【 春 】
春。
穏やかな風が桃色の花弁をさらっていく。
ひとひら。
またひとひら。
「綺麗だな」
「へ?」
春風に散っていく桜。
振り返ればあんたはぼんやりと眺めてた。
「へえ…あんたがそんなこというの珍しいね。」
「これなんていうんだ?初めてみた。」
「桜?…ああ、メルトキオには桜の木、ないもんね。」
舞い散る桃色の花。
まるで雪のようだというのに。
雪が嫌いなあんたが『綺麗』だという。
不思議。
「…なあ、桜は…平気なのかい?」
「んぁ?」
「ほら…雪みたいだろ…?」
見かけだけじゃない。
降り積もり、溶けていく雪。
咲き誇り、散っていく桜。
似てる。
…儚い、存在。
「…まあ、言われてみれば雪みたいだな。」
ひとひら。
ゆっくりと散った花びら。
あんたは手に落ちたそれを見つめて、笑った。
儚げに。
途端、あたしはずきりと胸が痛む。
なんだか。
消えてしまいそう。
「…でも、これは嫌いじゃねえ。」
「どして?」
…あんたは満足げに笑った。
「なんかこの花、おまえみたいだし。」
「!…あ…たし…?」
「ん、おまえ。」
ふっと息を吹くと、てのひらから花びらが落ちた。
「うっすら桃色でさ。」
あたしは言ってる意味がわからなくて首を傾げる。
「…何それ?よくわかんない。」
「そお?結構当たってると思うけどな。たとえば…」
笑ったあんたはあたしの隣にきて大きな木を見上げる。
「太い幹はしいなの足〜、なんてね♪」
「…あんた…っ殴るよ!?」
暴言にあたしは胸ぐらを掴みにかかる。
あんたは驚くこともせず、優しく笑った。
掴んだ手を逆に軽く押さえ込まれて、視界が暗くなった。
意外に長い睫。
…唇に触れた柔らかい感触。
状況をやっとのことで理解して、あたしは無意識に口元を手で覆ってしまった。
「…ぁ…。」
「…ごちそうさま。」
長い指があたしの頬を撫でる。
途端熱をもつあたしの肌。
「…ほら、ほっぺた桜色。」
くすくすと笑われて恥ずかしくなる。
「あ…あんたいきなりなにすんのさっ」
やっとのことで絞り出した声は震えてて情けなかった。
「わかんないっていうから教えてあげたんだろ〜?感謝しろって」
「するか!馬鹿!」
楽しそうに笑ってあたしに背を向ける。
「ほら、いくぞ」
「…ちょっ…待ってよ。」
そのまま歩き始めるあんたの背をあたしが追いかけようとしたとき。
強く、風が吹いた。
「あ…」
桃色の花弁が舞う。
吹雪のように景色を桃色に染める。
その中に…融け込む、あんたの姿。
消えてしまう。
いなくなってしまう。
───それは直感。
振り向いたあんたが優しく笑う。
唇が言葉を紡いだ。
それは名。
『しいな』と。
けど、風の音で聞こえない。
「聞こえない…っ聞こえないよ…っ」
あんたは切なげに笑った。
もう一度唇が動く。
『しいな』って。
けど…聞こえないんだ。
聞き慣れた声が。
優しいテノールが。
───聞きたいのに。
「ちゃんと呼んで…っ聞こえないよ…!」
頬を暖かい水が伝う。
伸ばしても…届かない手。
嫌。
お願い。
つれていかないで。
一人にしないで。
「───────ゼロス…っ!」
「───な…、しいな!」
────あ。
目の前に広がる桃色の景色。
そして、滲んだ青い姿。
「…お…ろち。」
「しいな、大丈夫か?魘されてたぞ。」
…夢…?
「…あたし……。」
頬は確かに濡れていた。
「…いくら平和になったからとはいえうたた寝は危険だぞ。」
「…あ、あぁ…ごめん。」
夢、だったんだ───。
ふわりと桜の花が舞い落ちてくる。
───なんかこの花、おまえみたいだし。
そっか。
あれは遠い記憶。
…あんたがあたしの隣にいたときの、記憶。
春は好き。
優しくて、暖かい。
あんたの声。
あんたとのキス。
思い出が…たくさんつまってる。
けれど…ね。
あの日、儚く笑ったあんたが、忘れられない。
冷たくなるあんたの肌。
聞こえなくなるあんたの声。
桜並木を歩いた、あの日。
あのとききっと。
あんたは…もう覚悟してたんだね。
たった一人───結末を予想してたんだ。
春は好き。
けれど、嫌い…。
…あんたを消し去られたような気がして───。
『 しいな 』
「……ゼロス───。」
届かぬ、想い。
春。
穏やかな風が桃色の花弁をさらっていく。
ひとひら。
またひとひら。
そして今年も。
…涙、ひとひら─────────。
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せつないものを目指してちょっと玉砕。
初アップ作品がゼロス死亡ルートですか…自分(げふり
もう春ですね。春に桜を見るとなぜか寂しくなったりします。
不思議な季節です。
しかし・・・この話似た話書かれる方多いでしょうね。
自然と似てしまったら・・・ごめんなさい(ーー;)
◆ 砂 ◆
ImageMusic……柴咲コウ『冬空』←冬か!