいのダウンというのなら経営努力とか生産性の向上で取り戻せるという話にもなるだろうけど、実際は毎年1%とか1.3%とかのダウンが提示されてくる。原材料の価格も上がっている。下請けや孫受けの社長たちは、「けっきょく従業員を犠牲にする以外にない」と口をそろえて言っている。 トヨタの本体は千円のベースアップです。実際には定期昇給が6900円あるから7900円のベアになる。このベアと年間一時金258万円の対極に圧倒的多数の下請け労働者がいる。そこには多数の外国人労働者が存在している。トヨタ本社の近くには5千人のブラジル人が住んでいる町がありますが、非正規で、下請けで働いています。そういう仕組みでトヨタは世界最高の利益をあげているわけです。 トヨタが象徴するように、社会がいびつな構造になっている。その底辺では貧困化が進んでいて、ワーキングプアといわれるように、いくら働いても貧しい。働かなくて貧しいのではありません。職につかないから賃金がもらえないという話ではない。いくら働いても貧しいという労働者が作られはじめ、その数はどんどん増えている。 これに対して、経営側はどう言っているか。<市場横断的なベースアップはもはやありえない>、<国際競争力強化が最重要課題だ>、<労働分配率が低いというが、産業間で差があり、一律に論ずることはできない>、<支払い能力によって賃金を決定する、総額人件費管理を徹底する>、<賃金制度は年齢・勤続から仕事・役割・貢献度に基づくものへ>、<短期的業績の反映は一時金で>。これが日本経団連の<賃金交渉のスタンス>です。そして最後には<春闘は終焉、春討に>と。春に討論する<春討>に変えようという結論に至ります。 3.日本経団連の『希望の国、日本』(*注1)とは? 日本経団連は2003年、<奥田ビジョン>を発表しています(*注2)。1月1日に公表された『希望の国、日本』はこれに次ぐもので、トヨタからバトンタッチされたキャノン会長の御手洗の基本政策といっていいものです。 そのなかでは、「希望の国の実現に向けた優先課題」として、次の5項目が示されています。 @<新しい成長エンジンに点火する> 技術革新や高度な人材育成などによって、生産性をさらに上げる。 A<アジアとともに世界を支える> WTO(世界貿易機構)体制を維持・強化しながら、とくに東アジア諸国との二国(地域)間の貿易協定(FTA)、経済連携協定(EPA)の締結を促進する。つまり、日本の経済力を背景にして、アジア諸国に貿易自由化の要求を突きつける。 B<政府の役割を再定義する>。 行財政、社会保障制度、税制で改革を進める。政府は最少の社会保障でよい。税制については、法人税を下げ、消費税を上げる。 法人税は現在、国と地方あわせて約40%ですが、これをさらに30%に下げる。減った分を消費税でまかなう、というものです。 日本はプライマリー・バランス、年ごとの国の収入と支出がとれていない。国債の発行は次世代にツケとして回る。この財政バランスを均衡させなければいけないということが、この間の政府の大きな問題になってきました。にもかかわらず、法人税を下げる。そのかわり消費税を2011年度までに2%上げる。 1990年から2004年にかけて税収はどう変化したか。法人税は50数%あったものが40%に減った。富裕層から相対的に多くの税金をとるという累進課税制度によって、1990年代初めまでは、いちばん高い税率は地方税をあわせると80%を超えていた。だから10億円の年収がある大金持ちは8億円超を税金でおさめていた。その税率がどんどん下がって、いまは10億円のうち3億5千万円だけでいい。このように極端な企業減税と金持ち優遇税制になった結果、国の収入は44.4兆円から23.2兆円になり、21.2兆円減った。これではプライマリー・バランスがとれるはずがありません。これは内橋克人さんの『悪魔のサイクル ネオリベラリズム循環』という本にあげられている数値です。 景気が悪くなった、バブルがはじけて大変だといって、このような企業と金持ちの優遇税制がとられてきた。そこからさらに10%引き下げろ。その分は消費税を上げろ。これが『希望の国』の要求です。ちなみに、90年からの15年間で、消費税は4兆6千億円から9兆6千億円と倍以上に増えています。 C<道州制、労働市場改革によって暮らしを変える> 2015年をめどに道州制を導入する。地方分権という言葉を使っていますが、要するに、北海道とか東北州という形を作って、それらの道州を中間的な国家のようなものにして、実際には地方自治をつぶしていく。 D<教育を再生し、社会の絆を固くする> 社会のすべての場面で<日の丸・君が代を>、と主張しています。日本の経営陣のトップが、企業の現場も含めて<日の丸・君が代を>と提案したのは初めてのことでしょう。さらに、<2010年代初頭までに新しい時代に対応した憲法改正を実現>と明記しています。 (■注1)御手洗ビジョン『希望の国、日本』(07年1月1日) (はじめに) 第1章 今後10年間に予想される潮流変化 1.グローバル化のさらなる進展 2.人口減少と少子高齢化の進行 第2章 めざす国のかたち 1.精神面を含めより豊かな生活 2.開かれた機会、公正な競争に支えられた社会 3.世界から尊敬され親しみを持たれる国 第3章 「希望の国」の実現に向けた優先課題 1.新しい成長エンジンに点火する 2.アジアとともに世界を支える 3.政府の役割を再定義する 4.道州制、労働市場改革により暮らしを変える 5.教育を再生し、社会の絆を固くする 第4章 今後5年間に重点的に講じるべき方策 第5章 2015年の日本の経済・産業構造 (おわりに) アクションプログラム2011 (■注2)奥田ビジョン『活力と魅力溢れる日本をめざして』(03年1月1日) はじめに 第1章 新たな実りを手にできる経済を実現する 1.「民主導・自律型」システムが新しい成長をつくる 2.連結経営型発想により日本の付加価値創造をとらえ直す 3.「MADE゛BYJAPAN」戦略を推進する 4.個人、企業、行政がともに「環境立国」戦略を進める 5.時間的・空間的余裕から新しい豊かさのかたちを生む 第2章 個人の力を活かす社会を実現する 1.個人の多様な価値観、多様性を力にする 2.「公」を担うという価値観が理解され評価される 3.「精神的な豊かさ」を求める 4.多様性を受け入れる−外国人も活躍できる環境の整備− 第3章 東アジアの連携を強化しグローバル競争に挑む 1.自らの意志による「第三の開国」 2.東アジアを強力なハブに 3.「5つの自由」と「2つの協力」を実現する 4.東アジアの多様性が生み出すダイナミズムと発展 5.東アジア自由経済圏の実現に向けた課題 第4章 改革を実現するために 1.公を担う民の動きをリードする 2.政治との新たな協力関係を確立する (おわりに) 4.御手洗・キャノンの「偽装請負」と「労働ビッグバン」 キャノン会長の御手洗は昨年、トヨタの奥田碩の後任として日本経団連のトップにつきました。キャノンは「ユニークな経営」「高収益企業」として知られています。私たちはここで、経営者団体やトップ企業としての社会的な責任を放棄し、利益第一主義に走る御手洗とその同調者たちの主張を検討してみましょう。 @トップ企業での偽装請負、違法派遣 まず、御手洗のキャノンは多数の偽装請負を雇ってきました。実際は派遣なのに、請負契約と偽装して、直接雇用や安全管理などの法律的な義務を回避する。つまり法律違反です。これが去年夏、トップ企業で相次いで問題になり、厚生労働省も行政指導に乗り出しました。批判を浴びたキャノンは8月、偽装請負をなくすと発表しました。御手洗も、「キャノンはコンプライアンス(法令順守)を厳しくやっており、気付いたら直さないといけない」と弁明しました。ところが昨年10月の経済財政諮問会議の席上、御手洗は発言をひるがえし、法律のほうが製造現場の実態にあっていない、だから法律を変えろ、と主張しました。 キャノンにはいまでも1万5千人の請負労働者、9千人の派遣労働者がいます。関連企業を含めると4割が非正規雇用です。さすがに新規採用から直接雇用の方針を表明しましたが、しかし1万5千人と9千人の中からは採用しない、「現在キャノンに勤務中の方はご遠慮ください」という公告を出して、また問題になった。グローバル企業として、そして企業トップ、日本経団連トップとしての社会的な責任はどこにあるというのでしょうか。 A<労働ビッグバン>を主張する御手洗や八代尚宏 安倍首相は小泉前首相から経済財政諮問会議を引き継いで、4人の新しい「民間議員」を任命しました。経団連会長として御手洗が参加し、ほかに八代尚宏・国際基督教大学教授、丹羽・伊藤忠会長などがいます。彼らは<労働ビッグバン>という主張を強力に行っていますが、その主張は次のようなものです。 ●<労働者保護は必要ない> 私たちは労働組合の歴史をふりかえってみなければなりません。労働者は経営者と対等の力関係にはないから、労働者を保護させるための法律がなんとしても必要になります。最初は労働者保護がまったくなかった時代です。労働組合を作ることも犯罪だった。労働組合を作ったら牢獄につながれた。ストライキをすることはもっと犯罪だった。ストライキをやったら損害賠償するのは当たり前だった。しかし、労働者は自分たちの要求をかかげ続けた。そうしなければ生活ができないから闘い続けた。そういう積み重ねによって、労働者保護の法律が作り出されていった。労働組合を作ること、労働者が団結すること、団体交渉をすることは保護されなければならない。ストライキも保護されなければいけない。ストライキをやったからといって損害賠償は請求できない。こうして、日本でいえば憲法28条(*注3)が作られていきました。そこまでには実に多くの犠牲と長い時間がかかったのです。 (■注3/「労働者の団結権・団体交渉権その他団体行動権」 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。) ところが、いま<労働ビッグバン>をとなえる人々はどうでしょうか。これだけ時代が発展したのだから、もはや労働者と経営者は対等である。よって労働者の保護は必要ないというわけです。 たとえば奥谷禮子という人がいる。ザ・アールという人材派遣会社の社長です。オリックスの宮内義彦とか御手洗など財界トップと親交もあって、この間、使用者側として多くの場に登場している。冒頭にあげた週刊東洋経済の1月13日号では、<過労死は労働者の自己責任だ、だいたい経営者は過労死するまで働けなんて言わない>などと発言して大問題になった(*注4)。労働相談をしているとよくわかりますが、労働基準法に違反すると労働基準監督署に訴える。それは労働者保護のための国の機関としてある。奥谷はこういう機関は不要だという主張もしています。 (■注4/奥谷は厚生労働省の労働政策審議会・労働条件分科会で、使用者側委員として出席し、同様の主張をしている。発言は厚生労働省のサイトに掲載されている。たとえば、2006年10月24日、第66回議事録。) 奥谷は日本郵政株式会社に5人いる社外取締役の1人でもある。 ●<労働力の流動化> 90年代の前半まで日本の労働者は基本的に終身雇用でした。「基本的に」ということですが、終身雇用、長期安定雇用が雇用の原則でした。ところがいま34.2%が非正規雇用労働者です。さらに請負、契約、個人事業主を入れると、正規の安定的な雇用ではない労働者たちはすでに4割から4割5分になっているのではないかといわれている。経営者たちはその割合をさらに増やそうとしています。 私たちは普通、「正規労働者と非正規労働者」という順番で言葉を使います。ところが正規で安定的な雇用ではない労働者たちが増えている。期間の定めがあって、いつでも首を切れるような労働者たちが多数になるとすれば、いったいどちらが「非正規」なのか。これはこの間話題になっているブラックジョークですが、そこまで<雇用の流動化>を進めようとしている。 オリックスの社長で小泉政権下の規制改革会議を仕切った宮内義彦は、当時、<ペンシル雇用>と表現していました。鉛筆で字が書けるのは芯の部分までです。中心の鉛の部分が正規雇用労働者で、その周りは非正規雇用でいい。そういう考え方で鉛筆を見ると、真ん中の黒い芯の部分はほんの少ししかありませんね。正規社員はそんな程度でいいということです。そうして非正規雇用労働者を増やす。さらに労働者性を否定して請負、契約、個人事業主を増やしていく。 ●<企業間競争に即した労働条件の迅速な変更> この問題は去年の春闘学習会でも取り上げました。労働契約法が3月13日に閣議決定され、国会に提出されます。全労協新聞2月号(*別掲資料)にありますが、就業規則の改訂によって労働契約を変えていくことができるというものです。 キャノンを例にして考えてみましょう。キャノンは世界中で競争している。そこでコピー器や印刷器などの機器の陳腐化が起きる。製品が売れている時間は非常に短くて、次々に新しいものを作り出し、セールスしなければいけない。そうして競争に勝ち抜きつづけるためには、工場で働いている労働者に、新しい技術にすぐに対応する労働条件の変更を受け入れさせなければいけない。労働者からすれば、労働条件の引き下げにつながるような変更はいやだ。しかし、企業間競争ではいちいち労働組合に相談していると迅速な対応ができなくなる。だから、そのための法整備をすべきだ、ということです。 ●<労働政策審議会の無視、労働市場改革専門調査会の設置> さらに、そのような変更を実現していくためには、厚生労働省のもとにある労政審がじゃまになる。厚生労働省はこの審議会で公労使の意見を聴取し、法律を作る準備をする。経営者側は、<労働組合の組織率はすでに2割を切っている。18.2%しかないときに、労働組合の代表の意見を聞いて法律を作る準備をする必要性がそもそもあるのか。そんな労政審は無視して、どんどん法律を変えていこう>と主張している。これは具体的には、昨年12月、経済財政諮問会議のなかに労働市場改革専門調査会が設置されました。会長は民間議員の一人である八代尚宏です。(*注5)(*注6) (■注5/たとえば八代は、週刊東洋経済06年10月14日号で次のように述べている。「すでに雇用されている者と新たな雇用機会を求める者との利害対立が強まる中で、労働者全体の2割に満たない労働組合が「労働者の代表」として、労働審議会等の場で雇用規制の維持・強化を主張している。労働市場の改革は、日本経済の活性化にとって大きな意味を持っており、労使間の利害調整に終始する労働審議会だけで審議する時代は、もはや終わったのではないだろうか」。この専門調査会の第一次報告(案)が4月6日に公表されている。「働き方を変える、日本を変える」−<ワークライフバランス憲章>の策定−。) (■注6/さらに、安倍内閣のもとで新しくスタートした規制改革会議には労働法制改悪を推進する専門チーム「再チャレンジワーキンググループ・労働タスクフォース」が置かれた。この専門チームは、5月21日には「脱格差と活力をもたらす労働市場へ〜労働法制の抜本的見直しを〜」と題する意見書を提出した。解雇規制の見直し、派遣労働の規制緩和、最低賃金は現状維持、などが盛られている。政府内からも批判がでるほどの内容で、規制改革会議の第一次答申(5月30日)には採用を見送られた。年末には第二次答申が予定されている。) ●<格差社会を公然と容認> 「格差社会」ということが、この間、大きな問題になってきました。しかし、この労働ビッグバンでは、「格差社会は当たり前」が前提になっています。<競争の結果として格差が出ることは当然>という主張です。格差の結果、<負け組>が生まれる。貧困化のなかにある労働者への保障はどこかに置いておいて、<負け組>は<再チャレンジ>すれば良い。そのシステムだけは作ってやろう、という態度です。 ●<公徳心の涵養>と憲法改悪 戦後の日本は安定的な社会だといわれてきました。1960年代、70年代に「日本人は安全と水はタダだと思っているが、私たちにとって安全と水はとても高価はものだ」という指摘が海外からなされたことがあります。いまはどうでしょうか。「安全と水はタダだ」と思っている日本人はだんだん減っているのではないでしょうか。1980年代ぐらいまでの日本は、「一億総中流」という言葉があったように、経済発展を通じて全体の生活が良くなるだろうと思っていた。今日より明日は良くなり、自分の代よりも子どもの代は良くなり、豊かな生活ができるであろう。そういうことを考えられるような社会でした。 その意味で日本は安定した社会だったといえます。治安のための費用もそれほどは必要ない。しかし、日本ではいま、安全が急速に崩壊してきています。アメリカではすでに、金持ちが住むエリアは警備員でガードされていて、その地域に路上生活者は入れない。そういう地域社会づくりが進んでいます。 <企業はもっと強くならなければいけない。法人税はさらに下げる。その分は消費税でみんなからとればよい。格差社会は当たり前だから、労働者が貧困化しても下支えすることは必要ない>。しかし、そういう社会はますます分裂して、治安は悪化していく。だから、<国は安定してもらわなければいけない。そのためには治安の強化が必要だ。日の丸・君が代が象徴する愛国心であり、教育改革であり、そしてトータルとして憲法を変えなければならない>。こうして、安倍の『美しい国』と御手洗の『希望の国』は、憲法改悪という同じ結論に行き着くことになります。 (2)労働者はどのような状態に置かれているか ここであらためて、労働者が置かれている状態について、幾つかの数値を参考にしながら考えてみましょう。 ●<史上最長の景気持続、史上空前の企業利益> 経済成長の恩恵は株主と経営者に集中しています。2001年と2005年の比較では、株主配当は2.8倍、役員報酬は1.9倍。しかし、人件費はマイナス5.8%です。史上空前の経済復活でありながら、労働者は実感がない。労働者は企業利益の恩恵にあずかっていない。景気が回復すれば全体の生活が良くなるという仕組みを壊して、新自由主義グローバリゼーションという新しい経済の流れが登場した。その現実がここにあらわれています。 CEO(最高経営責任者)という言葉が日本でも流行していますが、アメリカではあまりにも高額の役員報酬が非難されているという記事がよく見られます。それほど株主と経営者が優先されている。 かつては「企業は人であり、地域である」といわれました。一つの企業が発展することは、そこで働く労働者全体が良くなり、その地域全体が発展することだ、と。いろんな問題があっても、それが企業と地域の基本的な関係であった。いまは違っています。 ●労働者の置かれている状況(いくつかの統計数値から) @消費支出と平均給与(総務省家計調査) ◎年間平均給与 01年の375万円から05年の325万円(8年連続ダウン) ◎全世帯消費支出は月平均294,693円。前年比2.4%減(06年10月) A貧困化 ◎OECD(経済協力開発機構)の調査では、加盟30か国中、日本の貧困化率は最悪のアメリカに次いで2位。 ◎ワーキングプア、年収200万円以下の労働者が増大している。 ◎年収300万円以下の世帯が3割を超える。 B労働時間 年間総労働時間は1802時間(05年/厚労省)になったから、時短目標はもう無しにしていいと政府はいっている。しかし、これは増大しているパート労働者、非正規雇用労働者をそのまま統計に入れた数値です。 「日本は長時間労働に支えられて輸出を増大させている」と諸外国から批判された。政府が時短促進法を制定した92年には平均1972時間、1800時間を目標に時間短縮に取り組み、2005年には1802時間になったと発表した。だが正規労働者の平均の労働時間は、2028時間です。30歳代、40歳代の正規雇用労働者では週20時間、月80時間を超えて残業している労働者は30%を超えています。 C失業率は4.1%。 一時期より低下しているというが非正規雇用が増大している。非正規雇用労働者は1707万人。5年間で347万人も増加しています。 D労働組合組織率は18.2%で31年連続の低下。パート労働者は4.3%。 E雇用保険。教育訓練給付で受講料の4割助成から2割に引き下げ。 F生活保護費の削減。2兆円から400億円抑制。母子加算を3年間で撤廃等々。 G負担の増大。年金保険料の引き上げ、定率減税の廃止、介護保険料の引き上げ、高齢者医療負担の引き上げ、年金控除廃止などが生活を直撃しています。 (3)進行する労働法改悪 このような状況のなかで、労働法の改悪がさらに進められようとしています。労働ビッグバンを基本的な構想として、この国会に6つの法律が提出されています。雇用保険法、雇用対策法、パートタイム労働法、最低賃金法、労働契約法、労働基準法の6法案です。そのうち4法案については全労協新聞の2月号に掲載しましたので、ここでは省きます(*巻末の別掲資料参照)。 ●時間外割増について(労働基準法改定案) 時間外労働の割増賃金を引き上げるための労働基準法の改定案が、3月13日に閣議決定されました。残業はいま25%割増ですが、月45時間までは現行のままとする。45時間から80時間までは、労使が話しあい、25%以上に引き上げるように努めなさい。80時間を超えたら、その超えた分だけ5割増しにしなさい、という法律です。これによって時間外労働が規制され、減るだろう。これが政府の主張です。 しかし、本当に時間外が減るでしょうか。45時間まではそのままでいい、80時間までは労使が協力して努めなさいというのなら、皆さんの経営者たちは3割増、4割増にすると応じますか。努力したけど経営がとても大変だから現行のままでいこうとなるでしょう。つまり、80時間まではいままで通りです。 80時間とは厚労省が「健康障害リスクが高まる」と指摘した「過労死ライン」です。つまり、<過労死のレベルまでよく働いた。過労死したら時間外割増はもらえないから、過労死しなかったご褒美として5割増しをやる>ということでしょう。こんな法律で長時間労働が抑制できるわけがありません。 ●先送りされたもの この国会には出されていないもので重要なものがあります。これらはいずれ労働法制改悪の焦点になるので、私たちの反撃の準備が必要です。 @日本版ホワイトカラーエグゼンプション(労働時間規制の適用除外) これは秋の臨時国会に出されるのではないかといわれています。いわゆる「過労死促進法」ないしは「残業代ゼロ法」です。昨年の春闘で詳しく取り上げましたが、自分の裁量で仕事をやれる「ホワイトカラー労働者」は、時間外労働を労働時間規制の適用除外にする。経営者側は適用範囲の拡大をねらっていて、おそらく1200万人ぐらいの適用が想定されている。こんな法律ができたら大変なことになります。 しかも、時間外割増が適用されない労働者が1200万人にもなるということは、きちんと時間外が計算されている職場にじわっと影響が及んで、時間管理がいいかげんになったり、抑制しようという経営側の動きが必ず出てくることになります。 A非正規雇用労働者の社会保険加入問題。 これは再チャレンジプランのなかで検討することとなっています。 B労働者派遣法改悪 派遣期間の制限を撤廃して、雇入通知義務を撤廃する労働者派遣法の改悪が準備されています。この間、キャノンやトヨタ、シャープなどのトップ企業で偽装請負が問題になってきました。企業側の対策として、偽装請負を派遣労働に切り替えようという意図があります。同じ状態なのに法律違反を免れようということです。 C少数組合の団交権否認 去年12月、政府の諮問機関である規制改革・民間開放推進会議で、少数組合の団交権否認が出されました。組織率が10%未満の組合の団体交渉権は認めないという内容です。さすがにこれは憲法違反だと厚生労働省から指摘されて、会議の答申からは外されました。しかし、政府の中枢メンバーや日本経団連の労働ビッグバンを推進する学者グループのなかには、平然と主張したり、論文として書いている人々がたくさんいます。そこでは、「最初は10%だが、将来は組織率30%までに引き上げなければいけない」などの声があり、「多数を占める組合だけ相手にすればいい」という流れがいま準備されています。 こうして、財界が考えている『希望の国』の将来像にあわせて、国会に6つの労働法関連の改悪法案が提出されている(*注7)。そして先送りされているけど、さらに4つの改悪が準備されている。それがセットになって進んでいて、「もはや労働者保護の法律はいらない」という新自由主義グローバリゼーションの流れになっています。 (■注7/166通常国会は安倍政権の政略によって最終盤に延長され、7月5日に閉会した。「労働国会」といわれたが、厚生労働省はけっきょく8法案を提出し、そのうちパート労働法改正、雇用保険法改正、雇用対策法などが成立した。しかし、審議途中で会期末になったために、労働基準関係のいわゆる「労働3法案」(労働契約法案、時間外割増に関する労働基準法改正法案、最低賃金法改正法案)は継続審議となった。またパート労働者の厚生年金適用拡大をめざす年金改正法案も同じく成立しなかった。) ●御手洗の「一周遅れの新自由主義」 日本経団連の御手洗は1966年から89年まで米国にいて、米国キャノンの社長だった人です。彼は『希望の国、日本』の前書でこう書いている。1981年のレーガン大統領の登場がもっとも印象深い出来事だった。レーガンはレーガノミックスという新自由主義政策を展開した。レーガンとブッシュ(89年〜93年)によってなされた大規模な企業減税、規制改革、技術政策などは素晴らしいものだった。「強いアメリカ」が復興し、「空前の繁栄」に導いた。その政策を自分は日本でやる、と。 しかし、イギリスのサッチャー、米国のレーガン、日本の中曽根。この3人に象徴された1980年代の新自由主義グローバリゼーションの流れは、その後、行きすぎた規制緩和や競争主義によって社会が分裂し、貧困が拡大するなど壁にぶつかっていきました。そしていま全世界から批判を浴びている。中南米では、米国に従っていた国家体制が次々に転覆されていった。ヨーロッパでも行きすぎた規制改革への反発が広がり、新自由主義グローバリゼーションに反対する運動が広がっています。 御手洗は、米国にいて見た80年代のレーガンの政策をそのまま自分の信条として持ちつづけ、それを現在の日本に持ち込み、実現しようとしている。その意味では、「一周遅れの新自由主義グローバリゼーション」です。 私たちにとっての問題は、それに反撃する力をどこから、どのように作るのか。 (4)労働運動、反撃の視点・・「死ぬのがいやなら組織せよ!」 ●「死ぬのがいやなら組織せよ」 いささか過激な言葉ですが、これは米国のAFL・CIO(アメリカ労働総同盟・産業別組合会議)が再復活してくるときに掲げられたスローガンです。御手洗が見たレーガンやブッシュ(父)のアメリカで、労働組合が次々に解体されていった。日本と同じように組織率が低下していった。そこからもう一度、労働者をどのように組織していくかということが、米国でも問われた。いまの日本と同様です。 たとえば、北九州市ではこの間、生活保護がとても受けられない状況にある。政令指定都市で唯一、保護率を下げていると話題になりましたね。生活保護費の削減をノルマ化し、役所が申請書類を渡さないで門前払いするなどの対応に出た。その結果、昨年5月には門司の市営住宅で、生活保護を受けられなかった56歳の男性が餓死した。大騒ぎになって国会から調査団が入った。 仙台でも5年ほど前、二十人町でおばあさんが死んでいたということがあった。これだけ国際競争力をつけて、史上空前の利益をあげている社会が、底辺でそのような事態になっている。同じように、さきほど紹介した週刊東洋経済の「貧困の罠」のなかに、自立生活をサポートするNPO法人の話がでています。多くの青年労働者たちが生活保護を申請しようと相談に来ている。 経済のトップはものすごく発展している。配当はたくさん株主に行く。経営者には多額の役員報酬がでる。しかし労働者の賃金は下がる。生活保護を受けなければ生きられない人たちがたくさんいるが、福祉行政のハードルはとても高い。そのレポートでも書かれていますが、だれも好き好んで生活保護を受けようというのではない。受けたら大変だ、でもそれしか方法がなかった。そういうところに追い込まれた若い人たちがたくさんいる。 こういう状況のなかで、敵の攻撃を本当にはねかえすためには、労働者が労働現場で反撃しなければいけない。こんな長時間労働を許していたら死んでしまう。これを規制するのは労働者の団結した力です。労働者の団結した力以外に敵の攻撃をはねかえすことはできない。そういう意味で、私は、「死ぬのがいやなら労働組合を組織せよ!」という闘いが必要だと訴えたい。 さきほど述べたように、もっとも近代的に装備された資本主義のなかで、経営者側は「労働者保護は必要ない」とか、「過労死は自分の責任だ」などと公然と主張しています。そういう経営者側の姿勢を許さず、反撃することが問われています。私たちは、労働組合をもう一度、力強く組織することの重要性を再認識にて、07春闘を取り組んでいきたいと思います。 ●憲法改悪と関連させた反撃を! 『美しい国』の安倍首相は、自分の任期中に憲法を変えると公約しています。御手洗ビジョンの『希望の国』も「憲法改正」を公言しています。憲法改悪を阻止する闘いと関連させて、労働法制の全面改悪との闘いを進めていくことが必要です。 @団交権否認 憲法28条(労働者の団結権・団体交渉権その他団体行動権) Aホワイトカラーエグゼンプション 憲法27条(労働の権利・義務) B派遣労働の全面解禁 憲法18条(奴隷的拘束及び苦役からの自由) 労働者派遣法と職安法44条(労働者供給事業の禁止)の関係 労働基準法第5条(強制労働の禁止)、6条(中間搾取の禁止) C近代市民法の中の特別法としての労働者保護法 ●現場の怒りと結びつけた闘いを @労働現場からの積極的要求として07春闘を Akeep8の運動、ホワイトカラーエグゼンプションを完全に葬るために 残業未払を無くす運動 労働時間を記録し、正確に請求する 週間、月間を決め、地域的に取り組む 組合員全員で、職場の未組織へ、雇用形態の違う労働者へ B残業割増率の引き上げ要求 25%から50%へ C年次有給休暇の完全消化 D年間総労働時間の短縮を ●全世界で起こっている新自由主義・グローバリゼーション反対の闘いと結合した日本での運動を! 労働者の要求、労働組合の闘いを、全世界でまきおこっている「反グローバリゼーション」、「新自由主義反対」の運動と結合させて発展させていくことが重要です。 時間になりましたので、最後は課題として項目だけを提起しました。あらためて内容を検討する場をもちたいと思います。 (終わり) ■参考資料/全労協常任幹事 遠藤一郎 労働ビッグバンと対決し労働法制改悪を阻止しよう (全労協新聞2007年2月16日号から転載) 07年国会が開会した。今国会は「労働法制国会」と名付けられ、安倍首相の「再チャレンジ支援」方針に基づき、格差是正・労働者支援立法を提案するといわれている。 新自由主義・グローバリゼーションの下、規制撤廃と行き過ぎた競争至上主義がもたらした格差社会、二極化社会が多くの批判にさらされ始め、政府もさすがに何らかの手を打たざるを得ない局面に至った側面は確かにある。しかし、実際に準備されてきた労働法立法の方向は「労働ビッグバン」構想に示されるように、「労働者保護法」を「甘えの温床」という観点から根本的に批判し、自己責任を労働者に押しつけ、「規制なしに自由に書く」=「資本の要求通りに働かせる」というものだ。雇用の流動化を一層促進し、成果主義のもと、労働時間管理をなくし、グローバルな競争の中、資本の求める様々な労働条件の迅速な変更を行える仕組みを作りたい、というのが狙いだ。 「過労死促進法・残業代ゼロ法」と名付けられ、悪評をかった「ホワイトカラーエグゼンプション=自己管理型労働制」は選挙対策で外し、今国会提出を断念したようだが、秋の臨時国会に準備しているといわれている。 政府、日本経団連、すなわち安倍、御手洗の目指す「労働ビッグバン」と対決し、今国会に提出される労働諸法案の成立を阻止するために闘おう。 今国会に提出され、「格差是正・労働者支援」のための立法だと宣伝されている「最低賃金法改定」「パート労働法改定」「労働契約法」「残業割り増しを軸とする労働基準法改定」について、その正体が全くのまやかしであることを暴露し、法案成立阻止の取り組みを始めよう。 ●産別最賃廃止が本質の再賃法改定 「最低賃金の引き上げを計り、セーフティネットを確立する」と宣伝されている。しかし実際は、従来から日本経団連が主張していた「産業別最低賃金=地域別最低賃金より100円高い=の廃止」要求に応えたものにすぎない。産業別最低賃金を「特定最低賃金」と呼び変え、地域再賃の罰金を増額(今までが2万円と安すぎた)するのと引き替えに罰則適用をなくし、実質的に「産別再賃の廃止」を計ったものだ。「生活保護費より安い最低賃金がセーフティネットになるか」。こう批判されてきたのに対し、「生活保護費との整合性に配慮する」とした。「事業の支払い能力」が考慮対象になっている限り、地域最低賃金部会で毎年争われている一円玉の上積みを巡る攻防に変化はない。さらに、生活保護費の引き下げが相次いでいる状況だ。こんなごまかしは許されない。 ●パート労働者の分断固定化−パート労働法改定 非正規労働者の底上げをうたい文句とする「パート労働法改定」は、まゆつばものである。1200万人のパート労働者の内ほんのわずかの「職務同一短時間労働者」(対象者が何人か、厚生労働省も把握できない)で、配転や移動が正社員と同じ扱いの者のみ、「待遇について差別的取り扱いをしてはならない」としている。逆にいえば、圧倒的多数のパート労働者は「差別的取り扱いをしてもかまわない」。我々が要求してきた非正規雇用労働者の均等待遇要求とはかけ離れたものだ。パート差別の固定化を許してはならない。 ●時間外割増は80時間を超えて50%プラス 経営者側の反対で時間外割増の引き上げは見送られたかに見えたが、参議院選挙前に、労働者の要求に応えるポーズをとろうと国会上程される予定だという。しかし、その中身たるや唖然とさせられる。月35時間(予測数字)までは現状の25%割増のまま、35時間以上は労使で割増率引き上げに努める(これでは実際には上がらない)、そして80時間以上の場合、80時間を超えた分について50%の割増にするという。 月80時間超の時間外労働は過労死の危険レベルだ。過労死をせずに80時間以上働いたらご褒美に50%割増をくれる、などという労働者をバカにした制度が、時間外労働の規制になるわけがない。本気でこれを提出する政府に激しい怒りを感じる。時間外50%割増と罰則付き上限規制を直ちに法制化すべきだ。 ●これでは過労死労働促進法だ(労働契約法) 労使対等の労働契約に、使用者が一方的に制定できる就業規則を組み込む「労働契約法」とは何だ。有期雇用の規制をせず、さらに対象労働者の拡大など、我々の望んだ労働契約法とはかけ離れている。一から検討し直して、労働者のための労働契約法を作るべきだ! 我々が検討過程で問題にした「解雇の金銭解決」「変更解約告知」「常設の労使委員会」などは外されたが、就業規則を契約法の柱として据えた手続き法として、成立させようとしている。就業規則を使った労働条件変更に関する判例法理が、それなりに盛られているとはいえ、本来、経営者が一方的に制定できる就業規則を労働契約法の柱と据えることには反対だ。就業規則に特化した契約法などは、拙速に作るべきではない。 参議院選挙に向け、格差社会批判をかわすために、安倍政権が準備している「労働法制国会」の中身は、見てきた通りのインチキなもので、我々の要求からかけ離れたものだ。これらをまとめて廃案にする反対運動を大きく繰り広げ、その力をホワイトカラーエグゼンプションにとどめを刺す秋の闘いにつなげ、「労働ビッグバン」と対決していこう。 ■以上 *なお、この講演録は宮城全労協からパンフレットとして発行されています。 ■以上 |