<投稿/09春闘・東北キャラバンにあたって>

 東北全労協は三月上旬、東北六県を結んだキャラバンを組織すべく準備を進めています。地方自治体や労働局への申し入れ、企業への抗議、各地域での交流などが企画されています。

 製造大企業の減産とリストラが地方を直撃しています。中小零細の地場企業は歯を食いしばって耐えていますが、三月年度末に向かって雇用破壊と連鎖倒産の一層の拡大が懸念されます。「失職者」への直接的な支援の強化と「人員削減」の防止が必要です。

 雇用破壊は各県に誘致された輸出型製造大企業の関連工場から始まりました。企業の横暴に対して、地域社会から「一極集中」への反省の声も上がっています。大資本に依存しない地方経済社会のあり方があらためて問われており、キャラバンでも様々なチャンネルで議論されるのではないでしょうか。

 解散総選挙の日程は流動的ですが、この春が当面の焦点となっています。山形県知事選挙では野党各党の支持する新人候補が勝利しました。麻生自公政権を倒すうねりを地方から作り出すことは、キャラバンのもう一つの課題でしょう。

 以下、09春闘・東北キャラバンの成功を期待し、投稿します。

 2009年2月1日(八木 隆)


<地方を襲う雇用破壊の波>

 厚生労働省の第二回調査(昨年十二月末公表)によれば、十月から今年三月までに失職したか失職する見通しの非正規雇用労働者は、全国で八万五千人、東北六県で一万二千人である。愛知、長野に続いて福島は三番目に多く、山形十四位、岩手十五位、宮城二十位と続く(注一)。

 これらの数値はもちろん「氷山の一角」にすぎない。「〇九年問題」と連動して、製造業で四十万人の非正規雇用労働者が職を失うだろうとの試算がある。企業リストラは「正社員」削減に踏み出しており、全体で百七十万人が失職するとの予測もある。

 厚労省の発表は非正規雇用労働者が対象であり、しかも県別の「失職数」だけだ。たとえば人口比で考えるなら、地方の深刻度はより厳しい。東北地方の一万二千人は全国の十四%を占めるが、人口は全国の八%だから、単純に比較すれば二倍近い厳しさだといえる。県別の人口数に対する失職者数の比率は、一位は大分であり、福井、鳥取、長野、島根と続き、福島が六位、山形七位、岩手十一位、秋田二十一位となる。

 東北地方の誘致企業は昨年十月以降、一方的な「派遣切り」を開始した。自治体にとっては不意打ちだった。行政の状況把握と対策は後手にまわり、解雇・雇い止めを防止する手立てを見いだすことができないまま、雇用破壊が一挙に進んだ。

 国際金融パニックの爆発以前から、景気後退の影響が広がっていた。昨年一年間で東北地方の企業倒産は九百件を突破し、「従業員被害者数」は一万二千人にのぼるという。福島県での倒産数は一昨年より四割も増大した。

 さらに年が明けて、大企業の減産による関連会社での「正社員大量削減」が相次いでいる。数日前には「東北の産官学連携を象徴する」NECトーキン(旧東北金属・仙台本社)が社員半減、仙台支店や岩手事業所の閉鎖などを発表、「東北経済界に激震」と報じられた。

 東芝は北上市の半導体工場の着工を延期した。一千人の新規雇用に期待を寄せていた地元にとって「冷える景気に追い打ち」だ。秋田県ではTDKの減産が「国内最大の生産拠点である由利本庄地域を直撃している」「業績悪化による法人住民税の大幅減収も見込まれ、自治体は頭を抱えている」(「あえぐTDK城下町」河北新報一月三十一日)。富士通の半導体子会社は業務を見直し、東北(会津若松工場に千五百人、岩手・金ケ崎に千七百人)の二つの工場では「従業員の半数が再配置の対象」とされ、岩手県は「人員の調整規模は県内で本年度最大の可能性」とコメントした。こうした報道が連日のように続いている。

 昨年末、「北上川流域の危機」(岩手県南地域)が衝撃的に報道された。自動車、電機、精密機械など大手製造業の関連会社が一斉に人員削減に走った。その結果、税収の大幅ダウンを含めて、地域社会が崩壊の瀬戸際にある。多数の誘致企業を抱える東北各県の地方都市は、いま、同様の問題に直面している。

 地域社会に及ぼす影響の一端が報じられている。北上市には派遣会社が七十社も集中しており、年末までの時点で六百人近くの失職が判明していた。同市で九月からの三ヵ月間、公共水道の利用者が三百人減ったが、住民登録の減少は三十八人にとどまっている。「住民登録をしないまま市内の工場で働く非正規労働者の多くが、『離職による引っ越し』を余儀なくされた」結果だ(河北新報十二月二十四日)。北上市は「水道停止件数の増加が人口流出の一つの目安になる」とコメントしている。

 あらゆる調査が、東北地方は全国水準より厳しいことを示している。十二月の求人倍率は地区ブロックで全国最低だった(〇・四七)。たとえば山形県の求人状況は、機械・電機・情報通信などで、昨年比五割から七割も減少している。

 宮城県では、三月卒業予定の高校生に対する求人が、前年同月比で十三%も少ない。医療・福祉分野での増加(前年比三十六%増)にもかかわらず、運輸・卸小売・製造業などで大きく落ち込んでいるからだ。年末時点での内定率(七十六%、女子高校生は六十九%)は沖縄、北海道につぐワースト三位だ。

 解雇・雇止めされた労働者への直接的支援とともに、中長期的な対策を求めることがキャラバンの第一の課題となる。


<「駅前シャッター通り」(〇二年全国行動)からの七年>

 東北全労協は〇二年春闘に際して、反失業と反戦をメインスローガンに春闘キャラバンを実施した。「吹き飛ばせ小泉改革・戦争NO!」と銘打った全国共同行動の一環だった。

 東北キャラバン隊は各地で地域社会の惨状に直面した。地方都市はどこに行っても「駅前シャッター通り」であり、農村地域も荒れていた。前年に発足した小泉政府は、「痛みをともなう構造改革」「改革なくして成長なし」をかかげ、「企業倒産は改革が進んでいる証拠」と豪語してリストラ政策を展開していた。それから七年がたつ。

 小泉政権下で始まった景気回復は〇二年二月から〇七年一〇月の山まで、戦後最長の六十九ヵ月続いたとされる(内閣府)。大企業は最高益をたたきだし、巨額の内部留保をためこんだ。一方、格差は拡大した。地方は「駅前シャッター通り」から回復することなく景気後退局面に入り、そしていま底の見えない雇用破壊と社会崩壊の危機に直面している。昨年夏まで、小泉、安倍、福田政府の経済政策担当者たちは「やがておこぼれが落ちてくる」と言い続けた。その理論は破綻した。彼らは責任をとることなく内閣や経済財政試問会議、規制改革会議を去った。国会が彼らを喚問して政策の是非を問うこともない。

 加藤紘一元自民党幹事長はかつて、「改革は必要だが、軟着陸をどうするかだ」と指摘したことがある。規制緩和政策は小泉政権の前から始まっていた。日米構造協議による大店法問題が典型だった。加藤は山形県とくに荘内地方で圧倒的な地盤を誇った。その地元も九〇年代、時代の変化にさらされつつあった。支持者たちが経営難に直面し、商店街がさびれていく現実に、加藤は問題意識を持ったはずだ。

 二〇〇〇年末、加藤は自民党改革を求めて立ち上がり、敗北した。中途半端な反乱に批判が集中し、名門派閥の解体的な分裂を余儀なくされた。数ヵ月後、「加藤の乱」を支持した人々の視線が小泉に注がれていると感じた加藤は、小泉政権の誕生のために闘った。だが、皮肉なことに小泉の構造改革は加藤の対極にあり、その後、出番は回ってこなかった。加藤は、小泉政権の意味に後になって気が付いたと述懐している(「強いリベラル」)。米国からの要求を受動的に受け入れていた過去の自民党とは異なり、小泉政権は意識的に市場原理主義を持ち込み、格差社会をもたらした、と。

 小泉構造改革は反動の嵐となって地方を襲い、荒廃させた。「駅前シャッター通り」は地方崩壊を象徴する言葉となり、加藤紘一が抱いていたであろう危惧は現実となった。加藤と同じ東北の小沢一郎はそこに着目し、争点化し、参議院選挙を勝ち抜いた。新自由主義的な改革の旗手だった小沢が持論をどのように変更させたのか、集票のための方便にすぎないのか、それは不透明だ。だが小沢民主党の「生活が第一」の主張が地方を引き付けたことは確かだ。

 自民党は安倍と福田の自壊という犠牲を払ったすえに、小沢から二年遅れて麻生首相の施政方針演説にたどり着いたといえる。しかし「小泉改革からの転換」とは何か。「新自由主義に代わる経済社会路線」とはどのようなものか。自民党も、民主党にしても、その問いに答えてはいない。
 「地方の反乱」が続いていることは今回の山形県知事選挙でも示された(注二)。どのような政治が問われているか。今回の東北キャラバンでも議論されるだろう。


<「連帯と共生」の地域経済社会>

 小泉改革は〇五年夏の郵政総選挙で絶頂を迎えたが、すでに政策破綻は表面化しつつあった。

 象徴がタクシーだった。〇二年に規制緩和され、新規参入が破壊的に進んだ。労働者の引き抜きや労働組合への弾圧が各地で起きた。台数は急増し、競争の飽和点を超えた。激しいシェア争いは乗客の奪い合いとなり、暴走タクシーや違法駐車が市民社会を脅かすまでになった。規制緩和は安全性と労働者の賃金・労働時間を破壊した。

 仙台市のタクシー業界は〇四年暮れ、国に対し再規制を求めて立ち上がり、経済逆特区の申請という異例の手段に出た。申請は却下されたものの、地元メディアが何度も特集を組んで報道するなど、規制緩和問題を浮き彫りにした。

 一年後、郊外型大規模店の規制問題が抜き差しならない対立に発展していった。「さびれた商店街」に悩む地方は、福島県議会をはじめ、大型店舗の郊外進出規制を要求して立ち上がった。与党と国土交通省は規制再強化(まちづくり三法の見直し)に動き、奥田・日本経団連はこれに反対した。対立は経済界にも持ち込まれた。在来商店街の小規模店舗を抱える日本商工会議所と、大流通資本の側に立つ経団連の対立だった。

 それら規制緩和・新規参入政策に対する自己防衛の動きは、「郵政」を先頭に「抵抗勢力」とされ、メディアや「改革派」による攻撃対象となった。タクシー問題でも、規制緩和は利用者の利便性を高め選択肢を拡大する、業界の守旧派的体質も改善するという主張が大新聞の社説などに掲載されていた。だが局面は変わり、〇五年後半以降さまざまな分野で矛盾が噴出し、小泉改革の力を奪っていった。宮城県民の記憶に残る「耐震強度偽装」問題もそうだ。(JR西日本の大惨事は〇五年四月。)

 安倍と福田政権は小泉・竹中路線の維持と見直しの間を揺れ動いた。麻生政権に至って小泉改革は「過去のもの」になった。だが、問題が整理され、政策転換が果たされたわけではない。実際、タクシーも大型店舗にしても、いまだにせめぎ合いと迷走が続いている(注三)。たとえば仙台近郊では郊外型大規模店舗がいくつも進出し、地域商圏への支配をいっそう強めている。

 このような経緯のなかで、雇用破壊の一挙的な拡大に直面して、「一極集中・依存」の見直しの声が上がっている。「地域に根ざした」産業と雇用、医療や福祉、教育を展望すべきだとの意見は広範に提起されている。北上市議会などでは、輸出型製造業への依存が急激な危機をもたらしたとの議論がなされたという。北上市は一年前、「企業立地に頑張る市町村二十選」(経済産業省)に選ばれている。しかし、「地元」に相談もしないで、企業の一存で労働者を解雇したり工場を閉鎖・撤退するのでは、地域経済社会が安定・安心するはずはない。

 宮城県はトヨタ関連会社の誘致を積極的に推進してきた。中国など大陸市場をにらんだトヨタの「東北拠点化」とタイアップしている。だが、地元経済を歪める、環境を悪化させるなどの問題点も指摘されてきた。地元紙が実施した農業モニター調査によれば、東北地方への自動車関連企業の立地によって「農業に従事する人が減少し、農業生産が縮小すると予想する農家が四割を超えている」(河北新報〇八年五月)。

 「連帯と共生」が様々な場で語られている。大資本に依存しない地域経済社会をどのように展望するのか。効率・採算を最優先とする「自治体経営」路線からの転換をいかに実現するのか。

 非営利企業の育成。地域医療の防衛。郵政をはじめ「民営化」の見直し。農業・林業・漁業の再構築。地域最低賃金の引き上げ。脱原発。外国人労働者・学生の雇用と就学。東北地方と北東アジアの友好、等々、論点は多岐にわたる。「地方分権」の問題もある。それらは今回の東北キャラバンのもう一つの課題だろう。


(注一)厚労省の第三回調査(一月三十日発表、対象期間は同じ)ではさらに増加し、全体で十二万五千人、東北地方は一万九千人(全国の十五%)で前回調査から五十六%増加。福島は前回と同じく全国三位で、山形七位、宮城九位、岩手十三位。

(注二)新人候補が「効率優先の県政」「冷たい県政」を批判し、二期目を迎える現職に挑んだ。準備不足にもかかわらず、大接戦にもちこみ、勝利した。野党各党の支持だけでなく、保守系の一部も新人の側についた。加藤は自民党国会議員として現職を支持し、敗北したが、その「政策的矛盾」は問われないのか。

(注三)仙台のタクシー業界でも昨年末、「失職した非正規雇用労働者の再就職先に」と数社が名乗り出ている。苛烈な市場競争の場への「再雇用シフト」と、「タクシー規制緩和の見直し」(賃金と労働条件の改善要求を含めて)との整合性はどうなっているのか。介護や外食等を含めて、政府や経済界からの説明はない。