エゾ鹿のタン塩&モツ各種
獲った直後の大型獣の肉は硬くて旨みに乏しく、煮たり焼いたりしても今ひとつ美味しくありません。新鮮さを生かして刺身で食べる以外、背ロースやモモ肉はキッチリ熟成させてからでないと本来の味が出ないのですね。熟成期間はエゾシカの若い個体で概ね1〜2週間。大きな個体、年嵩の個体は2〜3週間といったところでしょう。勿論、熟成する環境(気温や湿度)、獲った後の処理の手際によって、熟成期間には調整が必要です。熟成の進み具合は肉の香りや手触りである程度判断が付きますから、撃った本人が肉の面倒を見る限り、食べ頃を外すことはないですね。肉の手触りから得られる情報は驚くほど正確で、場数を踏めば、解体している最中に熟成完了が何時頃になるか分かってしまいます。このページに出演している鹿タンや鹿モツを提供してくれた個体は飛び切りグラマラスな♀だったのですが、しばらく観察して仔が付いていないことを確認してから捕獲した後、ナイフを振るいつつ、熟成期間が3週間ビッシリ必要な肉質だと知りました。♂は角のサイズでヒネ鹿を避けられても、坊主頭の♀は解体するまで歳が分からないことが多く、大きい♀は要注意。しかし、食肉を得るハンティングでは、ついつい一番太っているのを撃ちたくなるのですね。本当なら、湯気が上っているような刺身で獲物を授かったことをお祝いしたいところですが、野生鳥獣を取り巻く環境が世界規模で一変した現在、生で食べる習慣を我が家は潔く捨てました。という訳で、今度の獲物が食卓に上るのは随分先ということになり、猟場で一人呆然とした次第・・・・こういう状況を鉄砲撃ち仲間では「ババを引いた」と申します。でもまあ、鹿肉を熟成している間、空気銃でヒヨドリを撃ったり、散弾銃で鴨を撃ったりできますから、猟具を換えて他のゲームミートを調達する楽しみが生まれる、それもまたよし。オババやオジジの硬い肉といえども撃った本人が真面目に熟成すれば、必ず、とろけるような旨し肉に変化しますよ。また、鹿肉には「冷凍熟成」という裏技も使えます。脂ヤケが早い猪肉と違って、鹿肉は処理さえ良ければ2〜3年冷凍保存可能ですから、捕獲後即フリージングしておけば、半年少々でヒネ鹿も柔らかくなって便利です。まあ、いずれにしても、グッと我慢の熟成期間・・・・しかし・・・・ここにホルモンという食い物があります。狙点さえ気を付ければ、柔らかな内臓(ホルモン)を無傷でゲットできるので、これを利用しない手はありません。肉は獲ってすぐ食べられませんが、ホルモンは捕獲直後が最も美味しく、これは、神様が上手く作リ分けてくださったからなのでしょう。だから、食い意地の張った私は「アバラ三枚」を避けて狙撃し、奇麗な内臓もガッチリゲット。ライフルで鹿を獲ったらホルモン焼きでお祝いし、空気銃や散弾銃で鳥を撃ちながら鹿肉の熟成を根気良く待つ。我ながら、絵に描いたようなノンビリズムの自給自足的ハンティングなのでございます。

例年通り、若♂を越冬食料として確保したかったのですが、平成17年度解禁は鹿笛を使ってさえ発砲するチャンスが中々掴めませんでした。こういう年も時にはあるのですね。この個体は、積雪の後、1週間歩いて出会った貴重な1頭です。他所の地域へ行けば沢山居ることは分かっていますが、自分の暮らしている土地で獲ったゲームミートを大切に食べ繋ぐ・・・・というのが私の理想。いかにも食い意地の張ったオッサンらしい先祖返り的おセンチではありますが、自分の足で歩き回って食材を確保する生活に拘りを持ち続けたいと思っています。自然あっての人間。素晴らしい食肉を恵んでくれる獲物たちに感謝合掌!

獲れた日は御馳走だ!

右上の一番大きな包みが肝臓(レバー)、時計回りに、小ヒレ、心臓(ハツ)、舌(タン)。これが一般的に利用されている鹿のホルモンです。旨そうでしょ?

赤く細くスジが見えますか? これは心臓本体に酸素と栄養を供給する冠動脈で、狭心症とか心筋梗塞といった心臓疾患は、この血管が狭窄あるいは閉塞することで発症するそうです。ここが詰まると人間は医学的処置しか回復の手立てはありませんが、犬の場合はヤバクなると勝手に新しい血管が出来てしまうのだと獣医さんから教わりました。「鹿は?」と問えば「データが無いから知らん」ですと(笑) ワンコが羨ましいですね。尚、体内にあるときの鹿の心臓は袋状の膜に包まれ、写真とは天地逆で大血管からブラ下がっております。

これで、ノーズショットをやめました・・・・

鉛を含むライフルブレットの使用が禁じられてから、鼻面撃ちが怖くなりました。銅弾は精度を出しづらいということもあって、貴重な「鹿タン」を吹っ飛ばすミスも増えました。ヒレ肉以上に採れる量が少なく、しかも天国の食い物かと思えるほどメチャウマときては、コイツをパア〜にする危険を冒してまで曲撃ちする意味ありませんもの。
(ブレインショットをやめたのはBSE特定部位云々が直接原因です)

私のルール@ 心臓は撃たない

矢強いエゾシカの場合、心臓撃ちでは命中してもクリーンキルにならないことがしばしばあります。だったら、美味しい「ハツ」を無理して撃たんでもエエやおまへんか。胃や腸は言うに及ばず、心臓や肝臓に当たらないよう苦心して撃つ。標的射撃とは一味違う、立体透視が要求される実猟狙撃の醍醐味っちゅうもんでっせ。

心臓はとても緻密な筋肉の塊です。分厚い層が重なって心房・心室といった部屋を形成していますから、その継ぎ目をナイフで切り開いて板状に精肉するのが下拵えの第一歩。大血管の周りには一見ヘニョヘニョした軟体動物の如き器官がへばり付いていて薄気味悪いですけれども捨てません。正肉とは異なる味わいがウフフです。

私は4枚に開いてから調理します。今夜は右の2枚(量的には1頭分の3分の1)をゴチになる予定。

タレが染み込み易いように心筋の表面をナイフの切っ先で細かく撫で切りしてから、肉の繊維とクロスするようにスライスします。その際、余分な脂は除去。

これが大血管です。知人(老ハンター)の奥さん(若い)はコレの刺身が大好物。オカアチャンを大事にするパパさんは、遠い猟場でバラシたときも忘れず大血管をお持ち帰りしているのだとか。夫婦愛ですよね〜 え? 血管食うなんてキモイ? そういう人は、お店のビニールパック入りモツ鍋セットでも突付くしかおまへんな。なに? 牛モツは食うけど、鹿モツはゲロゲロ? そういう人は、ただちにここから退場してください!(怒)

コリコリッと本生でイキタイところですが、家畜の病気が野生動物まで脅かし始めた昨今、やっぱり火を通したほうが良いですね。かつては鹿から人間に感染するウイルスはおらんと言われてましたけれど、肝炎なんぞは素手の調理で感染する恐れがあるので注意は怠れません。しかし、ウサギ(野兎病)、クマ(トリヒナ)、イノシシ(ジストマ)なんかと違って、鹿だと昔の癖で写真みたいに、ついつい素手で料理しちゃうんですよね・・・・(汗) まあ、未だに鹿はオール生でペロリというツワモノもいらっしゃいますがね(爆)

私のルールA 腹は撃たない

これは、ヒレの横にへばり付いているチッコイお肉です。私は勝手に「小ヒレ」と呼んで「本ヒレ」と区別しておりますが、付いている場所はちょうど腰の辺りの腹腔側になります。ご存知のように動物の身体は胸部と腹部が横隔膜で仕切られており、横隔膜よりも腹側を撃てば胃腸を傷付けて、そちら側に位置するヒレが汚染されてしまいます。だから、努めて横隔膜よりも胸側を撃つ。貴重な大小ヒレ肉のためならエンヤコラですわい。

「小ヒレ」は傷むのが早くて熟成が利きません。量も微々たるものですから捨ててしまうハンターが多いのも分かります。じゃあ、いっそホルモン扱いにしたらどうでっか? という訳で、我が家ではタレに漬けて捕獲当日に美味しくいただいております。

ナリは小さいですが、肉質は「本ヒレ」に近いです。これを犬猫の餌にするのは勿体無いですよ。

(余談) → 本ヒレは他の部位と違って4〜5日の熟成で食べられます。ところが、今回の個体は1週間過ぎても細胞が活かっていて、跳ね返るような反発力を示しました。こういうのは珍しいですね。

ハツ、大血管、小ヒレのスライスをまとめてボウルにブチ込みます。

私は釣りでも猟でも山菜採りでも気の向くままに単独行動しておりますので、鹿でもクマでも一人で出猟するのが当たり前。その上、人力回収にロマンを感じる変態体質ですから、射穫当日は疲労困憊して複雑な料理ができません(笑) という訳で、ソラチ「生ラム専用たれ」には随分お世話になっております。

(註) → 「ソラチ」は北海道のタレ屋さんです。美味しいですよ。

タレを適量振り掛けたら、しっかりとモミモミ。材料が新鮮なので、少々荒っぽくても大丈夫ですよ。食べるまで時間がない時は、握力全開でグイグイやります。

私のルールB 肝臓は撃たない

「肝臓は病原菌や寄生虫の巣窟」みたいな言い方をするのが流行しています。肝臓に命中すると寄生虫の卵や幼生が飛び散って・・・・云々。だから、肝臓は撃たない。そして食べないのが最近のトレンドなのだとか。私も肝臓は撃ちません。というか、ずう〜と以前から肝臓は撃ってません。傷付けずにゲットして美味しく食べたいからです。

まあ、寄生虫や病気がヤバイ地域は確かにあるでしょうし、中にはお医者さんのご厄介になった人もいらっしゃるかも知れませんが、何ら問題ない個体のレバーまで捨ててしまうのは、チトやりすぎという気が私はします。他の地域、他のハンターはどうだか知りませんが、良く観察して問題なければ、私は大喜びで「火を通して」食べてますよ。

焼物にするなら、わざわざ皮を剥く必要はないですね。冷水に小一時間も漬けて取り出し、心臓と同じく1頭分の3分の1をザックリ刻んで、下拵えのためにボウルへ移します。そこに「魔法の粉」を少々。

レバーの血抜きには三温糖!

血抜きの方法には塩水とか酢水とか色々ありますけれども、砂糖を使えば瞬間的に血が抜けて、レバーの切り口が鮮やかな色に変化しますよ。三温糖を振り掛けたら、指先で、くすぐるように優しく掻き混ぜるのがコツ。組織が柔らかいので手荒に扱うと壊れますから。

ね? 奇麗な色に変わったでしょ? 続けて、ソラチのタレを足して下拵え完了。三温糖の甘みが加わって、中々乙な味がします。しょっぱいレバー料理に飽きたときは、コイツの出番です。

舌(タン)の下拵えは面倒です。なんと言っても、ヨダレまみれになっている部分ですから、捕獲後の扱いには神経を使いますね。猟場で下顎から切り離してすぐに雪で洗っても結構ですが、贅沢を言わせてもらえば頭部を丸ごと持ち帰って、ブラシと殺菌水で口中をゴシゴシ洗ってからナイフを入れたいところです。

俎板に乗せた後も面倒です。皮を剥かなければ料理できません。魚の皮を剥く(皮を引く)のと同じ要領でOKとはいうものの、コロコロ動いて、やりにくいったらありゃしない。でも短気を起こさず、できるだけ薄く皮を削ぎ落とします。尚、ベロの太いところが茶褐色に変色しているのは、餌の植物に含まれるタンニンによるものです。

何度やっても、上手に剥ける気がしませんね(笑)。初めてタン料理に挑戦する人は付け根のベラベラした肉を整形して、丸く真っ直ぐなタンに仕上げたくなるかもしれませんが、それはやめたほうが賢明です。付け根の部分も美味しいですから捨てずに残すべし!

肉の繊維の向きを良く見てクロスするようにカットします。ベロの先っちょは身が薄いので、斜め削ぎ切りにして面積を稼ぐとグッド。

これが天下の美味「鹿タン」だ!

タン(舌)といえば、こじゃれた洋食屋の「タン・シチュー」な〜んて想像をした貴方、トレンディドラマに毒されてんのとちゃいまっか? 男やったら(女やったら)迷わず「タン塩」。これぞ大人の味でんがな。
← クリックして拡大写真を是非ご覧ください。びゅーてぃふる!

シンプルな料理なので塩には気を配りたいですね。今回使ったのは3億5000万年前に形成されたという天然の「モンゴル岩塩」です。
草原を吹き抜ける風のように爽やかな後味が素晴らしい。

エゾシカ用にお使いくださいと送ってくださった山形県Y様
ありがとうございました。鹿肉料理にバッチグーどす!

ホルモン3品、スタンバイ!

いざ、ワイルドマンズ・パーティ!

おっと、野菜を忘れちゃいけませんでした(爆)

先ずは「タン塩」

寿司と同じく、味の淡白な物から始めるのが我が家の流儀です。

味付けは「モンゴル岩塩」と「挽き立ての黒胡椒」

拡大写真を見たら、生唾ダクダク。

レモンをキュッと絞って、ハフッ・・・・言葉を失いますよ、ホンマに。

手間が掛かる分、旨さも一塩ですぜ。

分け合って食べた後、オカンがシミジミと言い放ちました。

「鹿の体が全部タンやったらエエのになあ」

全く不気味なことを言うてくれますが、実際、鹿タンというのは、それほどまでに美味しいものなのですよ。コイツの旨さを知ったら、牛タンなんか不味くて食えなくなります。牛タン? ケッ・・てなもんです。

お次は「ハツ&大血管&小ヒレ」

スルメみたいに見えるのが血管です。生でコリコリ、焼いてもコリコリ。歯切れが良くて、他に類を見ない微妙な食感が素敵ですね。心臓は体内で最も高濃度にコエンザイムQ10を含む部位だと言われ、老化防止に役立つかも知れませんよ。ジビエは医食同源っす!

締めは「レバー」

獲れ獲れ活き活きの鹿レバは臭みもないし味も豊か。市販の牛レバや豚レバとは比べ物にならない旨さです。なんだか最近は悪者扱いの鹿レバですが、処理するのが面倒臭くて風評に便乗している人が多いような印象を受けますね。地元広尾町のハンター仲間でも、鹿レバを100%活用している人は稀ですよ。全く勿体無い話です。

私のルールC 撃ったら食べる

左が今回の食材提供者です。雪の丘を50mほど匍匐前進で登って忍び寄り、角度的にバイポッドが使えず、伏射で肩寄りの首を射抜きました。レティクルの簡易測距で200。射撃後、LRFで計ると193mでした。血まみれ、雪まみれになっても鹿という生き物は神々しいまでに美しい。そして、とても美味しい生き物です。だから、愛でる時は愛で、殺る時は殺ります。殺ったら食います。それが日常。