(1)「史上最悪の粉飾」と揶揄される米国通信会社「ワールドコム」の不正経理問題は「企業の自助努力に任せる風潮、規制緩和のせい」という政権批判が飛び出し、米国の政治・経済の中心を直撃している。90年代の高株価を背景に企業買収を繰り返し急成長してきたワールドコムが直面している状況は、資本主義のお手本として君臨してきた米国経済と米国流経営の暗部を引き出した。通信産業に限ってみてもグローバル・クロシング社(3月破産)、クエスト・コミュニケーション社の売上高水増し、その他ケーブル会社、ソフト会社など。また最大手のAT&T社が業績不信の中での子会社切り売りという事態になっている。こうした米国の通信産業で起きている問題は「ITバブル」の中での過剰な投資の中で引き起こされた。高株価を背景に資金を調達し、企業規模を拡大するという株価重視の経営手法が招いた「ITバブルの崩壊」と大企業での粉飾決算・不正経理の顕在化は世界を巻き込みつつある。
(2)一方で、「世界大競争時代」グローバル化のなかで、国営事業から民営化という路線をたどってきたヨーロッパ、日本の通信企業は昨年、今年と相次いで巨額の赤字損益を生み出した。世界一の巨大電話企業であるNTTが9000億の赤字。イギリスのBTは300億、ドイツ・テレコム4000億、フランス・テレコム9600億というような状況である。こうした世界の電話産業での巨額の赤字発生の背景にはWTO(世界貿易機構)の「通信自由化政策」がある。加盟諸国が将来的にはお互いの通信市場を全面開放するという中で、民営化を推し進め海外投資、企業買収を推し進めシェアの拡大、確保の企業戦略のもと突き進んできた。NTTドコモ、コミュニケーションの海外投資は、1998年の「基本電気通信自由化合意」後99年から01年にかけてアジア、イギリス、アメリカ、オランダの電話会社の買収、投資がうなぎ登りに増え一年半で「総額1兆8千奥円」にもなっている。NTTの巨額損失はこの海外投資失敗の中で生み出された。
(3)こうした中で、BTは国内だけの固定電話会社に縮小、フランス・テレコムは再国有化に向けて検討が始まり、ドイツ・テレコムは傘下の米国ボイスストリーム携帯電話会社をAT&Tに売却し携帯電話事業の単独展開を断念し社長の経営責任問題が浮上、NTTは11万人リストラと新会社三ヵ年計画を明らかにし固定電話ゼロ、IP網への移行を明らかにした。なぜ世界的に電話・通信産業で同時に同様な事態に陥っているのだろうか。ワールドコムの状況は端的に物語っている。モーテル経営者が起こした小さな電話会社が20年で70社以上を買収し、高株価を背景に3倍の規模をもつMCIコミュニケーションを飲み込みAT&T社に次ぐ全米2位の通信会社に伸し上がった背景には「株価」を重視し「株主利益の重視」という「企業評価判断」と「標準化」がある。国際マネーを如何に自企業に投資させるかの中で、高株価対策を取らせ投資家の関心と投資を生み出すことによって「企業成長」させてきた「ITバブル」の土壌となった。各国の電話・通信産業の危機的状況は「過剰な競争」の中での「行き過ぎた投資」の中で生まれた。情報通信産業は決して「斜陽産業」ではない。日本においても市場規模は拡大し全体の売上高は「右肩上がり」を続けている。
NTT3カ年計画は何を意味するのか
(1)NTTは「グローバル三ヵ年経営計画」を明らかにした。(02年4月)。その骨子は「ブロードバンド(高速・大容量通信)の進展に合わせた光ファイバーの普及拡大。投資の中心をIP網の整備に集中」「従来型の固定電話網への投資ゼロ」「インターネット技術を活用したIP電話網構築への全面移行」「グループ各社別に展開するプロバイダー事業を段階的に統合」などである。既に、フュージョンコミュニケーション、ヤフー、NTT−MEなどがIP電話サービスを行っており、これまでの電話料金よりはるかに安価な料金で提供している。ここにNTTという巨大企業が本格的な参入をすればIP電話は一挙に普及することは間違いない。また、7月4日NTT東日本三浦社長は「NTT−MEなどを含めた東日本グループの再編」を明らかにし、インターネット接続事業の効率的な体制に移行することを明らかにした。こうしたIP電話への本格移行は、電話新規加入者の「公社債」購入よる固定電話網(ネットワーク)の整備・拡充・維持という、言うなれば通信インフラ設備が国民の負担によって形成され、維持されたなかで今回のIP電話への転換は電電公社時代の「全国即時網の完成」に続きNTTが創り上げた「全国総合デジタル網」の完成に向けて、毎年1000億以上の設備投資が無駄になっていく側面を持っている。
NTT3ヵ年計画は、「従来型の固定電話網の投資停止」とわざわざ断っているのは、これまで進めてきた「電話交換機と光ファイバーによるIP化の共存」路線からの転換と見ることができる。
NTT再編4社、とりわけ東西2社の赤字構造問題については「創られた赤字」と言わざるを得ない。接続料金問題でのアメリカの圧力と接続料金値下げ、NCC各社との料金値下げ競争と言う「体力勝負」の中で固定電話収益の悪化を理由に「赤字転落の危機」が声高に叫ばれ「11万リストラ」の最大要因として打ち出された。だが、NTT東西の接続料金値下げによる減収の7割がNTTドコモ、コミュニケーションの収益に転嫁し、NTTグループとしてみれば接続料金値下げの影響は3割。しかしながら、研究開発費、福利厚生施設負担金などはその多くを東西2社に費用負担を押し付けてきた。ちょうどNTTの海外投資・企業買収の時期と重なったNTT分割の時期である。費用を負担し続ける企業と海外進出を図る企業に色分けされながら進めてきた結果としてNTT東西の赤字構造が生み出されてきた。
eジャパン重点計画(2001年3月)は「公正な競争を促進するための施策によっても十分な競争の進展が見られない場合は通信主権の確保や国際競争の動向も視野に入れ、速やかに電気通信制度に関わる制度、NTTのあり方などの抜本的な見直しを行う」としている。通信の自由化政策の中で更なるNTTの再再編(2005年)に向けた論議が浮上しつつある中での「NTT3ヵ年計画」は大きく従来の路線から変更したことになる。
IP電話への転換は何をもたらすか
(1)NTTの新3ヵ年計画は、大きな転換を意味している。NTTが進めようとしてきた「電話とIP化の両立」から「インターネットの付属物としての電話」になり、これによって旧来の固定電話は「価格競争で絶対に及ばない相手」との競争を強いられることになる。米国の「通信市場の自由化戦略」は世界の通信ネットワークのヘゲモニーを握ることにあった。NTTの路線転換は、2つのジレンマの中で選択されたと言える。電話事業はインターネットに乗り遅れると生き残れない。だが電話事業のIP化はより安価な電話を誘引し「蛸の脚喰い」の構造を生み出す。このジレンマのなかで選択した道が「固定電話への投資停止、IP電話網構築への全面移行」と「グループ内でのインターネット事業の再編」という道である。NTT東西が寡占している局舎から加入者までの加入者線、回線施設に不可欠な線路敷設権という既得権開放の動きは強まらざるをえない(地域通信網の開放)。NTT設備の不良資産化はISDNから現実化し、ADSLの普及拡大の中でさらに現実化してくる。交換機を通さないで通話ができるIP電話へのシフトは、NTTの電話網設備が今後不良資産化するというジレンマを抱えながら進まざるを得ない。低料金化する音声通信は、固定通信市場の縮小を意味し電話交換設備はインターネット設備に取って代わらざるを得ない状況が将来的に生まれ「回線」以外は全ていらなくなる状況が生み出されてくる。
NTT11万人リストラ問題の本質
(1)NTT11万人リストラ計画は、NTTが抱える問題の一挙的解決を目指した。インターネットを活用したIP電話への移行を前提に、旧来の固定網をどうするのか? 政府・与党は「NTT東西の事業運営の将来を展望し、光ファイバーサービスのほかインターネットや通信・放送融合分野の新しい事業領域を自由に選択できる道を切り開き、自立した健全な営々基盤を確立することが必要である」としてNTT東西の新たなビジョンの策定を要請しながら「ユニバーサルサービス基金の創設」を謳い上げた。これによってNTTはユニバーサルサービスのコスト負担の低減と、NTT法の廃止、NTTの完全民営化を感じ取ると共に、「高コスト体質の是正」という経営改善要求を「11万人リストラ・NTTの構造改革」に対する政府・与党のGOサインと受け止め11万人リストラを強行することになる。
IP電話への転換は、交換機を中心とした固定電話部門とその要員をどうするのかであった。IP電話の普及は大都市から地方都市に拡大し、その地域の交換機を始めとした設備と労働者を切り捨てていく。最大のネックは「社会的インフラとしての電話」をどう維持するのかであり、そこに他事業者の負担(ユニバーサル基金)とNTT政府保有株(ユニバーサルサービスの確保、研究開発力の維持目的)売却益の活用によって切り抜けながら政府のNTT株式保有義務を将来撤廃することをもってNTTの完全民営化に向かう道筋をつけながら当面の処方箋を描けたことにある。こうして、NTT11万人リストラは「事業構造の転換」の大合唱のもとで強行された。NTT経営者のこの間の発言は、こうした政治との絡みの中で出され、「2年目から赤字企業の整理」というOS会社の整理統合の動きは、NTTのIP化進展の中でさらに加速化される。
(2)NTT11万人リストラの本当の目的は「日本の雇用システムの破壊」であった。2001年の文芸春秋でNTT宮津前社長は「雇用システムまで手をつけなければ構造改革の実現は難しい。・・・・・・・せめて自分が預かっているNTTグループのなかだけでも、グループ内を説得して人材の流動化を実現したい・・・・断行するしかありません」と語っている。95年「新時代の日本的経営」が日経連総会で採択され戦後日本の労使関係の基本である「終身雇用制」と「年功序列型賃金制度」を廃し、雇用形態の流動化、定昇廃止と能力主義の徹底などを柱とするプログラムを明らかにした。
今回のNTT構造改革は、まさしくこのプログラムに基づく物である。第一には、賃金制度を「成果・業績を重視する成果主義賃金制度」を導入し、定期昇給を50歳までの頭打ち賃金構造にするなかで、「業績評価」によって同一業種であっても賃金差が拡大する。総額人件費抑制の中で労働者は「縮小されたパイ」を奪い合う構図になっている。
第二は、終身雇用制の廃止にむけて「50歳退職・再雇用制度」を導入する事によって実質的な「50歳定年制」にし、人件費の大幅な圧縮を図った事。つまり、現行法での60最定年制の破壊を「本人選択」を隠れ蓑に制度化した。第三には、NTT本体、子会社、新会社の役割りを「企画・戦略部門」(NTT本体)、「専門的部門」(子会社)、「設備系・営業系・共通系」(新会社)に切り分けることによって役割り分担を明確にしながら雇用流動化を図った事である。今回の構造改革の中で業務の外部委託会社(アウトソーシング会社)を全国100社以上を新たに創りそこに設備・営業・共通系の労働者を出向、50歳以上の労働者は賃金の3割カット(最大)によって再雇用するシステムを作り出した。NTTは「儲かるところも、そうでないところも同一賃金、同一の労働条件の維持は困難」というなかで「儲からない固定電話にぶら下がっている労働者」を仕事と人をセットにしてスクラップ化を図ったと言える。構造改革によってNTTは、企業内での雇用流動化を図り、固定電話系の業務を維持・継続のために「安い労働力の確保」出来る仕組みをつくりあげた。NTTは再雇用制度での賃金の3割削減は「地場賃金化」に向かう一里塚と考えている。今後、膨大な労働者を抱え込んだ新会社は単年度黒字化を要請されながら、NTTからの受委託費削減のなかで賃金を始めとする労働条件の削減、労働者の整理に走らざるを得ない事は容易に想像できる。
NTTは、今回の「NTT構造改革」によって「小泉構造改革」の大きな柱である「雇用流動化」を実現させた。更に、NTT労使は「正規雇用労働者の非正規雇用労働者への挿げ替え」を意図している。NTT労組の最新の討議資料では「効果的労働力配置を基本とした非典型労働力の新たな活用」として「業務内容を見極め新たな労働力を持って活用する」「コスト競争力を無視できない経営環境から、・・・・労働組合として非典型社員の在り方などに対する政策づくりに取組む」としている。
NTTと言う世界でも一流企業から始まった「NTT構造改革」は、NTTと言う一企業内の問題ではなく小泉構造改革を先取りして企業内で実現し、その手法を社会全体化するところにその狙いがあり、なりふりかまわぬNTT11万人リストラを政府は「労使自冶」の名のもとにNTT労使合意をたてにその違法性・脱法性を黙認したと言える。
反グローバリズムの旗を掲げた共同の討論と闘い!
(1)99年のシアトルWTO総会で「反グローバリズム」が掲げられ大規模な集会とデモが行われ、01年ブラジル・ポルトアレグレの世界社会フォーラムの成功の中で「グローバル化」に対する国際討論の場が初めて作られた。(残念ながらNTT問題を訴えられなかったが、全労協の春闘ポスターが貼られたようだ)イタリア・ジェノバサミットの抗議デモは20万人が世界から結集し、02年世界社会フォーラムでは「もう一つの世界は可能だ」というスローガンのもと8万人の人々が参加した。労働組合、ATTAC(国際金融取引の課税を求める)、農民団体など広範な層と団体が参加し「反グローバリズム運動」の進化が進められた。戦争と暴力、貧富の差の拡大、非正規雇用労働者と失業者問題、地球温暖化問題と開発による環境破壊など、これらの問題の連関性を世界的ネットワークをとおして「反グローバリズム運動」として築くことが課題である。政治・経済全体を覆いつくそうとする新自由主義に抗し「社会的規制」を軸とした運動と変革を推し進めるためのイニシアチブが求められている。11万人リストラと闘ってきた電通労組全国協議会の闘いが、一方で「正社員の雇用確保」の名のもとに切り捨てられる派遣労働者などの非正規雇用労働者の組織化の闘いと要求(解雇規制、非正規雇用労働者の権利確立と均等待遇要求では)という新たな視点の確立とそれに基づく労働運動、環境問題などの社会的運動、反戦・平和運動などさまざまな闘いと運動を繋ぎ合わせながら「もう一つの世界は可能だ」という第2回世界社会フォーラムで掲げられたスローガンを豊かにさせていく討論と運動だろう。
(2)そのうえで、重要な課題はこの3月韓国電信労組の招きでNTT11万人リストラ問題について韓国で報告を行ってきたが国際連帯活動として強化しなければならない。韓国では、公共部門の民営化方針に対し韓国民主労組の激烈な闘いゼネストが鉄道・電力・ガス部門の労働者を中心に連帯する数十万の労働者の闘いとして展開された。韓国通貨危機のもとでIMF再建国家となった韓国政府に国際資本が突きつけたのは「民間活力による経済再建」の名のもと「公共部門の全面民営化」方針である。社会的インフラ設備は、国民の税金を投資して作られてきた。それが利益を生む構造になると大資本が乗り出し「民営化」を要求してくる。諸外国における例に漏れず、同様のことがその国で唯一の基幹事業、雇用の場である公共部門の民営化が「債務返済」の名のもとに行われている。
韓国通信労組は、政府の民営化方針を受け入れたが左派は多数派形成のための闘いを展開している。日本で起きたことが数年を経ずして韓国で始まるという事態は日韓の資本家が一体となってうごめき「手本」を教示しているからである。日韓投資協定という地域自由貿易協定が準備される中で韓国に対する日本の投資・通商環境を維持するための政治的枠組みを形成しようとする動きであり、こうした問題を共通の課題として討論する環境を労働組合の交流という中から作り上げる必要がある。日本におけるNTT問題と韓国における民営化問題を共同の討論のなかから「反グローバリズム」運動の一翼として築くことが問われている。
(一部修正・加筆しています。高橋) |