【誕生日.1】





誕生日は嫌いなんだ。

俺はこの世に生まれてきたことを疎まれている人間。
この世に生まれてきたことを喜ぶ日を…好きになんてなれない。

『おめでとう』なんて言うな。
何にもめでたくなんかない。


神子として生まれてきたことを呪う日なんだから。







「ゼロス様。ヒルダ姫よりお祝いのお品が届いております。」
「…そっか、適当に隣の部屋に積み上げておいてくれよ。」
「承知しました。」

毎年同じ反応。
執事のセバスチャンは予想していたようで、メイドは既に部屋へと荷物を運び始めている。


「…ったくどいつもこいつも…よく飽きねえもんだ。」


毎年毎年同じように届く贈り物。
それはすべて高価な品物ばかり。

…けれどゼロスはそれらには見向きもしない。
ため息をついて、窓際へと腰掛ける。



外は曇り空。
窓を少しあければ吹き込んでくる冷たい風。


「…やな天気だぜ。」


…雪でも降りそうな。
そんな空。



思い出す。

白い景色。
赤い景色。

肩の痛み。



『あの日』もこんな空だった。



「…ほんと…ムカつく…。」


くしゃりと髪をかきあげて立てた膝に額をつけ、俯いた。



その時。



ふと視界の端に入ったもの。


風に揺れる桃色の帯。
その帯が自分の屋敷の陰に消える。


すると、先ほどからのキツい視線が自然と穏やかになっていく。
ゼロスはそれを自覚しつつ、足早に玄関へと向かった。




会いたい。

今すぐ。
一秒でも早く。

一段、また一段と。
降りる階段さえもどかしい。




声が聞こえる。

「…外は寒いでしょう?」

そう告げたセバスチャンに。

「寒いなんてもんじゃないよ〜っ!あ〜やっぱりここは暖かいねえ。」

返る明るい声。


─・・・聞きたかった声。



「よう、しいな。」

「あ、ゼロス。おはよう。」


いつも通りの挨拶。
それすら…嬉しい。


『おめでとう』という祝いの言葉よりも、
『おはよう』という何気ない言葉のほうが、

しいなを近くに感じることができるから。


「上、あがれよ。暖炉ついてるぜ。」

温もりを口実にして部屋へと誘う。

「本当かい?じゃあそうさせてもらうよ。」

冷えきった体を少しでも暖めるかのようにしいなは体をさする。
しいなはセバスチャンに軽く挨拶をして、部屋へ向かった。


「…あれ?」


部屋に入ろうとしたとき、しいなが不思議そうな声を上げる。

「どうしたのさ?なんかすごい荷物だねえ。」

廊下に積みあがった大小様々な箱の数々。
しいなは首を傾げた。

「プレゼント…?なんかおめでたいことでもあったのかい?」



しいなはゼロスの誕生日を知らない。



それは、ゼロスが教えていないから。



知られたくない。


知ればしいなが気を遣うことくらいわかってる。


「何にもねえよ、祝い事なんて。」


部屋へ入るようにと肩を押して促す。

「…ふーん。まああんたが女の子からいろいろもらってるのはいつものことだしね。」

しいなは部屋の暖かさへと気がいったようで、それ以上何も言わず軽い足取りで暖炉の前へと向かった。

その様子にゼロスは内心ほっとして、そっと扉を閉める。




本当であれば。
好きな人に心から祝福されて。
生きていてよかったと。
これからも生きていこうと決意する。


そんなふうに祝う日なのだろう。


けれど。


『おまえなんか生まなければよかった』


母のあの一言が。

自分の心に深く深く突き刺さっている。

監禁されている腹違いの妹。
処刑された妹の母親。


自分はなんて罪深い人間なんだろうかと。


自分の命を呪う日。



そんな日を…しいなは知らなくていい。




「あ〜暖かいねー…。」

冷たくなった指先を暖炉にかざしほっと息を吐く。
床に広がる桃色の帯が暖炉の明かりでオレンジ色に染まった。

「俺様が暖めてやろうか?」
「馬鹿いってんじゃないよ。アホゼロス。」

ぴしゃりと手を叩かれて、一睨みされる。


そんなやりとりでさえ、苛立ちを沈めてくれるから不思議。


「じゃ〜しいなちゃんは俺様にどうして会いにきてくれたのかな?」

そういって座るしいなの隣にしゃがみこんだ。

「…なんでって……」

いいかけてしいなは言葉を止めて瞬きをする。


「…あれ?なんで…きたんだろうね?」

「は?」


予想もしなかった言葉に間抜けな返事を返してしまう。

「城に用があって、そのままいつもの調子でここにきたんだけど…、
 よく考えたらあんたに用事ないみたい。」
「…へぇー、珍しい。」

そういいつつゼロスは顔が綻ぶのを押さえられない。


用がないのにきてくれた。
しかも無意識に。


それは自分との距離が近いことの現れ。
自分といることが当たり前になっている証。

「…なにさ。用がなくちゃきちゃいけないかい?」

少し拗ねたような上目遣いの視線が見つめてくる。


その言葉が。
その視線が。


ゼロスに対してどれほどの力を持っているのかしいなは知らない。


「そんなこといってないでしょーよ。いじけるなって。
 しいながきてくれて俺様チョ〜嬉しい♪」

そういって抱きしめてみた。

「ば…馬鹿!誰もいじけてなんかないだろ!気安く抱きつくんじゃないよ!」
「遠慮するなよ〜♪俺様に会いたかったんだろ〜?
それなら素直にいってくれればいいのに〜♪」

顔を真っ赤にしたしいなが可愛くて調子に乗ってみる。

「…こ…っのアホ神子!!」


鉄拳制裁。


見る間に赤く染まるゼロスの頬。

「いってー!!本気で殴ることないでしょー…」
「自業自得だ!馬鹿!」

怒って立ち上がりかけるしいな。


─…帰ってしまう?


気づけばしいなの腕を掴んでいた。

「!…なに?」

突然のことに慌てるしいな。



「…帰っちまーの?」



強くなる、力。


「…帰らないよ。洗面所貸りるだけ。」

軽く赤い頭をこづいてしいなが呆れたように笑う。

「なんだい…さみしそうな声を出して。」
「俺様今日はしいなにそばにいてほしいの。…だからまだ帰るなよ。」

その言葉に、一瞬しいなは驚いたような表情を見せ、

「…はいはい。帰らないから安心しな。」

髪をくしゃりと撫で、少し困ったように笑った。






腕に残る感触。

「…あいつ、なんであんな寂しそうな顔・・・。」

震えるアイスグレーの瞳。

腕を掴んだ力が思ったよりも強くて。


まるで、

置いていかないでと、
母親に縋る子供のような、


そんな仕草。


「…帰れるわけないじゃないか。」


いつもみたいに突き放すなんてできなかった。


「……?あれ?」


ふと鏡越しに、洗面所の近くに飾られた花が映る。
その花に添えられたメッセージカード。

「贈り物、かな?」

そのカードに書かれた、メッセージに…しいなは驚く。


「HAPPY BIRTHDAY…Zelos…?」









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連載ものPART2。(ちょっと祝)
誕生日を嫌うゼロス。それに気づくしいな。
しいなに依存するゼロスが書いてみたい・・・と思いできたお話。
全4話予定(裏1話有)です。

・・・でもしいなミズホの隠密だからゼロスの誕生日なんて知ってそうだなあ・・・。
・・・ってつっこみは無しの方向で(遠い目)

◇ 砂 ◇