【ホントの気持ち 前編】







「…で?」
「え?」


唐突に投げられた質問はたったの一文字。
しかもその一文字に「あたしは忙しいんだから早く用件を済ませろ」という苛立ちまでこめられているんだから恐ろしい。
俺が間抜けな答えを返せば、更に苛立ったような様子でずいと迫って来た。

「で?今日は何の用?」
「あ〜…そのな…」

彼女のシンボル(こういうといつも殴られるが)である立派な胸を反らされ、
お決まりの台詞を告げられた俺には、もう後がない。



一か八か。
…やるっきゃねーか。



一人、腹を括る。



「…悪い。」
「は?」

怪訝そうに眉をしかめたミズホの頭領の腰を、
俺はミズホの民ですら唖然とする速度で抱きとり、肩にひょいと担ぎ上げた。



「き…きゃああっ!何すんだいっ!」
「悪いっ!おろち君!しいな2・3日借りるわっ!」
「な…!しいな!」
「と…頭領!!」



頭領誘拐に叫ぶおろちやその他ミズホの民を無視して、俺はあっという間にレアバードでミズホを飛び出した。















「……まったく…あんた馬鹿じゃないのかい?こんなこと無理矢理やったって印象悪くなるだけじゃないか。」


呆れるしいなの声に少しだけ耳を傾けたあと、俺は治癒術を唱える。
反抗するしいなを抱え上げたままでレアバードをかっ飛ばしていた俺は、目的地に着いた段階でぼろぼろだった。
揚げ句の果てには無謀な行動に出たおかげで怒らせたしいなを説得させる間、
顔や頭や…とにかくあちこちと殴られていたのだから。


「…いってぇ〜……だってよぉ…お前俺が誘ってもいっつも任務だとかなんのかんの理由付けて断ったじゃねーか。」
「それは断る理由じゃなくて、ホントのことだったんだからしょうがないだろ?」


まったく子供みたいなことして……等々、
しいなの口から文句がぽろぽろと零れていくのをとりあえず聞き流し、俺は本題に入った。


「今回おまえさんが任務がないのは、ミズホの可愛いハニーさん達から調べ済みだ。」
「任務がなくたってやることは沢山あるんだよ。
それに、任務がないのがわかってたならこんな真似しないで堂々と用件を言えばよかったじゃないか。」
「…言ったら、来てくれたわけ?」
「……、どーだかね。あ〜あ…おろち怒ってるだろうなぁ…。」



一瞬…ほんの少しだったが、濁った言葉に隠されたのは彼女の本音。
それが、俺にとって良いものか、悪いものか……
“頭領”という立場を優先し、気持ちを押し殺すしいなからは読み取れなかった。



けど、出された男の名前が俺の気持ちを逆撫でしたのは事実。



「とにかく〜、いくらおまえさんだってたまには休まねーと体がもたないっつーの。」
「だからって…」
「あ〜そうそう、海路と徒歩でミズホまで帰れば4日+交通費実費。
俺様と思う存分Vacancesをenjoyしてレアバードで帰れば3日、しかもタダでミズホに帰れるぜ?……どうする?」


反撃を封じて得意げに言った俺に再度呆れたような溜め息をついた。



「あんたってさ…こういう時だけはムカつくほどに馬鹿じゃないよね。」
「お〜、褒めてくれんの?俺様感激。」
「……いっとくけど、全然褒めてないけどね。」


…なんのかんのいいつつ、しいなは渋々後者を選択した…というか、せざるを得なかった。
一日でも早く帰らなければならないから、という判断からだろう。


「…おろち、ごめんよ…。」


里に残された副頭領への気遣いの言葉を呟きながら、しいなはもうひとつ溜め息をついた。















「ぜって〜こっちのがいいって〜。こっちのが俺様好み〜♪」
「あんたの好みは聞いてないだろっ」
「だぁって俺様が買ってあげるんだから俺様の意見くらい取り入れてくれていいでしょうよ〜。」


…『たまの“休暇”だ。楽しんでこい。』


連絡を出した“副頭領”君からの返事だった。
ちょっと俺への嫌味が含まれている気はするが、まあよしとしよう。
“副頭領”君に了解を得られた“頭領”殿は、少しは楽しむ気になったようで、鼻歌交じりであれこれと品定めをしている。

Vacancesでenjoyとくれば…場所は勿論リゾートシティ、アルタミラだ。
2泊3日の小旅行…目玉はやっぱり海水浴。

黒…白…水色……様々な色、柄、デザインの水着にくるくると表情を変えながら、
しいなは店の端か端まで行ったり来たりしていた。


やっぱ、こいつも年相応の女の子なんだなぁ〜…。


別の女性とこうして歩いていたときは結構退屈したものだが、
こうして慣れ親しんだ女性の珍しい光景を見ていると、思ったより飽きない…寧ろ楽しんでいる自分がいる。


まあ…相手が相手だからなぁ…それもあるのか。


そんなことを言ったらしいなは何て言うだろう。
…また、“頭領”として本音は隠し通すのだろうか?



「ゼロス〜、着てみたけど…どうかな?」


シャッ…とカーテンの開く音が聞こえた先には、
いつの間にか俺様チョイスのビキニを試着した、抜群のプロポーションを持つ“頭領”殿の姿。
白い肌に、黒地に白水玉とピンクの縁取りの付いた水着が良い感じ。



…ああ、眩しい。
このナイスバディな少女があのミズホの頭領だなんて、思えない。

ほんと…勿体ねー…。



「…ほれ、やっぱ似合ってるじゃんか。腰のリボン、可愛いし。」

まさか俺様チョイスを試着してるとは思わなかった…。
不意打ちの行動に気の利いた言葉も言えないまま、なんとか頬が赤くなるのをごまかした。


「そっか…じゃあこれにしようかな。」


すっかりご機嫌になったしいなは俺の気なんて知らずに、無邪気な笑顔を向けてきた。


…やっべー。
マジで可愛い…。


そんなこと口に出したら「嘘おつき!」なーんて怒鳴られるのが目に見えているけど。


「…あ、これそのまま着るから値札外してくれよ。支払いは俺様のホテル代に付けといて。」
「かしこまりました。」

…店員が値札を外し、会計のために離れた少しの隙。

「…なぁ、しいな。」
「何だい?」
「水着選びとかいって…俺様達恋人同士みてぇだな。」
「……!な…っ」
「よく恋人だとやるじゃん?彼氏に似合うか見てもらって…っていてぇ!」


やっぱり意識してなかったんだろう…しいなは顔を真っ赤に染めてビーチサンダルで俺様の足を踏んだ。


けど。


「ば…馬鹿っ…あたしは…。」


その姿は怒っているというより……───


「もしかして…照れてる?」
「…!ちょ…調子に乗るんじゃないよ!ほらっいくよっ!」
「へいへ〜い」




…ばっかやろー…。
そんな態度とられたら…期待するぞ、俺様。




あの二人旅で。
俺達の関係はどこか変わった。



俺の本音をお前に告げたら…お前はどうするだろう。


──…ま、とっておきはもう少しVacancesをenjoyしてからにするか。




そんなことを考えながら、俺は密かにはしゃいでいるしいなの背中を追い掛けた。






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