【黒猫.2】
それからというもの、毎日毎日外に出ては『黒猫』が通るのを待っていた。
いくつか情報は掴んでいた。
実はよくメルトキオを訪れ、精霊研究所を訪ねていること。
ミズホから歩いてきているので、数日間は必ずメルトキオに滞在していること。
あの不思議な術は「符術」と呼ばれ、使える人間はもうほとんどいないということ。
「早くこないかなあ〜、『黒猫』ちゃん。」
正直自分がここまでのめり込むとは思っていなかった。
今日だって、まわりの女性とのデートを変更して、こうして精霊研究所の前で待っているのだから。
「18歳、…いや、19歳くらいかなぁ…。ナイスバディーだったし。」
思い出す、あの瞬間。
揺れる黒髪。
柔らかい桃色の帯。
鋭い茶色の瞳。
『黒猫』のように軽やかな身のこなしは、優美とも言えた。
彼女に、会いたい。
“神子”ではなく、“自分”に言葉をくれた彼女に。
─、しばらく待った後。
「あ…。」
研究所から誰か、外へと出てきた。
白い研究着の男と、長い桃色の帯を結んだ女性。
その女性が待ちに待った『黒猫』であることに気付き、心が弾む。
「平気か?宿まで戻れるか?」
「…平気、すぐそこだから。コリン、また明後日ね。」
ハーフエルフが研究所へと戻っていく。
「『黒猫』ちゃーんVv」
呼び掛ければこちらの存在に気付いたようで、歩みはじめていた足を止めた。
「─…神子。」
「この間はありがとうな。それに、俺様のこと知っててくれたんだ。」
「…あんたのことを知らない人なんて…いないんじゃないのか。」
「うーん…そういわれればそうか。」
やっぱり。
彼女は自分が神子だと知っていたうえであの態度だったのだ。
彼女のストレートな感情が嬉しくて、思わず顔が緩んでしまう。
突然声をかけ、にやにやしている俺を不審に思ったのか、
『黒猫』は怪訝そうな視線を向けてきた。
「あのさ。この間はありがとう。ちゃんとお礼もできてないと思って。」
「…勝手にしたことだと…いったはずだけど。」
「そりゃそうだけど、ちゃんとお礼をしたいと思うのが紳士ってもんでしょ?」
「…別に、構わない…から。」
この間のような鋭さは感じられない。
彼女はそのまま宿へと歩みを進めようとする。
「!…ちょ、ちょっと待ってよ!」
「あんたの気持ちはわかったよ。だから…もう用は済んだだろう…?」
制止の言葉もきかず、背を向けてしまう。
が。
「─……っ」
驚いたことにふらりとその体が傾いたのだ。
「─!」
咄嗟に駆け寄った。
なんとか支えることができたが、顔色は非常に悪く、呼吸も荒い。
迂闊だった。
具合が悪いのに気付きもしないなんて。
「真っ青じゃねえか…!おい、大丈夫か?」
問い掛けたが返事はなく、気を失っているようだった。
先日感じたマナはかけらも感じることができない。
…精霊研究所で、マナを大量に消費するような実験をしたのだろうか。
「…宿、近いって言ってたな。ってことは…。」
彼女が泊まっているだろう宿の場所を特定し、彼女を抱えあげた。
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