【黒猫.1】
突然。
目の前を何かが横切ったんだ。
いつでも、どんな場所でも命を狙われている。
世界で唯一の存在、身分故、仕方のないことではあった。
今日も、それを承知で道端で貴族の女性達と他愛もない会話をかわす。
上辺だけの付き合いなんてさらさらごめんだが、
女性の噂好きは結構強力な情報網だったりするので、付き合いは欠かせない。
貴族らしい流暢な言葉を用いて、まるで誘導尋問のように女性達から情報を引き出す。
そんな貴重な時間に、今日もまた邪魔が入った。
建物の影で一つの気配が怪しく動く。
予想通り。
影の存在には気付いていた。
こんな昼間から、しかも人通りの多い路上で狙うなんて、間抜けな奴だと放っておいたのだ。
自分へ向けて放たれる魔法。
エクスフィアを装着している俺にとって、初級の魔法を避けたり受けとめるなんて、造作もないこと。
……そんな余裕が俺に隙を生んだ。
「…きゃああ!神子さまぁ!」
女性達から突然あがる悲鳴。
逆方向から、女性達へと火の中級魔法が放たれたのだ。
どうやら相手は俺だけじゃなく全員まとめて始末するつもりのようだった。
「……!ちっ…」
しまった。
今からじゃ間に合わない…─────!
そのとき。
「……!?」
突然。
目の前を何かが横切ったんだ。
あまりの早さに、それが人だと認識するのに時間がかかってしまったほど。
目の前を横切ったその人物は、不思議な模様の描かれた紙に自らのマナを宿し、すれ違いざま放り投げた。
すると。
自分と女性達の目の前まで迫っていた魔法は跡形もなく消滅し、更に障壁まで張っていたのだ。
離れた位置に音もなく降り立つその人物。
ふわりと揺れる桃色の帯。
テセアラでは珍しい、艶やかな黒髪。
藤色の独特な服から、その人物がどういう人間なのかはすぐに判断できた。
「ミズホの、民…─。」
呟くとくるりと振り返る。
「…!」
けれど、振り向いたその姿に唖然としてしまった。
─…『少女』。
そう呼ぶにふさわしいであろうまだあどけなさの残る顔立ち。
けれどスタイルは抜群で、細いウエスト、大きく開いた胸元から大人の女性ともとれる。
18、19くらいだろうか。
凛とした表情。
テセアラでは珍しい艶やかな黒髪と、大きくてきつめな茶色の猫目が印象的だ。
『黒猫』
それが彼女に対する第一印象。
「─……、助けてくれたんだな。サンキュ。」
素直に感謝の言葉を告げた。
彼女がいなかったら今自分にしがみついている女性達は大怪我…否、命すら危なかったかもしれない。
「……。」
普通の女性ならば「神子」である自分に感謝の言葉をかけられるなんて、恐れ多いこと。
大抵は「もったいないお言葉」とか、「お気になさらないで」とか、決まった言葉が返ってくる。
けれど。
「別に…勝手にしたことだから。」
それだけ告げて少女は立ち去ろうとする。
「あ…ちょ、ちょっと待ってよ!君、名前は?」
慌てて声をかけるが、答える事無く彼女は人混みへと姿を消してしまった。
「まあぁっ!ゼロス様が名前を尋ねているというのに、なんて無礼な!」
「やっぱり田舎者は礼儀がなっていらっしゃらないのね。」
女性達が抗議の声をあげる。
おいおい…礼儀がなってないのはどっちだよ。
命助けてもらって礼も言わねーで。
「まぁまぁハニー達。恐かったでしょ?お詫びに俺様ん家でティータイムでもどぉ?」
なんていいながら彼女から話題をそらした。
…『別に』、か。
いいじゃない。
予想外の反応。
強気な視線。
今まで自分のまわりにいる人間からは考えられない言葉と態度。
軽やかな身のこなし。
不思議な紙の術。
総てが新鮮だった。
…そして、彼女自身。
正直なところ、好みど真ん中だ。
「『黒猫』ちゃん…かぁ。」
ミズホの少女。
独自の文化で閉鎖的な民。
『隠密』と呼ばれる者達が世界中を飛び回り、
その情報網は王家や教会の機密事項まで入手できるほどだといわれている。
けれど謎が多く、里の場所すら知られていないのが現状だ。
「ミステリアスだなぁ。」
「ゼロス様?どうかされましたか?」
「ん〜?なんでもないよハニー。」
名前も知らない『黒猫』の彼女。
もう一度会いたい。
自然と、強く願っていた。
→NEXT
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久々に開始しました、連載物。
しいなとゼロスの出会い編です。
海辺の妄想の産物ですので、くれぐれもご注意ください。
二人の出会いはいろいろ想像してしまいます。
何パターンかあるのですがまずはこれで。(笑)
20000hit代理キリリクのチィ様に差し上げます☆
よろしければ、連載の最後まで更新毎にお持ち帰りください☆
(もちろん返品可です☆)
◇ 砂 ◇