【わすれないで。】




「なんでお父さんと結婚したの?」



ずっと耳に残りそうな高めだけどトーンの低い声。


ミズホ特有の帯を後ろから閉めてやりながらあたしはあたりまえに言った。


「好きだったからにきまってるだろ。あんたと同じさ。」



帯を閉めて、次に髪を結ってやる。綺麗な暗めの青い髪を丁寧にあげていくと彼女はまた口を開いた。



「…お母さん幸せ?」



「なにいってんのさ、幸せだよ。あんたが嫁にいくわけだし。孫が楽しみだね。」


まだ表情の冴えない彼女をあたしは笑いかけながらしっかり送り出した。







一人残された部屋で考えた。


「お母さん幸せ?」
耳について離れない。


世界を救い、ミズホに戻り、少したって籍を入れた。

相手は優秀なミズホの青年。あたしより少し年上な、美形なひと。
文句をつける暇なく子供が生まれ、長男は次期頭領として修行を受け、長女は嫁にいった。
素直で、しっかりした子供と良き夫に恵まれてなに不自由ない生活を送っている。



「だけど」

と心がいう。
本当にあなたは幸せなの?と。


「あなたが愛したのは誰?」



あたしには愛したひとがいた。もう死んでしまったけれど。


名前を呼ばれるだけでドキドキして、笑顔が眩しくて。瞳をみれば自然に笑顔になれた。
誰にも変えられない、そんな存在だった。


だけどあたしは結婚しなきゃならなかった。
子孫が必要で、ミズホのために。



結婚を反対した人がいた。


あたしや彼と一緒に旅をした仲間と、彼の妹。


仲間はいった。

「それは本当にあなたが決めたことなの?」と。


彼の妹はいった。


「自分の心をうしなわないで。あなたはあなたでしょう!」
と。




嫌だったわけじゃない。
ミズホのためならば、と思ってした結婚。だけど好きでしたわけじゃなくて。

それを気付かれないために嘘をついた。
明るく振る舞った。
いかにも幸せであるように。



「あたしあいつが好きだよ。」


嘘だよ。真面目にあなたを恋愛対象なんて考えてなかった。
ごめんなさい。



「お母さん幸せ?」


彼女は気付いていたのかもしれない。
あたしが嘘の仮面を被っていることを。

ずっと気付いていたのかもしれない。








扉が開いた。
そこにはしっかりとした意思を持った彼女がいた。


「お母さん。」



「どうしたんだい?帰る場所が違うよ。」


冗談まじりの言葉も流して、彼女は言った。



「…自分…とりもどしてよ。
行って。誰も攻めたりしないから。」



風が吹いた。
あたしを外に連れ出すように。
走らせた。



「…ゼロ…ス…っ…」


行こう。
あいつがいた町に。
あいつが通った道に。
あいつのそばに。



故郷の未来を託して、次は自分の未来を探そう。





「しいな。」


耳について離れない。







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ごめんなさい(笑)
やりたかったんだもん(死)
補足として彼女は全部しいなちゃんの娘です。(片床様)

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片床様よりフリー小説頂きました☆片床様ありがとうございます!
しいなちゃんの娘に激萌え!べっぴんだろうなあ〜…。
最近はすっかり子供ネタにはまりきっております!!!

いなくなってしまっても、結婚しても、ずっとゼロスを忘れられない…そんな一途な思いが素敵です。
失ってから気づいてしまった大きな存在を、ずっと愛し続ける。
しいなの強くて、弱い一面を見た気がします。

◇ 砂 ◇