【きみと歩く日々 −しいなside−】









いってらっしゃい、ゼロス。
おう、いってくるぜ。


おかえり、ゼロス。
おう、ただいま。





毎日、毎日。
同じことを繰り返す。




幸せだった。

愛する人と生活ができるということ。
そして愛する人を自分が支えてあげられるということ。
愛する人が喜んでくれるということ。

愛する人が疲れて帰ってきたら、
「おかえり」って、
「お疲れさま」って、
笑顔でむかえてあげよう。

美味しい夕食を作って、
綺麗に掃除して。


そんな当たり前のことしかできないけれど、
少しでも愛する人を癒してあげられる存在になりたかった。









けれど、日が経つにつれ、自分の無力さに気付かされる。






おかえり、ゼロス。
ただいま。
…ご飯は?
もう食った。…わりぃ、疲れたから寝かせて。
…、そっか…おやすみ、ゼロス。





今日、遅くなるから。
そっか…。仕方ないね。
ああ、いってくる。
ゼロス。
…何?
……、なるべく早く帰ってきてね。







正直、淋しかった。

二人で食べようと思って作った夕食を一人で食べる。
…この屋敷の広さが、余計に虚しく感じさせた。




でもそれよりも、
疲れているゼロスの顔を見るのが辛くなった。

ほとんど言葉も交わさないまま、ゼロスは眠ってしまう。




あたし、ゼロスに何もしてやれない。


癒すことも。
支えることも。






…おかえり。
しいな…起きてたのか。
うん…。…ご飯は…食べたんだよね。
…ああ。
そっか…。




今日は、ゼロスの好きなビーフシチューだったのにな…。




ぼんやりと考えてたら、ゼロスは疲れた顔で、部屋へと入っていった。




…『おやすみ』すら、いえなかった。








ねえ、ゼロス。
あたし、あんたに何ができる?

そばにいてくれるだけでいいなんて、言わないで。
だってあたしがいたって、あんたはちっとも癒されてない。

あたしじゃ役不足かな。
あんたを幸せにするなんて無理なのかな。




涙が溢れてきて。
とまらなくて。


声を押し殺して泣く。
涙が真っ白なシーツを濡らしていく。


そうしてそのまま泣き疲れて眠ってしまうことも少なくなかった。







そして、誓いの言葉を神に述べたあの日から一年。





…わりぃ、今日も遅くなるから先に寝ててな。
…………うん…。




記念日に、ゼロスがいないことは予想してた。

でも、ゼロスだって好きで城にいってるわけじゃない。
だからくよくよしてちゃだめだ。
いつものようにちゃんと送り出してあげよう。



笑顔で。









そう決めていたのに。






しいな?





心配そうなゼロスの声。
けど、顔をあげられない。


よりによってなんで今この時に、
自分は弱い人間になってしまうんだろう。


自然と涙が一筋零れて、床を濡らす。
驚いたゼロスは出掛けようとしていた足を戻し、近寄ってきた。




ばか。
これじゃさらに重荷になるだけじゃないか。

あんたを支えたいのに。
泣き顔なんて見せたら心配かけるだけなのに。






泣き顔を見られたくなくて、混乱したあたしは扉を開け放ち屋敷を飛び出した。







傍にいてほしい。
でも負担にはなりたくない。
だから甘えちゃいけない。
我慢しなくちゃ。



頭ではそうわかってるのに。

淋しくて、心が壊れてしまいそう。








おはよう、しいな。
おやすみ、しいな。

しいな、いってくるぜ。
ただいま〜、しいな〜。


お、しいな。
エプロン姿、可愛いぜ。


しいな〜っ!またアスパラいれたな!


しいな。
悪かった、怒るなって。





しいな。


今日は、早く帰ってくるからな。










ゼロスの声を思い出して泣いていたら、記憶の中の声が、耳元で響いた。




「─、しいな。」




驚いてびくっと体を震わせたら、ぎゅっと抱き締められた。



「ごめん、淋しかったよな。」



違う、違う。
謝ってほしいんじゃなくて。



「アスパラちゃんと食べるよ、ピーマンも残さない。」

「ちゃんとベットで、おまえと眠る。早く帰ってくるようにする。だから…。」

「帰ってきて、しいな。俺、おまえが必要なんだよ。」





違う。
あんたが悪く思う必要なんてないんだ。




「…帰ったって、あたし…あんたに何もしてやれない。」
「しいな?」
「あんたの疲れを癒してあげることも…っあんたを支えてあげることもできなかった…っ。
今だって心配かけて……。あたし……っ」





「ゼロスの奥さん、失格なんだよ…っ」






ゼロスの気配が、強ばった。







抱き締められていた腕が解かれたと思ったら、腕を引かれ、振り向かされた。



そして。







ぺちり。




頬を、一発。
ゼロスに叩かれた。




「俺様、失格なんて言ってねーだろ。」




反抗しようとした口を、ゼロスの口に塞がれた。




離すまいと、背中に、頭に回された腕。
何度も、何度も熱を与えられる唇。


久しぶりに触れたゼロスの温もり。


「しいなはさ…俺みたいな奴の我儘を許してくれてたじゃねーか。…俺はそれに甘えすぎてた。」


涙を拭う長い指に…愛しさが込み上げる。



「そんな俺の奥さんになれる器の持ち主は、しいなしかいねーのよ。」



告げられた温かい言葉に、涙が止まらなくなった。




額に、頬に、唇に…もう一度贈られる、誓いのキス。



「愛してる、しいな。もう一度、ちゃんとやり直そう。」




もう、大丈夫。


きっと。

あたしにも、ゼロスを幸せにすることができる。
幸せに向かって二人並んで歩き出せる…─────。














「いってらっしゃい、ゼロス。」
「おう、いってくるぜ。」


毎日、毎日。
同じことを繰り返す。



美味しい夕食を作って、
綺麗に掃除して。

愛する人が疲れて帰ってきたら、
「おかえり」って、
「お疲れさま」って、
笑顔でむかえてあげよう。




ゼロス。
あたし一生懸命ゼロスの支えになれるように頑張るよ。

だから、たまには早く帰ってきてね。






あんたの大好きなビーフシチュー、作って待ってるから。










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片床様に捧げたマガ1周年記念お祝い作品のしいなsideです。
普段は気の強いしいなですが、かなり健気なのでその辺を出してみたかったりした作品。
片床様こちらもよろしければお持ち帰りくださいませ♪

◇ 砂 ◇