我が国の狩猟家の食卓を飾る大型獣の内臓(ホルモン、モツ、ワタ、色々な呼び名がありますが)は心臓(ハツ)と肝臓(レバ)がその双璧で、内臓の大部分を占める胃袋(ガツ)や腸(ヒモ)は、食用にするための処理が極めて面倒なため殆んど利用されません。今回紹介する腎臓(マメ)も利用度が低いホルモンのひとつです。英語では「キドニー」、仏語では「ロニョン」と呼ばれ、海外では非常に珍重されて好む人が多いようですが、我が国では胃袋や腸と一緒に廃棄されるのが普通です。

何故、日本では腎臓が喜ばれないのか? それは恐らく、血液を漉して尿を作る器官ゆえ変な先入観が邪魔をしているからかも知れません。食用にするための前処理が面倒だということも、嫌われる一因でしょうし、単に食べられることを知らないだけという人もあるでしょう。

大型獣の腎臓には確かに臭みがあります。食べ物の食味を文章で表現するのは難しいですが、癖のある薄味の肝臓と思えば遠からず、といったところでしょうか。食感はレバがモチモチなのに対して、マメはボソボソしています。食後、美味しいと感じて再び食卓に上るか、一回で嫌になって以後見向きもしないようになるか・・・・自分で捕獲した大型獣の腎臓を一度も食べたことがない人は、繁殖期の個体は絶対に避けること、若い鹿ほど癖が無いこと、捕獲後即処理すること、数時間以内に調理して食すこと・・・・などに注意すれば、初体験がトラウマにならずに済むかも?

先ずは、成獣を例にして、エゾシカの腎臓が如何なる物なのか、見ていただきましょう。左の写真は平成21年5月末にネック1発で駆除したオスの大物です。脂が付いていない時期にも関わらず、物凄い重さで、朝露に濡れて滑りやすい草の上なのに、ホウラーが入れる場所まで引っ張るだけでヘトヘトになりました。因みに、胴体の文字は、我が広尾町の駆除出動時の作法として駆除個体に記入する捕獲者識別番号です。

現場でバラして人力回収するのが私の好みなのですが、残滓の処理問題や温暖化の影響など、今までどうりの流儀を押し通せない世の中になり、雪のない時期はミニミニクレーン車「スナキチ号」で渓流まで冷やしに行くことが多くなりました。

これが、エゾシカの腎臓(マメ)です。1頭に1対(2個1組)付いており、成獣のブツは結構なボリュームがあります。腎臓といえば、腹腔の腰側に左右対称でへばりついていそうなイメージがあるかと思いますが、鹿の場合、腹を割って内臓一式を体外へ放り出すと、他の臓物に紛れて一緒くたに出てしまいます。また、幼体と成体では体内の位置関係が微妙に異なり、左の片割れは少し分かりにくい場合がありますね。そんなわけで、これが腎臓だと認識できずに捨ててしまう人がいらっしゃるのかも知れません。

腎臓を美味しく食べようと思ったら、摘出次第、縦半分に断ち割り、即座に流水で晒さねばなりません。ご覧の如く、腎臓の断面は瑪瑙(めのう)に酷似しております。写真を拡大してジックリご覧ください。白いスジのようなものが臭みの原因となる尿線です。中央の色の淡い部分共々切除して、十分に水に晒すのが臭み抜きのコツ。

毎度お馴染み、レバ(肝臓)とハツ(心臓)です。右の心臓から火星人の触手のように伸びているのは大血管。最近、私の駆除出動はヘッドかネックしか狙わないので、無傷の大血管を長いまま回収して美味しくいただいております。

この時期だけ採れる貴重な鹿茸(ろくじょう)です。鹿茸なんて知らんという人もあるかと思いますが、医薬品扱いのドリンク剤に高級漢方薬として調合されておりますので、意外に身近なものなんですよ。尚、鹿茸は生薬に分類された「薬」ですから、許可の無い人が勝手に販売すると大変なことになります。捕獲者が家族の健康のために自家利用するのは大いに結構ですが、無闇な生産者特権行使(過剰摂取ともいう)には注意しませう。

ハラ抜いて、鹿茸を切り取ると、一番上の写真と同じオスの大物とは似ても似つかなくなりますね。なんか見栄えがしなくなるというか・・・・でも、沢山のお肉が詰まっていますから、私はキッチリ処理して全部食ってしまいます。今回紹介の腎臓なんて、本体のお肉の量から比べれば、取るに足らない微々たるもの。でも、ホルモンはお肉とは味わいや栄養が異なるので、大事に、大事に、お持ち帰りしています。

お持ち帰りといえば、コレ。重機が無ければ、動物に掘り返されない深さに現場で埋めるなんてことは先ず不可能です。だから、最近は容積60リットルの馬鹿デカイ桶に入れて回収処分しています。近隣の農家から毎日のように「頼むから駆除してくれ、農家を見殺しにしないでくれ」と泣きつかれる私らハンターには底無しの負担。田舎の現状を知らん中央のエライ人が碌にリサーチもせず法律をドンドン捻じ曲げるから、日本の食料を支える農家もボランティアで駆除に従事するハンターも悲鳴を上げています。もう、エエ加減にしてくれと言いたい。我が国の食料自給率が更に下がるようなことになれば、中央のエライ人には、この桶の内臓を食べてもらいましょうかね。

請われて出動。2頭目撃。顎下ネック1発即倒。逃げたもう1頭が何故か舞い戻ってきたので安土に1発撃って追い払う。頚動脈を切り広げて放血を促し、駆け足で帰宅。スナキチ号に飛び乗って現場へ戻る・・・・・と、同じ場所にまた3頭。なんでやねん! これが農業被害多発地域の現状です。ミニミニクレーンで駆除個体を逆さ吊りして残血を絞り、大汗を拭いつつ、冷却のために渓流へGO!

これは、平成21年6月17日に駆除した上の写真の1歳メスの腎臓(マメ)を流水に晒してから、下味を付けている状態です。調味料の材料は、醤油、ニンニク、七味唐辛子、生姜水・・・・

腎臓をタレに漬けている間に、キッチンガーデンのニラを摘みます。ニラは病虫害に極めて強く、一度畑に植えると10年でも20年でも利用し続けることができる便利な野菜。これだけ粗放な扱いに耐えるなら、いっそ食料増産のために野生化させたれ! と思って原野(勿論、自前の地所でっせ)に大量に移植したみたのですが、肥料をやっても年々衰退する一方で、殆んどの株が消滅してしまいました。
不思議です。

先ずは、油を熱した中華鍋で汁気を切った腎臓を炒めます。写真を見ても分かるように、腎臓から汁気が出て本体は縮むので、炒め煮みたいな感じになります。いつも思うのですが、形状といい、加熱時のリアクションといい、鹿マメ(腎臓)はマッシュルームそっくりです。

腎臓に半分くらい火が通ったら、洗って刻んだニラをブチ込みます。手早く炒めながら味塩や調味料で味を調え、鍋肌から胡麻油を回し入れて香りを出せば来上がりです。私は中華炒めの隠し味にオイスターソース(牡蠣油、ハオユー)を良く使いますが、腎臓の風味と相性があまり良くないようなので、このレシピでは省いています。一晩冷蔵庫で冷やしてから食べると、香りや癖は殆んど気にならなくなりますよ。ホルモン好きの私は、熱いうちに大喜びでいただきますが。

お昼は「マメニラ炒め」なのだ〜

一緒に写っている薄緑色の物体は「アキタブキ」の煮物です。この北方系のフキは北海道中いたるところに生えており、人間だけでなく、エゾシカやヒグマも好んで食べています。だから、鹿肉や鹿ホルモンと実に良く合い、この時期の我が家の定番メニュー。メチャ旨い!

次回、大型獣を捕獲する機会があった時、興味のある人は試してみてください。

腎臓料理は、時期、鮮度、個体差で味に天と地ほどの差が生じますから、

ネックまたはヘッドショットで若い個体を即倒させた時はチャンスです。

解禁の頃は繁殖期と被ってしまうので余り好ましくはありません。

お味のほうは、旨いと喜ぶ人もあれば、臭いと吐き出してしまう人もあります。

肝臓(レバ)の好き嫌いが分かれるのと全く同じ反応です。

では、何故、外国のハンターは好んで食べるのでしょうか・・・・・

私自身の経験では、食べるたびに身体に良い影響が出ましたから、

多分、食味だけが理由ではないでしょうね。

先ず、おしっこの出方が普段よりも明らかに勢いを増しました。

それから、手の甲や前腕の肌荒れが一晩で綺麗につるりと治ってしまったのです。

医食同源の考え方によれば、病んだのと同じ部位を食べれば治癒を助けるということですが、

鹿の腎臓(マメ)を食って、どうして肌まで綺麗になるのか良く分かりませんでした。

ヨガでいうところの「チャクラ」と何か関係あるのかな・・・・

食べ物が原因でチャクラが活性化すると、若返りの効果が期待できるのかも?

・・・・なあ〜んて、オカルティックな路線に傾いたりして。

そんなことを思い浮かべながら就寝したら、夢の中でも色々考えていたようです。

明け方、ハッと気が付きました。

副腎や!

そう、腎臓にへばり付いている器官で、

副腎皮質ホルモンを分泌する非常に重要な部分です。

これを失うと生き物は必ず死んでしまうと本で読んだ覚えが!

副腎皮質ホルモンちゅうたら、お医者さんが処方するお薬にも入ってまんがな。

いわゆるステロイド。

しかもコイツは正真正銘の天然成分でっせ。

やっぱり、医食同源か!

ほんまに、鹿のホルモン(食い物)には有効成分のホルモン(お薬)が入ってるんや!

ということは、万一、初弾で即倒しなかった鹿の副腎はアドレナリン横溢状態でしょうから、

半矢鹿の、この部位を食用にするのはプチ冒険かも?

そう考えれば、ますます下手な撃ち方はできなくなりますね。

健康増進のためにも一撃必殺を心掛けるべしよ。

エゾシカの腎臓料理 「マメニラ炒め」