キノコの女王キヌガサタケ!

アウトドアが好きな人なら、ほぼ例外なくキノコが大好きです。私もその一人なのですが、当の本人も、どうしてそんなに夢中になるのか良く分かりません。キノコ狩りで最も人気があるのは、言うまでもなくマツタケですね。マツタケがほとんど採れない北海道ではマイタケが最大のターゲット。共に東西の横綱という感じで、多くのアウトドアファンに親しまれています。このページで紹介する「キヌガサタケ」は姿形があまりにも優雅で繊細なことから「キノコの女王」と呼ばれています。味が良いのに発生量は少なく、見ることも味わうことも難しい、言わば幻のキノコです。この女王様、見た目の感じでてっきり南方系だと思っていたら、北海道にも出るんですね。最初、見付けたのは老父。成長途上の蕾を蛇の卵と勘違いして、草刈り鎌でザックリやって捨てたのだそうです。「ムチャクチャ大きな蛇の卵が3つもあったぞ。潰したけど、内緒にしとけよ」と言うのです。話を聞けば、どう小さく見積もっても日本の蛇のサイズではありません。十勝にマムシはおりませんが、アオダイショウやヤマカガシ(ジムグリかも?)は稀に見ます。あれも大きくなりますが、それにしても鶏卵より一回り大きいとは。次の発見者は蛇嫌いのお袋。「ちょっと来てえー!」。何事かと駆け付ければ、雑木の下に卵が2つ。「なあ、これアミガサタケとちゃうの?」とお袋。実物を見て合点がいった私は「ああ、触ったらアカン。成長が止まる。これはアミガサやのうてキヌガサや!」と叫んだのでした。辺りを慎重に探すと、北海道にはないと思っていたキヌガサタケが、なんと群生しているではありませんか。興奮しましたねえ。全員に通達「キノコはちょっとした環境の変化で成長が止まる。木の葉一枚、動かしたらアカンで!」その甲斐あってか、天下の珍味を心行くまで味わえる幸運に恵まれたのです。

誰が見ても卵ですね。でも「キヌガサタケの幼菌」なんですよ。触った感触がプヨプヨしていて蛇の卵そっくり。まあ、本物の蛇の卵は、蚕の繭を細長くしたような形をしていますが、本州とは違う種類の蛇がいるかも知れんと思ったら、ニョロヤンの卵に見えても仕方ありませんよね?

周囲にかなり纏まった数を見付けたので、若採りしてみました。本体を抜いた後の卵は、黄身のない温泉卵そのもの。本体しか食したことはありませんが、ゼラチン様の物質がモッチリ詰まっていて如何にも旨そうに見えます。でも、どんな図鑑にも、卵の残骸の味については言及されていません。いずれ腹を括って試食する予定であります。

この種のキノコは木材腐朽菌ではありません。腐葉土や有機物で肥えた土を好みます。菌類のくせに野菜みたいなヤツですね。キノコには変わった生理を持つものが多く、モグラの糞を好んで苗床にするものもありますし、有名なところでは冬虫夏草なんか昆虫から生えるでしょ? 実に興味深い存在です。猛毒があるかと思えば、ほっぺたが落ちるほど旨いのもあって、田舎暮らしに欠かせない存在です。 

女王様には尻尾があります。なんとなく、子豚のお尻みたいで笑えますね。え? お宅の奥さんにはヒゲが……? いやいや、失礼いたしました。

これは別のキヌガサタケを茹でたもの。生のときはシャッキリしていて脆い感じがするのですが、火を入れるとこの通り。クニャッとして奇妙な弾力が出ます。これが、天下の珍味と呼ばれるキヌガサ女王の歯ざわりの秘密。

茹でると柔らかくなる上、少し縮みます。うーん、どこかで見覚えがあるような……と下を見る????

キヌガサタケは、胞子を風で飛ばす種類のキノコではありません。グレバと呼ばれる異臭を放つ粘液質の胞子ペーストでハエ誘き寄せ、あちらこちらに胞子を運んでもらいます。その臭いを洗い落とす為、流水で充分にさらします。珍味と呼ばれるものは皆、下拵えに時間が掛かりますね。海燕の巣、フカヒレ、熊の掌、干しナマコなどなど。

表現のしようがない歯ざわりと喉越し。キヌガサタケとしか説明できないのがもどかしい。そして、微かに残るグレバの香り。そうですね。チーズとかクサヤと同様、口に入れると美味しい風味というヤツです。むしろ、この匂いがなければ物足りないでしょう。ナッツの香ばしさに似ていないこともありません。やはり、キヌガサタケの香りとしか言いようがありませんね。歯ざわりや風味を活かす料理法が向きます。

本来は梅雨時のキノコ。北海道では6〜8月に掛けて数回発生します。時期に当たると、これこの通り。こんな贅沢して良いんでしょうか。尚、中華の本場中国では、キヌガサタケの干したものを珍重するそうです。一度チャレンジしてみたいのですが、生のまま干すのか、茹でてから干すのか分かりません。次の機会に、一度実験してみるつもりです。干せば、更に味わい深いものになるはずです。楽しみ楽しみ、うはははは。

本州では、それは見事にレース編みのような純白のマントを広げるキヌガサタケですが、惜しむらくは空気の乾燥した北海道のこと、艶やかなドレス姿にはならないことが多いのですね。まあ、食べるのは本体の軸ですから味は変わりません。しかし、それを言ってしまうと身も蓋もなくなってしまいます。時には自然の造形を愛でて心の養いにしたいもの。でも、これでも充分にエレガントなお姿ではありませんか? 「私を女王様とお呼び!」おっと、世界が違いました(笑)。

最後に、この貴重なキノコを増やす方法を紹介しておきます。キノコの天辺のグレバ(褐色のネトネト)を取り外し、バケツの水に溶いてジョーロで撒きます。直射日光の当たらない有機質に富んだ地面を選んでください。どうせ天辺の帽子やマントは食べても美味しくありませんから、種菌として有効に活用してください。環境がマッチすれば、シイタケでも栽培するようにキヌガサタケが安定供給できるようになります。女王様をゲットした人は、是非、チャレンジしてください。