【思い出たくさん】





ミズホの里。
あたしが育った独自の文化を守る里。



裏には小さな川が流れていて
水がとても綺麗で
あたしが小さい時におじいちゃんがよく
水遊びに連れていってくれた。


今でもあたしは
時間が出来ればそこに行って
川の音に耳を澄まして
一人頭を休ませるのが好きなんだ。






「しいな、お前に夏休みをやろう」
ある日突然、副頭領のおろちにそういわれた。
「何言ってんだい!仕事は山積みだし頭領のあたしが夏休みなんて取るわけにはいかないよ」


ミズホは王家からの極秘任務を命ぜられる事が多くて、
正直夏休みどころか休みなんてものはあたしが小さい頃から記憶にない。

それが当たり前だったし、そうであることは里の誇りでもあった。
だからこそ現頭領のあたしが休みなんてとるわけにはいかない。


目の前の書類の山を片付けてしまおうと手を伸ばすとその手を止められた。

「おじいちゃん」
「しいな、少し休みなさい。最近顔色も良くないし、あまり笑うことがなくなった。
そんな頭領をみることは里の仲間達にとっても辛いことだ。」
「でも…」
「なぁに。2、3日の仕事くらいおろちが何とかしてくれる」

そういっておじいちゃんはちらりとおろちを横目に見て、あたしに微笑んだ。
おろちも軽く頷いてくれた。



正直気が引けた。
その分おろちに負担をかけてしまうし、あたし一人が甘やかされるわけにはいかない。
でも二人が仕事をさせてくれず、ぽけっと時間を過ごす状態にさせられてしまったあたしは、
そんな言葉に少しだけ甘えさせてもらうしかなくなり。




この川を眺めてる。




照りつける日差しを避けて木陰の涼しい岩場に腰掛け、爪先を川の水に浸して、
ゆっくり空を仰ぐと強く輝く陽の光が飛び込んできた。

「まぶしいねぇ…」

ひんやりとした川の水があたしの火照る体温を心地よく下げていく。


小さい頃、おじいちゃんとこの川にきた時の事を思い出しながらあたしはゆっくり体を倒した。
少し頭を休ませて。









はしゃぐあたし。
それを見つめるおじいちゃん。
そのまわりには
たくさんの里の仲間がいた時もある。
あたし位の年の子供はみんな川に飛び込んで、びっしょりになって。
時間も忘れて遊んだっけ。






「懐かしいなぁ…」

懐かしい…
けれど少し重たく、寂しい。


足元の心地よさとそんな思い出に浸って、気持ち良い風に吹かれていた時。
ふと背後に人の気配を感じてあたしは身構えて振り返る。




そこには派手な衣装を身にまとって、にやけるアホ神子の顔。




「何だい。何か用事かい?」

心のなかで【身構えて正解だった】と確信する。
このアホ神子に背後を取らせたら何をしでかすかわかったものじゃない。
あたしの過去の経験がそれを一番理解していた。




「んーと、用事があって来たんだけどもぉ、ミズホの頭領さんは夏休みだーって聞いたもんで。
仕事はおろちくんに任せてきた。」
「じゃあ用事は済んだんだろ?」
「まぁそう邪険に扱うなって。俺様もしいなと一緒に夏休みしようかなーとか…って!しいな!札を構えるな!」
「冗談じゃないよ!せっかくゆっくりできるお休みにあんたがいたら疲れちまうじゃないか!」
「ひでーっ!しいなっ!せっかく俺様が会いにきてやったってのに…」
「そんな恩着せがましい言い方するんじゃない!」


でひゃひゃっと下品に笑って【アホ神子】…ゼロスはさっさとあたしの横に座った。

「ちょっ…何勝手に…」

そしてぱっぱと靴を脱ぎ、ズボンを上にあげて川に入っていく。



「あんた何やってんだい!濡れちまうよ!」
「へーきへーき!水に入ってんだから濡れるのは当たり前だっつーのよ」
「だってその服高…」



あたしの言葉はそこで止まってしまった。



ほほえんで差し伸べられた手。

無邪気に笑う…あまり見た事のない表情のゼロス。


不覚にも何だかドキッとしてしまった。



「ほら。しいなもこいって」






小さい頃、おじいちゃんと水浴びしたこの川。
思い出のたくさんつまったこの川。


「夏休みの思い出、つくろうぜ?」
にかっと笑ってあたしの手を引く。
引かれるままあたしは川の中に入った。

「夏休みの思い出?」
「そ。俺様としいなの夏休みの思い出」
「…やだ」
「えぇー!ちょっとしいな!それはないっしょ!」
「この川は…」





小さい頃の思い出。
おじいちゃんと。
あの事故が原因で今はいない里の仲間達と。





「俺様もしいなの大切な人たちの思い出に混ぜてくれよ」
「え?」
「ここがお前にとって特別で大事な川なら、俺様もここでしいなと思い出作りてーのよ」
「―////っ!あんた誰に聞いたんだいっ!」
「おじいちゃん」
「あんたのおじいちゃんじゃないだろっ!」
「しいなのおじいちゃんなら俺様のおじいちゃんだぜ?」
「馬鹿いってんじゃないよ!」


お構いなしに足元の水をすくってゼロスにかけた。

「つめてっ!しいな!さっきは俺様が濡れるの心配してたくせに!なんて事すんのよっ!」
「あんたがいけないんじゃないかっ!」
「俺様何にも悪いことしてねーって!」
「こんの馬鹿ゼロス!」


もう一発お見舞いしてやろうと勢いをつけた時、あたしはあろうことか後ろに滑ってしまった。
「ひゃぁっ!」




少しあわてたゼロスの顔をみながらあたしは水の中に豪快にお尻をつく。





しばらく沈黙。





「うはははははは!」
笑いだしたのはゼロス。
「笑うなっ!」
恥ずかしさであたしはちょっと視線を外して。
「だってしいな!おまえ面白すぎ!」


ひーひー言って笑いながらも
「ほらよ」
手を差し伸べてあたしを立たせようとする。



あたしは再び差し出されたその手を取り、笑われた仕返しに思いっきりひっぱってやった。
「だぁっ!」







びっしょりに濡れて。
二人で顔を見合わせて大笑い。


強い日差しの下でいい大人が水遊び。
ま、今日のところは大目に見てあげようかな。









川からあがったゼロスはぶつぶつ小言をいいながら服を干していた。
あたしは脱ぐわけにはいかないから日向ぼっこ。


ちらりと横をみると
見慣れないゼロスの身体に思わず見入ってしまって…
いつものゼロスは派手で、にやにや笑って、下品で…
でも今は…




「綺麗……」
「は?」
「えっ!?」


無意識に出た言葉。

濡れた髪が
白い肌が
きらきら光って…


あまりにいつものゼロスと違ったから…つい…




「しいな?おーい」

気付けば目の前にゼロスの顔。
「―!近寄るんじゃないよっ!」
「ふーん…」
意味深に笑うゼロスに何だか悔しくなった。


「何が綺麗だったの?しいなちゃん」
「お…」
「お?」
「お日様の光だよっ!」
「えー?俺様じゃなくて?」

本当は…そうだけどさ。


「俺様もしいなのこと【綺麗だなー】ってみてたんだけど?」
「へ?」
「髪から落ちる水滴とか、ちょっと透けた服とか」
「このっ!」
「まて!最後まで聞けっ!だからその…神秘的だなぁとね」
「神秘的?」
「そ。綺麗よ?しいなちゃん。」


一気に顔が火照るのがわかった。
神秘的?綺麗?あたしが?

そんな言葉言われたことない。



「おー?しいな。日に焼けたか?顔赤いぞ?」
わかっててわざとそんなことをいうゼロスに一発、怒りと照れ隠しの鉄拳をお見舞いした。







気付けば日も暮れて。

「そろそろ帰るか」
そういって差し出された手。
あたしはその手を黙って取った。




「仲間入り、出来た?」
「え?」
ゼロスがあたしの様子を伺いながら聞いてくる。
「仲間入り?」
「そ。しいなの夏の思い出のなかに、俺様仲間入り出来た?」



靴をぱっぱと脱いで川に入ったゼロス。

あたしの手を引いた無邪気なゼロス。

一緒にびしょぬれになって笑ったゼロス。

太陽に照らされてきらきらしたゼロス。

そして…




今、手のぬくもりを通して伝わってくるゼロス。



「そうだねぇ…少しだけなら仲間入りさせてあげてもいいよ」

本当はゼロスでいっぱいなのにあたしはちょっとだけ意地悪をした。
ゼロスでいっぱいな自分がちょっと悔しかったんだ。
これじゃあんたの思うツボだからね。

だから少しだけ意地悪。







来年の夏。
またここにこよう。
あんたと一緒に。
それでまた二人でずぶ濡れになって
笑って
またこうやって帰ろう。
何だかそんな気持ちになった。


新しい思い出。
あんたと過ごす夏休みの思い出。
少しずつなら増やしてあげてもいいよ。
不思議とそんなことを考えて
あたしはあんたと手をつないだまま
あんたの少し後ろを
ゆっくり歩いた。










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どんひゃああ。(←何
毎度毎度真輝どんのゼロしい成長っぷりには驚かされすぎ!
この調子でどんどん浸かってくだされ☆(うひ☆)

しかし…水浸しですか…そうくるとは思いませんでした。
水遊びするゼロしい。
あの服で水遊びしたらゼロっさんのズボンは透けすk…(強制終了)

しかし…来年もだなんて…ゼロしいの夏はまだまだ続きそうですね。熱くて…。
真輝どんいつも素敵小説ありがとうございます(#^.^#)

P.S 今回出来上がりが遅くてすんませんでした。(T.T)

◇ 砂 ◇