【決断】
─、我々クルシスに力を貸すのであれば、おまえをマナの神子から解放してやろう。
─、ユグドラシル…奴の暴挙を止める手伝いをしろ。
そうすれば、いずれ神子制度はなくなり、おまえは解放される。
─、人やエルフが作った世界なら、俺たちのやり方で変えられるはずだ!
俺は俺の…俺たちのやり方で、ふたつの世界を救いたい。
「……『解放』、か…。」
頭の中で何度も繰り返す。
『解放』という二文字の単語を。
ロイド達やレネゲードにつくことはリスクが大きい。ユグドラシルを敵にまわすことになる。
反対にクルシスにつけば、簡単にマナの神子から解放され、自由を手にいれることができる。
妹の願い通り、神子の地位を譲ることもできる。
自分にとっては好都合な選択。
─、その代わり、コレットをここへ連れてくるのだ。
それから、おまえの仲間…ロイド達を始末しろ。
「始末、ね。」
クルシスにつくとなれば、ロイド達は邪魔な存在になる。
あいつらを失う覚悟は、できてる。
自ら、手にかける時がくるだろうことも…ずっと前から予測してる。
「『仲間』じゃねーっつーの。」
成り行きで一緒にいるだけ。
初めから失うかもしれないってわかってるのに、『仲間』になろうなんて思うわけがない。
だから、クルシスについてさっさとあいつらを始末しちまえば、手っ取り早く神子から解放されるってーのに。
なのに…決断できねえ。
だってよ。
クルシスについたらロイド達と一緒に、
『あいつ』も……─。
「─、こんなとこで何ぼーっとしてるんだい。」
頭の中に浮かんだ存在にタイミング良く声をかけられて、ぎくりとする。
けれど有り難いことに作り慣れた笑顔が、それをカバーしてくれた。
「しいなこそ、どうしたんだよ?こんな夜更けに外に出てきちゃ、危ないぜ?」
「思ってもいないくせに、よくいうよ。」
「思ってるぜ〜?おまえの拳の被害者になる人が危ないってな〜。」
「馬鹿!殴るよ!」
ゴスっ、と。
相変わらず言葉よりも先に飛んでくる鉄拳。
「いてて…。」
「拳の被害者はあんただったみたい。残念でした。」
そのまま座り込んでる俺の横で、立ったまま夜空を見上げる。
「んで?本当にこんな遅くにどうしたわけ?」
「…べ、別にどうもしないよ。寝付けないから夜風にでも当たろうかなって。」
「ふーん。」
躊躇った意味の追求もせず、視線を空へと泳がせる。
タイミングが悪すぎる。
よりによって今一番会いたくなかった人物に見つかるなんて。
「─…、あんたこそ…どうしたのさ。遊びに行かないなんて珍しいじゃないか。」
「俺様だってたまには夜遊びを控えないと、この美肌が保てませんから〜。」
「あ〜そうかい。だったらこんなとこでぼさっとしてないでさっさとおねんねしな。」
再び握り締められた拳に、「げっ」と声をあげたら。
何かやわらかいものが顔にむかって投げ付けられた。
「ぶはっ!……な…なによなによ〜??」
顔に張りついたそれ。
─、あ。
それは、暖かそうなブランケット。
「夜は冷えるよ。明日から大変なんだから風邪ひきそうな格好してんじゃないよ。」
そのまま、もう一枚のブランケットを自分の体に巻き付けながら、しいなは小さく笑った。
馬鹿、野郎。
ほんと、タイミング悪すぎ。
下手な嘘なんかつきやがって。
らしくない笑顔、見せやがって。
そんなこと、するな。
おまえを失う覚悟だけ、いつまでもできねえじゃねぇか。
「じゃ…じゃあ、あたしもう寝るか…─。」
「─、まてよ。」
引き返しかけたしいなの腕を掴む。
「な、なんだい?」
「寝付けないから外にきたのに、もう戻るのかよ。」
「も、もう涼しくなったから寝れるよ。」
予想どおりの反応。
急に口調がせわしなくなる。
「じゃあなんで冷え対策にブランケットなんて持ってきたのよ。」
「そ…それは、寒いのが苦手だし、当分寝れないと思ったから…。」
「そりゃあそうだろうよ。でも…。」
腕を引き寄せて、屈みかけた耳元に、囁く。
「……「2枚も」、ねえ。」
「………!」
図星を突かれて白い頬が真っ赤に染まる。
途端慌てて逃げようとするしいなの腕を、強く掴んだ。
「だぁめ、逃がさないぜ。」
「は…放しとくれ!」
「いいから、ここ座れって。」
ダメだ。
このままじゃ、覚悟なんてできない。
温もりが恋しくて、
存在が愛おしくて、
手にかけるなんて、できない。
「しいなちゃん俺様のこと心配してブランケット持ってきてくれたんだ〜。
俺様愛されてるなぁ〜。」
「ち…違…っ!」
「…っていうのは置いといて、…話があるからきたんだろ?」
「う…。…は…話っていうか…その…。」
観念したように、ぽつりぽつりと話しだす。
隣に座り込んだしいなは、
赤く染まっている頬を隠すかのように膝を抱えてうずくまった。
「お礼、しとかなきゃと思ってさ……。」
「礼?さっき異界の扉で助けたことか?ならもう…─」
「…違う。さっき、あんたが忠告してくれたことに…さ。くちなわのこと…。」
やっと赤面が直ったのか、顔を上げ、星空を見る。
「あんたに忠告されてさ、考え直した。
あたしは、くちなわの両親を殺した疫病神だ。
…ミズホみんなの期待を…裏切った。
だから、くちなわに恨まれてもしょうがない。」
視線は空に向けられたまま。
「でもね、いくらあたしを恨んでるからっていったって、
…くちなわがしてることは間違ってると思う。
くちなわがあたしを恨んだように、誰かがくちなわを恨むことになる。
だから…あたしくちなわと、ちゃんと決着をつけようって思ってるんだ。」
「決着?」
「うん…。今度くちなわと会ったら、くちなわに話してみるよ。」
「そっか。」
しいなの表情に、昼間のような迷いはない。
「あんたが気付かせてくれたおかげで、
くちなわと…真っ正面から向かい合おうって思えたんだ。だから…」
ふわりと。
夜風に、黒髪が揺れる。
まずい。
それ以上言うな。
この先を聞いてしまったら。
けれど。
「…ありがとう、ゼロス。」
柔らかい笑顔に魅入ってしまい、拒むタイミングを逃してしまった。
もう、無理。
しいなを裏切るなんて。
しいなを、手にかけるなんて。
この笑顔を自ら消し去るなんて。
俺にはできない。
真っすぐ見つめてきた茶色の瞳。
『神子』としてではなく、『ゼロス』として俺を見る瞳。
世界がどうなるかなんて、これから先、わからない。
けど、いつか。
おまえが、俺を『神子』から解放してくれると信じてみようか。
「…?ゼロス?」
「…置いておいた話、戻していい?」
「へ…?…!?な……ちょっ…!」
肩を押し、しいなの上に覆いかぶさるように倒れこむ。
「きゃあぁっ!な…何すんだい!」
「何って…今の笑顔、最高に可愛かったし。それに、しいなは俺様のこと愛してくれてるんでしょ?」
「あ、愛して…!?」
押し倒されること、
「可愛い」なんて言われること、
「愛して」なんて真っ正面から言われること。
どれにも慣れていないしいなは、完全にパニック状態。
逃れようと必死で手足に力をこめる。
「ば…馬鹿いってんじゃないよっ!放し…─」
「しいな、俺様のこと愛してくれねーの?」
自分でも、ずるいと思った。
視線を逸らすこともせず、
茶化すこともせず、
真面目な声色で告げた言葉。
本気だった。
「ど…どうしたのさ、ゼロス。なんか、いつもと違…──。」
「答えろよ。」
恥ずかしさと動揺から、しいなの目に涙が滲む。
「………ずるいよ…、ゼロス。こんなの…。」
「今ここでおまえを放すくらいなら、卑怯者でも結構。」
掴むしいなの手首の、脈拍が早くなる。
「馬鹿…。」
きゅっと噛み締められた唇。
その唇が耳元に寄せられ、小さく言葉を紡いだ。
「 ─…好き、だよ。 」
そのまま、恥ずかしさのあまりぎゅっと目を閉じてしまう。
震える声が、
たった一つの言葉が、
こんなにも俺を満たしてくれる。
こんなにも、迷いを消し去ってくれる。
他のどんな条件も適わない、その言葉。
もう迷わない。
秤にかけた中から、たったひとつ、選んだ『解放』。
「……な、なんだいっ!にやにやして…っ」
「だって、しいな可愛い〜っ!」
「な…な……殴るよ!馬鹿!」
こいつと一緒ならきっと真の意味で『解放』される。
信じてみよう。
「…あったけぇな。」
「え…?あぁ、ブランケットかい?」
「……、ほんと鈍いな、しいなは。」
「え?」
「まぁ、だからいいんだけどな。」
抱き締めると、やっと言葉の意味に気付いたしいなは再び顔を真っ赤に染める。
どうしても、もう一度聞きたくて、
「さっきの、もう一回聞かせてくんない?」
意地悪く、囁いた。
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なんか無駄に長くなってしまった。
しかも支離滅裂ですね。スミマセン。
↓以下言い訳兼説明。
3つの選択肢に迷うゼロス君が書きたかったんですが…。玉砕。
しいなが原因で一番楽な選択肢が選べず、
しいなの笑顔で分が悪いほうにつく選択肢をとってくれたら最高だな、と妄想。
途中の「 」の部分は…(^^;
お暇な方は反転してみてください。
もしくはお好きな言葉を当てはめてください。
↑くだらないことをするなと怒られそうですが、一回やってみたかった(^_^;)
許してくださ…っ!
砂糖吐き袋そろそろ足りないですね。みなさんの分、用意します。(O.O;)
◇ 砂 ◇