ようこそ、この世界へ
お誕生、おめでとう。はじめて見る世界はまぶしいでしょう?今、お母さんのおなかの中から出てくるという大仕事をなしとげて、安心して眠っているのでしょうか? あなたには、「ダウン症」という形容詞が与えられることになるでしょう。あなたには、まだわからないだろうけど、世の中の人たちは「ダウン症」という言葉に「知的障害」とか「かわいそうな子」とか、「不幸な子」なんていう言葉を重ねたりします。 だから、もしかすると、あなたのお母さんは、今ごろ、声を殺して泣いているかもしれません。お父さんは、そんなお母さんにかける言葉もなく、たちすくんでいるかもしれません。もしもあなたがたった今しゃべることができたとしたら、こんなふうに言うかもしれません。「やめてくれよ。どうしてぼくが生まれると、みんな泣くにさ」 その通り。私たちは、そんなあなたたちに心から「ようこそ」と言いたくて、この本を作りました。 この本の中には、あなたの仲間が100人出てきます。かつてあなたと同じように、かわいい子どもを授かって、その子が「ダウン症」であると言われた父親や母親であり、あなたとともに育ったきょうだいたちです。 私たちは、あなたと同じ「ダウン症」の子どもとの出会いを通して、人は必ず支えられて生きているのだということを学びました。あなたと同じ「ダウン症」子どもと暮らす毎日を通して、誰にでも誰かを救う力があるのだということを信じられるようになりました。そして「ダウン症」の子どもなら生まれてこないほうがいい、と思っている人たちに、私たちの暮らしが、どんなに「普通」の暮らしなのかを知ってほしいと強く感じるようになりました。 あなたのお母さんは今も泣いていますか?お父さんは、今も困り果てていますか? 私たちは、自信をもって言うことができます。あなたが「ダウン症」だと聞いて涙を流したり、言葉をなくしたりするのは、ただただ「ダウン症」のことを知らないからだけなのだ、と。 あなたの名前は何というのですか?何も知らない人たちは、あなたのことを「知的障害児」と呼ぶのでしょうね。ちょっと理解している人は、「ダウン症児」と呼ぶでしょう。でも、それはどちらもちがいます。あなたはあなた。あなたは自身の名前をもった、ただ一人のかけがえのない人。そのことを知っている人たちは、あなたのことを名前で呼びます。 この本の中に出てくる人たちは、そのことを知っています。これから何人もの人たちに勇気を授けてくれることになるあなたへ。私たちは、心から呼びかけます。 お誕生おめでとう。ようこそ、この世界へ! |
これは(財)日本ダウン症協会の理事長、玉井氏の文章です。「ようこそダウン症の赤ちゃん」(三省堂)の最初の方に載っています。
和花が亡くなってから出会いました。もっともっと早く、和花が生まれる前から出会いたかった本であり、文章です。
もし、これからみなさんのお知り合いの方がダウン症の子どもを産んだ時、その子に向かって言ってあげてください。
もし、ダウン症の子どもを授かって、途方に暮れ泣いているご両親がいらっしゃったら、我が子に向かって言ってあげてください。
「ダウン症の子」は、ダウン症という形容詞が付いてしまっただけで、皆が言う「普通の子」となんらかわりありません。
生まれてこない方が良かった子なんて一人もいません!
どうか、かわいそうだなんて思わないで下さい。どうか我が子の誕生に悲しみの涙なんて流さないで下さい。
一生懸命お母さんと共に頑張って生まれてきた子に心から言って下さい。『お誕生おめでとう。ようこそ、この世界へ』と。