<投稿>
『大崎市民病院の移転建設について』
<一労働者/09年11月3日>

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大崎市民病院の移転建設について


大崎市は大崎市民病院本院の現在地(大崎市古川千手寺町)での建て替え計画を変更し、古川市郊外の市有地へ移転すると発表した。

私はこの病院に多くの思い出がある。子どもが高校生の時、救急車を呼び救命救急センターを受診したこと、義母がこの病院で亡くなり、義父が救命救急センターで息を引き取ったことなど、人一倍身近な存在であった。またかつて自分自身が通院したこともあった。にもかかわらず、現在地に建て替える計画決定の経緯を、私はあまり知らなかった。関心がほとんど無かったのだ。

しかし、マスコミの移転報道、市長の唐突な路線変更、現在地建て替えを求める「緊急市民集会」などに触れるに従って、何かおかしい、腑に落ちないと思い始めている。大崎市民の総意とは別のところで「移転」という既成事実が作られているのではないのかと、この間の急展開に疑念を強く感じている。現時点で知りえる情報をもとに意見を述べてみたい。


9月29日に開かれた「建設検証作業チーム」の最終会合では、『病院代表委員から「現在地での建て替えありきの議論では納得できない」など』(河北新報のニュースサイト)、現在地での建設への批判的意見が多く出されていたと報道されている。

検証作業チームによる「大崎市民病院本院建設検証作業チーム報告書」(以下、「報告書」)が9月30日付けで伊藤大崎市長へ提出され、同市長は10月14日、現在地での建て替えから一転、大崎市古川稲葉地区への移転を明らかにした。

病院は昭和32年に発足し、平成6年に救命救急センターを併設、平成13年には屋上ヘリポートなどを整備し、地域がん診療連携拠点病院、災害拠点病院として運営している。しかし、こうした施設の併設から医療機能が分散化し、医療スタッフや患者が施設間を行き来しなければならなくなるなど、医療提供や医療環境の点から様々な問題が生じてきた。また、老朽化や偏狭化は解消されていない状況にあり、平成25年度中の開院、500床規模の新病院を現在地に整備する計画であった(大崎市の「大崎市民病院改革プラン」平成21年3月)。

「大崎市民病院基本計画」には「市民病院(本院)は、現在地の敷地を拡大して病床数500床として建設します」と明記されている。大崎市病院改革プラン等策定検討会議による協議が平成20年5月〜平成21年2月までの期間、6回実施され(大崎市民病院ホームページより)、基本計画が決定されたという経過になっている。7月には、建設用地の補償の手続きを始めるための通知文が関係者に出されている。

ところが大崎市民病院本院検証作業チーム(以下、検証作業チーム)が9月中に実施した5回の会議と、その検証作業チームによる「報告書」によって状況は一変する。


以下「報告書」から引用する(大崎市のホームページ「病院事業のあり方」を参照)。


<大崎市民病院基本計画等について>
「本年3月策定した「大崎市民病院基本計画」での現在地を拡大して建設するとした際の基本事項(以下の事項)6項目全てが達成できなかったこと。

@医療スタッフの現場の意見を尊重
A医療安全の確保
B新病院に一体的に集約した病院
C拡大予定地の全面積の取得
D総事業費160億円
E平成25年度の開設。
(中略)

<検証結果>
現在地に建設することは、現在の建設技術を持ってすれば可能であるが、様々な課題があり医療スタッフが抱く一連の不安解消には至っていない。
 
また最大の課題(問題点)は、検討過程の的確な情報提供と説明不足によって生じた疑問や不安が鬱積していることであり(中略)、500床の箱物が出来たが医師等の医療スタッフがいないならないためにも、早急に市民病院内部の風通しがスムーズになるように、解禁を開いて話し合うべきである」。


報告書に添付されている文書「今後の病院建設を進めるにあたっての各委員からの意見」には、「医療スタッフの意見を無視して新病院を建設していいのか」「時間をかけて議論しても、その情報が現場に下りてこなかったこと」「数年前から救命救急センター、手術等の厳しい現場で働く中堅の看護師が少しずつ辞めていく状況にある」「再度の医局アンケートは現在地の建設に断固反対だあるとの結果がでた」「働く医師に、スタッフに環境の良い職場を提供していただきたい」「これまでの議論を通じて、このままで進めることに大きな問題があると痛切に感じている」などの意見が載せられ、現在地建設を見直す意見で埋められている印象が強い。

また、「医療スタッフの意見を無視して新病院を建設していいのか」(報告書)との意見があったが、平成20年7月と8月に(本院)職員と意見交換会がもたれているし、市民病院(本院)全職員へのアンケート調査結果(調査期間:平成20年7月24日〜8月1日、回収率69.8%)も公開されている。

それによれば、「新大崎市民病院の建設場所はどちらか良いと思いますか? 良いと思われる地域は?」の問いに対して、全部署集計では現在地で建設が42.6%、新たな場所へ移転が47.3%と拮抗している。

移転先については、看護部以外(部署不明職種は3地区同じパーセント)は駅前地区のパーセンテージが高い。ちなみにアンケート当時は現移転先(稲葉地区、パレットおおさき隣接地)は対象として特定されていない。


市は11月開催する住民説明会の案内文で、新移転地の総事業費を194億円、現在地214億円として、これを移転の大きな理由のひとつに上げているが、少なくとも270億円前後(「現在地建て替えを求める連絡会」資料)の費用がかかるとの試算がある。

また移転地敷地が超軟弱地盤であり、隣接の小学校敷地等複数の施設で地盤沈下が著しく、高層建築は不適との指摘もされている。

議会での全会一致といわれる決定が覆った経過は不透明で、納得性が無いように思われる。伊藤大崎市長が一転し「移転」に舵を切ったことは、策定検討会議の議論の経緯や市議会での決定結果を反故にする独断専行といえるのではないのか。強引な移転決定は民主主義に反する。

同意した地元地権者、大崎市民への丁寧でかつ誠実な説明責任が求められるし、議会、医療スタッフ、市民・病院利用者との間でのオープンな議論、情報公開が不可欠であり、拙速な本院建設は禍根を残す。


医療の崩壊、国民皆保険制度の危機がいわれて久しい。医師、看護師の過労死も後を断たない。がん難民や治療の難しい難病に多くの患者たちが苦しんでいる(実に数多くの難病がある)。小児科、産婦人科、高齢者医療など山積する困難をどのように解決していくのか。無関心ではいられない深刻な状況がある。

私自身、入院を複数回経験し、現在T病院に通院しているが、医師は多忙をきわめ、とくに看護師は過酷な勤務だと感じる。医療事故が起こるのもそこに背景があるのだと思う。病院、医師それぞれの差異(医療レベル、都市と地方、治療方針、3分間診療、等々)も指摘されている。患者、家族などからの多様な相談に乗ってくれるセンター的な機能はまったく不十分だ。

そのような現状を変えて、患者の「QOLが改善した」「社会復帰が出来る」「治った・寛解した」というプロセスを考慮した医療体制、社会環境が整えられることを望む。患者に向き合い、患者を社会的に支援し、患者の権利を尊重する社会を望む。

大崎市民病院の移転問題は、患者と家族(看護・介護者等)を考えた議論となっているのであろうか。当事者を置き去りにした箱物論議では本末転倒であろう。箱物(病院)ももちろん大事であるが、その中で交わる医療スタッフと患者・家族らの生き生きとした営みと信頼関係が保障されることが一番大事なことなのではないか。

病院は患者の治療のための場である。決して政争の具にしてはならない。

(2009年11月3日/一労働者)