【君のとなり】






「うわぁ…星が綺麗だねぇ〜。」
「呑気なことをいってくれるな。…こっちは苦労しているというのに。」
「もしかして、それってあたしが重いからとかいうつもりじゃないだろうね〜。」
「だっ…誰もそんなことは言っていないだろ…っ。…ただ任務の後の体にはさすがに堪えるだけだ。」
「ほんとかい?」
「…どっかの神子殿じゃあるまいし、女性に対してそんな失礼なことを言うものか。」
「そうだね。おろちがそんなこと言うわけないかぁ。」


背中から明るい声が聞こえる。
その声が…そして背中から伝わる熱が愛おしくて、離さないようにと力をこめた。


声の主である彼女は、俺の里の頭領であり、そして幼なじみだ。
ドジなところも多いが、世界を救った人物であり…世界でたった一人の召喚士。
世界にとって重要人物といっても過言ではない。


しかし、俺にとって彼女は…個人的に大切な人物だ。
幼い頃から共に厳しい修業に耐え、乗り越えてきた仲間。
けれど仲間以上に…俺がこの手で守りたいと願う唯一の人。



首に絡む細い腕。
頬に触れる艶やかな黒髪。



俺はお前の全てが愛おしいのだと言ったら…お前はどんな反応をするのだろう。



「おろちはゼロスみたいに変態じゃないもんね。わかってなきゃあたしも頼まないさ。」
「変態…、そこまで言うか。」
「ほんとのことじゃないか。あいつが悪いんだからいいんだよ。」
「はは…おまえには神子殿もお手上げだろうな。」


呆れたような声を出すお前につられて、俺も呆れた声で笑い返した。



…本当は。
神子殿の名がお前の口から出る度に苦しい。


けれど、お前からその名を…神子殿という存在を奪うことはできないのだろうな。


あの事件以来、ミズホから離れ気味だったお前。
お前の支えになれたのは俺でも、弟のくちなわでもなかった。
お前と似た環境にいた、神子殿ただ一人だったから。

お前にとって神子殿の存在がどれだけ大切なものなのかわかってしまっている俺には、
お前から神子殿を引き離すことはできない。



「…?急に黙ってどうしたんだい?おろち。」
「いや。…少し休んでも構わないか?」
「うん。」


爆弾処理から時間が経っているにもかかわらず今だ腰の抜けたままのお前を、ゆっくりと地面に降ろす。


「腰はどうだ?」
「ん〜、予想以上に間抜けな感じ。情けないね〜頭領ともあろう者が。」
「そんなことはない。あんな無茶ができるのは、お前がこの世界を大切に思っているからこそだ。」
「それって…褒めてる?」
「一応な。」


火の精霊イフリートの力で爆発をコントロールするなんて、世界広しと言えど、お前しかできないのだから。



しいな。



…俺が知らないうちに、お前は強くなったんだな。



捨て子だからとからかわれる度に泣いていた、幼い頃のお前からは想像もつかないほどに。




あの旅で得た仲間のおかげか?


それとも…神子殿のおかげなのか?



「今のあたしには大切なものが沢山ある。さっきもいったけど死ぬつもりなんてないし、死ぬ気もしないよ。」
「そうか。だが先程のような無茶はするな。お前は我らミズホの民の長なのだから。……ああいう役は俺に回せ。」
「…ありがとね、おろち。頼りにしてるよ。」


そういってお前はにこりと俺に笑いかける。
最近になって漸く見せるようになったお前のその笑顔が、
俺をどんな想いにさせているか…お前は知っているのだろうか。



嬉しいような。

…淋しいような。



「あたしには今…あたしを支えてくれている人がいる。ほんと…感謝しなくちゃ。」



お前を支えている人間…。

俺も…その内の一人でしかないのだろうか?

お前の中で俺だけが特別な存在になるなんてことは…許されないのだろうか?








「さてと、なんとか立てそうだよ。」
「あ…ああ。」



腰が治ってしまうことを残念だと思っている自分がいる。

もう少し、お前に触れていたい。
少しでも長くお前の温もりを感じていたいと思うのは、俺には許されないことなのだろうか。








しいな……───











「……!うわ……っ」
「!」




俺の思いが伝わってのことだろうか。

立ち上がったしいなの膝から力が抜け、バランスが崩れる。
俺は慌てて倒れかけたしいなの背中に手を回し支えた。


愛しい温もりが、再び俺に触れる。


「大丈夫か?」
「ご…ごめんよ。こりゃまだ無理そうだねぇ…へへ…。」


足に力の入っていないしいなは、俺にしがみついたままバツが悪そうに笑った。





これは、
俺に訪れた好機なのだろうか。


細い体が、今、俺の腕の中にある。


俺がずっと護りたいと思っていた人が、今、俺の腕の中にいる。



強がらなくていい。
無理、しなくていい。
神子殿には決して見せないお前の姿を…俺にだけ見せてくれ。


俺がお前を支えるから。
俺がお前を守るから。


後ろからではなく、
こうして…お前のすぐ隣で、

お前を支えることのできる権利を俺に。




「…?お、おろち…。」


気付けばお前を閉じ込めるかのように、強く抱きしめていた。
近すぎる距離に、動揺したお前の鼓動まで感じとれる。



「…しいな。」
「お…おろち…苦しいよ…。」



俺の様子がいつもと違うことに気付いたのだろう…、
しいなは弱々しいほどの声で俺の名を呼んだ後、軽く身を捩じった。
その頬は薄暗い月明かりでさえわかるほど赤く染まっていて……更に愛しさが募る。



しいな。
俺の、何より大切な人…。

きっとこれは好機。
俺の大切な想いを伝えるための……──。





「俺と…一緒になってくれないか。」

「…え……?」





短い言葉。


けれどしいなにはちゃんと伝わったようだ。

どくん、と…腕の中の鼓動が大きく…そして速くなる。



「お…ろち…。」
「突然、すまない……。けれど俺は、ずっとお前のことが好きだった。
幼い頃から…ずっと。お前は俺が守ると、そう決意してきた。」


そう…、お前が神子殿と出会う前から、ずっと。



「…お前の気持ちが知りたい。頭領としてではなく、一人の女性としてのお前の気持ちを。」



幼なじみとしてではなく。
頭領としてではなく。


そんな関係を除いた、…女性という立場での俺への思いを、教えてほしい。




「あ、あたし…。」




相当動揺しているのだろう……俯いてしまったせいで表情は見えないが、声は明らかに震えている。
…俺のお前への想いに、お前は気付いていなかったのだろうな。


明らかに返事に悩んでいる。


大事なことだからすぐには決められないだろう。
……悩むということは、少しでも可能性があるのか。
それとも断る理由を考えているのか。


しいなは俯いたまま何も言わなくなってしまった。



………沈黙が続く。


周りには何もない…あるとすれば風に音を立てる草木だけ。
その静かな草原を見守るかのように、白い満月がくっきりと浮き出ている。
いつの間に雲が消えたのか…眩しいほどの明かりがしいなの白い肌をさらに白く見せた。

まるで光の精霊ルナが契約者を闇から守るように、月は明るく辺りを照らしている。
その光りを受け、風に遊ばれた黒髪が輝く光景はひどく幻想的で、俺のしいなへの想いを更に高めさせていく。



お前は、どう思っているんだ。

神子のことを。
俺のことを。





「しいな。」
「…っ」


肩に手を添えただけで、しいなは必要以上に反応を示した。

それがきっかけになったのだろうか。



「…あ…あのね…っ」



真っ赤な顔のまま勢いよく俺を見上げたしいなは、慌てた様子で言葉を発した。


が。




「急がなくていい。」


俺は、そんなしいなの言葉を、わざと遮った。


俺より頭1つ半ほど小さいしいなの頭に手を置き、わざと子供扱いするように数回優しく叩く。



「…待っているから。ゆっくり考えてくれ。」


告げて背中を向ける直前。
俺の言葉に、しいなの黒い瞳が揺れたのが見えた。







急がなくていいなんて、単なる言い訳。



おまえは、あの言葉の後に何を告げようとしたのだろう………それを知るのが恐くて、遮った。





いずれ聞かされる大切な返事。
その返事が少しでもいい方向に向けばいい。



背中の温かさが、俺のものになるといい。
明るい笑顔が俺だけのものになるといい。




・・・お前の隣で、お前を幸せにできる権利を夢見て。













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おろちが可愛いんです。
このまっすぐでお人よしな男が。

ロデオのCDを聞く度にもーこいつの人のよさが痛くて痛くて・・・
おろち君の気持ちも考えずに「おぶってってもらえる?」なーんて恐ろしいことを!
(知らないにしても・・・)
でもこのお人よしを含めて、馬鹿なしいなも馬鹿なゼロスも可愛くて・・・・(ひど)

しかしロデオはゼロしいを意識しすぎですね!
萌えすぎ!もーたまらん!


◇ 砂 ◇